しばらくしてから、土方が何かを手にして戻ってきた。
 総司は怯えた表情で、彼を見上げる。大きな瞳が潤み、桜色の唇が僅かに震えていた。
 その表情が男を欲情させるとは、全く気づいていない。
「……な…に?」
「ローションだ。所謂、ラブコスメって奴かな」
「前の整髪剤みたいな事になるの?」
「いや、あれよりもっと気持ちよくなれるんじゃねぇか」
 土方は肩をすくめ、ローションのキャップを外した。ぬるっとしたピンク色の液体を指に絡め始める。
 総司は慌てて叫んだ。
「いりません! そんなの怖くてやだ……っ」
「けど、痛い思いはいやだろ?」
「だって……感じすぎておかしくなっちゃう……」
「おかしくなって結構だ。我を忘れたおまえはすげぇ可愛いからな」
 くすくす笑い、土方は総司の躯に指さきをすべらせた。濡れた手で胸から腰あたりを撫でまわしてくる。ぬるっとした感触が冷たく、だが、不思議なことにすぐさま熱くなった。
「やっ、ぁ…怖いっ……」
「まだ序の口だろ?」
 そう囁き、土方はもう一度ボトルからローションを出した。指さきも掌も液体でたっぷり濡らすと、少年の下肢に手をのばした。
 濡れた指さきが蕾にふれてくる。二、三度柔らかく撫でてから、そっと指さきを挿し込んだ。
「んん…っ!」
 思わず息をつめた総司に、優しい声が囁きかけた。
「総司……息をつめるな、わかってるだろ?」
「んッ、はぁ…ぁ、や…ぁ…」
 男の指はゆっくりと奥まで挿入されてきた。やがて、ゆるやかに動き始める。感じやすいポイントを指の腹で擦り上げられ、細い腰が跳ね上がった。
「ぁ…ぁああんッ、んっ…ゃ、ッ」
 ローションのせいか、いつもより音がくちゅくちゅ鳴って恥ずかしい。しかも、腰奥があっという間に熱く甘くとろけ始めた。思わず男の指をきゅうっと締め付けてしまう。それに、土方がくっくっと喉を鳴らして笑った。
「やっぱり、感じやすい躯だな。ほら、すげぇ…締め付けだ」
「やぁ…ぁあ、あ…ッぁ、あ…ッ」
「見てみろ、おまえのココ……俺の指を何本受け入れてる?」
 そう囁かれ、思わず鏡を見上げてしまった。
 大きく下肢を開かされ、蕾に男の指を受け入れた恥ずかしい格好の自分が、鏡に映し出されている。どくんっと腰奥がより熱くなった。
「ぁ…さ、三本…っ、ぁあっ…もう…っ」
「もう、何だ? もう指なんかじゃ我慢できねぇから、俺のものを突っ込んでくれってか?」
 くすくす笑いながら、土方は僅かに小首をかしげてみせた。端正な顔にうかべられた、とろけるような笑顔。
 それを総司は涙目で見上げた。
 本当に、この人はこんな綺麗な顔で、何だってそんなこと平気で口にできるんだろう。
 だが、もう腰が揺れて体中が甘く痺れ、どんどん堪らなくなってくる。それがローションのせいでも、ラブホテルというシュチュエーションのせいでも、天井の鏡のせいでも、何でも構わなかった。
 この意地悪で優しい恋人が、欲しくて欲しくてたまらないのだから。
「はや…くっ、お願い……!」
 そう可愛らしくねだった総司に、土方は満足げに微笑んだ。
 まるで焦らすようにゆっくり両膝を抱え上げると、大きく左右に押し広げた。濡れそぼった蕾に己の固く屹立したものをあてがうと、低い声で囁いた。
「いいか、しっかり見てろよ」
「え……?」
「俺のものがおまえのココを貫く様をさ」
「や、やだ! そんな…っ」
 思わず首をふった総司に、土方は意地悪な笑みをうかべてみせた。
「いやなら、ここで止めてもいいんだぜ?」
「そんな…っ」
「俺が欲しくて欲しくてたまらねぇんだろ? なら、しっかり見ていろ」
 そう云ってから、土方は不意に表情をあらためた。
 一瞬だけ身を倒し、総司に耳もとに熱く囁いた。
「……俺もおまえが欲しくてたまらねぇんだから」
「あ」
 目を見開いた総司に笑いかけてから、身を起こした。少年の細い膝を引き寄せ、ゆっくりと己の猛りを柔らかな蕾に突き入れてゆく。
 ずぶずぶと埋め込まれてくる男の熱いものに、総司は激しく首をふりながら仰け反った。
「ぁあ、あっ、ぃ…やッ! こ、怖いィっ…」
「すげぇ…キツっ……」
「や、だ…やだッ、おかしく…なっちゃ…ひ、ぁあッ」
 天井の鏡。
 小柄な少年が、男に抱かれている。
 その小さな蕾が男のものを受け入れてゆく様まで、映し出されていた。酷く淫らで艶めかしい光景だ。
 恥ずかしくてたまらなかった。だが、なのに、目が離せない。
 鏡に映る自分たちのセックスが、たまらなく刺激的だった。ぞくぞくするような快感が背筋を這い上がってくる。
 思わず総司は腰を自ら浮かせ、男をもっと早く奥深く受け入れようとした。その総司にしては珍しい積極的な行為に、土方は嬉しそうな表情をうかべた。
「ったく、可愛くてたまらねぇよ」
 低い声で呟きざま、ぐっと総司の両膝を引き寄せた。腰を捻るようにして、一気に最奥まで貫いてやる。
「…っぁ、ぁああーッ!」
 総司は悲鳴をあげ、仰け反った。
 もの凄い質量感と圧迫感が、腰奥を熱く満たしていた。どくどくと脈打つ男の猛り深く感じ、総司は激しく喘いだ。
「ぁ、はぁ…ぁっ、おっきぃ…っ」
「……苦しいか?」
 眉を顰めつつ訊ねてきた土方に、総司はふるふると首をふった。
 それに、ほっとしたように微笑み、優しいキスの雨を何度も降らせた。男の愛しさをこめたキスに、少年の躯の強ばりも少しずつとけてくる。
「土方…さん……」
 小さな声で呼んだ総司に、土方は僅かに小首をかしげてみせた。
 そっと膝裏を手のひらで撫でてやった。
「動いてもいいか…?」
「う…ん……」
 こくりと頷いた総司にもう一度だけキスを落としてから、土方は躯を起こした。総司の膝裏に手をかけて押し広げ、ずるりと己の猛りを先端だけ残した状態まで引き抜いた。それに、総司がすすり泣きながら、いやいやと首をふるのが可愛い。
「いくぞ」
 低い声で告げざま、体重をかけて一気に挿し貫いた。ぐちゅうっと卑猥な音が鳴る。
「ひ…ィッ!───」
 少年の腰が跳ね上がり、反射的に上へ逃れようとした。それを強引に引き戻し、男は力強い律動を始めた。男の猛りが柔らかな蕾に抜き挿しされる様が、余すところなく鏡に映し出された。
 容赦ない一突きごとに、総司の頬が紅潮し、泣きじゃくる声が切羽つまったものになってゆく。
「ぁあっぁ、ぁあッ、やっ…ぁあああッ」
「おまえのココ、吸いつくようだぜ。ほら…鏡も見てみろよ? 俺のもの悦んで咥えこんでるだろ?」
「いやあ! 恥ずかしっ…ぅ、ぁあッ…あぅ──」
 総司は見たくないと両手で顔をおおったが、その細い手首もつかまれシーツに縫い止められてしまう。
 土方は薄く笑いながら、ゆっくりと腰を回し始めた。ぐちゅりぐちゅりと音が鳴り、蕾の奥が男の猛りで淫らに掻き回される。
「ぁああ、ぁ、ぁ──や、も…許し…っ」
「気持ちいいくせに? もっと欲しいって泣いてみな」
「だ、めっ…や、ぁ、土方…さん、土方…さん…ッ」
 甘ったるい声で彼の名だけを呼ぶ総司が、たまらなく可愛く愛おしい。
 土方は短く舌打ちすると、苦笑した。
「……仕方ねぇな。おまえ、可愛すぎるよ」
「ん、ぁ、あ…っ…や……っ」
「けど、このままじゃ、ずっとこの状態が続くんだぜ? どうする?」
 僅かに小首をかしげてみせ、唇の端をつりあげて訊ねてくる。
 情事の真っ最中でありながら余裕たっぷりの土方に、総司は唇を震わせた。この人に叶うはずもないのだ。
 総司は両手をのばすと、男の躯にぎゅっと抱きついた。泣き濡れた頬を彼の逞しい肩に押しつける。
「……お願い…も、意地悪しないで…っ」
「なら、云ってみな?」
「…ぁ……っ」
「いったい、どこの誰とラブホテルに行ったんだ」
「……平助、と……」
 小さな声で答えた総司に、土方はくすっと笑った。
「ふうん」
「信じて…くれないの?」
「いや、信じるよ」
 土方は総司の首筋や胸もと──あちこちにキスしながら、呟いた。
「何しろ、ちゃんと証人もいるしな」
「え……?」
「けど、どのみち俺以外の男とラブホテルなんざへ行ったのは、事実だ。相手が誰でも何もなくても、許せるはずがねぇだろうが」
「ご、ごめんなさい……っ」
 とたん、また総司の大きな瞳から、ぽろぽろ涙がこぼれ落ちた。
「も、しないから…絶対しないから、許して……」
「あたり前だ。もう二度と、あんな事はするな。それから……」
 土方は黒い瞳で総司を覗き込むと、突然、にっと口角をあげてみせた。人の悪い笑みをうかべる。
「それから、罰として今日は俺の云うこと全部聞けよ」
「えぇっ、そんなの……っ」
「拒否できる立場か? さて、どんな体位をしようかな。それとも、あの自動販売機に入ってる奴でも使ってみるか?」
「いやだ! や……ひっ!」
 思わず逃れようとした総司は、次の瞬間、悲鳴をあげた。
 不意に土方が総司の右足首を掴んで肩に上げさせたかと思うと、最奥を乱暴に抉ってきたのだ。そのまま激しく抜き挿しを始める。
「ひ…いぃッ! ぃっ、い…やあぁッ!」
 最も感じる柔らかな部分を男の猛ったもので何度も抉られ、激しく捏ね回された。あまりにも強烈な快感に、総司は声も限りに泣き叫んでしまう。
 細い指で必死にシーツを握りしめ、何とか理性を保とうとした。が、そんなこと男が許すはずもない。
「おまえのコレも可愛がって、極楽へいかせてやるよ」
「や! ぃ、やだぁッ…怖いっ、許し…ッ!」
 必死に逃れようと身を捩る総司を責め抜きながら、土方はその大きな掌に少年の小さなものを握りしめた。総司が一番弱い方法──鈴口に親指を食い込ませたまま、ぐりぐりと擦りあげてやる。
「ひ…いぃっ、いっ──ぃッ」
 我慢など出来るはずもなかった。
 男の掌の中で、総司のものは白い蜜を一気に迸らせてしまう。少年の白い腹から胸にかけて濡れた。
 だが、快楽が終わった訳ではなかった。
 休む間もなく、達したばかりでよい感じやすくなった蕾の奥に、男の楔が激しく打ち込まれる。そのたびに、じわーっとした痺れが腰奥を満たした。
 頭の中がぼうっと霞み、快感以外は何も考えられなくなってゆく。
「ぁあっ、ぁあ…ん い…いぃっ…ッ」
 いつのまにか、総司の細い腰は男の動きにあわせ、ゆらゆら動いていた。男の逞しい腰を腿で締めつけ、「もっと…っ」と幼くも艶めかしい仕草で求めてゆく。
 それに土方は眉を顰めた。きゅぅっと己のものを柔らかく締め付けられ、思わず低く唸る。
「……く……っ」
 腰の動きを早めた。とたん、総司がしなやかに仰け反り、泣きじゃくった。
 部屋の中の音は、少年の泣き声と甘い悲鳴、男の荒い息づかいしか存在しなくなる。
「ぁ、ぁああーッ…っ!」
 やがて、男の熱が腰奥に叩きつけられた瞬間、総司も泣き叫びながら二度目の吐精をしていた。腰を跳ね上げ、白い蜜を飛び散らせる。
 だが、土方はまだ満足していなかった。
 はぁはぁと喘いでいるところを転がされ、下肢を開かされる。
 蕾に再び感じた熱に、総司は目を見開いた。
「やッ! も、駄目…待って……っ」
 慌てて上へ逃れようとしたが、すぐさま引き戻され、後ろから一気に貫かれた。
「!? ぃ、や…ぁあーッ!」
 総司の甘い悲鳴が部屋の空気を切り裂く。
 それを心地よく聞きながら、土方は再び総司の躯を貪りはじめた。
 細い指さきがシーツを掴んでぐちゃぐちゃにする。
 それを眺めつつ、激しく後ろから揺さぶりをかけてやった。総司が泣きじゃくりながら、シーツの波に突っ伏す。
 しなやかな白い背に、甘く優しく口づけた。


「……愛してるよ、総司」


 結局、土方の甘く激しい責めから総司が解放されたのは、夕暮れ時のことだった……。










「……信じられない」
 総司は頬をふくらまし、拗ねきっていた。
 それは、先ほどの情事のことではない。確かに、あんな激しいのを三度も連続でやられれば、そりゃ腰も重いし躯も気怠いしになるが、それでも自分も楽しみはしたのだ。それで土方を責める気にはなれなかった。
 総司が拗ねているのは、まったく別の事である。
 今、二人がいるのは、よく利用するシティホテルだった。先ほどのホテルとは全く違う、贅沢で美しい部屋だ。
 もともと経済観念のずれまくった土方だが、いくら遺産を放棄したと云っても、彼にはもともと株の売買で儲けた資金や、佐藤家の手伝いで得たものやら何やらが財産となってあり、相変わらず高価なものにぽんっとお金を出してしまう。
 日々の食費や光熱費などは総司が管理しているが、彼の財産そのものにはむろんノータッチなので、未だによくわからない事だらけだった。
 だが、今の総司が拗ねているのは、この豪奢なスイートのせいではない。
「あぁ! もう恥ずかしいーっ」
 総司がベッドの上で一人悶々としていると、隣のリビングで電話を済ませたらしい土方が扉を開けて入ってきた。にっこり笑いながら、歩み寄ってくる。
 淡いパープルのシャツにブラックジーンズを纏った姿は、どこから見てもモデルばりで思わず見惚れるほど端正なのだが、それに総司はぷんっと顔をそむけてしまった。
 土方がベッドの端に腰かけたらしく、僅かにスプリングが軋んだ。
「何だ、まだ拗ねてるのか」
「あたり前でしょう! あんなっ、あんな恥ずかしいの」
「仕方ねぇだろ。おまえ、歩けなかったんだから」
「だって……っ」
「じゃあ、あのままラブホテルにいろってか? 延長料金払って? あんな処で余分な金出すのもったいねぇだろうが」
「もったいないって……こっちのホテルの方がずーっと高いでしょう!? 土方さんの経済観念って、ほんっと訳わかんない」
 総司はぷんすか怒りながら、手元の枕を引き寄せぎゅうっと抱きしめた。
 それに土方がちょっと眉を顰め、手を引っ張った。
「おい、抱きつくなら俺にしろよ」
「枕にまでやきもち焼かないで下さい。あんな事する土方さんなんて、もう知らないっ」
「……ごめん」
 本気で怒ってるらしい総司の様子に、土方の肩が落ちた。
「その、まさか、おまえがそんなに怒るなんて思わなくて……な? そんな怒らないでくれよ」
 いつもの落ち着きぶりや強引さはどこへやら、おろおろと総司の機嫌を取り始めた土方に、総司は深々とため息をついた。


 この部屋へ来るまでの事を思い出すだけで、顔から火が出そうだ。
 土方はラブホテルから総司を連れ出すと車に乗せ、このシティホテルへ向かった。そこまでは良かったのだが、何と彼はホテルの正面玄関へ車をつけるなり、総司を所謂お姫さま抱っこで、その両腕に軽々と抱きあげたのだ。
 もちろん、総司は嫌がり、抵抗した。が、そのせいでますます注目の的となってしまい、もう穴があったら入りたいくらい恥ずかしかったのだ。
 土方は全く平然とした様子で総司を抱いたまま、チェックインすると(というより、慌てて飛んできた支配人に何か云ってキーを受け取っただけだったが)、さっさとロビーを横切った。
 何しろ、モデルばりの端正な容姿をもつ男が、可愛らしい少年だか少女だかを腕に抱いているのだ。目立たぬはずがなく、ロビー中の視線を集めていたが、土方は全く意に介していなかった。
 総司の方はもう真っ赤になってしまい、その顔を男の胸もとにうずめているしかなかったのだが。
 本当に、今思い出しても、わぁわぁ叫びたくなる恥ずかしさだった。


「……土方さんって、羞恥心ってのがないの?」
 思わず言わずもがなの事を聞いてしまった総司に、土方は小首をかしげた。
「? どういう意味だ」
「……もういいです」
 はぁっとため息をついてから、総司はふと思い出した。
「ね、それより……さっきの電話は? もしかして……」
「あぁ、あの不届き者に釘を刺しておいた」
「そ、それって、平助のこと?」
「あたり前だ」
 土方の切れの長い目が剣呑な光をうかべた。不機嫌そうな表情で、固く唇を引き結んでいる。
「あの野郎、今度こんな事しやがったら、ただじゃおかねぇ。永倉の手前、今回は許してやったが」
「でも、ぼくと平助で何かある訳ないでしょう?」
「あって堪るか。もしかしてと思って、永倉から妹に連絡をとって貰ったんだ。そうしたら、先週の火曜日は藤堂はおまえと出かけたはずだと聞いて……」
「それって、いつ聞いたの?」
「官舎を出る前、車を取りに行った時だ」
 あっさりそう答えたとたん、総司は手元の枕を思いっきり投げつけていた。
 抜群の反射神経で避けた土方に、きゃんきゃん怒ってしまう。
「何、それっ!? 初めからわかってた訳っ? なのに、あんなふうにチクチク苛めて…っ」
「悪かった。けど、俺もすげぇ腹がたってたから……いや、もちろん、エレベーターの中でよくよく考えてみてわかった事なんだぜ」
「……」
「そんな怒るなよ。先週の火曜日、俺、おまえを抱いただろ? けど、あの時、おまえも全然嫌がらなかったし、何の痕もなかった。だから、そういう事をしに行ったんじゃないって、すぐわかったんだ。なら、おもしろ半分だろうから、そういう事を一緒にする相手となったらあいつしか思いつかなくて。けど、本当にごめん。すぐに全部話して許してやろうと思ったんだが、半泣きでいるおまえを見るとすげぇ可愛くて、つい苛めたくなっちまって……」
「土方さんのサド」
「いや、そういう趣味はねぇよ」
「じゃあ……意地悪」
「あぁ、それは否定できねぇな」
 土方は肩をすくめ、両手をのばした。そっと総司の躯を引き寄せ、抱きすくめる。
 その男の胸もとに素直に凭れかかった総司は、しばらく黙ってから小さな声で云った。
「でも……ごめんね」
「え?」
「あんな所に行って……本当にごめんなさい。考えなしだったと反省してます」
「えらくいい子だな」
「悪い子なのでしょう?」
 くすくす笑いながら答えてから、総司は男の背中に両手をまわした。ぎゅっと抱きつき、甘えるようにその頬を彼の胸もとに擦りよせた。
「……本当はね、淋しかったの」
「藤堂から、聞いたよ」
 土方の黒い瞳がとけるように優しくなった。前髪をかきあげ、甘い甘いキスを額に落としてくれる。
「最近、俺は仕事にかまけてあまりおまえに構ってやれなかった。それが悪かったんだな」
「土方さん……」
「もう少し、おまえの気持ちを考えるよ。一緒にもっと出かけよう。二度と淋しい思いはさせ……」
 そう云いかけた土方の唇に、総司はそっと指さきを押しあてた。
 可愛らしく小首をかしげてみせる。
「いいんです。そんな事しなくても」
「総司」
「ぼくね、わかっちゃったから。平助と一緒にお出かけして楽しかったけど、でもね、なーんにもしないままでも何処にもお出かけしないでも、土方さんの傍でいる方がずっと楽しいし、幸せなんだって」
「……」
 土方の目が大きく見開かれた。虚を突かれたような表情で、じっと総司を見下ろしている。
 そんな彼に、総司はちょっと恥ずかしそうに笑ってみせた。
「ぼくは、あなたの傍にいるだけで幸せなの。どこへお出かけできなくてもいいの。毎日、一緒にベッドで眠って朝あなたを起こしてあげられて、それだけですごくすごく幸せになれるんだって、わかったから」
「総司……」
「だい好き、土方さん。あなたと一緒にいられたら、ぼくは一番幸せだから」
「総司……!」
 もうたまらなかった。
 土方はもう一度総司の躯を引き寄せると、その愛しい存在を両腕にきつく抱きしめた。背中が撓るほど抱きしめ、その髪に額に瞼に頬に、キスの雨を降らせる。
「俺もだ。俺も、おまえと一緒にいれるだけで幸せだよ。他には何も望まない」
「土方さん……」
「愛してる、おまえだけを愛してる……」
 そう熱く囁いてくれる男の腕の中、総司はうっとりと目を閉じた。


 淋しいと思ったけれど。
 でも、やっとわかったから。
 ぼくは、この人がいてくれるだけで幸せだから。
 一緒に日々を過ごし、同じベッドで寄り添い、夜に夢に揺れ、二人一緒に翌朝を迎えられる。
 そんな幸せなことが、他にあるだろうか……?
 ぼくの手はいつだって、この人と繋がれている。
 どんなに遠く離れても、いつだってぼくはこの人を愛してるし、この人のことを想ってる。
 それは、きっと、土方さんも同じなのだろう。
 いつでも、心の奥には、小さな輝く星のように、お互いの存在があるのだから……。


「土方さん、愛してる……」
 そう囁いた総司の唇に、土方の唇が重なった。そうして甘く深く口づけながら、ゆっくりとベッドに押し倒される。それにうっとりしかけた総司は、次の瞬間、ふと小首をかしげた。


(……ベッド? ベッドにって──えぇっ!?)


 総司は慌てて、ばしばし男の背中を叩いた。
「……何だよ」
 ちょっと不機嫌そうな顔で身を起こした土方に、総司は叫んだ。
「何って、こっちの台詞です! あれだけしたのに、まだする気なんですか?」
「もちろん」
「こ…のエロ刑事! ぼくは絶対絶対いやですからねっ」
「何で?」
「何でって……そりゃ、もう躯だるいし、お腹すいてるし……」
「あぁ、そうか」
 土方は頷くと、あっさり身を引いた。手をのばすと、枕元の電話の受話器を取り上げる。それに、総司はきょとんとした。
「? 何?」
「ルームサービスだ。その状態じゃレストランで食事なんざ無理だろ? 俺が適当に頼むからな」
「それは……いいですけど……」
「で、たっぷり飯食って、体力回復したら……」
 土方はにっこり笑った。
「第二ラウンド、しっかりやろうな」
「えぇっ!? ちょっと待っ……」
 慌てて云いかけた総司に、土方が片手をあげた。どうやら、通話がつながったらしい。あれこれ相談しながらルームサービスを頼み始める。
 ちょっとわざとらしいぐらいため息ついたが、全く意に介されないようだ。そんな恋人の姿を諦め半分のまま眺めていた総司は、ふと先週の藤堂たちとの会話を思い出した。


(餌を貰えないお魚さんかぁ……)


 絶対、自分は違うと思った。別にどこへ連れていって貰う訳じゃないけど、こんなにも幸せだから。
 それに──


(……土方さんは、釣ったお魚にも餌をあげるタイプだよね。でもって、おいしく食べちゃうという……)


 そう思った瞬間、かあぁっと頬が熱くなった。
 何だかんだ云っても、愛する人と躯をとけあわせる事は、だい好きなのだ。
 意地悪で、でも優しく甘く抱いてくれる彼との時間は、まるで夢のように心地よいから……。
「……っ」
 一人、真っ赤な顔でふるふると首をふっている総司を、土方が電話をつづけながら不審そうに見た。が、それにはちょっと笑って誤魔化しておく。
 だが、それでも。
 電話を終えてふり返った土方に、総司は両手をのばした。
 男の躯に抱きつくと、甘えるように身を擦りよせながら訊ねた。
「ね、いっぱい頼んでくれた?」
「おまえの好きなものをいっぱいな」
「ありがとう。土方さんもいっぱい食べるでしょう?」
「あぁ」
 頷いた土方に、総司は可愛らしく笑った。
 そして、男の首をほっそりした両腕でかき抱くと。
 甘い甘いキスをしながら、囁いたのだった。


「その後で……ぼくをおいしく食べて、ね?」





 もちろん。
 可愛い恋人にべた惚れの男が、その申し出を断らなかったのは云うまでもない事のようで───