「かくれんぼの恋シリーズ」
「三倍返しは大きく小さく!」後日談
「何で、こういうものをプリントアウトするんだっ」
土方は信じられねぇっとばかりに、そのシールを指さした。
そこには、誰あろう土方の写真シールがある。
総司は小島から送られてきた写真の中から、一番格好よく撮れている土方の写真を選びだし、それをこそこそとパソコンで編集した挙げ句、シールプリントアウトしたのだ。
しかも、それを自分が大学で使っている筆箱やノートから、パスケースにまで貼られたのだから、土方にしてみればたまったものではない。
「冗談じゃねぇよっ、こんなの聞いてないぞ」
「云うはずないでしょ? 云ったら、土方さん反対するに決まってるもの」
総司は「ねぇ?」と同意を求めるように、シール写真の中の土方ににっこり笑いかけたが、むろん、本当に返事したのは傍にいる土方だ。
「だいたい、俺は写真撮るのは納得したが、こんなシール写真にするなんて承知した覚えはねぇ!」
「ぼくも断った覚えありませんよ」
あっさり云いきると、にこにこしながら総司はつづけた。
可愛い笑顔だが、云ってることはとんでもない。
「土方さんからNOと云われた訳でもないし、それに、シールプリントしちゃいけないって理由もないでしょう?」
「どういう論理だよ! 絶対におかしいぞっ」
「おかしくても何でも、ぼくはこれが欲しかったのっ。やっと念願かなえられて、とっても幸せ♪なんだから」
「おまえが幸せでも、俺は不幸なんだよ! こんなシールプリントされて、それ筆箱とかに貼られて、平気でいられるほど人間できてねぇんだっ」
「じゃあ、これから人間性を磨いてくださいね」
「──」
もはや絶句しかない。
呆然とする土方を前に、総司はぷるんとした桜色の唇を尖らせた。
「だいたい、土方さん、細かすぎ。もとモデルなんだから、こんなの何でもないでしょ?」
「それとこれとは話が違う。っていうか、もとモデルだからって、俺にも羞恥心ぐらいはあるんだよっ」
「えー、これ恥ずかしいの?」
総司は不思議そうにシール写真を眺めやった。
むろんのこと、そこには土方の顔がばっちり映っている。
さすが一流カメラマンが撮ったものだから、写りも最高だ。
「こんなに格好よく、綺麗に映っているのに〜?」
「だから、そういう問題じゃねぇだろっ。おまえ、俺がおまえの写真をパスケースとかに貼っていたら、恥ずかしくねぇのかよ!」
「全然」
あっさりと答えた総司に、土方はそれこそ目が点になった。
「……は?」
と聞き返してしまう。
そんな彼の前で、総司はなめらかな頬をぽっと可愛らしく染め、嬉しそうに笑った。
「むしろ、嬉しいかな? 土方さんがそれだけぼくを愛してくれてるって事でしょ♪」
「……じゃあ、これは俺への愛の深さの現われって事か」
「あたり前じゃないですか」
「いや、絶対に違う! 違うぞ!」
大声で叫んだ土方は、いきなり手をのばした。
総司のパスケースやら筆箱を掴むと、べりべりべりーっとシールを剥がしてしまう。
とたん、総司がものすごい悲鳴をあげた。
「きゃああああ、何するんですかー!」
「肖像権侵害だ!」
「いきなり法律用語? っていうか、それぼくのものなんだから器物破損でしょう!?」
総司は慌てて残りのシールをかき集め、自分の後ろに隠した。
それに、土方が迫った。
「出せよ! 全部破り捨ててやるっ」
「いやです! ぼく、これが欲しかったんだから!」
一歩たりとも引くものかという構えで、総司は云い返した。
「こうやってシールプリントして、土方さんをいつも眺めていたかったんだから!」
「だったら、プリクラにでもすりゃ良かったじゃねぇか!」
「あ、駄目です。それ」
「何で」
「うふふ、だって〜」
総司は嬉しくてたまらないと云いたげに、笑った。
そして。
あるものを両手にもち、土方にじゃーんっと見せた。
「ほら、これ♪ いいでしょう〜?」
「…………」
その瞬間、土方は真剣にぐらりと眩暈を覚えた。
何しろ、そこにあったのは、特大サイズに引き延ばされた彼のポスター写真だったのだ!
その上、特大・大・中とサイズごとに刷られてあり、挙げ句、中サイズのものは下敷きケースに入れられてある。
という事は、それを大学へ持っていくという事で────
「今すぐ寄越せ! 全部破り捨ててやるーっ!」
一瞬の沈黙の後。
そう絶叫した土方に、総司は大事な大事なポスターとシールを抱えこみ、慌ててその場から逃げ出したのだった。
はてさて。
怒りまくった狼さんと、逃げまどうウサギちゃんの追いかけっこは、どちらに軍配があがったのか。
それは、皆様のご想像におまかせするという事で………