「くしゅんっ」
 総司は小さなくしゃみをし、毛布を引き上げた。
 マットの上に坐り、あたたかいココアを飲んでいる。あれから土方の部屋でシャワーを浴び、もってきていた服に着替えたのだが、まだ少し寒いことは確かだった。
「あら、まだ寒い? んー、ここのエアコン古いから」
 ちょっと顔をしかめ、彼女はリモコンを操作した。それから、髪を拭きながらバスルームから出てきた土方をふり返ると、つけつけした口調で言った。
「歳も物持ち良すぎ。そろそろ買い換えなさいよ」
「うるさいなぁ。面倒くさいんだよ、まだ動いてるし」
「そんな事ばかり言ってると、本気でこの子に逃げられちゃうから」
 女はにっこり笑うと、総司の顔を覗きこんだ。
「ねぇ、あなただって冷房も暖房も効いてない部屋なんて嫌よね?」
「え……あ、ぼくは……」
 総司はどう答えたらいいのかわからず、目をさまよわせた。それに土方は眉を顰めると、歩み寄ってきて腰を下ろした。真正面から総司を見つめてくる。
「総司」
「はい……」
「あらためて聞きたい。おまえ、何を怒ってたんだ?」
「……」
 総司は大きな瞳でじっと土方を睨みつけた。
 土方のすぐ傍、寄り添うように坐った女もこちらを見ている。その姿は部屋の雰囲気にしっくりあっていて、彼女が何度もここに来馴れている事が感じられた。
 こんな状況で、どうして、そんなことを平然と聞けるのか。
 この人はいったい何を考えてるの?
「……ぼくはあなたの何ですか」
「え?」
 突然の言葉に、土方は目を見開いた。
 意味がわからないという表情で総司を見ている。それが無性に腹がたった。
 気がつくと大声で叫んでいた。
「ぼくが何も感じないとでも? エレベーターホールで話してたの、見たんです! 愛してるって。この女の人が恋人なら、ぼくはどうなるの? そりゃ、あなたにとって、ぼくなんか子供だし男だし、いつか捨てられるって思ってたけど、でも、こんなのって……っ」
 そう言いかけた瞬間だった。
 突然、女が笑い転げ始めたのだ。お腹をおさえ、おかしくてたまらないと言いたげに笑っている。
 それを総司は呆然と見つめた。
 土方も、何とも言えない複雑な表情で総司を眺めている。
 しばらくたってから、「まったく……」と苦笑し、まだ濡れた髪を指さきでかき上げた。不意に女が白い両手をのばし、後ろから土方に抱きついた。
「ねーえ? 歳、恋人だって。あたし、そんなに若く見えるの?」
「よかったな、自慢できるだろ」
「うーん、でも恋人は気持ち悪いわよ。あんた、あたしの好みじゃないもの」
「姉さんの好みは嫌ってほどわかってるさ。義兄貴そのものだろ」
「あったり前じゃない」
 くすくす笑う彼女を前に、総司は深く息を呑んだ。
 今、とんでもない事を聞いた気がした。
「あ…ね……? 義兄って……」
「そ。あたしは歳の実の姉です。六つも年離れてるけどね。佐藤信子って言うの、よろしくね」
「……お、沖田総司です。よろしくお願いします」
「んーっ、想像以上に可愛い子ね。あ、大丈夫よ。男の子でも歳がべた惚れなんだから、OK。人それぞれの人生なんだし」
 そう言いながら悪戯っぽい瞳で笑い、信子は手をさし出してきた。思わず握ると、ぶんぶん力強く振られた。
 しばらくの間、総司は呆然と信子を見ていた。が、やがて、自分の誤解に気づくと真っ赤になり、すぐさまサーッと青くなってしまった。
(……どうしよう)
 正直、土方の方を見るのが怖い。
 自分勝手な誤解で、公園の中を駈けずり回らせ、挙句、噴水落ちの道連れにし、ずぶ濡れにさせてしまったのだ。どう考えても怒ってないはずがなかった。
「……」
 おそるおそる見やった総司に気づくと、土方はすぐ視線を返した。にこりと笑ってみせる。
 だが、その黒い瞳は全く笑っていなかった。
「……この礼は後でたっぷりな」
「……」
 やっぱり帰ろうかなーと、つい思ってしまった総司だった。
 
 

 

 信子がにこにこしながら「総ちゃん、またね〜」と帰ってすぐ、土方は総司の躯を両腕に軽々と抱き上げた。
 すたすたと廊下を歩いて寝室の扉を蹴って開けると、そのまま広いベッドの上にぽーんっと放り投げた。
 慌てて起き上がろうとしたところに、すぐさまのしかかってくる。
「ひ、土方さん……」
「後でたっぷりなって言っただろ?」
 土方は唇の端をあげ、にっと笑ってみせた。もう欲望に濡れた黒い瞳で総司を見つめている。
「こっちはな、さんざんな目にあわされてすげぇ腹たってんだ」
「だ、だって」
 思わず総司は言い返してしまった。両手を彼の胸にあてて突っぱねた。
「あんな会話聞いたら誰だって、そう思うに決まって……」
「俺が他の奴に心を動かすと? 本気でそう思ってるのか」
 苛立ったような口調で言いながら、土方は総司のシャツを脱がし始めた。怒った様子なのにボタンを外す手は丁寧で優しい。
「そんなに俺が信じらねぇのかよ……ほら、手あげろ」
「や、だ……っ」
 嫌がりつつも優しい手つきに従ってしまった。
 手馴れた様子で総司の服を全部脱がせて裸にすると、何かに気づいたように土方は身を起こした。「ちょっと待ってろ」と部屋を出ていってしまう。思わずその間に逃げようかと思ったが、そんなことすれば余計に怒らせてしまうと諦めた。
 戻ってきた土方はリボンと何かを手にしていた。赤いリボンだけを持ってベッドに上がってくると、驚いたことにそれで総司のものをぐるぐると縛りあげ始めた。
「やっ、ちょっ……な、何っ?」
「見りゃわかるだろ。おまえのもの縛ってんだ」
「どうしてそんな……」
「これはお仕置きだからな。何度言ってもどれだけ可愛がっても、俺を信じねぇおまえへの仕置きだ」
 土方は縛られた総司のものを満足そうに目を細めて眺めると、ぴんっと指で強く弾いた。「んっ」と仰け反る総司に、喉奥で声をたてて笑った。
「今から、この躯に教えてやるよ。俺がどれだけおまえを愛してるか、溺れてるのか。くだらねぇ事を考えないように、たっぷりとな」
「やだっ、外して! これっ」
「嫌だね」
 土方は身を起こし、衣服を脱ぎ捨て始めた。それを思わず総司は見上げてしまった。
 少しずつ露になってゆく男の躯に、うっとりと見惚れてしまう。
 しなやかに張り詰めた筋肉、引き締まった褐色の躯は本当に美しかった。まだ茜色の陽光が射し込む中、セーターを脱ぎ捨て僅かに目を閉じて天井を仰ぐ様は、まるで美しい獣のようだった。
(……綺麗……)
 が、そんなことを思っていられたのも一瞬だった。
 土方はたちの悪い笑みで唇を歪めてみせると、強引に総司の躯を組み伏せてきたのだ。
 総司の手首を掴んで押さえこむと、何度かキスをくり返した。そのまま首筋に顔をうずめながら、胸の尖りを指の腹で擦りあげてくる。
 総司はぎゅっと目を閉じた。
「……んっ、やっ」
「おまえ、ここ弱いものな」
 くすくす笑いながら、土方は躯をずらした。胸の尖りを唇に含み、交互に舐めてくる。男の唇の中で、ぷっくりと尖りが固くなるのを感じた。
「あ、あ、あ……」
「ほら、可愛く尖ってきた。指で摘めてしまうぜ」
 意地悪く笑う土方に、総司は唇を噛んだ。が、どうしても声がもれてしまう。
 やがて、悪戯な男の手は腰のラインを滑り、下肢へと伸ばされた。突然、きゅうっと総司の戒められたものが握りこまれた。
「あっ!」
 思わず腰を浮かした総司のものを、土方は丹念に愛撫し始めた。すっぽりと手のひらに包みこみ、何度も上下に擦りあげる。時折、親指を鈴口にグリグリと食い込ませ、滲んだ蜜で指を濡らせた。
「やっ、はあっ、いやっ……」
「舐めてやるよ。けど、まだまだイカせねぇけどな」
「いやっ、酷い、どうしてこんな……」
「言っただろ? 仕置きだって」
 そう言い捨て、土方は躯をずらした。必死に腰を引いて逃げようとする総司の下肢を引き寄せ、そのまま顔をうずめる。
 熱く柔らかな感触に包まれ、思い切り吸い上げられた瞬間、総司は思わず甲高い悲鳴をあげて仰け反っていた。
「ああーっ!」
 男の唇の中で、総司のものがひくひく震えた。ねっとりと舐めあげ追い詰めてゆく男に、総司は半狂乱になった。
 もう限界なのに、いきたくて堪らないのに絶対いかせて貰えないのだ。
 ぽろぽろと涙をこぼしながら、男の頭を必死に押しのけようとした。
「やああッ! 離してっ、やめてっ、舐めちゃいやあッ!」
「……いいくせに」
「いきたいっ、いくのっ、土方さん! 土方さん!」
 もう無意識のうちに腰が動いていた。極限まで達したものを、土方は執拗に舐めまわし追い詰めてくる。
 総司はきつく男の黒髪を掴んだ。が、もう押しのけようとしてるのか、押しつけてるのかわからない。男の舌の動きが速まり、鈴口ばかりをきつく責めたてた。
「あッ、あッ! いやああぁあッ」
 何度も細い腰がバウンドした。
 土方は総司のものを舐めながら、リボンの結び目に指をかけた。一気に引き抜くと同時に、思い切り吸い上げてやる。その次の瞬間、総司は達していた。
「あああ! あ、あ……っ!」
 極限まで禁じられていた快感は凄まじかった。
 総司は唇をわななかせ、激しく射精した。白い蜜があたりに飛び散る。
 それを土方は満足そうに笑いながら、眺めていた。ようやく終わった後、身をかがめ、ゆっくりと総司の髪をかきあげた。
「……気持ちよかったか?」
「は、あっ……はあっ……土方…さんなんか……っ」
「俺なんか?」
「だい…嫌い……っ」
 そう濡れた瞳で言っても全然迫力がない。案の定、土方は肩をすくめただけで、さっさと次の行動に移った。総司の腰下に羽根枕を差し込むと、膝裏に手をかけて押し広げる。
「な、何……っ?」
「お仕置きの続き」
「え、もう終わったんじゃなかったのっ? やだ! この……すけべっ、エロ刑事っ」
「それは否定できねぇな」
 くっくっと喉を鳴らして笑い、土方は総司の蜜で濡れた指を下肢の奥に滑らせた。まだ固く窄まった蕾を指の腹で撫で、ゆっくりと中へ挿入してゆく。
「んんっ……」
「まずはちゃんと馴らさねぇとな」
 奥深くに差し込んだ指をぐるりと回転させた。広げるようにゆっくりと回してゆく。二本目が入る頃にはもう総司の息も上がっていた。
 より強く膝裏に手をかけられ、そのまま土方のものを入れられるのだと思った。求めるように目を閉じる。が、次の瞬間、びくりと躯を震わせた。
「な、何……っ?」
「心配するな、変な薬とかじゃねぇから」
「いやっ」
 土方は何かのチューブを総司の蕾に押しつけていた。注入口を差し込み、ぐっとチューブを押し出してくる。異様な感触が蕾の中に広がり、総司は思わず体中を竦ませた。
「い、いやっ、冷た……気持ち、悪い……っ」
「整髪剤のジェルだ。ほら、あと少しで全部入る」
「や、やめ…てっ、苦しっ……こんなの……っ」
 すすり泣く総司の中にジェルを注入し終わると、土方はそのチューブを床に投げ捨てた。透明な容器はもう空だった。土方は総司の両足を抱え込むと、蕾に己の猛った猛りを押しあてた。
「ひっ、い、いやっ、怖いっ」
「おまえだって天国と地獄なら、天国の方がいいだろ? 楽しもうぜ」
 くすっと笑い、土方は身を倒した。逃れようとする総司の両足をきつく引き寄せると、一気に腰を沈めてくる。ぐちゅうっと卑猥な音が鳴った。
 次の瞬間、ジェルでいっぱいになった蕾を、男の猛りが強引に奥まで貫いた。
「ひ……ああああっ!」
 凄まじい快感美に、総司は大声で泣き叫んだ。ジェルと一緒に男のものを咥えこんだのだ。その刺激は凄まじかった。男と繋がった部分から太腿へ溢れたジェルがつたうのを感じた。
「あ、あ、あ──あ……」
 呆然としたまま、総司は喘いだ。それを土方は獣のように目を細め、見下ろした。
「すげぇ……な、おまえの中」
「うっ、い、やっ……怖いっ、これ以上……っ」
「痛くはねぇんだろ?」
 ふと心配そうに訊ねた土方に、総司はおずおずと頷いた。が、すぐさま、それを深く後悔した。にっこり笑った土方がこう言ってのけたのだ。
「じゃあ、うんと気持ちよくなろうな」
「え、ちょっ……」
 じたばた暴れる間もなく、土方は総司の両足を己の肩にあげてしまった。そのまま、いきなり激しいピストン運動を開始する。
 くちゅくちゅと音をたてて、力強く蕾を出入りする男の猛りに、総司は泣きじゃくった。頬が薔薇色に紅潮する。
「ああっ! やっ…あぁんっ、んんっ、あっ」
「ほら……気持ちいいだろ?」
「いい…けど、ああっ、ジェルが……ああっ、ああっ、やめ、てぇっ」
「ジェル? あぁ……これすげぇいいな」
 土方は肩に上げた総司の膝を鷲掴みにし、そのまま激しく揺さぶった。総司のもっとも感じる痼が男の括れで執拗に擦り上げられる。
 ジェルとあいまって、強烈な快感美が総司の背筋を突き抜けた。
「ひぃんっ、ああっ!」
 一際強い奥への突き上げに、総司の唇から鋭い悲鳴がもれた。そのとたん、総司のものが達し、白い蜜を飛び散らせる。
 土方はくすくす笑い、まだ震えているそれを指の腹で撫であげた。
「気持ちよさそうだなぁ。これじゃ仕置きになんねぇか」
「やっ、も……許してっ、ああっ……」
「まだだ……まだ駄目だ」
 土方は総司の膝を強く抱え込んだまま、ゆっくりと腰を回し始めた。蕾の奥を男の猛りでぐぬりと捏ね回される。いつもより鳴る淫らな音が恥ずかしかった。
 喘ぎ泣いていると、男の息使いが激しくなってくる。
「土方さん、土方さん……きて、一緒に……!」
 思わず総司は両手をのばして、彼を誘った。それを土方は濡れた瞳で見つめ返した。
 肩から足を下ろし、膝裏に手をかけて押し広げると、そのまま凄い勢いで突き上げ始める。腰奥を乱暴なほど穿つ男の楔に、思わず悶え泣いた。
「ああっ! ひあっん…んっ、んぅっ……はあっ、い、いい……っ」
「総司……すげぇ…いい……」
「ん、くうっ、くっ……はあっ、土方…さんっ、ああッ」
 壊れそうなほどの激しさで揺さぶられ、総司は大粒の涙をぽろぽろこぼしながら泣き叫んだ。あまりにも強い快感に、必死になって男の躯に縋りついた。
 背中に鋭く爪をたててしまい、一瞬、土方が眉を顰めたのを見たのがまた刺激になった。
 どろどろに躯が蕩けて、どうにかなってしまいそうになる。目の前で白い光がスパークした。
「土方…さんっ、ああっ……きて、きてぇ……っ!」
「……総司……総…司……っ」
「ああっ、ああ、あ……ああぁあッ!」
 一際甲高い声で泣いた瞬間、体の奥深くを土方の猛りが激しく一気に貫いた。耳もとで男が低く呻き、腰奥に熱が叩きつけられたのを感じる。
 その感触に、総司は腰を跳ね上がらせ泣きじゃくった。
 きつく抱きしめる男の腕の中、総司は熱い快楽の波に気を失っていた……。
 
 

 

 気だるいまま、総司はのろのろと目を開いた。
 朝の光がカーテンごしに寝室へ射し込んでいる。時計を見るともう7時だ、起き上がろうと思うのだが、寝返り一つうつのさえ気だるかった。
「……ううっ、あの人、めちゃくちゃだよ」
 総司は昨夜のことを思い出してしまい、頬を火照らせた。
 あの後、気がつくとすぐにジェルを掻きだすためだとバスルームに連れてゆかれ、そこでまた結局、抱かれて。夕食をとってから寝る前にベッドで、もう嫌だと泣いて逃げるところを組み伏せられ、もう1ラウンドだった。
 あれだけされれば、腰も重くなって当然だろう。
 ため息をついていると、寝室の扉が開いて土方が入ってきた。
 総司が起きているのに気づくと、ほっとしたように微笑んだ。
「起きてたか」
「……土方さんなんか、嫌い」
 ぷいっと顔をそむけると、ちょっと眉を顰めてから歩み寄ってきた。ベッドに片膝をつき、優しい手を背中にまわして起き上がらせてくれる。それでも総司はあさっての方を向いたままだった。 
 どうせまた、いつもの意地悪か冗談で誤魔化されるんだと思ってると、しばらく黙ってから、低い声で土方がぽつりと言った。
「……すまない」
「──」
 驚いてふり返ると、土方は本当にすまなそうな表情で総司を見ていた。
「昨日は調子にのりすぎたな。やりすぎだとわかってはいたんだが、自分でも止められなかった。本当にすまないと思ってるんだ」
「……」
「総司……許してくれないか」
「……」
 総司はちょっと黙り込んでから、両手をそろそろとのばした。彼の躯に抱きつき、小さな声で言った。
「許してあげます。昨日はぼくも悪かったから、お互いさまです。ごめんなさい」
「あぁ、俺もすまなかった。総司……愛してる」
「うん、ぼくも愛してる……」
 甘い甘いキスを何度かくり返してから、二人は顔を見あわせくすくす笑った。
 土方の手が優しく髪を梳いてくれる。それを心地よげに受ける総司の耳もとに、土方は囁きかけた。
「愛してるよ……俺はおまえに夢中なんだ」
「うん……」
「昨日、おまえはあんなふうに誤解したがな。俺がおまえ以外の誰かを選ぶなんて、絶対ありえねぇんだ。俺は、ずっといつまでもおまえだけを愛してる。他の誰だって、俺たちの間に入り込めるものか」」
「……土方さん」
「好きだ、世界中の誰よりも愛してる……」
 甘い蜜のような言葉を与えてくる土方の腕の中、総司はそっと目を閉じた。
 あたたかいぬくもり。
 この場所を失う日がくるなんて、考えたくないから。
 深く深く愛されて、こんなふうに幸せな日々がずっといつまでも続くんだと、そう信じていたいから。
 だい好きだよ、愛してる、ぼくを放さないで。
 どんなに言葉をならべても、確かなものなんて一つもないけど。
 でも、今この時、あなたがぼくを愛してくれている、それだけは確かなはずだから。
 たとえ、永遠という言葉が二人の間に存在しなくても……。
「……」
 不意に、総司は土方の腕の中でくすっと笑った。
 何かを思い出したように、悪戯っぽい瞳で男を見上げた。それを土方は訝しげに見下ろした。
「? どうした?」
「ううん……昨日のこと、思い出しちゃって」
「昨日のこと?」
「うん。公園でのこと、あなたと一緒に噴水に落ちて」
 くすくすと楽しそうに総司は笑った。
「ずぶ濡れになって、びっくりしてたあなた、すごくおかしかったんだもの。呆気にとられた顔でぼくを見て、頭からもうびしょ濡れで。あんな土方さん、滅多に見られませんよねぇ。写真でも撮っとけばよかったかなぁ」
 そういい終わったとたんだった。
 ふわっと背中が浮いたかと思うと、あっという間に押し倒されていた。いつのまにか天井を見上げてしまっている。
 呆然としていると、土方がのしかかってきた。
 総司を見下ろす黒い瞳が細められ、唇に薄い笑みがうかべられている。
 それを見た瞬間、総司は自分が失言した事に気づいた。
 やばいと慌てて逃げようとしたが、もう遅い。
 きつく手首をシーツの上に押しつけ、土方は楽しそうな口調で言った。
「……ぜーんぜん、反省してねぇみたいだなぁ?」
「え、いえ、そのっ」
「もう少しお仕置きしねぇと、わからない訳か。よし、今日は俺も非番だ。一日たっぷりつきあってやるよ」
「え、えぇっ!? ぼく、今日学校に行かなくちゃ……」
「却下」
「そんな! だめっ……やっ、あんっ、ご…めんなさい……っ」
「今更、謝っても遅い。ほーら、気持ちよくなってきただろ?」
「あ、んんっ、やっ……やだってば、土方さぁん……!」
「……」
 ──結局。 
 いったんスイッチが入ってしまった男を止める方法など、どこにもなくて。
 甘いお仕置きのせいで一日中ベッドの住人にされてしまった総司は、完全に拗ねてしまい、その可愛い恋人のご機嫌をとるのに、土方は貴重な非番の半日を費やしたのだった……。


    ま、ふたりとも幸せならいいんじゃない?











[あとがき]
 やってしまった〜! お道具使い、ジェル。だって、一度使ってみたかったんだもの、このネタ。しかし、後編、お褥シーンがほとんどだったような。これこそ、山なし落ちなし意味なし? ま、たまにはこういう脱力するような話もいいか。のんびりしてて。相変わらず、どっちもどっちのバカップルですけど。この後、土方さんがどうやって総司の機嫌をとったのか、いろいろ想像してみて下さいませ(笑)。


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