さめざめと泣く総司の姿に、土方は胸が痛くなった。
罪悪感が込みあげ、堪らなくなる。
こんなにも、総司は俺の事を想ってくれているのに!
なのに、可愛い大切な恋人からのアプローチを拒んだ挙げ句、泣かせるなんて。
あぁ、俺はなんて酷い事を……!
「ごめん、総司」
土方は男にしては長い睫毛を伏せ、云った。
「おまえの気持ちも考えず……本当にすまない。許してくれ」
「土方…さん……」
「もう嫌だなんて云わないから。総司、おまえの好きなように……」
「していいの!?」
ぱっと顔をあげた総司が、元気よく叫んだ。
その頬に涙の跡はあるが、しかし、にこやかな笑顔そのものだ。
「じゃ、遠慮なく好きにさせてもらうね」
そう云った総司は、嬉しそうにズボンに手をかけた。未だ呆気にとられている土方のものを引っ張り出し、両手で愛撫してゆく。
いきなりの行為に、さすがの土方もついてゆけなかった。というか、まだ唖然としていた処にこの刺激だ。目茶苦茶久々なだけに、素直に反応してしまった。
「うわ、おっきいー」
子どものような感想を述べる総司に、もはや土方も諦めの境地だった。
「そりゃ、どうも」
低い声で返事をすると、総司はちょっと拗ねたような表情になった。だが、すぐさま気持ちを切り換え、褐色の肌に手をすべらせてくる。
そうしながら、うっとりと男の姿を眺めた。
いつも好き勝手されているため、こうしてじっくり見る事など稀なのだ。
ベッドの上、両腕を縛られている男。パジャマの前を全部開いているため、しなやかに引き締まった躯が剥き出しになっている。はりつめた筋肉、褐色の肌。
僅かに黒髪を乱し、堪えるように眉を顰めている。
少しだけ開かれた唇は形が良く、今すぐキスしたいぐらいだ。
すぐさまそれを実行した総司は、だが、そこでちょっと戸惑ってしまった。
これから先、どうすればいいの?
脱がせたり口づけたりは出来る。彼のものを手とか口で色々やって、喜ばせる事も、土方が自分にした事をなぞらえれば多分可能だ。
でも、その先は?
その先は、どうすればいいの?
総司はちょっと考え込むような表情で、土方のものを指さきで撫で撫でした。そうして、また身を倒し、ちゅっちゅっと首筋や唇に口づける。
だが、その瞬間だった。
不意に自分の背中に、誰かの手を感じたのだ。
「……?」
訝しく思った総司は、そろそろと視線をめぐらせた。すると、男の腕が総司の背をゆるく抱きしめている。
「嘘っ」
びっくりして視線を戻すと、土方は不敵な笑みをうかべていた。形のよい唇の端がつりあがり、黒い瞳が悪戯が成功した少年のようにきらきらしている。
「何で!?」
呆気にとられる総司の前で、土方は軽く手首を回した。するりと紐が解けてゆく。そうしながら、楽しそうに答えた。
「斉藤に教えて貰ったんだろ」
「そ、そうだけど」
「という事は、俺も知っている縛り方って事だ」
土方は満足そうに笑うと、総司を膝上に抱いたまま身を起した。もう片方の紐も外してしまう。
「解き方ぐらい知っていて、当然だろうが」
「だって、だって、両方しっかり縛ったのに!」
「斉藤は知らねぇけどな、これ解けるの俺ぐらいだ。残念でした」
あっさり答えた土方に、総司はがっかりしてしまった。
解かれてしまったのでは、どうしようもない。今すぐ、彼に逃げられてしまうだろう。
せっかく斉藤に縛り方を教わり、昨日のご飯にも睡眠薬を入れて、色々頑張ったのに。
きっと、彼はさっさと仕事へ行くに違いないんだ。
「総司」
しゅんとなって俯いていると、甘い声で呼ばれた。顔をあげれば、そっと頬をてのひらで包みこまれる。ちゅっとキスを落とされ、そのままゆっくりと後ろへ躯を倒された。
それに、え?と目を見開く。
土方は総司の上にのしかかると、可愛くてたまらぬといった表情でぎゅっと抱きしめてきた。頬や首筋、胸もとにキスを落としてくる。
「すげぇ可愛い……可愛くてたまらねぇよ」
「……」
「俺のために一生懸命頑張って、挙げ句、しくじってしょんぼりしているおまえが、まるで耳の垂れたウサギみたいで、苛めたいんだか甘やかしたいんだか、よくわからなくなってくるな」
(耳の垂れたウサギ……?)
ぼくの方こそよくわかりませんという気分だったが、総司は黙ったまま身を固くしていた。
だが、男の手がパジャマを捲り上げ、あちこちまさぐり始めると、だんだん状況が掴めはじめた。
つまりは、土方はその気になっているという事なのだ。今すぐ仕事へ行く気はなくて、とりあえず男としての欲望を吐き出したいという事なのだろう。
桜色の唇が、笑みをうかべた。
なら、まだまだチャンスはあるはず!
うんと甘えて、土方さんを引きとめちゃえばいいんだから。
細い両腕を男の背にまわし、総司は抱きついた。熱く火照った躯を擦りよせる。
すると、男の愛撫が激しくなった。乳首を舐めあげ、もう片方も指の腹で捏ね回してくる。
「ぁっ、ぁ、ん…ぁっ」
「おまえ、ほんとココ弱いな」
「だってぇ……ぁ、やぁ」
総司はいやいやと首をふり、躯を捩った。だが、しっかり男にのしかかられている状態では、身動き一つ出来ない。
土方は総司の乳首を真っ赤に熟れるまで舐めると、満足げに眺めた。ぴんっと指で弾いてやってから、くっくっと喉奥で笑う。
「すげぇ可愛い」
「ぁ、や……」
「おまえの肌もすべすべで、本当に気持ちいいよ」
男の大きな掌が躯のラインをなぞるように撫でおろしてゆく。それにつれ、総司は躯をくねらせた。細い腰が揺れ、何とも扇情的だ。
下着をはぎとり、土方は総司のものを掌に包みこんだ。ゆっくりと扱きあげてやれば、桜色の唇から甘い啜り泣きがもれる。
「ぁ、ぁああ…ぁ……」
それを心地よく聞きながら、土方は白い両膝に手をかけ、押し広げた。そのまま顔をうずめ、総司のものを柔らかく唇でしゃぶってやる。たちまち、甘い悲鳴があがった。
「やッ、だ、めぇ…ぁ、ぁあっ」
どうしても苦手なのだ。恥ずかしくてたまらないのだ。
総司は男の頭を押しのけようと、手をのばした。さらりと艶やかな黒髪がふれる。だが、土方はそれに構わず、裏側から丁寧に舐めあげた。弱い部分は知りつくしているのだ。たちまち、総司はのぼりつめてしまう。
「ぃッ、やっぁッ」
甲高い悲鳴をあげ、総司が腰を突き上げた。とたん、蜜が吐き出される。
それを満足げに眺めながら、土方は顔をあげた。指さきに蜜を絡めながら、優しく笑った。
「感じやすくて、可愛いな」
「も、や……っ」
「何を云っている。これからが本番だろ? ほら、力を抜いて」
男の指が蕾を一撫でした。とたん、びくりと震える小柄な躯が愛らしい。
土方は慎重に指を沈めると、丁寧にそこをほぐし始めた。感じる部分を指の腹で擦り、総司の体温を高めてゆく。
「は…ぁ、ぁ…ん、ん」
「気持ちいいか?」
「ぅ、ん……ぁ、土方…さん…っ」
総司の声がどんどん甘く艶やかに掠れてゆく。それを聞くうちに、土方の方も我慢の限界に達していた。もう少し馴らしてやろうと思うが、我慢が出来ない。
何しろ、ここ最近ご無沙汰だった上に、朝からこんな可愛い仕打ちをしてくれたのだ。これで我慢しろという方が、おかしいぐらいなのだ。
土方は喉を鳴らし、総司の蕾から指を抜きとった。そのまま綻んだ蕾に己の猛りをあてがうと、はっと総司が息を呑んだ。
獣じみた瞳で見下ろす男に、怯えたのだろう。
「や、やだぁっ」
ふるふると首をふり、上へ逃れようとする。だが、それは、煽っているのか? と聞きたくなるぐらい、色っぽくて艶めかしい仕草、表情だ。
土方は妙に凶暴な気持ちに駆られつつ、投げ出してあった紐を手にとった。それを総司の手首と己の手首に巻き付け、そのまま膝裏に通してやる。
押し広げられた蕾に、己の猛りをあてがい、一気に貫いた。
「ぁああーッ!」
鋭い悲鳴をあげ、総司が仰け反った。苦痛があったのか、泣きじゃくりながら上へ逃れようとする。
だが、手首を繋がれているため、どうしようもない。それどころか、土方に肩を掴まれて押え込まれ、より深く奥まで穿たれた。
「……ひッぃぁっ、ぁ」
見開かれた瞳から、涙があふれた。それが快感故か苦痛故かは、わからない。
土方が頬に、首筋にキスを落とすと、総司が啜り泣いた。
「っ…ぃ、ぁ…ぅっ…」
「痛いのか?」
総司は一瞬唇を噛んでから、小さく頷いた。哀願するような瞳で、彼を見上げてくる。
それがいとけなく可憐で、土方の胸に奇妙な嗜虐心と保護欲を強くかきたてた。いつも思うことだが、総司の仕草、表情は男の欲望をたまらなく煽るのだ。無意識であるだけに始末におけない。
「力を抜け。このままじゃ動けない」
「だ…め、出来ない……っ」
泣きながら首をふる総司に、だから、そういうのやめろと思いつつ、土方は苦笑した。
「待っていろ、よくしてやる」
総司のものに指をからめ、丁寧にしごき上げた。首筋から胸もとにもキスを落としてやる。そうこうするうちに、総司の躯が熱をもちはじめ、柔らかくほぐれ始めた。締め付けが緩んだことでも、わかる。
「……動いていいか?」
耳もとに唇を寄せ、低い声で問いかけると、総司が小さく息を呑んだ。ちょっと躊躇ったようだが、すぐに、こくりと頷く。
土方は細い両脚を抱え上げ、ゆっくりと腰を動かし始めた。緩やかな抽挿をくり返してゆく。
「ぁ、ぁあっぁ……」
総司の声に苦痛の色はなかった。なめらかな頬も次第に薔薇色にそまってゆく。
それを確かめ、土方は動きを早めた。もう遠慮せず、いつもの貪るような激しい動きに変えてゆく。ぐりっと奥を抉り、そのまま一気に引いて、また力強く突き上げた。そのくり返しに、総司が甘い嬌声をあげはじめる。
「ぃ、ぁんっ、ぁ…ぁあっ」
「総司……いいか?」
「ぅ、んっ…ッ、ぁあっ、ぃ、ぃい…っ」
紐で繋がれた方の手で、必死になって土方の手を握りしめてくる。それが可愛くて、思わず微笑んだ。
そのまま膝上に抱きあげ、ゆっくりと腰を上下させた。真下から男の剛直で貫かれ、総司が仰け反り「あーッ!」と悲鳴をあげる。みっしりと重量のある熱に貫かれるたび、強烈な快感が弾けた。
「ふっ、ぁっ…ぁあっ、ぃ…ぁあッ」
総司が土方と指を絡めあったまま、甘やかに身をくねらせた。腰を揺らし、気持ちいい処を擦りあげて貰おうとする。それに気づいた土方も、総司の背を片手で支え、何度も腰を突き上げてやった。
そのまま口づけあい、互いを夢中で求めてゆく。
最後は、ベッドのシーツに身を沈め、激しく貪りあった。押し広げられた蕾に、男の猛りが何度も穿たれる。
土方は獣のように荒い息を吐きながら、激しく腰を打ちつけた。総司が悲鳴をあげ、泣きじゃくる。
「ぁあッ、ぃ…っちゃっ、いっちゃうッ」
「いけよ……総司、いっちまえ」
「やっ、ぁあっ、だめッ、だめぇッ」
総司がびくびくっと躯を震わせた瞬間、蜜が吐き出された。それを掌でぎゅうっと握りしめてやった土方は、そのまま腰を打ちつけ続ける。
絶頂に達している最中に、蕾を穿たれ、総司は悲鳴をあげた。いやぁっと泣きながら、上へ逃れようとする。
「やだっ、やめてっ……おかしくな…っ」
「俺は……まだだ」
「だ、って…ひいっ、ぃっ」
泣きじゃくる総司を抱きしめ、土方は激しく揺さぶった。抽挿を早め、蕾の奥を突き上げる。絶頂に達している最中だからか、総司のそこはきゅうきゅう締まって、気持ち良かった。
「……たまらねぇ」
喉を鳴らし、総司の膝裏に手をかけた。押し広げ、激しく腰を打ちつける。
総司がいやいやと首をふり、泣き叫んだ。
「ひ、ぃっ…も、許し…ぁああっ」
「……くっ……」
「やッ、そこッ、ん、あ…ぁああーッ!」
甲高い悲鳴をあげた瞬間、蕾の奥に男の熱が叩きつけられていた。土方は最後の一滴まで注ぎこむように、腰を打ちつけ続けた。それにさえ感じた総司が、泣きじゃくり、身をよじる。
「ぁ、ぁあっ、ぁつい…の、ぁ……気持ち…ぃい……」
薔薇色の快楽に呑み込まれた総司は、もう男を引きとめるどころではなかった。完全に、虜にされてしまっている。
だが、その甘い啜り泣き、快楽に溺れた様子こそが、土方の欲望を煽った。
愛らしい恋人の躯を貪ることだけに、夢中になってゆく。
何もかも忘れて互いを愛しあう恋人たちを、柔らかな朝の光が包みこんでいった……。
清々しい朝だった。
土方は鏡の前で、ネクタイの締め具合を確かめると、スーツの上着に腕を通した。
3日ぶりの登庁だ。結局、アンダーカバーの一件は斉藤によって処理されたようだが、何も、仕事がそれだけであるはずもなかった。登庁すれば、また激務が彼を待っているのだろう。
昨夜電話で聞いた内容を思い出しながら、土方は鞄に書類を放り込んだ。珈琲とクロワッサンだけの朝食を手早く済ませてから、家を出ようとする。
その直前、寝室のドアを開き、中を覗き込んだ。白い毛布にくるまっている恋人に微笑み、歩み寄る。
ベッドに片膝をついて身をかがめ、ちゅっとキスをその頬に落とした。
「じゃあ、行ってくるな」
「……行ってらっしゃい」
くぐもった声が答え、土方は片眉をあげた。
「何、拗ねているんだ」
「拗ねてませんけど、でも……っ」
「でも?」
男の問いかけに、総司は、ぷうっと唇を尖らせてしまった。ゆっくりと躯を起す動作はのろのろで、とても億劫そうだ。そのくせ、頬は淡く紅潮し、瞳はしっとりと潤み、幼い艶をふりまいている。
甘い花の匂いで男を惹きつける恋人の姿に、土方は思わず微笑んだ。指の背で、すっと頬を撫でる。
「すげぇ可愛いな」
「……」
「今日は大学休みにするだろ?」
「あたり前ですっ。だいたい、誰のせいで」
「俺のせいだな。だから、早めに帰ってきて、世話してやるよ。けどさ」
土方は不意に、くすっと笑った。
「もともとはおまえの画策だったはずだろ。計画どおり俺を三日間引き留められたんだから、満足じゃねぇの?」
悪戯っぽい光をうかべた黒い瞳で覗きこまれ、総司はうっと詰まってしまった。
彼の云うとおりだった。
ちゃんと三日間、彼を引き留める事ができた。おかげで、しっかり彼も休養できたはずだ。
だが、何かが違うのだ。絶対絶対違うのだ。
ここまで好き放題されるなんて、それも三日間、逆にベッドから出られなかったのは自分の方だったなんて、おかしいじゃない!
挙げ句、今日も大学へ行けないなんて。
「満足じゃないもん。なんか、違うんだから」
「ま、俺は満足しているよ。おまえの愛も実感出来たし」
そう云ってから、ふと、土方は真剣な表情になった。濡れたような黒い瞳で総司を見つめ、そっと髪を撫でてやる。
「ありがとう」
「え……?」
「俺のことを心配してくれて、ありがとうって云ったんだ。あんな事をしたのも、全部、俺のためだろ? 俺を愛してくれているから、あぁして引き留めようとしたんだろ?」
「土方さん……」
総司は小さく目を見開いた。それから、頬を染めると、こくりと頷く。
その小柄な躯を腕の中に抱き寄せ、土方は静かな声で囁いた。
「こんな仕事をしているんだ。これからも、おまえに心配かけるかもしれない。不安な思いをさせるかもしれない。けど、総司。俺は必ずおまえの許に戻ってくる。おまえがいてくれる限り、俺は誰よりも強くなれるんだ」
優しい声でそう云ってくれた彼が、誰よりも愛おしかった。
そして、自分も同じなのだと、思った。
彼がいてくれるから、生きてゆける。
彼を愛するために、強くなれるのだ。
男の逞しい腕の中、総司はうっとりと目を閉じた。
感じる鼓動、ぬくもりが愛しい。
土方は柔らかく身をあずけてくる総司を、もう一度抱きしめた。それから、静かにベッドへ戻し、毛布を引き上げてやる。
「今日は休んでいろよ。無理させすぎたからな」
「……自覚あるなら、セーブして下さい」
「おまえもすげぇ喜んでいたじゃねぇか。紐で縛るのも、おまえの方が気持ち良さそうだったし」
「き、気持ちよくなんかっ」
「俺はやっぱりあぁいうの苦手だな。縛られるより、縛る方が好きだ。今度、またやってやるよ」
「結構です!」
思わず叫んでしまった総司に、土方はくすくす笑った。
「楽しい三日間だったぜ? おまえの躯も、たっぷり堪能できたし」
「た……堪能って……っ」
真っ赤になってしまった総司に、土方は身を乗り出した。その耳もとに唇を寄せ、なめらかな低い声で囁きかける。
「すげぇ良かった……また味あわせてくれ」
「土方さんっ」
投げつけようとした枕をすかさず避け、土方は敏捷に立ち上がった。
きれいな笑顔で、総司の髪をくしゃりとかきあげる。
「いい子でいろよ」
そう云って出てゆく土方に、総司は「いってらっしゃい」と答えた。
そして、懲りるという事を知らない総司は、毛布にごそごそもぐり込みながら、今度こそ斉藤に絶対外せない縛り方を教えて貰おう! と、固く決心するのだった。