とんでもない現場だった。
爆発で吹っ飛んだ店内はめちゃめちゃに壊れ、窓ガラスの破片は道路にまで飛び散っている。
怪我人も出てしまったようで、唯一の救いは───
「これがテロじゃなくてガス爆発だった事と、自分でガス栓ひねったの忘れて煙草つけちゃった男一人のみが怪我って、事だよなぁ」
そう云った永倉に、土方はかるく肩をすくめた。
「怪我だけで済むとは、悪運の強い奴だ」
「悪運って……土方さん、まだ総司くんと喧嘩中?」
「……」
切れの長い目で一瞥してくる土方に、くわばらくわばらと首をすくめ、永倉は覆面パトカーへと歩き始めた。それを追いながら、土方も手袋を脱ぎ捨てる。
朝から勇んで来てみたはいいが、結局、ガス爆発だったのだ。
まぁ怪我人も少なく、テロではなかった事は喜ばしいのだろうが、また本庁に戻って近藤の会議の手伝いとなれば、何となく気が重くなる。
もっとも、家へ帰っても、気が重いのは同じことなのだが。
「……そうか」
突然、土方が納得したように頷いた。
それに隣を歩いていた斉藤が、訝しげに見やる。
「何です」
「いや、だからな」
土方は淡々とした口調で云った。
「今、初めてわかったなと思ったのさ」
「??? オレはさっぱりわかりませんが」
「こういう時に、男って浮気したくなるんだなと」
「土方さん!」
思わず叫んでしまった斉藤にお構いなく、土方は「成程な」と難しい顔で腕組みし、滔々と論じ始めた。
「仕事もデスクワークばかりで面白くねぇ、家に帰っても家庭内別居状態。こういう状況に追い込まれた時、男は浮気に走るのか。成程な、一つ勉強になった」
「勉強になった、じゃありませんよ」
斉藤は土方に詰め寄ってしまった。
「間違っても、浮気なんかしたら駄目ですからね! そんな事したら、オレ、絶対許しませんよ」
「何で、おまえがそんなに熱くなるんだ」
「総司が……総司が可哀相じゃないですか! 浮気されるなんて、あんな可愛い総司が傍にいるのに、そんなっ」
「うん、そうだよな。すげぇ可愛いよな」
土方はあっさり頷いた。
喧嘩している最中でも、やはり溺愛しているのだ。つい、笑みをうかべてしまう。
「可愛いくて素直で優しいよな。その総司が俺の恋人なのに、めちゃめちゃ愛しあっているのに、浮気なんかする訳ねぇだろうが。何云っているんだ、斉藤」
呆れたような視線を向けてくる土方に、斉藤は
(あんたが云ったんでしょうが!)
と、ツッコミたくなったが、職場環境の良好な人間関係のため、ごっくんと飲み込んだ。
だが、少しだけチクリと針を刺すことは忘れない。
「でも、今の土方さんは、その浮気を疑われているんですよね」
「……」
眉間に皺を寄せた土方が、じろりと斉藤を見た。
それに、もう一言云ってやろうかと思った時、土方の胸もとで電子音が鳴った。メールのようだ。
土方は携帯電話を取り出し、画面を手早く操作した。メールを眺め、眉を顰める。
「……?」
押し黙ったまま、携帯電話の画面を凝視している土方に、斉藤が小首をかしげた。
「どうしました? チェーンメールですか」
「違う、総司からだ」
「総司から? なら、どうして、そんな顔をしているんです」
「訳がわからねぇメールだからだよ」
そう云った土方は、斉藤に携帯電話を手渡してきた。見ろ、という事らしい。
いいんですね? と一言確かめてから、斉藤は画面に視線を落とした。
to土方さんfrom総司
ごめんなさい、わかりました。
見ました。
できるだけ早く帰ってきてくれると、嬉しいです。
「……何です、これ」
斉藤は顔をあげ、土方に問いかけた。
「総司からのメールって、いつもこんなんですか」
「いや、まぁ……支離滅裂というか、省略しすぎな処は多々あるがな」
「省略しすぎでしょう。っていうか、見ましたって、何を見たと……」
云いかけた斉藤は、ハッとして息を呑んだ。強ばった顔で、土方を見る。
「ま、まさか、例のカメラ設置がバレたんじゃ」
「だったら、ごめんなさいって謝っているのは、どういう事だよ。謝るのは俺の方になっちまうんじゃねぇのか」
「それもそうですね」
携帯電話を返しながら呟いた斉藤の前で、土方は「とりあえず早めに帰るさ」と云った。どのみち、デスクワークだけなのだ。
それに頷きつつ、斉藤は、「バカップル、膠着状態から急展開」と頭の中にインプットしたのだった。
家に帰ると、総司はいそいそと出迎えてくれた。
鞄とスーツの上着を受け取り、あれこれと世話を焼いてくれるのだが、それが何だか怪しい。
土方はネクタイを緩めながら、横目で立ち働く総司を観察した。
気のせいか、ここ数日、漂っていた悲壮感がない。どちらかと云えば、怯えているという感じだろうか。
可愛いピンク色の兎耳がくたりと垂れているようで、たまらなく可憐で愛らしい。
その細い躯に着ている淡い色合いのパジャマの影響もあるだろうが。
「……」
云われるまま風呂に入り、土方があがってきてからも、総司の様子は変わらなかった。キッチンでごくごく水を飲みながら見やると、俯き、洗濯物をたたんでいる。
別段、変わった様子はない。
だが、じっと見つめている土方に気づいたとたん、総司は小さく躯を震わせた。洗濯物を手にしたまま、びくびくとこちらの様子を伺っている。
そのくせ、何も云ってこないのだ。
このままでは埒が明かないと、土方は呼びかけた。
「総司」
「は、はいっ」
めいっぱい驚いた様子で、総司が返事をした。それに、訊ねる。
「おまえ、何か話があるんだろ。それで早めに帰ってきてくれって、云ったんだろ?」
「え、あっ、そうなんだけど、その……っ」
「何の話だ」
「あの、あの……っ」
無意識なのだろう、総司は両手で洗濯物をぐしゃぐしゃにしたり、畳んだりをくり返していた。そうしながら、小さな声で話し始める。
「今日、インターホンのカメラを見たのです」
「? インターホン?」
「だから、玄関の。それで、ぼく、録画を……」
「録画……」
小さく呟いた土方は、とたん、すべてがわかった気がした。
いや、それ以外ないだろう。
成程なという顔になっている土方を前に、総司は言葉をつづけた。
「あれって沢山録画ためられるでしょう? それで、その中に……数日前のも入っていて……」
「数日前? いつの?」
「ひ、土方さんが遅かった頃の……」
「ふうん」
「インターホンのボタンすぐに消さなかったみたいで……家の中に入ってからの、土方さんとぼくの……会話も入っていて……その……」
どんどん総司の言葉は小さくなっていった。小柄な躯をちぢめ、深く俯いてしまっている。
それを切れの長い目で一瞥してから、土方は部屋を横切った。インターホンの前に立つと、操作し、問題の録画を呼び出す。
確かに、それには一部始終が入っていた。
土方がインターホンを鳴らし、それに答えた総司の声。パタパタと走る足音、
そして──
『う、わ……何だ』
『お帰りなさい! 土方さんっ』
『ちょっと待ってって、え? え?』
二人が倒れ込む音と衣擦れの音、総司の甘い声、キスの音。
夜ごと繰り返される恋人たちの甘い一時が、ばっちり録られてあったのだ。
(最新の奴、入れておいて良かったな)
インターホンに録画機能がついていた事など、すっかり忘れていた事は遠い彼方に追いやり、土方はしみじみと思った。
ぱちりと消してから、ふり返れば、総司はラグマットの上に正座し、うなだれている。
「ごめん…なさい……」
小さな声が謝った。
「土方さんを疑ったりして……本当に、ごめんなさい。謝って済むことじゃないけど、でも……」
「そんなに謝るな」
土方は部屋を横切ると、総司のすぐ傍に跪いた。そっと細い肩を抱きよせてやる。
「おまえも、俺が浮気していると思って、ショックで、色々と悲しい思いをしたんだろう? いくら誤解だったとはいえ、毎日、泣いていたはずだ」
「土方…さん」
「だったら、俺もおまえも、お互いさまじゃねぇか。もう、謝るのはなしにしようぜ。な?」
土方は優しい笑顔で総司を覗きこみ、ちゅっと頬にキスを落とした。
総司は目を見開き、彼を見上げていたが、やがて唇を震わせると、ぎゅっと彼の胸もとにしがみついてきた。安堵のためだろう、わぁっと泣き出してしまう。
「ごめんなさい……っ、ごめんなさい、土方さん……」
「ほら、もう泣くなって。俺はおまえに泣かれるのが一番弱いんだ。勘弁してくれよ」
そう云って慰めた土方は、総司が落ち着いた頃を見計らい、訊ねた。
「一つ聞きたいんだがな」
「何……?」
「おまえ、どうして俺に飛びついてきたんだ? 全然覚えてなかったんだろ? 何か心あたりねぇのか」
「……たぶん」
総司はまだ涙に濡れた睫毛を伏せた。きゅっと唇を噛みしめる。
「淋しかった…から、かも」
「え?」
「土方さん、ずっと帰り遅かったでしょう? 休日も全然なくて。もちろん、大変なのは土方さんだってわかっているんだけど……淋しくて、逢いたくて、ずっと色々我慢していたから、それで……」
「あぁいう行動になった訳か」
頷いた土方に、総司はなめらかな頬をぽっと火照らせた。
「そ、それに……本当は、夢でちょっと見てたりしていたの」
「夢?」
「うん。土方さんに抱きついて、色々して貰う夢とか。でも、あれって現実だったのかな」
「……成程ねぇ」
意味深な呟きに、総司はきょとんと顔をあげた。それを見下ろした土方が、形のよい唇の端をつりあげる。
「土方、さん?」
「色々して貰う夢、か。さぞかし気持ちのいい夢だったんだろうな」
「え、えーと、それは……」
「けど、現実には叶わねぇよ。夢の俺より、今ここにいる俺の方が、ずっと気持ちよくしてやれるぜ?」
そう云われたとたん、総司の視界がぐるりと回った。
気がつけば天井を見上げていて、ラグマットの上へ押し倒されてしまっている。
呆気にとられていると、のしかかってきた土方がにっこり笑いかけた。思わず見惚れてしまうぐらい、綺麗な笑顔だ。
だが、云っていることはとんでもなくて。
「気持ちよくしてやるから、ほら、おとなしくしてろよ」
「えっ、ぼく、今そういう気じゃ……」
「おまえの気分は関係なし。それに、おまえ、俺に抵抗できる立場?」
悪戯っぽい光をうかべた黒い瞳に見つめられ、総司は言葉をつまらせた。
「そ、それは出来ないけど、でも、土方さん、許してくれたじゃない。もう謝らなくていいって」
「あれは、浮気していると誤解したことへの言葉」
「じゃあ……」
「俺が云っているのは、一週間以上、お預け食らわされた事だよ。人をさんざん煽った挙げ句、寝ちまったおまえには、全然わからねぇ男の切なさだろうがな」
何も云えなくなってしまった総司を前に、土方はぺろりと舌なめずりしてみせた。黒い瞳が獣のように熱っぽく濡れているさまが、危うげで艶めかしい。
「さて、気持ちよくなろうぜ?」
「や……っ」
何だかめちゃめちゃにされてしまいそうで、総司は身を捩った。だが、するりとパジャマの下に入りこんできた男の手に、思わず喘いでしまう。
弱点である乳首をいきなり摘みあげられ、「あっ」と声をあげて仰け反った。両方とも擦りあわせるように愛撫され、甘い疼きが腰あたりに広がり始める。
土方は総司の白いなめらかな肌に口づけながら、躯中を、丁寧に優しく愛撫した。知りつくした躯なのだ。どこをどう可愛がれば、甘い声を聞かせてくれるか、よくわかっている。
「ぃ、や…ぁ、ぁん……っ」
とろとろと先走りの蜜をこぼす総司のものを掴み、柔らかく揉みあげた。ぺろりと舐めてやれば、総司が泣き声をたてる。
指をすべらせた奥の蕾は、まだ慎ましやかに窄まっていた。それを指の腹で撫でてやり、少しほころんだ処で、挿し入れてゆく。
いつも用意している潤滑油を何度も指に絡め、丁寧に蕾の奥までほぐしてやった。
もともと華奢な躯つきの総司なのだ。完成された大人の男である土方を受け入れるのには、いつも苦痛がともなう。それを少しでも和らげてやりたかった。
だが、その行為を、総司自身は好まない。最近では、指だけでも達してしまったりするのだ。
それが土方には、可愛いが、恥ずかしくてたまらないのだろう。
今も両腕で顔をかくし、泣きじゃくっている。
「や…だっ、も…ぃやぁ……っ、ぁっ」
「気持ちいいんだろ? ほら、ここが好きだものな」
「そん、な…云わな……、やあぁッ──」
蕾の奥を、指の腹でグッと押しあげられ、総司は泣き叫んだ。頬を火照らせたまま泣きじゃくり、細い腰を揺らしている。
それが男を求めているのか、逃れようとしているのか。
どちらにせよ、男の目を愉しませる色っぽい動きだ。
「たまらねぇな」
土方は喉奥で呻き、指を引き抜いた。もう我慢も限界に来ているのだ。
総司の細い両脚を抱え上げ、押し広げた。濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがい、抗う隙もあたえず一気に貫く。
「……ッ、ぁああッ!」
悲鳴をあげ、総司が仰け反った。見開かれた瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれる。
反射的に上へ逃れようとしたが、すぐさま両膝を掴まれ、引き戻された。そのまま躯を二つ折りにしてのしかかり、土方はぐっぐっと腰を入れてくる。
最奥まで穿たれ、総司は躯をびくびくと震わせた。
「ぁ…ぁあっ、ぁ……や、やぁ…ッ」
「すげぇ…熱いな……」
「これ…以上、お…く、入れないでぇ……っ」
総司は泣きながら懇願したが、むろん、それを土方は聞く気がなかった。
何しろ、総司は一番奥がもっとも感じるのだ。ここをさんざん突き上げてやれば、たちまち快感に溺れ、愛らしく悶えはじめる。
土方は総司の細い腰に腕をまわし、半ば下半身を抱くようにして揺さぶり始めた。むろん、そのたびに、最奥まで太い楔を打ち込んでやる。
たちまち、総司は嗚咽をあげ、泣きじゃくった。
「ィッやあッ、ゆ、許し……ぁああッ、ぁあッ」
「たまら…ねぇッ……最高だ」
「ぁ、ぁあッ……んぅ、ぅぁあッ、ひぃッ」
何度も最奥を男の猛りで抉られ突き上げられ、総司は強烈な快感へと無理やり押しあげられた。腰の奥がじんっと痺れ、躯中が熱くとろけてゆく。
総司は男の背中に両手をまわし、必死に縋りついた。何かにしがみついていなければ、気がおかしくなってしまいそうだったのだ。
「は…ぁッ、ぁあっ、ぁ…土方…さん…っ」
男に身をゆだね、甘い声をあげ始めた総司は、たまらなく可愛かった。可憐で愛らしく、艶めかしい。
その華奢な躯を組み敷き、土方は激しく腰を打ちつけた。膝裏に手をまわして押し広げ、開かれた蕾を己の猛りで突き上げる。
頂きは近いのだ。
早く、総司の躯を己のものでいっぱいに満たしてやりたかった。
そうして、わからせたい。
どれ程、愛しているか。
総司だけを愛していることも、他の誰に心を奪われることも、あり得ないのだということを。
「ぁっ、ぁ…ぁあ、いっちゃ……っ」
総司が泣きながら片手をのばしてきた。自分のものを握ろうとしている。それを払いのけ、乱暴にしごきあげてやった。そうしながら、蕾の最奥を己の猛りで穿ち、ぐちゅぐちゅと捏ね回す。
「ぁ…あーッ、あーっ……」
ベビーピンクの唇から、甲高い悲鳴があがった。とたん、総司のものから蜜が飛び散る。
愛らしい顔が快感に恍惚となるのを見届け、土方は激しく腰を打ちつけ始めた。達したばかりで感じやすい躯を、徹底的に責め抜いてやる。
総司が泣きながら抗い、もがいた。
「や…だめぇッ、だめ……も、許し……っ」
「俺は、まだいってねぇよ」
「おかしく…なっ……ぁあっ、ぁああッ…っ」
声が途切れた。
唇をふさがれたのだ。深く口づけたまま、土方は総司の一番弱い箇所である蕾の奥を、激しく穿った。猛りで突き上げ、抉りまわしてやる。
強烈な快感に、男の逞しい腕に抱かれた総司が、くぐもった悲鳴をあげた。びくびくと躯を震わせている。
「ひ…ぅっ、く…ッ、ぁあッ」
「……総…司……っ」
「ッ…ぁあっ、ぁあああ……ッ!」
一際甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司は再び達していた。それと同時に、男の熱が蕾の奥にたたきつけられる。
その刺激が総司の快感に追い討ちをかけた。感極まり、土方の胸もとに縋りつき、腰を揺らす。
「か、感じる…ぁっ、感じちゃ……っ」
何をかは、聞かなかった。おそらく訊ねても、総司はわからなかっただろう。
土方は総司の頬を両手でつつみこみ、もう一度、優しく口づけた。深く躯を交わらせたまま、唇を重ねる。
恋人たちの熱が再び燃え上がるのに、それ程時間はかからなかった……。
──後日。
結局の処、今回の行動は欲求不満のためだったのかと理解した土方は、「これからは、夜の方もっと励むよ」と、爽やかな笑顔で云ってのけた。
もっとも、それが恋人たる総司に受け入れられたかどうかは、皆様のご想像におまかせするという事で……。
ラストまでお読み下さり、ありがとうございました〜♪ お楽しみ頂けたら、幸いです♪