さて、3月14日である。
 総司はもっと早く撮影して欲しかったのだが、土方の仕事の都合で延び延びになり(わざと?)、結局。ホワイトデー当日になってしまった。
 で、その日。
 朝から土方は不機嫌だった。というか、ここ最近ずっとだ。
 何も総司にあたったりする訳ではないのだが、どことなく雰囲気が固い。
 言葉数も少なく、仕事が忙しいという事もあるが、帰宅してからもほとんど会話のない状態がつづいていた。


(……どうしよう)


 総司はのろのろとコートに腕を通しながら、ため息をついた。
 どうしても欲しくて欲しくてたまらず、半ば強引に押し切ってしまったが、本当は、ここまで大事になるなんて全然思っていなかったのだ。
 ブロマイド写真と云っても、実を云うと、近所の写真屋さんで撮ってもらった程度でいいと思っていた。
 なのに、たまたま約束していたお茶会にお呼ばれした際、信子に嬉しさのあまり喋ってしまったのが運のツキ!
 あれよあれよという間に、プロの、それも一流有名カメラマンによる撮影という事になってしまったのだ。それもそのカメラマン所有のスタジオを借り切って!
 ここまで事を大きくするつもりはなかったと慌てた総司は、帰宅した土方に謝ったが、彼は黙ったまま唇の端を微かにあげただけだった。
 それがまた、何だか微妙に力ない、そのくせシニカルな笑みで。


(ひ、土方さん、もしかして……すごーく怒ってる?)


 内心びくびくしながら、総司はこっそり、愛しい男の様子を伺う日々がつづいていた。何となく言葉をかけづらく、土方の方も言葉数が少なかったので、どんどん二人の間には沈黙がふり積もるばかりだったのだ。
 その挙げ句、今日。
 総司が身支度をしている間に、スタジオへは車で行くからと土方はさっさと下へ降りていってしまった。それに慌てて用意して玄関へ行ってみれば───
「……え」
 総司は目を丸くしてしまった。
 思わず、まじまじと土方を見つめてしまう。


(な、何で……どうして) 


 土方はまるであの頃のように全身黒ずくめだったのだ。黒いシャツにブラックジーンズ、黒いコート、挙げ句、色の濃い黒のサングラスまでかけている。
 端正なその顔だちに黒いサングラスをかけると、酷く冷ややかだった。
 その出で立ちそのものが、すべてを拒絶しているように見えて、総司はとても怖くなってしまった。
「……」
 車の傍に突っ立っていると、土方がすっと視線を流した。と云っても、グラス越しでは全くわからないが。
 形のよい唇が、微かに動いた。
「……乗らねぇのか」
「あ、あの……」
「話なら後だ。時間が迫っている」
「……はい」
 総司はしょんぼり項垂れ、車におずおずと乗り込んだ。
 助手席に座りシートベルトを締めると、土方は静かに車を発進させた。
 その運転の仕方も何もかもだい好きな彼なのに、まるで、見知らぬ男の隣に坐っているようで、総司は落ち着かなかった。
 ごそごそしていると、土方が低い声で話しかけてくる。
「スタジオにはおまえも入るんだろ?」
「あ……はい」
こくりと頷いた総司は、そっと訊ねた。
「あのぅ、信子さんは……」
「当然断ったさ。冗談じゃねぇからな」
 土方は眉を顰め、不機嫌そうに云いきった。それに、総司はしゅんとなってしまう。
 せめて、信子が来てくれていれば、少しはマシだったかもしれない。土方の機嫌がよくなるとは思えないが(反対にますます急降下するだろう)、それでも一人よりは心強かった。


(やめとけばよかった。こんなこと頼まなきゃ……)


 総司は膝上に置いた手をぎゅっと固く握りしめた。涙がこぼれそうになって、慌てて桜色の唇を噛みしめる。
 そうして、スタジオにつくまで、ずっと俯きぱなしだった。
 だから、気が付かなかったのだ。
 隣で車を運転する土方が時折総司を眺めながら、今にも笑いだしそうな──悪戯っぽい笑みをうかべていた事に……。








 スタジオにつくと、土方は勝手知ったる人の家とばかりに中へさっさと入っていった。
 大きなビルの高層階にあり、さすが一流カメラマン所有のスタジオだけあって設備も立派で、見事なものだ。
 土方がサングラスをとり、受付の人に話しかけていると、奥から彼を呼ぶ声がした。
「歳三!」
 ふり返れば、もう壮年と云ってもよい年齢の男が歩みよってくる処だった。
 満面の笑みをうかべながら、土方の手を握りしめる。
「久しぶりだなぁ、元気にしていたか」
「えぇ。小島さんもお元気そうで何よりです」
「いやいや、年齢には勝てんよ」
 どうやら、この親しげに話している男はカメラマンの小島のようである。
 土方がそっと総司の肩を抱いて、紹介してくれた。
「小島さん、これが俺の恋人です。総司といいます」
「あ、あのっ、総司です。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げた総司に、小島は破顔した。
「これはまた可愛い子だ。歳三も隅におけないな」
「えっ、あの……」
 総司は女の子に間違われたと思い戸惑ったが、結局はそのまま中へと通されてしまう。
「かるくメイクするだろうが、しかし」
 小島は小さく笑った。
「歳三が相手では、腕のふるいようがないだろうな」
「誰ですか」
「小雪っていう子だ。まだ高校を出たばかりだが、かなりの腕だぞ」
 一室に入ると、その小雪という女の子が立ち上がった。ぴょこんと頭を下げてくる。
 小柄でおとなしそうな女の子だが、とても手先が器用そうだ。
 土方は「よろしく」と挨拶すると、慣れた仕草でさっさと鏡の前に腰を下ろした。小雪も「よろしくお願いします」と答えてから、手早くメイクを始める。
 とは云っても、男相手であるし、土方自身、もともと整った顔だちだ。たいして時間もかけず終わってしまった。
 それを眺めていた小島が、不意に頷いた。
「……そうだ」
 総司の方をふり返り、笑いかける。
「きみもメイクしてもらったらどうだ」
「……え」
「きみほど可愛い子では、それ程メイクもいらないだろうが。小雪も少しは腕のふるいようがあるだろう」
「え、え……メ、メイクって……」
「プロのメイクにして貰う機会なんて、滅多にないし。それに、可愛い衣装もたくさんあるから一度着てみればいい。歳三の撮影を見てるだけより、楽しめると思うが」
「で、でも……」
「そうして貰えよ、総司」
 戸惑っていた総司は、不意に声をかけられ、驚いた。
 目を瞠って見れば、ふり返った土方が、今朝方からの不機嫌は嘘かと思うような、綺麗な笑顔でこちらを見つめている。
 いつもの、総司を甘やかせて愛してくれる、優しい彼だ。
 しかも、メイクのせいなのか、より男の艶が増してるような気がして、額にはらりと乱れた黒髪を指さきでかきあげる仕草一つにまで、どきどきしてしまった。
 挙げ句、濡れたような黒い瞳にじっと見つめられたから、尚のことだ。
 かぁっと頬を紅潮させた総司に、土方は微笑んだ。すっと手をさしのべ、とびきり甘やかな声で云ってくる。
「ほら、総司。おいで……」
「あ、……はい」
 おずおずと歩み寄った総司の手を、土方はそっと引き寄せた。そのまま、あっと思った時には、すとんっと椅子の上に座らされている。
 驚いて見上げれば、逆に土方の方が立ち上がり、総司の肩ごしに鏡を覗き込んでいた。
 耳もとに唇を寄せ、囁きかけられる。
「俺は先に行ってるから……メイクしてもらって、好きな服を選んでこいよ」
「え、でも……」
「楽しみにしてる」
 そう云って微笑みかけられれば、もう抗う術などなくて。
 結局、総司は呆然としている間に、その部屋へ俄然張り切ってるメイク係の小雪と共に残されてしまったのだった。
 その後、小雪にせっせとメイクされ、あれこれ服も選んで着替えさせられて───


(……何で? 何でこうなっちゃったの?)


 総司はふわふわした白い妖精めいた薄手のセーターとキュロット、挙げ句、妖精そのものの羽まで背中につけさせられた格好で、おずおずとスタジオへ入っていった。
 もう恥ずかしくて恥ずかしくて、たまらない。
 以前、クリスマスの時にウサギさんの格好をさせられた時は、半ば酔っていたからこそ出来たことだ。
 今回は素面な上に、土方にこの格好を見せるのだ。


(も、もしかしたら、笑われるかも……っ)


 総司は涙ぐみそうになりながら、そっと角から中を覗いた。機材の陰にかくれ、こそこそと様子を伺ってしまう。
 だが、次の瞬間、そんな恥ずかしさも何もかもすっ飛んでしまった。


(わぁ……!)


 スタジオの眩しい程の光の中に、土方が佇んでいた。
 いつのまに着替えたのやら、白いシャツにジーンズという格好だ。今朝の格好とは全く違う、優しい雰囲気を漂わせた彼だった。
 形のよい唇に微かな笑みをうかべ、カメラを見つめている。
 その物慣れた仕草も何もかも、モデルそのものだった。それも超売れっ子モデルの艶姿だ。
 さらりとした艶やかな黒髪も、切れの長い目も、すっと宙を切ってゆくしなやかな指さきまで。
 すべてが、息を呑むほど美しかった。
 そこに佇む姿勢、立ち姿そのものが鮮やかで、目が離せない。


(まるで……まるで、優しくて綺麗な獣みたい……!)


 総司はうっとりと見惚れてしまった。
 瞳もうるうる、ほっぺたも桜色の、恋する乙女そのものだった。
 だが、しかし。そうして恋心に浸っている場合ではなかったのだ。
「──総司」
 男の声にはっと我に返れば、いつのまにやらスタジオ中の人々がこちらを見ていた。むろん、土方も同じくだ。
「あ……えーと……っ」
 慌てて後ずさる総司に、土方はかるく小首をかしげた。それから、何を思ったのか、にいっと唇の端をつりあげてみせる。
「……」
 果てしなくいや〜な予感を覚えた総司に、土方はおいでおいでと手招きした。思わず拒絶の×マークを手で作ってみせたが、その仕草さえも可愛いと云わんばかりで、くっくっと喉を鳴らして笑っている。
「しょうがねぇなぁ」
 結局、土方の方がこちらへ歩み寄ってきた。慌てて逃げようとした総司の手を掴み、ぎゅっと握りしめる。
「ほら、来いって」
「え? え……何でっ?」
「何でもいいから」
 見上げれば、土方の黒い瞳はきらきらと悪戯っぽい光をうかべている。まるで、何か悪巧みを思いついた男の子のような顔つきだ。
 これはやばいかもー!と思ったが、たくさんの人前でいつもどおり暴れる訳にもいかず、結局、ずるずると総司はスタジオの中央へ引き出されてしまった。
 ライトが少し眩しい。
 あちこちから「わぁ、可愛いー!」という声があがっていたが、とても本当とは思えず、総司は土方の背に隠れてしまった。
 それを不思議そうに彼がふり返る。
「? どうしたんだ」
「だって……こんな格好だし」
「あぁ」
 土方は総司を見つめ、目を僅かに細めた。
「すげぇ可愛い……よく似合ってるよ」
「え?」
 目を見開いた総司の肩に手をおき、土方はかるく身をかがめた。耳もとに唇を寄せ、甘やかな声で低く囁きかける。
「本当の妖精みたいに、綺麗だ……」
「……土方…さん……」
 どきりとした。
 トーンを落とした彼の声はまるで情事の時のもののようで、躯中がかぁっと熱く火照ってしまう。
 俯いた総司に、土方は微笑みかけた。それから、両手をとって正面を向かせる。
「小島さん、いいですよね?」
 いきなりの問いかけに総司は目を瞬かせたが、小島は「準備OK!」と返事を返した。それに、土方は満足げに笑いながら、総司の細い腰に腕をまわして抱きよせてくる。
「な、何……っ?」
「ん、撮影だけど」
「撮影って……え? え?」
 土方は小首をかしげ、総司を見下ろした。
「おまえ、俺のブロマイド写真が欲しかったんだろ?」
「そ、そうですけど」
「だから、撮影」
「って……これじゃ、ぼくまで映っちゃいますよ」
「映っていいのさ」
「は!?」
 総司は驚き、彼を見上げた。
 それに、土方はにっこりと綺麗な顔で笑ってみせた。
「おまえと一緒でも、ブロマイド写真はブロマイド写真だろ? 俺の写真だろ? だから、万事OKって訳だ」
「万事OKって……何それ!?」
「ほら、笑って笑って。カメラこっち向いてるんだぜ」
「ちょっ……こんなの聞いてない! っていうか、土方さん、ぼくのこと騙したんだー!」
 ようやく事の顛末に気が付いた総司は、きゃんきゃん叫び始めた。
「メイクさせて服着替えさせて、挙げ句に撮影なんて……!」
「いいだろうが。おまえは俺の写真が手に入り、俺は可愛いおまえと写真が撮れる。メイク係の小雪も、小島さんも喜ぶ。皆うまくおさまって、めでたしめでたしじゃないか」
「どこがですかっ」
「そんな怒ったら可愛い顔が台無しだろうが。あっ、ほら、カメラ向いてるし、もうシャッター切られてるぞ」
「え……えぇっ!?」
 悲しいかな。
 写真を撮られていると云われれば、反射的に笑顔になってしまうのは人間の性なのだ。
 総司は思わずカメラにむかってにっこり笑ってしまい、すぐはっと我に返ったのだが、時すでに遅しなのだった。
 後はもう、さすが元売れっ子モデルの彼、リードしてゆく手管も巧みで鮮やかで。
 総司は土方と抱きあったり頬にキスされたりしながら、恋人同士のとびきり甘いツーショット写真を、それはそれは幸せそうな笑顔で、たくさん撮られるはめになってしまったのだった……。








「……何かが違う」
 帰りの車の中、総司は呟いた。
 あれよあれよという間に撮影され、メイクを落として服を着替えて。
 はっと我に返ってみれば、彼の車の中だ。
 隣で車を運転している土方が、「何が?」と聞き返した。それに、きいぃぃっと目をつりあげる。
「絶対、違うのー!」
「だから、何が」
「だって……だって! ぼく、土方さんのブロマイド写真が欲しかったんだものっ」
「だから、あれもそうだろうが。二人でたくさん撮ってもらって、おまえも楽しかっただろ? 後半、おまえの方がノリまくってたじゃねぇか」
「そ、それは……そうかもしれないけど……」


 そのあたりを突っ込まれると、返す言葉もない。
 だが、土方の手管にころっと騙されたというか、幻惑されてしまったのだ。
 柔らかく抱きよせられ、皆には聞こえないよう耳もとで「……綺麗だ」なんて甘く低い声で囁かれて。
 挙げ句、首筋にちゅっとキスまで落とされて。
 あれでクラクラ来ない人が、この世の中にいるの?


「俺はさ」
 土方はハンドルを穏やかな手つきで操りながら、云った。
「どうせ撮るなら、おまえとの写真を撮ってもらいたかったんだよ」
「ほくとの写真を? どうして?」
 そう聞いてから、あぁそうかと総司は思い至った。
 あちこち出かけたりして写真を撮る事は撮っているが、二人での写真はとても少ないのだ。男女のカップルでない事から、さすがに頼みにくく、どうしても一人ずつの写真が多くなってしまっている。
「小島さんに頼んだら、すぐ手配してくれたぜ」
「え……えぇっ、じゃあ小島さんもグルだったの!?」
「もちろん。あの衣装も事前に用意して貰っていたんだ。ま、他にも色々揃えてあったし、おまえならどれを着ても可愛いかったと思うけどさ」
「……」
 もはや、言葉もない。
 唖然呆然としている間に、土方は車を公園の一角に停めた。
 いつのまにやら日も沈み、辺りは薄暗い。
「な…に?」
 突然の行為に怯えた瞳で見上げた総司に、土方はにっこり笑いかけた。
「ここでしようぜ」
「……は?」
「だから、車の中で久しぶりにしようって。ホテルとっても良かったんだが、とてもそこまで待てねぇよ」
「な、何云ってるんですかっ!」
 思わず叫んでしまった総司に、土方は手をのばした。慌てて身を引いた処に、カシャンッと音が鳴る。
 はっとして見れば、シートベルトを外される処だった。次の瞬間、ふわっと躯が浮いたかと思うと、彼の膝上に抱きあげられてしまっている。
「ちょっ……やだ、土方さん!」
「大丈夫、ここ滅多に人も来ねぇから。っていうか、他の車も皆そうだし」
「何でそういう事知ってるんですかっ」 
「さぁ、どうしてでしょう」
 くすくす笑いながら、土方は総司の白い首筋や頬にキスの雨を降らせてくる。
 総司は往生際悪くじたばた暴れながら、大きな瞳で彼を見上げた。
「な、何で、そんなにしたいモードになっちゃってるの?」
「撮影の時……さわりすぎた」
「え」
「おまえ、すげぇ可愛くて綺麗で、あちこちさわって抱きしめたりキスしたりしてたら、どんどんその気になっちまったんだよ。しかも、おまえ……目潤ませて、俺のこと見上げてきたりするから」
「あ、あれは、土方さんが……っ」
 云いかけ、総司は口ごもってしまった。それに、土方が問いかける。
「俺が? 何?」
「……土方さんが…すごく格好よくて、どきどきして……」
「総司……」
「か、躯中が熱くて火照っちゃって……」
「つまり、おまえもその気になってくれてたんだ」
「……っ」
 恥ずかしそうに彼の肩口へ顔をうずめてしまった総司に、土方は嬉しそうに笑った。耳朶まで真っ赤になっているのが、もう可愛くて可愛くてたまらない。
「すげぇ可愛い……総司……」
「土方さん……」
 そっと彼の名を囁き返した総司の唇が、柔らかく塞がれた。
 甘い甘いキスをあたえられる。
 身も心もとろけてしまいそうな、キス。
 何度も口づけあいながら、互いの躯を求めあってゆく。男の膝上で可愛がられるなんて、あまりしない体位なので、総司は頬をピンク色に染め上げた。
 彼が指を動かすたびに鳴る、くちゅっくちゅっという濡れた音も、車内だからなのかいつもより耳に届いてしまい、尚更羞恥心を煽る。
 総司はふるふると首をふり、啜り泣いた。
「……ぃ、や…だ、ぁ…っ」
「いや? そうじゃねぇだろ?」
 くすくす笑いながら、土方はゆっくりと挿しこんだ指を動かした。
「おまえのココ……もう俺を欲しがってるぜ?」
「ちが…っやぁ…んっ、ぁ…っ」
 喘ぎながら彼を見上げると、黒いシャツが視界に入った。とたん、どきりとする。
 それを纏っている土方はまるであの頃の彼のようで、少し怖かった。だが、一方で奇妙な高揚感もあって。


(……まるで、あの頃の土方さんに、優しく抱かれているみたい……)


 報われない恋だと泣いていたあの頃。
 でも、それでも、この人が好きで好きでたまらなくて───
 あの頃の辛さと、今の幸せが深くとけあい、総司は男への愛しさがより強まるのを覚えた。思わず細い両腕で彼の首をかき抱き、縋りついてしまう。
 それを柔らかく抱きとめてやりながら、土方は優しく総司の躯を愛撫した。奥の方を探ってやると、甘い掠れた声をあがる。
「っ…ぁ、ぁあんっ…ッ」
「欲しいんだろ? 俺が」
「ぁーッ! ぁ…は、ふっ…ぅっ」
 総司は頬を上気させ、またふるりと首をふった。だが、拒絶なのか肯定なのか自分でもよくわからない。
 躯中が熱くて熱くてたまらなかった。無意識のうちに事を求め、細い腰をくねらせてしまう。
 それが男をより煽ったようで、土方の黒い瞳が獣めいた欲望の光を宿した。
 自分の膝上で、可愛い恋人がそんなセクシャルな仕草を見せているのだ。男としてたまらないだろう。
 それこそ獣そのものように、ぺろりと舌なめずりした。
「あんまり煽るなって」
「ぁ…ぁあ…や、だ、も…お願、ぃ…っ」
「今やるよ、ほら……」
 土方は総司の細い腰を両掌で鷲掴み、かるく持ち上げた。己の猛りの切っ先を蕾に真下からあてがうと、そのままゆっくり腰を下ろさせてゆく。
「ぁッ! ぁっ、あ…ぁッ…っ」
 総司は泣き声をあげ、のけぞった。彼の肩にきつくしがみついてくる。
 土方は無理をさせないよう、静かに腰を下ろさせた。
 さすがに何度も躯を重ねているだけあって、入り口の方は柔らかくほぐれているのだが、少し深く入れるとやはりまだ固い。
 だが、そこを割り広げるように貫いてやれば、後は快楽に喘ぎ始める事をわかっているだけに、土方も手を緩めなかった。
「……息を吐け、総司」
「ぁっ、は…ぁっ、や、やぁ…あ──ッ!」
 甘く掠れた悲鳴が車内に響いた。半ば強引に腰を下ろさせられたのだ。
 ようやく奥まで貫いた土方は、いつもながらの甘い締め付けに思わず吐息をもらす。
 一度甘く口づけてから細い腰を抱え直すと、ゆるやかに抽挿を始めた。とたん、総司が声をあげて仰け反る。
「は…ぁあっ、ぁ…や…ぁあッ」
「いやじゃない。いいだろ?」
「んっ、ぅぁっ…ぁあっ、ぁあん、んッ」
 真下から穿たれ、グリグリと感じる箇所を男の猛りで擦りあげられた。そのたびに、じわーっと甘い痺れが腰奥に広がってゆく。
 それがたまらず総司は必死になって、男の逞しい肩に縋りついた。細い腕をまわし、突き上げられるたび甘い悲鳴をあげる。
「ぁあっ…やっ、ソコ…いっやぁっ、ぁあッ」
「嫌って泣きながら、おまえのココ……すげぇ締め付けだぜ?」
 くっくっと喉を鳴らして笑いながら、土方は少し掠れた声で耳もとに囁きかけた。
「ほら、こうして突き上げてやると……たまんねぇ、熱くて……とけちまいそうだ……」
「ぁあっ…はぁっ、ぁあっ、やあッ…ゃ…壊れちゃ……っ」
 躯の芯がそれこそとけてしまいそうだった。
 熱くて熱くて、おかしくなりそうだ。
 より強くしがみつくと、土方が総司の項を掴んで引き起こした。そのまま深く唇を重ねてくる。
「んっ…んぅっ、ぃぅーッ……っ!」
 咥内も蹂躙されながら、総司は激しく揺さぶられた。土方も限界が近いのか、容赦ない動きになってくる。
 細い腰を掴まれ、何度も何度も荒々しく上下させられた。
 その度に、総司は悲鳴をあげて仰け反る。
「ッぃ、ぁあッっ…ゃっ、も…っ、許し…っ…ッ!」
「まだだ…まだ、総司…一緒に……っ」
「っ…ぁっ、ぃ…くっ、ぃっちゃ…ぁああ──ッ…!」
 蕾の最奥に男の楔が一際激しく打ち込まれた瞬間、総司のものから蜜がほとばしった。それと同時に、痺れきった腰奥へ男の熱が叩きつけられる。
「ぁあっ…ぁあっ、は…ふっ、く…ぅ、ぅ……っ」
 吐精しながらも何度も突き上げられ、総司は強烈な快感美に泣きじゃくった。
 躯がとろけてとろけて、どうにかなってしまいそうだ。
 もっともっと欲しいとさえ思ってしまい、つづきをねだるように総司は男の逞しい躯にしがみついた。無意識のうちに、まだ身の内にある男のものを、きゅうっと締め上げてしまう。
「……っ」 
 心地よい締めつけに、土方は思わず瞼を閉ざした。
 キスのせいで濡れた唇から吐息をもらす男の表情のセクシャルさに、夢心地の総司はうっとり見惚れる。
 その視線に気づいたのか、土方が切れの長い目を開いた。共犯者めいた、艶っぽい笑みをうかべてみせる。
 それに、総司はきつく抱きついた。
「土方…さん、好き……」
「あぁ、俺も。総司、好きだ……愛してるよ」
「ぼくも……ぁ、ん…っ」
「……総司……」


 愛しあう蜜月の恋人たちが、再び互いの熱を求めあい始めるのは、そのすぐ後の事だった……。








 さて、例の写真なのであるが。
 たくさんの写真は無事現像され、その幾つかは二人の愛の巣にしっかり飾られた。
 だが、これで終わるはずがない。というか、ここからが総司の本音というか目的だったのだ。
 総司はパソコンで土方だけの写真をせっせと編集し、シールプリントアウトした。その挙げ句、自分のパスケースやら筆箱に、その「土方さんブロマイド写真シール♪」をぺったぺた貼りまくったのである。
 その事を知った土方が「冗談じゃねぇよ!」と、自分の写真シールを速攻でべりべりべりーっと剥がしてしまったから、さぁ大変。
 総司との間で、てんやわんやの大げんかになるのだが。


 それは、また別のお話ということで……。













[あとがき]
 天使の格好を総司にさせても良かったのですが、それじゃ「Honey Love」になってしまうので、妖精にしました。ティンカーベルみたいな感じ?
 ホワイトデーに前後編一気にupしましたが、少しでも皆様がお楽しみ下さったら、嬉しいです。ラストまでお読み下さり、ありがとうございました。