ハッピーニューイヤーを祝うべき夜。
 いわゆる大晦日の夜。
 総司はものすごい勢いで歩いていた。というより、ほとんど走ってる状態だ。
 時計を見るともう11時30分。
 あと少しで年が変わってしまう。
 去年は二人一緒に過ごせなかった、それどころか彼を失ったと涙にくれていた夜だった。だからこそ、今年は絶対一緒に過ごしたかったのに。
 なのに。
「……どうしてこうなっちゃうんだろ」
 着込んだコートだけではまだ寒く、両手でマフラーを押し上げた。すっぽり顔の半分までうもれた状態で、たったか夜の道を歩いてゆく。
 普段なら危ない夜道も大晦日のためか人通りが多く、それにかなり官舎から離れたため、もうどこかの表通りまで出ていた。一晩中あけてるのかどの店も煌々と明かりを灯し賑やかで、今が何時なのかわからなくなる程だ。
 一瞬、ここどこだろ?と不安がよぎったが、総司はぶんぶんと首をふった。
「絶対戻らないんだから……っ」
そう呟くと、総司はまた足早に歩き出したのだった。


 

 

 その同じ頃、土方は薄いボタンダウンシャツとジーンズにコートを羽織っただけという、いかにもとるものとりあえず飛び出してきましたという姿で、夜の道を走っていた。
 はぁはぁと呼吸するたび、闇に白い息がもれる。
 もうかなり長い間、あちこち走り回っているのだ。
 大喧嘩の挙句、思いっきり彼の頬に平手打ちをくらわし、官舎を飛び出していった総司。しばらくの間、呆然と突っ立っていたが、やがて腹がたってきて、
(絶対、追いかけてなんかやるものか)
 と思った。
 子供じみた思考で拗ねて怒り、しばらく煙草をくわえながら部屋の中をぐるぐる歩き回っていたのだが、頭の中を占めるのは総司のことだけ。
 こんな寒空の下、どこへ行ったのか。夜中だし危ないとか、やばいだろうとか。
 結局、とうとう我慢できなくなりコートを引っ掴んで飛び出したのだ。
 薄着にコートだけで出てきたことを後悔したのは、エレベーターで下へ降りてから。だが、こうして走り回るうちに、寒さなど何処かへ吹っ飛んでしまった。逆に今はうっすら汗ばんでるぐらいだ。
「……ったく、間違ったな」
 総司との喧嘩ではない。総司の逃走経路を完全に読み違えてしまったのだ。
 てっきり駅へ向かったのだと走ったのだが、どこにも姿はない。どう考えても逆方向へ向かったとしか考えられなかった。
「……っ」
 土方は舌打ちすると、走ったことで乱れてしまった黒髪をわずらわしげにかきあげた。
 ちょっと眉を顰めて考えてから、くるりと方向転換した。また夜の街を走り出す。
 そうして走ってるうちに、土方は不意におかしくなった。
(あいつのことでは、こうして追いかけてばかりだ)
 走って逃げる総司を追いかけ、つかまえて。
 抱きしめて。
 何度も愛を囁いてきた。
 まさか、年の最後になってまで走らされるとは思わなかったが。
 大晦日の夜。
 二人で一緒に過ごそうと約束して官舎に来てもらい、だが、仕事で遅くなってしまった土方が帰りついたのは10時半頃だった。それでも、総司は食事もせずに待っててくれて。着替えて食事をしようとして、初詣の話になって何を願うかと聞かれ──
 それで。
 それで……?
「……はぁっ、はぁ……」
 土方は肩で息をしながら、立ち止まった。いくら何でも疲れた。
 もう1時間近く走っているのだ。
 膝に手をおき、何度も大きく呼吸した。
 そうして何とか息を整えてから顔をあげた土方の目に、この近辺ではかなり大きい公園が目に入った。昔、総司と出逢った公園と同じぐらいの規模で、しかも今日は年越しのイベントをやってるらしく賑やかだ。
 土方は引き寄せられるように公園へ入り、あちこち歩きまわり始めた。
 イベントをやってるのは中央部だけなので、あとは人気もない。それでも遠く賑やかな音楽と人々の声が響いていた。
「──」
 突然、ふっと土方の目が見開かれた。
 雑木林の中。30mほど奥まったところにあるベンチ。そこに白いコートを着た少年が俯き、腰かけていたのだ。
 まぎれもなく総司だった。
 見つけれたことへの安堵と、こんな真夜中に公園などにいる無防備ぶりに腹ただしさを覚えながら、土方はゆっくりと歩み寄った。すると、足音が聞こえたのか、総司は驚いたように顔をあげた。
 正直な話、土方は総司を見つけ出したら叱ってやろうと思っていた。
 人の話もまともに聞かず、挙句に頬を引っぱたいて飛び出した幼い恋人だ。叱って当然だろうと。
 だが、こちらを見上げた総司の顔を見たとたん、そんな気持ちはたちまち消えてしまった。
「……」
 総司は泣いていたのだ。
 大きな瞳に涙をいっぱいため、唇を震わせながらじっと彼を見上げている。
 そんな可愛い恋人を叱りつけることなど、土方には到底できなかった。
 総司が坐るベンチの前に立つと、静かな瞳で見下ろした。そして、ぽつりと言った。
「……帰るか」
 それに、一瞬、総司は目を見開いた。
 が、すぐに頬を紅潮させると、ふいっと顔をそむけた。
「やだ」
「……」
 そう言ってから、だが、総司はすぐ後悔したようだった。様子を伺うような目で土方を見上げてくる。
 そんな幼い恋人が笑いだしたいくらい可愛いく、おかしかったが、土方はその衝動を何とか留めた。
「そうか」
 と言うと、すとんと総司の隣に腰かけた。膝上に組んだ手を置き、じっと押し黙っている。
 総司もしばらく黙っていたが、やがて居心地悪くなったのか、訊ねてきた。
「土方さん」
「あぁ」
「何してるの?」
「おまえを待ってる」
「待ってる?」
「おまえが俺を許して帰ると言ってくれるのを待ってる」
「でも……」
 総司は気まずそうに俯いた。
 それに、土方ははあっとため息をついた。闇に白い息がゆれる。
「おまえ……そんなに俺と一緒にいるの嫌か」
 男の問いかけに、総司は弾かれたように顔をあげた。彼を見つめると、大きく首をふってみせる。
 それに土方は目を伏せた。
「じゃあ、どうして一緒に暮らしてくれないんだ?」
「だって……っ」
「同居の話が出るたびに喧嘩になってる。それに、今日は俺も感情的になってたしな……」
「……頬っぺた痛い?」
 心配そうに訊ねた総司に、土方は苦笑した。先ほどの総司のように、黙ったまま首をふる。
 総司はそれを見つめ、ゆっくりと彼の肩に頭をもたせかけた。
「ごめんなさい……」
「……」
「叩いたことと、一緒に住むって言えないこと。でも……もう少しだけ待って欲しいんです」
 黙ったまま、ゆっくりと肩に腕をまわし引き寄せてくれる。総司は土方の愛しいぬくもりを感じながら、視線をおとした。
「もうちょっとだけ考えたいから、まだ決心がつかないから……だから……」
「待ったら、おまえはいつか頷いてくれるのか?」
「たぶん……」
「なら、待つよ。幾らでも俺は待ってやる……」
 そう答えながら、土方は、だが胸の奥に鋭い痛みを感じていた。
 総司はまだ、自分を完全に信じてくれてないのだ。
 自分が総司を完全につかまえられてないのと同じように、総司もどこか自分との間に壁を感じている。どんなに愛しても優しくしても、どこかで終わりへの不安を抱いている。
 それを取り去ってやりたいと痛いほど感じていたが、今の彼にはどうしてやる事もできなかった。
 ただ、今までと同じように心から愛して、こうして逃げようとすれば必死に追いかけ、また優しく抱きしめてやる事しか出来ないのだ。
 少しずつ少しずつ、積み木を重ねるように、焦らず慎重に総司の心を開かせてゆく他なかった。
「総司……愛してる」
 そっと少年の頬を両手のひらで包みこみ、あお向けさせた。優しく唇を重ねると、素直に目を閉じて応える総司がたまらなく愛しい。
 土方はたまらず深く唇を重ねた。
 逃げようとする甘い舌を吸い、絡める。歯ぐきを舐めあげ、優しく甘ったるい口づけを与えた。
 次第に総司がうっとりとした表情になり、おずおずと両手を男の背に回してくる。
 濡れた唇の端から唾液がつたい、それを追うように首筋へ唇を這わせた。きつく吸い上げてやると、腕の中でびくんっと総司の体が震える。
 土方はゆっくりと両手を総司のセーターの下へ滑りこませた。ひんやりした男の指さきにまた体を震わせたが、総司は抵抗なく目を閉じている。
 なめらかな肌の感触を味わうように撫であげ、指さきで胸の尖りに触れた。ちょっと摘むようにしてから、爪さきでかるく引っかいてやる。
「あ……っ、んんっ」
 総司が甘い声をあげ、仰け反った。
 それに薄く笑い、土方はセーターを捲くり上げると胸もとに顔をうずめた。尖りを唇に含み、ねっとり舐めまわした。
 甘い吐息が白くもれた。
「は、ぁ……んっ、だ…めぇ……っ」
 そう言いながら、総司は男の頭をゆるく抱きしめている。どう見ても誘っているようにしか見えなかった。
 土方はもう一度だけぺろりと尖りを舐めてから、顔をあげた。唇の端を僅かにあげ、可愛い少年の顔を覗き込んだ。
「やめるか?」
「……っ」
 総司は目元を赤くしたまま、意地悪く笑う土方を睨みつけた。桜色の唇を尖らせている。
「……意地悪っ……」
「けど、駄目なんだろ?」
「だって……こんな外でなんて……」
「大丈夫さ、誰も来やしねぇよ」
 お互い、今更やめれるはずがない事はよくわかっていた。
 躯がもう熱くなってしまっているのだ。何らかの方法で処理しないことには、帰るに帰れなかった。
 土方はまだ躊躇いがちな総司のジーンズに手をかけた。羞恥で嫌がる総司に宥めるように何度も口づけ、あれこれ優しく囁きながら、手際よく下着ごと下ろしてしまう。
 コートが長いので前を合わせれば隠れるが、それでもひやりとした冷気に晒され、総司は「寒いです」と思わず土方に擦り寄った。それに土方は優しく微笑かけた。
「すぐあったかくなるさ」
「ほんと?」
「あぁ」
 ゆるく総司のものを土方の手が握りこんだ。そのまま柔らかく扱き始める。親指を鈴口に食いこませたまま、次第に動きを激しくしていった。
 それにつれ、総司の声と喘ぎも甲高くなってくる。
「ぁあっ、はあっ、やっ、やあ…んんっ」
「いいか? ほら……熱くなってきただろ?」
「だ、めぇ……あっ、ああっ、気持ち…い、いいっ……!」
 総司は腰をくねらせ、必死になって土方の胸もとにしがみついた。が、それが不意に引き離される。
 ベンチに坐らせたまま、すっと土方は地面に跪いた。そのまま少年の細い腰を抱き寄せると、顔をうずめてくる。柔らかな熱い感触に己のものを包みこまれ、思わず息をつめた。
「ああ……ッ!」
 グッと腰が持ち上がり、ベンチの背に仰け反る。次の瞬間、総司は達していた。
 男が後始末をしてくれている間も、総司は息使いがおさまらなかった。
 むろん、これで終わりでないことはわかっている。再びベンチに腰かけた土方が総司の躯を膝上に抱き上げた時も、もう抗い一つしなかった。
 唾液と総司の蜜で濡らされた男の指が、奥の蕾に柔らかく触れてくる。二度三度と指の腹で擽るように撫でられ、それだけで総司はそこが熱く疼くのを感じた。
 もうそこに何を与えられるのか、それによってどんな快感が得られるか、よくわかっているのだ。
 何もかも、この男に全部教えこまれた事だった。
 キスもセックスも、総司は土方の好みどおりに反応を返す躯に仕込まれてしまっている。
(ぼくは、土方さんだけのものだから……)
 蕾に挿入される男の指を感じながら、総司はうっとりと思った。
 それでも尚、彼との同居を拒んでしまうのは、やはり不安からなのだろう。
 いつか終わりがくるはずの、恋。総司にとって、それは確定された未来だった。
 だからこそ、少しでも彼から自立していたいのだ。
 彼にはもっと綺麗でぴかぴかした未来が相応しいから。そう遠くない将来、彼の隣で笑っているべきなのは、美しい女と子供であり、この自分ではない。
 いつか別れを突きつけられた時、少しでも傷を少なくしたかった。己の心を守るための手段だった。
 どんなに好きでも、どんなに愛していても、全部はあげられない。
 総司は涙がこぼれそうになり、思わず土方の背に腕をまわしてしがみついた。それをどう思ったのか、優しく頬や耳もとに口づけてくれる。
「……総司、好きだ」
「うん……ぼくも」
「好きだ、愛してる……」
「ぼくも愛してます……」
 そう答えた総司に、土方はまたキスの雨を降らせた。そうしながら、ゆっくりと指を引き抜き、己のジーンズの前をくつろげた。
 白い両腿を腕にすくいあげ、己の屹立した猛りの上へ慎重に腰を下ろさせてゆく。
「ひぃ…ッ!」
 総司が鋭く息を呑み、土方の腕に爪をたてた。が、コート越しなのでほとんど感じない。それが逆に、土方の胸を罪悪感でいっぱいにした。
 痛みに涙をためた睫毛が震えるのを見ると、可哀想でたまらなくなる。
 優しく背中を手のひらで撫であげた。
「総司……」
「土方…さんっ、やっ、ああッ、いた…いッ……」
 ふるふると総司が首をふった。それに耳もとに唇を寄せ、囁きかけた。
「総司……俺に呼吸をあわせるんだ。ほら……」
「ふ…ぅう、んんッ、んっ……ぁあッ……」
「そうだ、いい子だな……」
 何度も首筋や頬にキスしながら、ゆっくりと慎重に腰を下ろさせていった。
 ずぶずぶと挿入されてくる男の猛りに、総司は激しく喘いだ。もの凄い圧迫感と重量感が下肢を支配し、熱い熱い衝動が全身を突き上げてくる。
「ぅ…ぁあぁあッ!」
 やがて、鋭い悲鳴が夜の公園に響いた。
 もう完全に根元まで男のものを咥えこんでしまっている。
 総司はハァハァッと喘ぎながら、土方の首に両腕をまわしてぎゅっとしがみついた。
 痛みはもう少ない。少年の体には酷すぎる男の猛りだったが、それでも入ってしまえばかなり楽だった。
 土方は小さく笑い声をたて、そっと総司の髪を指さきで梳いた。
「総司……もう少し腕の力ゆるめてくれねぇか?」
「え……?」
「これじゃ動けねぇ。おまえだって気持ちよくなりたいだろ?」
「あ……」
 総司は顔を真っ赤にし、慌ててするりと腕を抜いた。そのまま緩く土方の肩を掴み、ふと、彼の瞳を覗きこんだ。
 すると、公園の街灯がもたらす淡い明かりの中、土方はその深く澄んだ黒い瞳でじっと見返してきた。だが、不思議なことにいつものような獣じみた色はない。
 驚くほど、静かで優しい瞳だった。
 それに総司は思わず息を呑んだ。ふと、思った。
(もしかして……土方さん、全部わかってるの?)
 ぼくの気持ちも、迷いも不安も何もかも。
 わかった上で、待ってると言ってくれたのだろうか。
 たぶんと答えたが、きっと永遠に頷くことなんかあり得ない。
 そんな総司の嘘までも見抜いた上で、それでも尚、幾らでも待ってやると答えてくれたのだろうか。
「土方さん……」
 突然、総司は子供のように泣きたくなった。
 あまりにも心優しい彼に。
 こんなにも意地っぱりで不安がってばかりの自分を、いつでも受けとめ愛してきてくれた彼に。
 甘えてもいいのだろうか?
 もっと二人のことを、これからのことを信じていいのだろうか?
 こんなにも、彼はぼくを愛してくれている……。
「……総司、動くぞ」
 静かに囁かれ、総司はこくりと頷いた。
 ゆるやかで力強い律動が始まる。総司の腰と背中に腕をまわし、土方は揺さぶりをかけた。
「ひっ、あっ、ああっ! あ…んっ、んっ」
「総司……気持ち、いいか?」
「う、んんっ、いッ…いいっ……っ」
 がくがくと揺さぶられ、総司は甘い声をあげて泣いた。次第に腰奥が熱くなり、背中をぞくぞくするような快感が這い上がってくる。
 やがて、あの感じやすい痼部分を男のもので擦り上げられると、もう何もかも忘れて泣き叫んだ。
「ひあっ……やあ、あっ、あッ、ああーッ!」
「ココがいいんだろ? ほら、もっといい声出してみろよ」
「やあッ! だめ、だめぇ……ひっ、あっ、おかしくなっちゃうぅ……っ!」
 くすっと土方は笑った。
 グリグリと音がしそうなほど、しこり部分だけ擦りあげてやりながら、息を吹き込むようにして囁きかける。男の腕の中、びくんびくんっと少年の細い体が震えた。
「おかしくなっていいぜ?」
「いやぁっ! 土方さん! 土方さんっ、もッ、もう駄目ッ、だめぇぇっ!」
「可愛いな……」
 くっくっと笑いながら、土方は総司の体を支えたまま、ゆっくりと腰を回した。ベンチの上で坐ったまま交わってるので、二人が動くたび軋む音が鳴る。むろん、総司の掠れた悲鳴と泣き声の方がもっと響いていたが。
 やがて、突き上げるような動きに変えた土方に、総司は甲高い悲鳴をあげた。
「ああーっ! あっ、ああっ、あっ…すご、く……いいっ、いいっ」
「……俺も…めちゃくちゃ気持ちいい……っ」
「土方…さん、ああっ、ひぃ…ぁあっ!」
 耳もとで次第に荒くなってくる男の息づかいに、総司は体中がカァッと熱くなるのを感じた。
 もっともっと感じて。
 もっと、ぼくの体で気持ちよくなって。
 無意識のうちに柔らかく締め付けたらしく、総司の腰を掴んで上下させる男の動きが乱暴になった。激しく揺さぶられ、腰奥を何度も男の猛りで穿たれる。
 くちゅくちゅと鳴る卑猥な音さえも、刺激になった。
「は…あっ! ぁあっ、あっ、ふっ…んんっ、んっ」
 何度も唇を重ね、激しく互いだけを求めあう。
 ボルテージがどんどん上がり、総司はもう必死になって男にしがみついた。
 頭の中がまっ白になる。
「あぁあぁー……ッ!」
「総…司……っ」
 掠れた男の声を聞いた瞬間、腰奥に熱いものが広がった。それと同時に総司も達してしまう。
 息もとまるほど、きつく抱きしめられた。
 それを感じながら、総司は例えようもない幸福感にうっとりと目を閉じた……。
 

 


 
 ハッピーニューイヤーを祝うべき夜。
 いわゆる大晦日の夜。
 もう年はあけてしまったけれど、行きと違い、総司は一人ではなかった。
 丸いお月さまが輝く夜空の下、だい好きな恋人と手をつなぎ歩いてゆく。
「あのね、土方さん」
「ん?」
「官舎までどれくらいかな……」
 そう訊ねた総司に、土方は思わず苦笑した。
「おまえ、そんなのもわかってなかったのか?」
「だって夢中で来ちゃったんだもの」
「ったく……」
 くっくっと笑ってから、土方は答えた。
「歩いて30分くらいだよ、たぶんな」
「たぶんって?」
「俺も走ってきたから、よくわからねぇ」
「……ごめんなさい」
 謝った総司に、土方は黙ったまま手をのばし髪を撫でた。が、すぐに気がついて訊ねかけた。
「もしかして、躯辛いのか? タクシーでも止めようか?」
「ううん、大丈夫です」
「本当か? 無理するなよ」
「大丈夫です。それに……」
 総司は大きな瞳で土方を見あげ、そっと答えた。
「ぼく……あなたと手を繋いで歩きたいから」
「……」
 あまりにも可愛いことを言う恋人に、土方は思わず胸が熱くなった。
 なりふり構わず、ぎゅっと抱きしめたくなったが、ここは初詣へ向かう人々も多く通る公道だ。
 かわりにつないだ手をもっと深く指を絡めあわせると、総司が頬を紅潮させた。
 そっと彼の躯に寄り添ってくる。
 小さな声が言った。
「もう少しだけ……待っててね」
「? 何を?」
「一緒に暮らす話」
「……あぁ」
 土方は頷き、優しく微笑んだ。
「さっきも言っただろ? おまえがいつか頷いてくれるなら、幾らでも待つって」
「うん……待ってて下さい。きっと、ちゃんと頷けると思うから」
「少し昇格したな。たぶんから、きっとへ」
 くすくす笑う彼の声が優しい。
 それを心地よく感じながら、総司は思った。
 たぶんから、きっとへ。
 そして、いつかちゃんと。
 あなたに答えられる日がくると思うから。
 あなたとの未来を心から信じられる、そんな日がくると思いたいから。
 だから、少しずつ少しずつ。
 この心の隙間を埋めてゆこう。
 あなたの愛で。
 あなたの優しさで……。
「土方さん」
「何だ」
「あのね……あけまして、おめでとうございます」
 いきなりそう言った総司に、土方は軽く目を見開いた。が、すぐに微笑うと答えた。
「あぁ。あけましておめでとう。今年もよろしくな」
「はい、よろしくお願いします」
「しかし……いつのまにか年越しちまったな。新年明けてから年越しそばか」
「食べたくない?」
「いや、食うよ。けど……」
 ふと、土方はかるく小首をかしげた。
 それから、不意に悪戯っぽく笑う。
 きょとんと見上げた総司に身をかがめ、その耳もとに土方は唇を寄せた。
「なぁ?」
「はい?」
 素直に聞き返した総司に、土方は平然と訊ねた。
「俺とおまえがHしてた最中に、年越したのかな?」
「ひ、土方さんっ」
「だとしたら、あれが姫始めって奴?」
「姫始めって……えぇっ!?」
「なるほど、記念すべき今年第一回目が公園で青姦か。すごい年の明け方だよな」
 とんでもない事を言ってのける男に、総司は頭のてっぺんから足の先まで真っ赤になった。
 除夜の鐘で煩悩をはらえるっていうけれど。
 絶対絶対、この人もはらって貰った方がいい。
 年があけちゃったから、もう手遅れだけど。
 でも、でも、でも……!
「……っ」
 いきなり猛スピードで歩き出した総司に、土方は訝しげな表情になった。まだ手は繋いでいるので、つられて小走りになりながら顔を覗きこんでくる。
「総司? どうした?」
「し、知りませんっ」
「顔赤いぜ」
「だから、どうもしませんってばっ」
「なら、いいけどさ」
 と言ってから、土方はにっこり笑った。
 その笑顔があんまり優しく綺麗だったので、総司は思わず見つめ返してしまった。
 すると、土方はその笑顔のまま、こう言ってのけたのだ。
「姫始めが青姦だったし、今年のHうんとバージョンアップしような」
「……ッッ!!」
 

 
 ……この人の場合。
 たとえ百八回鐘を撞いたとしても、有り余る煩悩をはらい切れないだろうと。
 そう、しみじみ思ってしまった総司だった……。











[あとがき]
 バージョンアップって、何をどうするのでしょうねぇぇ? しかし、冬の公園でなんて寒いだろうなぁ。ま、二人ともコート着てるし、やってる最中なら寒さも感じませんか。いえいえ、新年からお熱い二人です。でも、いろいろ今後の伏線もあるんですけど。シリアスでしめるつもりだったのが、いつのまにかギャグで終わりました。いや、ほんと土方さんの煩悩は、はらえっこないと思いません?


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