かくれんぼの恋
「釣ったお魚にも愛を」後日談






「……土方さん?」
 ある夏の朝、総司は小首をかしげた。


 久しぶりの非番なので、土方は家にいてくれる。
 午後から出かける事になってはいたが、それまで朝食の後、総司は色々掃除とか洗濯、土方はラブマットの上に坐って新聞を読んでいるはずだったのだ。
 さわやかな夏の朝。
 この間ホームセンターで買ってきた「取り付け簡単! 突っ張り式お手軽オーニング」なるものを窓外に取り付けたので、日射しはそれ程入ってこない。
 色白総司のために、土方が気づかってくれたのだ。
 少し弱めだが、クーラーもかかってるので涼しく、尚のこと宜しい。


「土方さん?」
 総司は、何やら熱心に見ている土方に、もう一度呼びかけた。
「何、見てるの?」
「んー」
「新聞じゃなくて……雑誌?」
 総司は洗濯籠をおいて、土方の傍らから手元を覗き込んだ。
 何やら派手な写真が目に飛び込んでくる。
 ?マークで頭の中をいっぱいにした総司は、しばらくの間、それをぼんやり眺めていた。
 だが、突然、その写真が何かという事に気が付くと、思いっきり叫んだ。
「何!?これッ!?」
「これ?」
「そうですよ、これ! 土方さん、何見てるのっ!」
 指をさしてきゃんきゃん騒ぐ総司の前で、土方はひょいっと雑誌を掲げてみせた。
 そこに並んだ写真の数々。
 何とも妖しげでいかがわしいインテリア。
「ラブホテルの紹介ページだよ」
 至極当然のように答えた土方は、また雑誌に視線を戻した。
 それに、総司はばたばた両手をふり回す。
「こ、この間。行ったじゃない! あれでもういいはずでしょう!?」
「あぁ、俺は満足した」
「だったら」
「けど、おまえ、満足してねぇだろ?」
「は?」
 きょとんとする総司に、土方は顔をあげた。にっこりと綺麗な笑顔をむけてくる。
「あの時、怒ってたじゃねぇか。ラブホテルに泊まらないで、シティホテルに移ったこと」
「あ、あれは……っ」
「だから、思ったんだ。もう一回ぐらい連れていってやろうって。今度は、もっと念入りに下調べして、おまえがびっくりするような処に連れていってやらねぇと、駄目だろ?」
「全然、駄目じゃありません!」
「へぇ、積極的。ラブホテルならどこでもいいのか」
 嬉しそうにページをめくっている土方に、総司はぶんぶん首をふった。
「だーかーら! 違うの! どこでもいいんじゃなくてッ」
「だよな、やっぱり好みってのがあるものな」
「土方さん、ぼくの話を聞いて」
「聞いてる聞いてる。な、おまえはこういうの好みか? ほら、天蓋付ベッドの部屋とか、スイーツ食べ放題なんてのもあるんだぞ」
「……え」
 とたん、総司はぴたっと動きをとめた。
 不意にいそいそと土方の傍へ坐り込むと、さし示された部屋の写真を覗きこむ。
「うわ、可愛いー!」
「だろ? おまえ、こういうの好みそうだものな」
「それに、このスイーツおいしそう♪ あっ、これ○○屋のケーキなんだ、ここ行列の店なんですよ!」
「じゃあ行ってみるか? 今日にでも」
 だが、はしゃいでいた総司は、土方がそう問いかけたとたん、うーんと可愛い顔で考え込んでしまった。
 雑誌の写真と土方の顔を何度も見比べて、それから、小さな声で答える。
「……やだ」
 予想外の答えに、土方は驚いた。
「何で」
「だって」
 総司はちょっと躊躇ってから、手をのばした。
 きゅっと指さきで彼のシャツを握りしめる。
「だって……あぁいう処に行くと、土方さん、他の女の人に見られるんだもの」
「……は?」
「それは、こんなに格好いい土方さんだもん。皆がふり返るのは当たり前だからいいんだけど、でも、あぁいう場所だと違った意味あいになるでしょ?」
「まぁ……そうだな」
「それが嫌なの。やだやだって泣きたくなるの」
「……」
 つまりは、やきもち焼いてます──と告白してるも同然の可愛い恋人に、土方は思わず嬉しくなってしまった。
 大きな瞳を僅かに潤ませ、細い指さきで彼の着ているシャツを握りしめ、懸命にうったえてくる総司は、愛くるしいことこの上ない。
 土方は両手をのばすと、その華奢な躯をぎゅーっと抱きしめた。
 たまらずキスの雨を降らせてしまう。
「おまえ、本当に可愛いな」
「可愛い?」
「あぁ、何でもしてやりたくなるぐらい、めちゃくちゃ可愛くてたまらねぇよ」
「ほんと? 何でもしてくれる?」
 総司が小首をかしげた。
 それから、ちょっと躊躇ってから、小さな声でおねだりしてくる。
「じゃあ……叶えて欲しい事があるの」
「何だ」
「あのね、このお店のケーキを一緒に買いに行って欲しいのです」
「そんな事、すぐしてやるさ」
「それから……それからね」
 総司はぽっと頬をピンク色に染めた。
 うるうるっと潤んだ瞳で、恋人である男を見上げた。
「……帰ってきたら……ホテルでするみたいな事、してくれる?」
 小さな小さな声で恥ずかしそうに云った総司を、土方はちょっとびっくりして見下ろした。
 まさか、そんな事をおねだりされるとは思ってもみなかったのだ。
 だが、すぐ笑顔になると、総司の躯をひょいっと膝上に抱きあげた。
 なめらかな頬にちゅっとキスしてやる。
「もちろんさ」
 耳もとに唇を寄せると、甘い声で囁いた。
「一緒に楽しい休日を過ごそうな」
「うん♪」
 男の腕の中、総司はとっても幸せそうに微笑った。
 そして。
 らぶらぶな恋人たちは、とろけるように甘い一時──いやいや、一日を過ごしたのでありました。




       ふたり一緒なら、どこででも

       Happy Holiday!