土方はしなやかな動作で茶室に入ってくると、綺麗に端坐した。
軽く一礼してから、涼しげな表情で挨拶を始める。
「本日は遠い処をおいで頂き、ありがとうございます――」
なめらかな低い声は、うっとり聞き惚れてしまうほどだ。
その後、土方は茶を点てはじめたのだが、それがまた鮮やかな手際の良さだった。どう見ても、何度もやっているとしか思えない。
季節のこと、床の間に飾られた掛け軸、花のこと、茶碗のこと、様々なことが客たちとの会話にのぼったが、どれに対しても、土方は軽い笑いをまじえながら対応していた。相当の知識がないと出来ない会話だということは、総司にもよくわかる。
さっきパーティで感じたのと同じような気持ちになった。土方がとても遠い世界の人間に思えてしまったのだ。
ぼんやり見つめていると、総司の前に茶碗が置かれた。
「!」
はっとして見上げれば、土方が微笑みながら、こちらを見つめている。
総司は慌てて一礼し、作法どおりに口にはこんだ。
(……おいしい)
心の底から、そう思った。
彼の心そのままに、優しくて柔らかだ。
躰の力がほっと抜けるような心地を味わいながら、総司は彼のもとへ茶碗を返した。その時、一瞬、指さきがふれあう。
「……っ」
びっくりして見上げた総司に、土方はそ知らぬ表情だった。すっと茶碗を取り上げる。
茶席が終わると、客人たちと一緒に総司は茶室を出た。土方も席をたったのを見たので、あちこち探しまわる。
きょろきょろ見回していると、後ろから声をかけられた。
「……総司」
「え?」
ふり返ろうとしたとたん、抱きすくめられた。男の唇が首筋に押しつけられる。
「……や」
思わず身を捩ったが、土方はくっくっと喉を鳴らして笑うばかりだった。挙句、耳朶を甘噛みしながら囁いてくる。
「すげぇ可愛い……」
「土方、さんっ」
ようやく総司は彼の腕から逃れ、土方と向き合うことが出来た。とたん、声を呑んでしまう。
茶室でも思った事だが、外の緑の中で見ると、尚更だった。
柔らかな緑に、彼の黒髪や黒い瞳、凛とした着物姿が映え、思わず見惚れてしまう。映画かドラマのワンシーンのようだと思った。
ぼうっと見惚れていると、土方が総司の頬にふれ、くすっと笑った。
「何、目ぇ潤ませているんだよ」
「だって……」
総司は口ごもりつつ、答えた。
「すっごく恰好いんだもの。土方さん、恰好いい……」
「……」
土方は驚いたように目を見開いた。だが、すぐに苦笑すると、総司の細い腰に腕をまわして抱きよせ、耳もとに囁く。
「おまえだって、すげぇ可愛いよ。よく似合っている」
「あ……これ!」
はっと我に返った総司は、土方の胸に手を突っぱねた。
「どうして、女の子ものなのです。着物を用意してくれたのはいいけど、でも」
「似合っているから、構やしねぇだろうが。それに、おまえだって綺麗なものが好きだろ?」
「そ、それは好き……ですけど」
もごもごと口ごもってしまった総司の髪や頬に口づけながら、土方は甘い声で囁いた。
「本当に可愛いよ。今すぐ食べちまいたいぐらいだ」
「た、食べるって……」
「茶席の役目も終わったし、ふけちまおうぜ? 小島さんだって文句云わねぇだろう」
「え? え?」
「あぁ、けど、この袴……動きにくいな」
ちっと舌打ちした土方は、総司をそこに待たせると近くの和室に入った。すぐさま出てきてくれたが、袴を外し、先ほどの薄い墨色の着物を着流している。それが粋で恰好よくて、またまた総司は見惚れてしまった。
「歳三」
自分と総司の衣服を手早くまとめ、門へむかって歩いていると、小島が驚いたようにやってきた。
「帰るのか」
「えぇ。役目は果たしましたし」
「さすが茶道の免状を持っているだけあるな。見事なお点前だと評判だったぞ」
「それはどうも」
くすっと笑った土方に、小島が云った。
「パーティにも、もっと出席してもらいたかったのだが」
「それはごめん被ります。俺は、これ以上、総司を他の男の目にふれさせたくないので」
「信子さんの云うとおりだな」
笑い、小島はひらりと手をふった。いつのまにやら、その手には一枚のカードがある。
「ここに泊まるといい。近くのホテルだ。部屋の支払いも済ませてある」
「いや、それは……」
「亭主を務めてもらったお礼だよ。もちろん、別にお礼はさせてもらうが、これは気持ちという事だ」
そう云って小島は、土方の手にカードを押しつけた。それに、土方も素直に「では、遠慮なく使わせて頂きます」と答えている。
小島が去っていくと、総司はびっくりしたように云った。
「今日、泊まるの? ぼく、何も用意してないのに」
「着替えなんざ買えばいいさ」
「でも、あの、土方さん……明日、お仕事は?」
「非番とってあるから、心配するな」
あっさり答えた土方に、総司は嬉しくなるのを感じた。パーティで感じた淋しさがあるからこそ、尚の事だ。この後ずっと土方といられると知って、総司は胸が弾んだ。
思わず彼の手を握りしめると、土方は微笑みながら握り返してくれた。手を繋いだまま、小島の家を出る。
二人はタクシーに乗り込むと、小島がとってくれたホテルに向かった。
小島がとってくれたホテルは、山荘風だった。
アットホームな感じがするホテルで、森の中に建っている。
案内された部屋は角部屋で、森が一望できるようになっていた。大きな白いジャクジーバスと広いベッドルーム、テラスまでついている。
「綺麗な部屋ですね」
びっくりして云った総司に、土方はかるく肩をすくめた。
「まぁ、あれだけ茶を点てさせられたんだ。少しは礼も貰わねぇとな」
「あ、そうだ」
総司は慌ててふり返った。
「土方さん、お茶の資格とかもっているの?」
「一応」
「全然知らなかった」
「云わなかったか? 茶道も華道も弓道まで、色々とやらされたぜ? 教養だとか何だとか云っていたけど、結局、姉貴が楽しんでいたのさ」
「どうして、信子さんが楽しむの?」
「俺が面倒くさがるのを見たいんだろう」
「……」
何だか不毛な事を聞いてしまった気がして、総司は、話を終わりにすることにした。
それに、土方が悪戯っぽい笑顔で覗き込む。
「質問タイムは終わりか?」
「あ……はい」
「なら、今度は俺の番だな」
「え?」
きょとんとしているうちに、ぽんっと肩を突かれた。何の構えもないままひっくり返った場所は、お決まりのベッドだ。
「え、えっ?」
びっくりしている総司に、土方がさっさとのしかかってきた。黒い瞳が熱っぽく濡れている。
「さっきも云っただろう?」
「な、何が」
「すげぇ可愛い。今すぐ食っちまいたいって……だから、食わせてもらうよ」
「こんな明るいうちから?」
慌てて両手をばたつかせ反論する総司に、土方は肩をすくめた。着物の襟を押し下げ、むき出しにした細い肩に口づけながら、呟く。
「明るいとか暗いとか、関係ねぇだろうが」
「関係あります……ぁっ、や、ぁ」
首筋や耳もとに口づけられ、思わず甘い声をあげてしまった。そこがたまらなく弱いのだ。もっとも、さんざんこの男に仕込まれてしまったため、総司の躰はどこもかしこも敏感になっている。
着物の帯を解く男の手を感じたが、もう抵抗しなかった。あまつさえ、帯を外したり着物を脱がせたりする動きに、従ってしまう。
白い肌襦袢だけの姿になった総司は、ぼうっとした瞳で男を見上げた。白い肌襦袢だけを華奢な身につけて横たわり、潤んだ瞳で男を見上げる総司は、まるで花魁のような艶めかしさだ。
「……っ」
いつも見慣れている土方でも、思わず喉を鳴らしてしまった。たまらず、その細い躰を抱きすくめ、あちこちに口づけてゆく。
男の腕の中、総司は甘い声をあげて身をよじった。時折、潤んだ瞳で彼を見上げてしまう。
(土方さん、本当に恰好いい……)
着物のせいだろうか。いつも以上に大人の男の色香を感じさせるのだ。
袷から覗く鎖骨や、褐色の肌。薄い墨色の着物に、黒髪、黒い瞳が映える。着流し姿で総司を見下ろしてくる彼は、ぞくぞくするほど艶っぽかった。
見ているだけで、不思議と躰が熱くなってくる。
「……土方…さん……っ」
思わず両手をのばし、男の躰に縋りついた。腰を擦りよせる。
珍しく積極的な総司に、一瞬、土方は驚いた顔をしたが、すぐさま嬉しそうに笑った。喉奥で笑い、「すげぇ可愛い」と囁きざま、唇を重ねてくる。
「んっ…ぅ、ん……っ」
何度も角度をかえて口づけられ、たちまち総司は陶然となってしまった。土方はキスをくり返しながら、総司の下肢に手をのばした。下着を脱がせ、直接、総司のものにふれると、もう濡れている。
「や……っ」
恥ずかしそうに首をふる総司に微笑み、そのまま手の中のものをゆっくりと扱きあげた。くちゅくちゅと音が鳴る。
土方はそれをイカせる事ないまま、蜜を指さきに絡めた。まだ固い蕾を誘うように撫で、そっと指を挿しいれてゆく。
「っ、ふ…ぅっ、く…っ」
総司は小さく躰を震わせた。男の躰にしがみついている。
やがて、男のしなやかな指が蕾をほぐし始めると、甘い泣き声をあげた。腰が揺れる。
「っ、ぁ…ぁ、ぁ…ん……っ」
「ここがいいか? 気持ちいいんだろう?」
「んっ、ぁ…ぁあっ、ぃいっ……」
蕾の奥を指で押さえられたとたん、びくびくっと腰が震えた。総司のものからとろりと蜜が零れる。イきたいのに、まだ刺激が足らないのだ。
総司は泣きながら、土方にすがりついた。
「お願……っ、早く……」
「何が?」
「やっ、意地悪し…ないで…っ、お願い……っ」
なめらかな頬を上気させ、泣きながら懇願してくる総司は、小悪魔のように煽情的だ。そんな恋人に、男が耐えられるはずもなかった。
ちっと舌打ちしながら、総司の躰を抱きよせる。
「まったく……おまえは俺を煽るのが上手いな」
「ぁ、ぁ…土方、さん……っ」
「壊しちまっても知らねぇぞ」
苦笑まじりに呟いた土方に、総司は泣きながら縋りついた。まるで、壊してと懇願するように。
土方は息が荒くなるのを感じながら、着ていた着物の前を開いた。己のものを掴みだすと、総司の蕾にあてがう。
両膝を抱え込み、そのまま一気に突き入れた。
「……ぃ、ぁああッ」
甲高い悲鳴をあげ、総司がのけ反った。反射的に上へずり上がろうとするのを、乱暴に引き戻される。
土方はのしかかるようにして、総司の躰を犯した。ぐっぐっと腰を入れるたび、総司が泣き声をあげる。
「ひぃっ、ぁっ、ぁ…やぁっ」
「……すげぇ…熱……っ」
「ぁ、ぁ…ん、ぁ…ぁああっ」
総司は泣きながら首をふった。だが、それは嫌という事ではなく、早くどうにかして欲しいという気持ちの表れだった。
いつもなら感じる苦痛も少なく、もっと男の熱を感じたくてたまらなくなる。
「総司……可愛いな」
ちゅっとキスを落としてから、土方は総司の膝裏に手をかけた。左右に押し広げると、総司の躰を二つ折りにするようにのしかかる。
最奥まで貫かれ、総司が「ぁあ――ッ…」と掠れた悲鳴をあげた。そのままいったん腰を引いてから、また濡れそぼった蕾に猛りを突き入れてゆく。
次第に激しくなってゆく抽挿に、総司が泣きじゃくった。
「ぅ…んっ、ぁあっ…ぃ、そ、そこ…ぁあッ」
「総司……ここがいいのか?」
「ぁ、んっ、ぃ、ぃい…ぁっ、ぁあっ」
甘い悲鳴をあげ、総司はのけ反った。必死に男の肩に縋りついている。でないと、おかしくなってしまいそうだった。蕾の奥を穿たれるたび、強烈な快感美が何度も背筋を突き抜け、気を失いそうになる。
「ひ、ぁあ…っ、ぁっ」
泣きじゃくる総司を組み伏せ、土方は激しく腰を打ちつけた。
華奢な躰だから気をつけなければと思うのだが、総司を抱くと、無我夢中になってしまう。いつも情欲が理性を突き破ってしまうのだ。
暑くてたまらなくなり、土方は煩わしげに着物をもろ肌脱ぎにした。
汗に濡れた褐色の肌がむき出しになり、しなやかな筋肉が動くさまが、まるで獲物を喰らう獣のようだ。否、実際そうなのだろう。今、男は、この世で唯一、彼を満足させる甘い獲物を喰らっているのだ。
むしゃぶりつくように、土方は総司の首筋や頬に、キスの雨を落とした。持ち上げた足首にも口づけ、ふくらはぎに噛み痕を残す。
それにさえ感じて泣きじゃくる総司が愛しくてたまらず、もっともっと欲しくなった。
「総司……っ」
土方は総司の躰を裏返しにすると、四つ這いにさせた。そのまま後ろから貫き、激しく揺さぶり始める。
小さな蕾に男の太い楔が何度も打ちこまれ、総司の泣き声がどんどん甲高くなった。
「ひぃっ、やぁ…こ、壊れちゃ……っ」
シーツに顔を押しつけ、泣きじゃくった。その細い腰を鷲掴みにし、土方は何度も腰を打ちつけた。二人の荒い息づかい、悲鳴、淫らな音だけが部屋に響いてゆく。
「も、だめ…だめぇっ、ぁあっ」
「……総司……っ」
「ぃっ、ぃぁあっ、ぁああーッ」
一際甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司は達していた。白い蜜が迸ってゆく。
同時に、腰奥に男の熱が叩きつけられるのを感じた。それに「ひぃっ」と泣き叫ぶ。
達してすぐの蕾の奥に射精されるのだ。凄まじい快感に泣きながら逃れようとするが、土方が逃がすはずもなかった。腰を掴んで押さえ込み、己が満足するまで熱を吐きだしつづける。
「ぁ、ぁあ…ぁっ、とけ…ちゃう、ぁ…ぁあ……っ」
泣きじゃくる総司の奥に思う存分、己の熱をまき散らした男は、はぁっと吐息をもらした。汗ばんだ黒髪を片手でかき上げながら、苦笑する。
「……俺の方がとけちまいそうだぜ」
自分を受け入れる総司の躰は、熱くて甘くて、本当にとけてしまいそうで。
「もう一回、味わせてくれよな?」
そう囁いた土方の腕の中、総司が可愛らしくびくりと震えた。
目を覚ますと、夕方の風にカーテンが揺れていた。
いつのまにか総司の躰は綺麗に清められ、部屋の白い寝着が着せられてある。そろそろと身を起こした総司は、部屋の中を見回した。
どこにも土方の姿はない。二人の着物は畳まれ、ソファに置かれてあったが、彼の姿はなかった。
それにたまらなく不安になってしまう。パーティや茶会で感じたように、彼が遠い世界に行ってしまった気がしてしまったのだ。
「……でも、仕方ないよね」
小さく呟いた瞬間だった。
「何がだ」
声をかけられ、慌てて顔をあげる。
見れば、土方がテラスから部屋に入ってくる処だった。彼自身は衣服を取り寄せでもしたのか、見たことのない紺色のシャツとジーンズを身につけている。
びっくりしていると、それを誤解したのか、土方が紙袋をさし出しながら云った。
「おまえの服はこっちだ。さっき適当に見繕ってきた」
「土方さんが?」
「近くに結構店があったからな。後で食事に行く時は、これに着替えるといいさ」
「ありがとう」
素直にお礼を云った総司に、土方は歩みよってきた。ベッドに腰かけながら、問いかける。
「で? 何が仕方ないんだ」
「え」
「さっき、云っていただろう。仕方がないって、すげぇ沈んだ声で」
「あれは……」
総司は長い睫毛を伏せてしまった。しばらく黙っていたが、じっと土方が待っている事に耐えきれなくなり、とうとう答えてしまう。
「土方さんとぼくは……住む世界が違うんだなぁと、感じたのです」
「住む世界が違う?」
「うん。今日のパーティや茶会で、土方さん、まるで違う世界の人みたいで。遠い世界にいっちゃったみたいで……」
「いかねぇよ」
きっぱりと土方は云った。手をのばし、総司の肩を抱いてくる。
「どこにも行くものか。俺はおまえの傍にいるさ」
「でも、土方さん、あぁいう世界の方があっている気がするし。もともと、茶席とかパーティとかが当然のようにある世界にいたのでしょう? だったら、あぁいう世界があうのも……」
「あっているかどうかは知らねぇが」
土方は身をおこし、総司の顔を覗き込んだ。間近で濡れたような黒い瞳に見つめられ、どきどきする。
そんな総司に、土方は、きっぱりとした口調で云った。
「いいか? これだけは覚えておけよ」
「土方さん……?」
「俺はな、おまえの傍にいるのが一番あっているんだよ」
「――」
びっくりして顔をあげた総司に、土方はくすっと笑った。
「鳩が豆鉄砲くらったみたいだな」
「だ、だって」
「びっくりする事か? けど、本当の事だろう。俺は、世界中のどこよりも、おまえの傍にいるのが一番あっているんだ。だからさ、他のどこにも行きゃしねぇよ」
「うん」
安心したように、こくりと頷いた総司に、土方はかるく音をたててキスをした。
「それから、これも……わかっているよな」
「え?」
「おまえも同じだって事だよ」
土方は目を細め、総司の耳もとに唇を寄せた。そっと、なめらかな低い声で囁きかける。
「おまえも、俺の傍にいるのが一番あっているということだ」
「土方さん……」
「返事は?」
訊ねてくる土方に、総司は両手をのばした。男の躰にぎゅっと抱きつきながら、甘く澄んだ声で答える。
「だい好き……!」
それはyesという答えではなかったけれど、もっと想いをこめた言葉に、土方は喉奥で笑うと、愛しい恋人の躰を抱きしめたのだった。
相変わらずのバカップルでございました(笑)。