土方は呆然と携帯電話を見つめた。
だが、すぐ我に返ると、こうしていられないとばかりに改札へと駆けだす。
後で考えれば、この場合、救急車を手配すべきだったのだろう。だが、その時は余程頭に血が上っていたのか、まったく考えもつかなかった。
もっとも、結果的には、それでよかったのだが。
「総司……!」
改札口を抜けた土方は、勢いよく家にむかって走り出した。二人の家は、駅から徒歩で15分ほどだ。だが、脚力がある土方が全力疾走すれば、7分ほどで到着した。
慌ただしく鍵をあけた土方が家の中に駆け込むと、総司はリビングのソファでうずくまっていた。入ってきた土方に、ほっとした表情になる。
「土方さん……っ」
「総司、いったいどうしたんだ!」
すぐ傍に跪くと、土方は総司の躰を抱きおこした。その小柄な躰がひどく熱いことに気づき、眉を顰める。
「熱でもあるのか、どこが苦しいんだ」
「わかん…ない……」
「食あたりか? 何かおかしな物でも食ったのか」
「タルト……」
小さな声に、土方はキッチンの方をふり返った。だが、そこには何もない。
「冷蔵庫の中にあるの……ぼくがつくったタルト」
「おまえがつくった?」
「うん……」
総司は弱弱しく頷いた。
「土方さんのために…と思って、それで……つくったの。味見に一つだけ食べたんだけど……」
「あたったのか? 腹でも痛くなったのか?」
「ううん、そうじゃなくて……」
「薬をもってこよう。それとも、救急車か」
そう云って立ち上がりかけた土方だったが、腕にしがみつかれた。総司が子供のように縋りつき、首をふる。
「行かないで……離れちゃ、いや」
「大丈夫だから、電話をかけるだけだ。俺は傍にいる」
「やだ……お願い……っ、土方さん……助けて……っ」
「だから、今」
「違うの……ちがう、の……っ」
総司は熱い吐息をもらし、土方に身を擦りよせた。ぎゅっとしがみつき、目を閉じる。
それに、土方は眉を顰めた。
「……総司……?」
「薬じゃだめ……土方さんしか、いらな……っ」
「おい、まさか」
思わず目を見開いた。
突然、媚薬という文字が、頭にうかんだのだ。何がどうなって、手作りタルトが媚薬と化してしまったかはわからないが、今の総司の状況はそうとしか思えなかった。
あらためて覗き込めば、なめらかな頬は上気し、瞳もとろりと潤んでいる。ベビーピンクの唇が甘い吐息をもらし、男を誘いこむ花のようだ。
いつも清楚な印象がある総司は、今、そこらの娼婦も顔負けの色香を匂いたたせていた。
総司は両手で土方の躰にしがみついた。身をすり寄せてくる仕草は、驚くほど煽情的だ。
「土方さん……お願い……っ」
「いや、ちょっと待てよ」
「やだぁ、もう…我慢できない……」
「……」
土方は一瞬、唇を噛んだ。
媚薬によっては、快感をあたえることで、より効果が強まってしまうものもあると聞いた事がある。だが、こんな状態の総司を放っておける訳がなかった。
意を決すると、土方は総司の小柄な躰を両腕に抱き上げた。寝室へと運んでいく間も、総司はぴったりと躰を密着させてくる。
「……っ」
土方も躰が熱くなるのを感じた。媚薬のせいだとわかっているが、色っぽい総司の誘いにたまらなくなってしまったのだ。
ベッドの上に横たえられると、総司は両手を土方にむかってのばした。甘い声で誘いかける。
「早く…きて……」
「……どうなっても知らねぇからな」
土方は低く唸ると、剥ぎとるようにスーツの上着やコートを脱ぎ捨てた。ネクタイを緩めながら、総司にのしかかってゆく。
両腕に抱きしめた瞬間、桜色の唇から甘い吐息がもれた。
「ひ…ぃっ、ぁ…ぁあっ」
甘い声が寝室に響いていた。
二人とも衣服を脱ぎ捨て、肌をあわせている。
土方の手の中で、総司のものが二度目の絶頂を迎えた。白い蜜がこぼれていくが、それでも、びくびくと震えている。
「っ、ぁあっ、もっと…ぉ……っ」
「まだ足りねぇか」
「足り…ないのっ、早く……っ」
いつもの総司からは考えられない積極性に、土方は目を細めた。だが、可愛い仔猫が発情したさまに、より男の欲が煽られる。
サイドボードからクリームを取り出すと、それを指に絡めた。下肢の奥へ手をすすめると、総司が男の手を白い腿の間に挟み込んで、腰を揺らす。
「……これじゃ可愛がれねぇよ?」
宥めるようにキスを落とすと、総司は甘い吐息をもらし、それに応えてきた。キスに夢中になっている間に、蕾を指の腹でくすぐる。
「ん…ぅっ、ふ…ぅ…っ」
くぐもった声をあげ、総司が躰をよじった。土方はクリームで濡らせた指を蕾に挿しこんだ。いつもよりスムーズに入れることが出来る。
総司の中は酷く熱かった。指で探っていくと、きゅうっと締め付けてくる。
「可愛いな」
思わず笑うと、潤んだ瞳で見上げられた。艶めいたベビーピンクの唇が、「早く……」とねだる。
土方は唇を重ねながら、指で丁寧に蕾の奥をほぐした。いくら媚薬があっても、無理な事だけはしたくなかったのだ。だが、それは総司にとって焦らしプレイでしかなかったのだろう。泣きながら縋りつかれ、何度も懇願された。
「お願…っ、早く…いれて……っ」
細い腰が揺れるさまに、土方も我慢の限界を超えてしまう。
すらりとした両足を抱え上げ、蕾に己の猛りをあてがった。ゆっくりと上から突き入れていく。
「ひっぅ…ッ、く…ぅ、んッ」
総司は仰け反り、泣き声をあげた。熱く柔らかな蕾が男の猛りを受け入れる。媚薬のためか、苦痛はほとんどないようだった。初めの痛みに泣く事もなく、なめらかな頬を紅潮させ、喘いでいる。
それを確かめ、土方は一気に根元まで突き入れた。
「ッ、ぃぁああーッ!」
甲高い悲鳴を部屋に響いた。ぐちゅりと音が鳴り、二人の躰が深く繋がる。
いつもなら馴染むまで待つ処だが、土方も、色っぽい総司に刺激されまくっていた。もう理性がもたない。
「動くぞ」
低い声で告げると、すぐさま律動を始めた。総司の細い膝裏を鷲掴みにして押し広げ、ぱんぱんと音が鳴るほど腰を打ちつけていく。
たちまち、総司が甘い悲鳴をあげた。
「ひぃっ、ぁあっ、ぁああ…や、ぁあっ」
「すげぇ熱……っ」
「は、ぁっぁ、だ…めぇっ」
「何が駄目だ。もっと……激しくして欲しいんだろ?」
掠れた声で囁きかけ、耳もとや首筋に、むしゃぶりつくように口づけた。そうしながら、総司の躰を激しく責めたてる。
濡れた蕾の奥に男の楔を何度も打ちこまれ、その度に突き抜ける快感美に、総司は泣きじゃくった。たぐりよせたシーツは、ぐちゃぐちゃになってしまっている。
「や、ぁあっ、あぁ、いっちゃ…っ、ぃっ」
「いけよ……ほら、いっちまえ」
「ぁッ、い、いくっ、いく…ぅ…―…ッ!」
頤を突き上げた瞬間、総司のものが弾けていた。白い蜜が勢いよく吐き出される。
同時に、達した事で感じやすくなった蕾は、男のものをきゅうきゅう締め付けた。それに思わず喉を鳴らしてしまう。
土方は総司の躰を這わせると、後ろからのしかかった。白い双丘を鷲掴みにし、押し開いた蕾に猛りをあてがう。
はっと息を呑んだ総司が慌ててふり返った。
「ま、待って……まだ、だめぇ…っ」
「待てるはずねぇだろう? 俺の方が限界だ」
土方はそう云い捨てると、無理やり後ろから一気に貫いた。まるで犯すような激しさに、総司が甲高い声で泣き叫ぶ。
「ひぃ…ィーッ!」
達したばかりの蕾の奥を男の猛りで抉られるのだ。その凄まじい快感に、総司はがくりと前に突っ伏してしまった。顔をシーツに押しつけ、いやぁっと泣きじゃくっている。
だが、まだ媚薬は続いているはずだった。その証に、総司の蕾は土方の猛りを誘いこむように、柔らかく愛撫している。
土方は「はぁっ」と吐息をもらすと、総司の細い腰を掴みあげた。獣のような体位をとらせると、後ろから激しく腰を打ちつけはじめる。
「ひぃっ、ひっ、ぃぁッ、ぁあっ」
短い悲鳴をあげ、総司が泣きじゃくった。上へ上へと逃れようとするのを引き戻し、何度も最奥まで受け入れさせる。奥の方をぐぬりと捏ねまわしてやると、総司がたまらないとばかりに悲鳴をあげ、髪をふり乱した。
汗に濡れた髪が白い項にはりついている様が、たまらなく色っぽい。
土方は総司の躰を貪りつくすように抱いた。少しずつ激しく乱暴になってくる動きに、総司はもう泣き叫ぶばかりだった。いきっぱなしになってしまったのか、総司のものは色の薄い蜜をこぼし続けている。
「ぁあっ、ぁっ、ぁ…も、許し……っ、ぁあッ」
「総司……たまらねぇ、総司……っ」
「ひ、ぃ…ぁあっ、ぁあっ、ぁああーッ!」
総司が悲鳴をあげた瞬間、その腰奥に男の熱が叩きつけられた。感じる部分に射精され、「ひぃっ」と目を見開く。強烈すぎる快感に逃れようとするが、土方がそれを許すはずがなかった。腰を鷲掴みにしたまま、何度も腰を打ちつけ、最後の一滴まで注ぎこむ。
やがて、ぐったりとベッドのシーツに突っ伏した総司を、土方は後ろから抱きすくめた。熱く火照った肌がふれあい、互いの想いと熱情をわけあう。
「……愛してる」
甘い囁きは、どちらのものだったのか。
再び、恋人たちが蜜のような時間に溺れていくのは、そのすぐ後のことだった。
「……たてない」
朝起きてすぐの第一声に、土方は思わず笑ってしまった。
くっくっと喉を鳴らした男に、総司は大きな瞳を潤ませ、唇を尖らせた。その躰はもう綺麗に清められ、いつものパジャマも着せられている。昨夜、失神している間に、土方がしてくれた事に間違いなかったが、それはそれで恥ずかしい。
なめらかな頬を紅潮させ、土方を見上げた。
「誰のせいだと思っているの?」
「まさか、俺のせいか?」
「だって……」
「媚薬のせいだろ。つまりは、とんでもない媚薬タルトをつくったおまえのせい」
そう云いきった土方は、総司の細い躰を両腕に抱きあげた。そっと抱き上げ、リビングへと運んでいく。ふかふかしたソファの上に降ろされ、総司は安堵の息をもらした。
痛みがある訳ではないが、さすがに躰のあちこちが重くて気怠い。それも当然のことだろうと思った。何しろ、昨日はあれから何度抱かれたのか、記憶にない程なのだ。
そんなあれやこれやを思い出し、赤くなってしまった総司を、土方は隣に坐りながら抱き寄せた。ちゅっと頬にキスを落とす。
「すげぇ可愛いな」
「土方…さん」
「昨夜もそりゃ色っぽくて最高だったが、こうして恥ずかしがっているおまえもたまらねぇよ。また違う色気があるな」
「も、もう駄目ですからね!」
総司は慌てて男の胸に両手を突っぱねた。
「絶対、無理! 壊れちゃいます」
「わかっている。俺もある程度は満足したから、安心しな」
ある程度という辺りに不安を感じるが、総司は一応納得しておくことにした。それから、きょろきょろと辺りを見回す。
「土方さん、今日は……?」
「休みをとった。ここの処、忙しかったから当然だろ」
「それで、あの、タルトは……」
「あぁ、あるぜ。また食うか?」
「!」
総司は勢いよく首を左右にふった。絶対絶対、二度と食べる気にはなれない。
何しろ、昨日は本当に大変だったのだ。味見してからしばらくして、躰がどんどん熱くなってくるし、何だかわからない衝動がこみあげてくるしで。あの時、土方が帰ってきてくれなかったら、どうなっていたかわからない。
「絶対に食べません」
「そうか? 昨日は最高だったけどな」
悪戯っぽい瞳で笑う土方の肩口に、総司は凭れかかった。小さな声で云う。
「……ごめんなさい」
「? 何を謝っているんだ」
「その……昨日のこと、全部です。伊庭先生と逢っていたことや、あんなタルトつくっちゃったこと、全部」
「伊庭との事なら、俺も悪かったよ」
「え」
びっくりして見上げると、土方は困惑したような表情で髪をかきあげた。
「嫉妬でおかしくなっちまったんだ。おまえが伊庭の奴のために菓子をつくるつもりなのかと、思ったから」
「そ、そんな事ある訳ないでしょう!?」
思わず叫んでしまった。
「理由がないし、それに、ぼく、土方さんの為にしかお菓子もご飯もつくりません。つくりたくないもの」
「総司……」
「あなたのために、お菓子をつくりたかったの。お誕生日のお菓子を……でも」
失敗してしまった。
それどころか、媚薬のタルトをつくってしまうなんて、信じられなかった。
「媚薬になるなんて……」
「材料に代用品を使ったんだろ?」
土方は軽く肩をすくめた。
「一つぐらいなら問題がなくても、色々とあわさると効果が倍増するからな」
「そう…なんだ」
「日本で普通に販売されている物の中にも、媚薬効果があるものは色々とある。それらが重なって、あぁいうものが出来上がったんだろう。むろん、人によって体質もあるから反応は違うだろうが」
「……っ」
総司は泣き出したくなった。きゅっと唇を噛みしめ、俯く。
彼のためにと頑張ったのに、結局、こんなことになってしまったのだ。切なくてたまらなかった。
だが、その頬を男の手のひらが包みこんだ。そっとすくいあげ、顔を仰向かせる。
見上げると、深く澄んだ黒い瞳が総司を見つめていた。優しく囁きかけられる。
「すげぇ嬉しかったよ」
「え」
「おまえが俺のために頑張ってくれたこと、それ自体がすげぇ嬉しいんだ。俺の誕生日を祝おうとしてくれたんだろ? 甘いものが苦手な俺でも食べられるような菓子をつくろうとしてくれたんだろ? その気持ちが嬉しいのさ」
「土方さん……」
総司は胸奥がふわりとあたたかくなるのを感じた。
いつでも、この人はそうなのだ。総司の気持ちに寄りそい、考え、愛してくれる。それがたまらなく幸せだと思った。彼が傍にいてくれる、これ以上の幸せはないのだと、心の底から感じた。
うっとりと凭れかかった総司を、土方は柔らかく抱きすくめた。そっと髪を撫でてくれる。
「……それにさ」
ちゅっと音をたてて頬にキスを落とした。
「別の意味でも、嬉しかったし」
「? 別の意味?」
「媚薬入りタルトだよ」
「どういう事?」
意味がわからず、きょとんとした総司を、土方は笑いながら膝上に抱きあげた。小柄で細い躰は、男の腕の中にすっぽりとおさまってしまう。
その甘くていい匂いがする躰を抱きすくめ、土方は云った。
「昨日、おまえを堪能させてもらったからな。最高の誕生日プレゼントだった」
「さ、最高って……っ」
「なぁ、まだタルト残っているしさ、今夜は二人で食べてみねぇか? すげぇ燃える夜になると思うぜ?」
「お、お断わりします!」
慌てて、総司は土方の膝から降りようとした。だが、腰に力が入らず、ばたばたもがくだけになってしまう。
それを笑いながら抱きとめ、土方は総司の耳もとに唇を寄せた。そして、甘やかな声で囁いたのだった。
「Mind if i get drunk with you?」
その誘いを総司が受けたかどうかは、また別のお話ということで。
ラストまでお読み頂き、ありがとうございました~! 最後の英語の意味は、「一緒に夢中になっていい?」です。皆様がお楽しみ下さったら、とってもはっぴーです♪