食事の用意をしている間に、夕暮れがやってきた。
 それを見てとった土方が手早く明かりを灯していく。少し背の高いライトをテントの外側に幾つもつければ、意外と明るかった。
 優しい琥珀色の光があたたかい。
 総司はスープをあたためながら、土方を見上げた。
「ちょっと不思議なんですけど」
「? 何が」
「こういう時って、バーベキューじゃないのですか」
「最近は色々と変わったらしい」
 土方はパエリアの火加減を見つつ、答えた。
「ダッチオーブンとかも使うし、アウトドア料理のレシピも増えたってことだよ。まぁ、もっとも」
 軽く肩をすくめた。
「このレシピも全部、近藤さんの受け売りだけどな」
「え、近藤さん?」
 びっくりして見上げた総司に、土方が頷いた。
「あぁ。家族でよく行くらしい。今度のキャンプも、仕事とは違うから勝手がわからなくてさ、色々と教えてもらった」
「そうだったんですか。でも、レシピって……近藤さんがお料理をするの?」
「キャンプの時だけは腕をふるうんだ。俺も一度食わせてもらった事があるが、なかなかの味だった」
「意外だけど、でも、パパさんって感じで考えると、わかりますね」
 総司はくすくす笑った。
「しばらく泊まらせて頂いた時も、素敵なご家庭でしたし」
「泊まりって……あぁ、あの時か」
 微かに眉を顰めた土方に、総司はまずい事を言ったと慌ててしまった。何しろ、近藤の家に泊まっていたのは、記憶を失った土方から逃げた時のことだったから。
「えっと、あの、珠子ちゃんもね、懐いてくれて。奥様も優しい方で、とても幸せそうだなぁと思ったのです。だから、その」
「羨ましいか?」
 不意に訊ねられ、総司はきょとんとした。意味がわからなかったのだ。何を羨ましいのかと訊ねられているのか。
 だが、すぐに彼が近藤の家庭のことを言っているのだと気づいた。
 総司は土方に身を寄せた。そっと彼の体にふれる。
 黙ったまま見下ろした土方に、小さく笑いかけた。
「ぼくは今、十分幸せだもの」
「総司」
「土方さんと一緒にいるだけで、最高に幸せなのです」
 その言葉に、土方は目を見開いた。それから、嬉しそうに微笑んだ。
「俺もだ……総司」
 かるく身をかがめた土方が、甘いバードキスをしてくれた。それを幸せそうに受けてから、総司はちょっと頬を染めた。












 食事の後、コテージのお風呂を借りた。
 キャンプとしては贅沢極まりない広くて綺麗なお風呂でさっぱりした総司は、パジャマにしっかりと厚手の上着を着込んだ状態で、テントに戻った。土方が風呂から出てくる前にと、あたたかい飲み物をつくっておく。
 やはり山間は気温が低い。とくに夜ともなれば、しんと冷えてきていた。
 それを感じていると、土方がテントに戻ってきた。カップを渡せば、微笑みかけられる.
「ありがとう」
 二人してあたたかいレモネードを飲んだ。土方のものは少しお酒が入っている。
 テントの外に出した椅子に坐っている総司に、不意に、土方が言った。
「……総司、見てごらん」
「え?」
 彼が指さした方向を見上げ、思わず息を呑んだ。
 二人がキャンプをはっている場所は、山間の別荘地だ。そのため、明かりも少なく空気も綺麗に澄んでいた。そのためだろう、二人の頭上には満天の星空が広がっていたのだ。
「わぁ……!」
 歓声をあげた総司に、土方は微笑んだ。
「すげぇ綺麗だろ? さっきこっちに戻ってくる時、気がついたんだ」
「とっても綺麗……! こんな星空見たの、初めてです」
「あ、ほら、流れ星だ」
 彼の言葉どおりだった。都会では到底見ることのできない光景にはしゃいでしまう。
「ここに来て本当に良かったです。ありがとう、土方さん」
「それは良かった」
「色々と準備も、その、大変だったでしょう?」
 そう訊ねた総司に、土方はくすっと笑った。カップをテーブルの上に置くと、手をのばし、総司の手をそっと握りしめてくる。
「別にたいした事じゃねぇよ。けど、そうだな……ご褒美は貰ってもいいだろう?」
「ご褒美?」
「星空の下で、おまえを愛させてくれ」
「……っ」
 男の熱っぽい言葉に、どきりと心臓が跳ね上がった。頬を紅潮させながら見上げれば、甘やかに微笑みかけられる。
 さっきは昼間だったのでお断りしたが、今は夜だ。しかも二人きりのテント。
 ばっちりのシュチュエーションに、総司は胸をどきどきしながら俯いた。握られた手をきゅっと握り返す。
 すると、土方は総司の手を引くようにして立ち上がらせ、テントの中に入った。そのまま、さっさと幌を下ろして閉じてゆく。
 琥珀色の柔らかな光が満たされたテント内は昼間と違い、どこか艶やかな雰囲気だった。秘密めいた感じがする。
 戸惑っていると、土方が総司を柔らかくシートの上に坐らせた。自分はその前に片膝をつくと、顔を寄せて何度も甘いバードキスをしてくる。次第に深く重ねられるキスに、陶然となった。
「……ん…ぅ…ぁ……」
 角度を変えながら唇を重ね、柔らかく抱きしめられる。気がつけば、総司はほとんど衣服を脱がされた状態で、シートの上に横たわっていた。それに、自分も半ば衣服を脱いだ土方がのしかかってくる。
「総司……すげぇ綺麗だ」
「土方、さん……」
 彼の方が綺麗だと思った。なめらかな褐色の肌も、引き締まった逞しい躰も何もかもが、しなやかな獣のようで胸をどきどきさせる。
 土方は柔らかく微笑むと、総司の躰を優しく愛撫しはじめた。胸の尖りを両方とも弄られ、「あぁ、んっ」と声をあげてしまう。ぴりぴりっと走る快感に仰け反ったため、まるで彼の前に胸をさし出すような格好になってしまった。それに、くすっと笑い、土方がぺろりと下で舐めあげる。
「や、ぁっ」
「本当に、おまえはココが弱いな」
 柔らかく撫でながら、片方の手を下肢へ滑らせた。総司のものは軽く指さきで掠めただけで、奥の蕾を指の腹で撫ではじめる。そのもどかしい動きに、思わず腰をゆらゆらさせてしまった。
「土方…さん、やぁ……」
「いやって何が? さわられるのが?」
「そう…じゃなくて、もっと、ちゃんとしてぇ……」
「ちゃんとって、どんなふうに?」
 意地悪く笑う土方を、涙目で見あげてしまう。それに彼は一瞬目を見開くと、呻くように喉を鳴らした。
 短く舌打ちし、総司の細い躰をぎゅっと抱きすくめる。
「まったく……たまらねぇな」
 土方は身を起こしてリュックから潤滑剤を取り出したようだった。それを指にたっぷり塗ると、そのまま蕾にそっと差し入れてくる。
「んん……ッ」
 ぬるりと冷たい感触がしたかと思うと、それはすぐさま熱くなった。ほっと体の力を抜いた総司に、土方は柔らかく指を動かし始める。
 くちゅくちゅと鳴る音に頬が熱くなるが、甘い快感に羞恥もとけた。
「ぁ、ぁ…は、ぁ…ん……っ」
「総司、可愛いな」
 震えてしがみついてくる小柄な躰を片腕で抱きすくめながら、土方は固い蕾を柔らかくほぐした。三本も指が入るようになる頃には、総司も早くとねだり始めていた。涙目でおねだりすれば、土方が、はぁっとため息をもらす。
「本当に、たまらねぇよ」
「土方…さん……っ」
 柔らかくその細い両足を押し広げ、膝を抱え上げた。あてがわれた熱い猛りに、総司が一瞬息を呑む。
 そのなめらかな頬にキスをしてから、土方はゆっくりと突き入れた。狭隘な蕾に押し入ってくる男の太い猛りに、思わず逃れかける。
「ッ、や…あー……ッ」
「おい、逃げるな」
 上へずりあがろうとする総司の細い肩を掴み、強引に引き戻した。それに、総司がふるふると首をふる。
「だ…って、土方さんの…おっき……っ」
「ッ! これ以上煽るなっ……」
 舌打ちしてしまった。本当は凶暴に貪りたい、欲望のまま犯しまくってやりたいのだ。それを必死に堪えているのに、このウサギは男をとことんまで煽ってくる。
 土方は総司の両膝をしっかりと抱え込むと、のしかかった。総司の目が見開かれる。
 それを見下ろし、己の猛りで蕾を一気に貫いた。ずんっと最奥まで穿つ。
「ッ、ぁあ――ッ…!」
 総司が、か細い悲鳴をあげて仰け反った。衝撃に躰を震わせている。
 物凄い圧迫感と重量感に腰奥が痺れた。痛みはあるが、それ以上にとろけた快感のポイントを擦り上げられ、かぁっと熱がたちのぼる。
「ぁ、ぁ……っ」
 喘いでいる総司を見てとり、土方はすぐさま激しく揺さぶり始めた。容赦なく力強い抽送に、総司が悲鳴をあげる。
 ゴリゴリと音が鳴りそうなほど、総司の感じる処を男の猛りが的確に穿ってくるのだ。息つく暇もない快感美に、蕾がきゅんきゅん痺れた。それは男にも伝わる。
「す、げ……熱……ッ」
 土方は総司の膝裏を掴んで押し上げ、何度も上から蕾の柔らかな奥に男の楔を深々と打ち込んだ。そのたびに総司が「ぁ――ッ!」と泣き叫ぶ。
 ぐちゅぐちゅと鳴る淫らな音、男の荒い息づかい、総司の掠れた悲鳴が、テント内に響いた。淫靡で甘い空気に満たされてゆく。
 総司は泣きじゃくり、首をふった。
「やぁあっ、も…だめぇっ……ゆ、許してぇッ」
「欲しがったのはおまえだろうが……ほら、もっとやるよ」
「あッああぁッ、や、やああーッ」
 総司は身悶えた。何度も何度も激しい快感の波が押し寄せてくる。
 あ、と思った時には、白い蜜が飛び散っていた。中だけでイッてしまったのだ。ビクビクと躰を震わせるが、それに土方が手を緩めてくれる事はなかった。全く構うことなく、土方は総司の首筋や胸もとに口づけながら激しく腰を動かしつづける。
 達したばかりの敏感な蕾を男の太い猛りで捏ね回され、総司は小動物のような悲鳴をあげた。
「いやあッ、イッたの! イッたからぁ……ッ」
「おまえはだろ? 俺は全然満足してねょ」
 唇の片端をあげて獣のような笑いをうかべた男は、総司の躰をくるりと裏返した。そのまま四つ這いにさせると、腰を抱えて高くあげさせ、後ろから一気に貫いてくる。
「あああ――ッ!」
 甲高い悲鳴をあげ、総司は仰け反った。最奥までズンッと貫かれ、物凄い快感美に気絶しそうになったのだ。がくりと肘が折れてシートの上に突っ伏した総司だが、それがより男を喜ばせることに気づいた時はもう遅かった。
「いいな……この体位、犯りやすいぜ」
 くっと喉奥で笑った土方は逃さないように総司の腰を鷲掴みにすると、激しく腰を打ちつけ始めた。ぐちゅぐちゅと音が鳴り、男の太い猛りが濡れそぼった蕾に抜き差しされる。
 総司は目を見開き、泣き叫んだ。震える手で必死にシートを掴み、爪をたてる。
「ひいっ、ひぃ…ぃッ、ぁああー…あぁー…ッ」
「気持ちいい……最高だ……っ」
「も、らめぇッ、やあ、あああ…っ」
 土方は総司の躰を貪りつくすつもりなのか、無理やり躰を起こさせると膝上に抱き上げた。そのまま腰を下へ降ろさせる。
「ぃ――ッ!」
 総司の悲鳴は声にさえならなかった。男の太い猛りに真下から深々と貫かれ、あまりの快感に声もなく仰け反る。
 そのまま男の腕の中で躰を震わせる総司に、土方は目を細めた。白い首筋を甘噛みし、うっとりと囁く。
「あぁ……総司、すげぇ気持ちいいよ」
「……も、だめ…ぇ……っ」
「もっと気持ちよくなろうぜ?」
「や、壊れちゃ、う…ぁ、ぁあぅ――」
 男の猛りが蕾の最奥までしっかりと嵌り、どくどくと熱く脈うっている。その形までまざまざと感じてしまい、総司は思わず締めつけてしまった。
 淫らにうねる熱い蕾に、土方は短く息を吐いた。
「すげぇな……おまえ、本当に最高だよ」
「ぁ……」
「ほら、もっと俺を楽しませてくれ」
 そう言うなり、土方は総司の両膝を後ろから抱えこんだ。そのまま躰ごと上下させ、男の猛りの上へ何度も腰を降ろさせる。
 強制的に男の猛りで己の蕾を貫かれる快感に、総司は掠れた悲鳴をあげた。泣きじゃくりイヤイヤと首をふるが、躰は男を求めて熱く甘く痺れてゆく。
「ぁあッ、や、ぁあ…―…ッ」
「は、ぁ……っ」
 耳もとにふれる男の息づかいの荒さに、頂きが近いことを感じた。その息づかいにまで感じて、総司は身悶える。
 やがて、土方は総司の躰を再びシートへ押し倒し、後ろから激しく腰を打ちつけ始めた。指を絡め合うようにして手を押さえつけ、逃れられぬ体位で最奥を何度も穿つ。挙げ句、くちゅくちゅと奥をかき回すように捏ねられ、総司はもうシートに顔を押し付けて泣きじゃくるばかりだった。
「ぁあ、ぁッ…ひぃ、ぃああッ」
「……っ、く……っ」
「あ、あああっ、ぁああああーッ!」
 甲高い悲鳴をあげた瞬間、蕾の奥に男の熱がたたきつけられた。激しく迸ったそれは総司の快感をより高め、痺れさせる。
 それが怖くて、総司は必死に上へ逃れようとしたが、男が許すはずもない。土方は乱暴にその躰を引き戻すと、最後の一滴まで注ぐように射精している間も腰を打ちつけ続けた。
「……ぁ、あつ…ぃっ…ァ…ん…っ」
 もう観念したのか、総司はシートに突っ伏し啜り泣いている。だが、それは甘く掠れた泣き声で、男の熱を煽る以外のなにものでもなかった。
「すげぇ可愛い……」
 喉を鳴らし、土方は一度躰を離すと、正面から恋人を抱きしめた。何度も唇を重ねて、まだ燻る熱をつたえる。
 それは総司も同じだったようで、艶かしく潤んだ瞳が彼を見上げた。細い指さきが誘うように褐色の肌をなぞる。
「……総司……愛してる」
「ぼくも……ぼくも、愛しています」
 甘い睦言をかわしあいながら、二人は再び抱きあった。
 満天の空の下、恋人たちの夜はまだまだこれからだった……。












 月曜日の朝だった。
 ここの処晴天つづきだったが、今日もいい天気だ。
 窓の向こうには青空が広がっているだろう。もっともブラインドで見えないが。
 そんな事を考えながら斉藤が、早朝ミーティングのために会議室で資料を見ていると、カタンと音が鳴った。
 見れば、隣の席に土方が椅子をひいて腰をおろす処だった。
「おはようございます」
 挨拶した斉藤に、土方は切れの長い目をむけた。
「おはよう」
 声も明るく、非常に機嫌が良さそうだ。キャンプ前の金曜日は様々な手配や仕事に忙殺されていたため、疲れ切った様子だったが、余程リフレッシュできたのだろう。清々しい表情だった。
 これはキャンプが上手くいって、総司と仲直りも出来たゆえかと思った斉藤は訊ねた。
「上手くいったみたいですね」
 それに、土方は唇の片端をあげてみせた。
「あぁ、まぁな。かなり楽しめた」
「良かったじゃないですか。総司も喜んでいたでしょう」
「それは、まぁ……わからねぇ」
「は?」
 きょとんとしている斉藤の前で、土方は書類をめくりながら答えた。
「俺自身はすげぇ楽しかったんだが、総司はなんか二度と御免だとか何とか言っていたからな。腰がたたないとか、二人きりのテントでの夜がいかに危険かわかったとか」
「危険って……何やったんです」
「いや、いつもどおりに」


 その「いつもどおり」が、わからないのですが。
 ……いや、知りたくもありませんが。


 清々しい表情でいきいきと仕事をする土方を眺めながら、斉藤は、今頃、逆に、ぐったりしているだろう総司を思い、心の中で(お疲れさま)と手を合わせたのだった。