青い青い空が広がっていた。
見事なほどの真夏の空だ。遠く入道雲がもくもくわきでているのが見えた。
「また、いい天気だね〜」
永倉がガラス越しに空を見ながら、云った。
それに、残りの三人も頷いた。
時は昼の12時20分。場所は、ご存知、警視庁の食堂だ。
昼時なので、当然ながらそこはごった返していた。
「こういう日は仕事なんか放り出して、海にでもざぶーんっと飛び込んでしまいたくなるねぇ」
そう云った永倉に、斉藤がぼそっと答えた。
先ほどから、嫌いなピーマンだけを箸で器用により分けている。
「崖から飛び込んだら、溺死体ですよ。検死は山崎にでも頼みますか」
「誰が崖から飛び込むつったんだよ! 俺が行きたいのは海水浴だっ」
「海辺から飛び込むのは。いくら器用な永倉さんでも不可能でしょう」
「おまえ、機嫌が悪いんだなッ。今日のランチにピーマン入ってたからだろ?」
「ピーマンと海水浴に、何の関係があるんです!」
「まぁまぁ、お二人とも落ち着いて」
周囲にすればバカバカしい口喧嘩をしている永倉と斉藤、それを必死になだめる島田、その傍で黙々と食事をつづける土方。それは、いつもの見慣れた光景だった。
少なくとも、土方の携帯電話が音をたてるまでは。
土方は電子音を鳴らしているそれをスーツのポケットから取り出すと、パチンと開いた。表示を見たとたん、その黒い瞳が柔らかい色をうかべたので、相手がすぐ誰だか知れてしまう。
通話を繋げた瞬間、澄んだ声が耳に飛び込んできた。
『……あ、土方さん?』
「あぁ」
土方はちらりとまだわぁわぁ云ってる三人を確かめ、ちょっとだけ背を向けた状態で答えた。
『あのね、お仕事中にごめんなさい。今、大丈夫?』
「昼飯中だ」
『あ……そうですよね。ごめんなさい』
「いい。で、何だ?」
『その……あのね、土方さん……』
総司の声のトーンが僅かに下がった。それに思わず眉を顰めた。
「……総司?」
『うん。あのね、ぼくの我儘だと思うんだけど……』
「? いったい何だ」
『今日なんだけど、あの……早く帰ってきてくれません?』
「え?」
土方はかるく目を見開いた。
我儘だとかというから、もっと凄い事を頼まれると思っていたのだ。
「今日? そりゃ、何とか出来ないこともねぇが……」
『ね、お願い。少しでも早く帰ってきて欲しいんです。……だめ?』
電話の向こう、可愛らしく小首をかしげている総司が、目にうかぶようだった。
もちろん、土方は即答した。
「わかった。できるだけ早く帰る」
『やった! 嬉しいです。じゃあ、待ってますね。今夜のメニューは夏野菜カレーですから』
「おい、総司、いったい……」
『早く帰ってきて下さいね』
かちゃん。
不審いっぱいの土方に構わず、さっさと電話は切られてしまった。
それをしばらくの間、土方はじいーっと見つめていたが、やがて、深くため息をついた。肩をすくめ、携帯電話を閉じたところで、背後からの視線に気がついた。
「……?」
ふり返ると、斉藤、永倉、島田がいつのまにか無言で、こちらの様子を伺っていた。
思わず眉を顰めてしまう。
「何だ」
「ん、いやさ。総司くんからかい?」
にまにま笑いながら、永倉が訊ねた。それに仏頂面で頷き、土方は再びスプーンをとると食事をつづけた。
それでも、永倉は言葉をつづけた。
「いいねぇ、新婚さんは。帰るコールって奴だね」
「違いますよ、永倉さん。帰ってきてねコールでしょう」
どうやら、耳ダンボ状態で全部聞かれていたらしい。
斉藤がにやにや笑った。
「きっと、今日の晩飯、御馳走なんですよ」
「いや、それは違うだろう」
「メニュー教えられたんですか」
「あぁ、カレーだと云ってた」
「…………」
三人は同時に沈黙し、土方の手元へ視線を落とした。そこには、まっ白な皿に盛られたカレーライス……。
「……ま、人生そういう事もありますよ」
「そうそう、毎食カレーってのも乙なものさ」
「夏はカレーといいますし」
慌てて慰めるように云った三人に、土方は僅かに小首をかしげた。心底、不思議そうな顔で彼らを見回した。
「俺は総司がつくった食事なら何でも食えるし、カレーだってすげぇ旨いんだぞ。あいつの料理は、世界一だ」
何のてらいもなく、あっさり云いきった男に、三人は沈黙した。
じーっと見ていたが、やがて、斉藤がガタンッと音をたてて立ち上がった。
「……御馳走さま」
ぼそりと低い声で云うと、トレイを手にさっさと歩み去っていってしまった。その背に怒りと嫉妬の炎がめらめら燃えているのは、たぶん気のせいではないだろう。島田はまだ目が点になっていた。
それらを眺めた永倉は、目前で平然と食事をつづける男を見やり、呟いたのだった。
「春、だねぇ〜」(真夏ですが)
その頃、総司は土方の官舎にいた。
すったもんだの末に同居し、一度別れると飛び出し迄したものの、何とか元の鞘におさまった二人。
もはや、そこは、らぶらぶカップルの愛の巣と化していた。
記憶喪失の時は隠しまくっていたものが全部出されているので、どこから見ても新婚家庭そのものだ。
二人仲良く映ってる写真はもちろん、お揃いの食器類、お揃いの歯ブラシ、お揃いのパジャマ、果てはお揃いのハート型クッション(当然、総司が購入してきたもので、土方は黒、総司は赤だった)まで。
そのクッションの一つを抱きしめ、総司はじいっとテレビと睨めっこしていた。
先ほどから、同じような番組ばかりを見ている。だが、何度見ても同じことだった。
「あーあ、どうしよう」
総司は深いため息をつくと、ぽんっとクッションを放り出した。そのまま窓際に歩み寄り、外の様子を伺った。
真っ青な夏の空が広がっている。
それを見上げ、ぶつぶつ呟いた。
「ほんとかな? でも、あたらない時もあるし、そこまで行かなきゃいいんだけど……うーん……」
あたらなければ、それはそれで困るのだ。
早く帰ってきて欲しいと、わざわざ土方におねだりしてしまったのだから。絶対、帰宅後、その理由を追及されるのは目に見えていた。
だが、それでも、どうしても早く帰ってきて欲しかったのだ。
あれが真実であるなら。
総司はまたリビングの真ん中に戻ると、クッションをぎゅっと抱え直した。
そして、何かを堪えるように、きつく目を閉じたのだった。
「!」
土方は驚き、ふり返った。
電車の窓ガラス越しに、もの凄い音が聞こえてきたのだ。車内の他の客も皆、びっくりしたように窓外を見ている。
まだ夕方の6時だった。が、昼間の電話時の総司の様子に不安を覚えた土方は、無理やり仕事を切り上げ帰宅の途についたのだ。あと一駅だというところで、この騒ぎだった。
「うわー、雨だ」
「やだ、それより物凄い雷の音」
「天気予報どおりよねぇ」
周りの客がざわざわと話す声が聞こえた。
もの凄い雷鳴が響くたび、きゃあっという悲鳴も聞こえる。さすがに土方も思わず息を呑むほどの轟音だった。
黒く重い雲がたちこめ、まだ夏の6時だというのに外は真っ暗だ。雨はさほど降ってないのだが、雷の方が凄かった。闇に稲妻がばりばりっと大きな音をたてて走った。
ようやく駅についた土方は改札口を出ると、短く舌打ちした。
「ったく、ついてねぇな」
が、その瞬間だった。
突然、天が裂けたかと思うような雷鳴が辺りに響き渡った。地面が揺れるほどの衝撃だ。
息を呑んだとたん、ぱっと周囲の電気がいっせいに消えてしまった。どこかに雷が落ちたのだろう。停電だ。
それを見回した土方は、次の瞬間、はっとした。
「総司!」
慌てて駅を飛び出し、走り出した。
小雨だったのでもう傘もささぬまま、闇に沈んだ街を駆け抜けた。ばしゃばしゃと足元で水が跳ねたが、そんなこと構ってられなかった。
ある事を思い出したのだ。
昔、あった出来事を。
昼間の電話はそういう意味だったのか。あれだけでわかるはずがないのだが、それでも、察してやることが出来なかった自分に腹ただしさを覚えた。
「……っ」
ずぶ濡れになりながら、土方はようやく官舎に辿りついた。むろん、まだ停電は続いている。官舎の入り口も何もかも真っ暗だった。
エレベーターは使えないので、仕方なく8階まで駆け上がった。駅から走ってきたので少々きついが、これぐらいでへたばるような鍛え方はしていない。
だが、さすがに汗だくになりながら、廊下を走り抜けた。自分の部屋へ辿りつくと、慌しく鍵を開けた。
「総司ッ!」
ドアを開いたそこは、もちろん真っ暗だ。が、土方も目が馴れてきていたし、自分の部屋だ。何にぶつかる事もなく、リビングまで進んだ。
「総司! 総司……どこだ!」
大声で叫んだが、答えは返らない。
手探りで小さな電池式のスタンドライトをつけた。仄かにだが、淡い光が灯る。とたん、小さな小さな声が聞こえた。
「……土方…さん……」
はっとしてふり返ると、部屋の片隅に彼が捜し求める恋人はいた。
まるで、あの初めて告白しあった時のように、窓際のカーテンに躯をくるみこみ坐りこんでいる。不安に揺れる声が、彼の名をもう一度呼んだ。
「土方さん……っ」
今にも泣きそうな声に、土方はすぐさま駆け寄った。
跪き、カーテンごとその細い躯を引き寄せた。両腕で抱きしめ、柔らかな髪に顔をうずめた。
「すまねぇ、遅くなって悪かった」
「……土方…さん……っ」
「怖かったな。けど、もう大丈夫だ。俺がいるから、総司……大丈夫だ」
何度も何度もあやすように優しい声で囁きかけ、土方は総司の背を掌で撫でてやった。
その時、また響き渡った雷鳴に、少年の躯がびくんっと震えた。
「い…や……っ」
掠れた声が唇からもれ、土方の胸もとにぎゅっとしがみついた。が、不意に激しく身を仰け反らせると、泣き叫んだ。
「いや! いやだ、いやあっ!」
「総司っ!」
「やだやだっ、怖いっ! 怖いよっ、怖い……っ!」
突然、土方は総司の項を掴んで引き寄せた。
そのまま噛みつくように口づけ、無理やり舌をいれて唇の中を蹂躙してやる。甘い甘い舌をとらえ、吸い上げた。
総司の目が大きく見開かれた。
「や…んんっ、ん!」
よりいっそう腕の中の少年が暴れ狂ったが、それでも構わず唇を深く重ねた。
あまりに激しく深いキスゆえにか、男の舌は一度噛まれていた。が、それにも一瞬眉を顰めただけで、土方は総司を離そうとしなかった。
「ぅ…んっ、ぁ、ん──」
男の腕の中で抗っていた少年の躯が、次第に力を失ってゆく。
それをゆっくりとフローリングの上に横たえた。停電のため、クーラーは切れてしまっているが、まだひんやりした感触に総司の体がびくりと震えた。
それを宥めるように、またキスを落とした。
総司が着ていたシャツとジーンズを脱がせ、素裸にしてゆく。こんな時にとか、ここじゃやだ……と、小さくその桜色の唇が呟いたが、土方は聞こえないふりをした。
「ぁ、ぁ…ぁあ、ん……っ」
外では稲妻が真っ暗な空を裂き、雷鳴がまた凄まじい音をたてて街全体を震わせた。
とたん、総司がびくりと震え、小さく悲鳴をあげた。また思い出したように暴れ出す。
それに土方は舌打ちし、総司の顎を掴んで仰向かせた。
深々と、その涙でいっぱいの瞳を覗き込んだ。
「……総司、俺を見ろ」
「土方…さん……っ」
「俺のことだけを考え、俺だけを見て、俺だけを感じていろ。他は全部シャットアウトしちまえ」
「そん…な、できない……っ」
「できる。いや、俺がそうさせてやる」
きっぱり云いきると、土方は総司の胸もとに顔をうずめた。片手で右の胸の飾りを弄りながら、左の胸の飾りを淫らに舐めあげた。ぴくんっと震えた尖りに小さく笑い、そのまま唇に含んだ。
小さな尖りを嬲るように舌で転がしてやった。
「ぁあ…ん、ぁんっ」
そこを弄られるのが弱い総司は、たちまち甘い吐息をもらした。尖りがぷっくり膨れるまで舐めてから、土方は顔をあげた。ピンク色にいやらしく濡れたそれを、満足げに眺めた。
「ほら……おまえのこれ、苺みたいだぜ」
「やだ、や……っ」
「もっともっと可愛がって、とろとろにしてやるよ。……他の事は何も考えられねぇようにな」
低い声で呟き、土方は両掌を白い肌にすべらせた。胸もとから腰の綺麗なラインを味わうように撫でおろしてゆく。
実際、総司の肌はきめ細かくなめらかで、そのすべすべした感触を味わうことはたまらなかった。生まれたてのベビーのような肌なのだ。
しみ一つない少年の白い肌に、土方はあちこち口づけた。そのたびに咲く薔薇色の花が艶かしい。
そっと男の手が総司の膝を掴んで押し広げた。まるで花のように、少年のしなやかな両足が外側へ向かって開く。
自分のものと比べるとかなり小さいそれを、土方は掌で優しく包み込んだ。何度か撫でてやってから、やがて、静かに唇に咥えこんだ。
「ああ……っ!」
総司が掠れた声をあげ、仰け反った。
ぴちゃぴちゃと淫らな音が鳴った。男の舌が、総司のものを裏側から先っぽまで丁寧に舐めあげてくる。
「ぁ、ぁあ…ん、ん…ふっ…ぅん……っ」
甘く喘ぎながら、総司は男の黒髪に指をさし入れた。しっとり濡れた黒髪が指さきに絡みつく。それを不思議に思いながらも、どんどん高まってくる快感に腰を揺らせた。
不意に、男の舌が鈴口に捻じこまれた。射精を促すように舌を動かされる。
総司は思わず腰を跳ね上がらせた。
「や…ぁあぁーっ…!」
とたん、目の前がまっ白になり達していた。喘ぐ総司の耳に、ごくりと飲む音が響き、羞恥心に真っ赤になった。何度もされた行為だが、やはり馴れる事ができない。
総司は潤んだ瞳で、口許を手の甲で拭いながら顔をあげた男を見上げた。
「……土方…さん……」
「気持ちよかったか?」
「ん、ん…でも……っ」
「まだもの足りねぇよな? そうだろ?」
悪戯っぽい瞳で小首をかしげながら訊ねられ、総司はまた頬をかぁっと紅潮させた。
恥ずかしい。だが、男の言葉は事実だった。もっともっと凄い快感を知ってるだけに、それが欲しくてたまらない。
だが、ふとある事に気づき、目を見開いた。
「土方さん……ずぶ濡れ……」
「なんだ、今まで気づいてなかったのか?」
苦笑しながら、土方は乱れた黒髪をうるさそうに指さきでかきあげた。
スーツのボトムはそれ程濡れていなかったが、脱ぎ捨てられた上着の方はぐしょ濡れだ。白いワイシャツも濡れて肌にはりついていた。
土方は固く締めたタイに指をさし込むと、シュッと音をたてて引き抜いた。次々と衣服を脱ぎ捨てていきながら、言葉をつづけた。
「そりゃまぁ、雨の中を駅から官舎まで傘もささず走れば、ずぶ濡れにもなるさ」
「え、それって……」
総司は思わず息を呑んだ。胸がどきどきした。
「それって……もしかして、ぼくのため……?」
おずおずと訊ねた総司に、土方はシャツの釦を外す手をとめた。ちょっと呆れたような顔で見下ろした。
「あたり前だろ? 他に何の理由があるって云うんだ」
「土方さん……」
「停電になったとたん、前のことを思い出してさ。けど……悪い、遅くなっちまって」
「ううん、そんな…謝らないで。土方さん、嬉しい……」
掠れた声で囁きながら、総司は細い両腕をさしのばした。それを、すべて脱ぎ捨てた土方が優しく抱き寄せた。素肌がふれあい、ぬくもりをつたえてゆく。
首筋に胸もとに甘いキスの雨を降らせながら、土方は片手を下肢にすべらせた。まだ固く窄まった蕾にふれ、そっと指さきで撫であげる。
「んん……っ」
小さく声をあげて身を捩った総司に微笑み、己の指を唾液で濡らすと、それを蕾にそっと挿し込んだ。傷つけないよう、慎重に奥へ進めてゆく。
「ぁ…ふ、んん…あ…っ」
くちゅりと蕾の奥で音が鳴ったとたん、総司が小さく息を呑んだ。感じやすいポイントに男の指さきがふれたのだ。それを確かめ、土方は何度もそこだけを指の腹で擦りあげ始めた。
「あ、あああ…や、あ……っ」
総司がいやいやと首をふった。が、その頬は薔薇色に紅潮し、たまらなく可愛らしい。
土方はくすっと笑い、その火照った頬にちゅっと口づけた。
「可愛い、総司……」
「や、あ…ん、あん…土方…さん……っ」
「気持ちいいんだろ? ほら、息を吐けよ。もう一本入れるからな」
二本の指を蕾の奥に突きたてられ、総司は掠れた悲鳴をあげた。たまらず腰がゆらゆら揺れてしまう。
蕾の中で男の指がうごめき、ぐるりと回された。それに甘く啜り泣き、身悶えた。一度達したはずの総司のものも、ひくひく震えながら勃ちあがっている。
それをちらりと一瞥し、土方は小さく笑った。
頃合いだろうと指をずるりと引き抜き、総司の膝裏に手をかけた。胸に押しつけグッと左右に押し広げる。
「あ……!」
濡れそぼった蕾に男の熱を感じ、総司は声をあげた。
それは先端が含まされたかと思うと、徐々に中へ挿し込まれてくる。凄い質量感と圧迫感に、思わず息がつまった。
掠れた悲鳴をあげ、男の腕に爪をたててしまう。
「ひっ…ぃっ! いッ…」
「総司、力を抜け」
「だっ…て…すごく…おっ…きい…っ…ひあッ……」
土方も興奮しているのか、いつもより大きく感じるのだ。それとも、総司の方がまだ緊張してるからだろうか。
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。
「い、やぁ…やっ、あ…ッ」
「……仕方ねぇな」
土方がちっと短く舌打ちするのが聞こえた。だが、今更やめられるはずもない。
いったいどうするのだろう?と思ったとたん、総司の両膝がぐっと男の腕に強く抱え込まれた。
次の瞬間、男の猛りが蕾を一気に貫いた。
「や…ぁあああーッ!」
悲鳴はリビングの闇に響きわたった。
思わず逃れようとしたが、男にしっかり下肢を抱え込まれているため全く動けない。それどころか、より引き寄せられ深く受け入れさせられた。
大粒の涙がぽろぽろ零れ落ちた。
「ぅ…くっ、く…土方さん…ひどい……っ」
「ごめん……」
土方は眉を顰めて謝り、総司の頬や首筋にキスを落とした。躯の強張りをとくように、胸から腹にかけてを掌で何度も撫でてくれる。
「もう我慢できなくて……けど、痛くはねぇだろ?」
「痛く…ないけど……でも……っ」
総司は拗ねきった表情で目をそらした。僅かに唇を尖らせている様が可愛い。
それに、また甘いキスを落とした。
外はまだ嵐だった。
雷はおさまったが、代わりに激しい雨が窓ガラスを叩いている。闇に雨音が鳴った。
月明かりさえない部屋の中だった。頼りになるのは、リビングに入る時に土方がつけた電池式の小さなスタンドライトだけだ。ぼうっと微かな光をあたりに投げかけている。
目に映るのは、薄闇に微かに浮かびあがるお互いだけ。
聞こえるのは、激しい雨音だけ。
まるで、この広く冷たい世界に、たった二人だけで残されたみたいだった。
腕の中、潤んだ瞳で見あげる少年が、誰よりも愛おしい……。
「俺もさ」
土方はなるべく息を整えながら、云った。
「ちょっと高ぶってるみたいだ。今までなかったシュチュエーションだしな」
「それは、ぼくに……欲情してるってこと?」
とんでもなく直接的な表現で訊ねてきた少年に、土方は思わず目を見開いた。が、すぐに、くっくっと喉を鳴らして笑い出した。
「欲情、ね。いや、ほんとだ。俺はすげぇおまえに欲情しちまってるよ」
「土方さん……」
「けど、総司」
土方は笑いをおさめると、総司の頬を両掌でそっと包みこんだ。見上げる瞳の睫毛に、頬に、桜色の唇に、甘い甘いキスをくり返しながら、囁いた。
「俺はいつでもおまえに欲情してるのさ。いつどんな時でも、おまえは俺を誘ってるからな」
「誘ってなんか……」
思わずふるふる首をふった総司に、土方は構わず言葉をつづけた。
「この指も、この瞳も、この唇も。みんな…俺を誘ってる……」
「…土方さん……」
「愛してるよ、総司……俺の可愛い総司……」
そっと唇を重ねた。何度も角度をかえて唇を重ね、舌をからめあう。
やがて、ゆっくりと躯を動かし始めた土方に、総司は甘くすすり泣いた。
「ぁ…ぁあっ、はぁあ…んんッ……ッ」
その声に拒絶がないのを見てとってから、土方は総司の両膝を強く抱え込んだ。緩やかにギリギリまで引き抜いたかと思うと、一気にずぶりと奥まで突き入れてくる。
「ぁああッ!」
総司が甲高い悲鳴をあげ、仰け反った。
それを見下ろしながら、激しく腰を動かした。逞しい猛りが柔らかな蕾に、短いストロークで乱暴に打ち込まれる。そのたびに、総司は悶え泣いた。
「ぁ、ぁあっ、あんっ、ぁああんっ」
絶え間なく、桜色の唇から嬌声がもれた。細い指さきがぎゅっと男の膝を縋るように掴んだ。
男の猛ったものが出入りするたび、ぐちゅっぐちゅっと卑猥な音が鳴った。それが耳について総司の羞恥心を煽り、よりいっそう甘い快感美へと導いてゆく。
「ぁあっ、んっ、や…ぁああんっ」
「いや? おまえのココはそう云ってねぇけどな」
激しく総司を責めたてながら、土方はくすっと笑った。また、ぐりっと最奥を己の猛りで乱暴に抉ってやる。
とたん、総司が「ひいッ」と悲鳴をあげた。
「すげぇ…俺のものを締め付けてくるぜ?」
「ひ…ぁあんっ、んっ、や、あんっ、あ──」
土方は総司の膝裏に手をかけて大きく押し広げると、蕾に深く猛りを埋め込んだまま、ゆっくりと腰を回し始めた。ぐちゅっぐちゅっと音をたてて、蜜の坩堝と化した蕾の奥が淫らに掻き回される。
総司は声も限りに泣きわめいた。
「や…ぁあんっ、ぁ…や、ぁあッ! も…だめぇっ」
「まだ全然たりてねぇよ。ほら……おまえも欲しいだろ?」
「やっ…やあッ、壊れ…壊れちゃっ…ひ…いィッ!」
不意に、鋭い悲鳴が部屋に響いた。
土方が突然、総司の躯を抱きおこしたかと思うと、そのまま己の剛直の上へ腰を落とさせたのだ。
自分の体重で男の逞しい猛りを根元までずぶずぶと咥えこんでしまい、総司は掠れた悲鳴をあげて泣いた。
男の肩にしがみつき、思いっきり爪をたててしまう。
「……つッ…!」
さすがに土方も顔を顰めた。
恐らく真っ赤な痕が残ってしまっているだろう。血の匂いまでした。
僅かに目を細めると、総司の顔を覗き込んだ。
快感に濡れて焦点のあわない瞳が、それでも己を見ていることを確かめ、ぺろりと獣のように舌なめずりしてみせた。
「痕残っちまったぜ? この落とし前どうつける気だよ」
「や…だっ、や…ごめん、なさい…っ」
「可愛い声で鳴いてみな? そうすれば許してやるぜ」
喉奥で低く笑い、土方は少年の華奢な躯を膝上に抱え直した。
細い腰を掴んで乱暴に突き上げ始めると、総司が甘い悲鳴をあげた。その仰け反った白い喉もとに喰らいつくように口づけてやる。
「ぁ、ぁあん、ふっ、んんっ…ぁああッ」
「総司……総司……すげぇ、可愛い……っ」
「ぁ、んっ、ぁあんっ! やぁあ…ひ、土方さん…ぁあッ!」
最奥を男の猛りで穿たれるたび、総司は甘い泣き声をたてて土方にしがみついてきた。柔らかな髪が涙に濡れた頬が、肩口にふれる。
それがもう可愛くて可愛くてたまらなかった。
愛しいからこそ、守ってやりたい。
世界中のすべてから守って、大事に大切に愛してやりたい。
だが、その一方で、いっそ壊れるほど抱いてしまいたかった。
むろん、そんな事を自分ができるはずがないとわかっているのだが……。
「総司……愛してる」
甘い掠れた声で耳もとに囁きかけてやると、腕の中、ぴくんっと総司の躯が震えた。薔薇色に頬を紅潮させ、快感に潤みきった瞳でうっとりと見上げてくる。
その桜色の濡れた唇が、可愛い告白を小さく返してくれるのを確かめてから、それを塞いだ。
唇を重ねながら、そのまま激しく快楽の果てへと追いつめてゆく。
喘ぎと甘い悲鳴。
男の荒い息づかいだけが、リビングに響いた。
総司は何度も押し寄せてくる熱に快楽に、泣きじゃくった。無我夢中で土方の肩にしがみつき、一緒に躯を揺らした。
鼓動を、息づかいを一つにして──
「や、ぁあっ、も…だめっ…一緒に…ッ、ぁああッ」
「…あぁ、総司……っ」
「ぃ…ぁあっ、ぁあッ! ひ、土方さん…っ!」
「……くっ……」
土方が低く呻いた瞬間、総司の腰奥に熱いものが一気に広がった。それを深く感じながら、総司も己のものを解放した。
──至福の瞬間。
愛しい男の腕がきつく抱きすくめた……。
「遅い晩飯になっちまったな」
皿やスプーンを並べながらそう云った土方に、総司はちょっと唇を尖らせた。
もう停電も終わり、きちんと復旧していた。明るいキッチンで二人は食事の用意をしている。
総司は大きな瞳で土方をかるく睨んだ。
「いったい、誰のせいだと思ってるんです」
「え? 俺のせいか?」
心底不思議そうな顔で、土方が聞き返した。
それに、総司は両手を腰にあて、ますます可愛い唇を尖らせた。
「あなたのせいじゃなくて、いったい誰のせいだと云うんです。いきなりあんな事、あんな場所でするから、もう掃除大変だったし、二人ともシャワー浴びないと駄目だったし、放り出してたせいでスーツ皺くちゃだし、それに、それに……っ」
「けどさ、おまえも歓んでたじゃねぇか」
土方がにやっと意地悪く笑ってみせた。
「二度目の時、もっともっとって泣いて可愛らしく腰ふって……」
「わぁわぁ、ストップ! そういう事は云わなくていいんですっ!」
総司は思わず顔を真っ赤にし、両手をふり回した。
ほんと、この人ってどこか羞恥心ってものが常識外れてる。
「もういいです! この話は終わりにして、食事にしましょう」
「あぁ、俺も腹へったよ」
にっこり綺麗な顔で笑い、土方は皿を手に炊飯器へ歩みよった。蓋をあけ、せっせと御飯を盛り始める。
それを見ながら、総司はため息をついた。
が、もうこれ以上追求するともめそうな気がしたので、サラダやポーチエッグを並べた。冷蔵庫からミネラルウォーターの瓶を取り出し、それをグラスに注ぐ。
二人、席につくと「頂きます」と手をあわせ、食事を始めた。
ちらりと見上げた時計はもう夜の10時過ぎだ。運動後のせいか、いつもより食欲がある気がした。
「やっぱり、総司の料理はうまいな」
土方はスプーンで綺麗にカレーライスをすくいながら、云ってくれた。
それに、ついつい顔が緩んでしまう。
「ありがとうございます。でも、ただのカレーですよ」
「いや、何を作ってもおまえの料理は一番うまいよ。このカレーだって、けっこう手がこんでるだろ?」
「んー、あのね、やっぱり玉ねぎを飴色になるまで炒めるのがコツなんですけど、後、スパイスとか色々……」
総司は一生懸命話した。
初めはカレーの作り方から、やがて、大学のことやバイト先の原田のカフェであった事などなど。
楽しそうに喋る総司の話を、土方はいちいち頷きながら、優しい瞳で聞いてくれた。
食後、二人で片付けや洗い物をすませると、ゆっくりくつろぐためリビングへ移った。新聞を広げて読む土方の肩にもたれかかり、総司は小さくあくびをした。
先ほどまでの熱い時間が嘘のような、静けさだった。外の嵐もやみ、今はもう月明かりが出ている。
「……あ、満月」
そう云った総司に、土方も顔をあげた。
紺色の空に、雨あがりだからか、見事なほど綺麗に澄んだ銀色の月が輝いていた。それを窓ガラス越しに見てるのも惜しくなり、二人は立ち上がった。
テラス戸をあげてベランダへ出ると、ふわっと風が髪を吹き乱してゆく。
あれだけ雨が降ったためだろう。意外と、外は涼しかった。
「ん……気持ちいい」
総司はベランダの手すりに凭れかかり、夜空を見上げた。それに並んで見上げながら、土方が頷いた。
「そうだな……気持ちいいな」
しばらくの間、二人は黙ったまま夜空を月を見上げていた。
静かな──だが、心地よい沈黙が落ちる。それを不意に破ったのは、土方だった。
「なぁ、総司……」
躊躇いがちにだが、土方は口火を切った。
手すりに置いた両手を組み合わせ、僅かに目を伏せた。
「前の時も気にはなっていたんだが……」
「え?」
「おまえ、どうして、あんなに雷や停電を怖がるんだ?」
「……」
総司の頬が強張った。ぎゅっと両手を握りしめる。
それを感じながら、土方はゆっくりと言葉をつづけた。
「今日、早く帰ってきてくれと云ったのも、予報か何か見たせいなんだろ? けど、いったいどうしてなんだ。雷だけならともかく……おまえは雷のせいで停電になると、パニックになる。その理由を教えてくれないか」
去年の事だったのだ。
二人で遊びにいった先、泊まったホテルで雷のため停電になった。夜ではなかったが、昼間でも嵐のために暗くなってしまい、その中でいきなり総司がパニックを起こしたのだ。
それに土方はむろん驚いたが、何とか必死に宥めて事なきをえた。
だが、その時から、土方は気にかけていたのだ。
もともと嵐や雷を嫌う総司だが、それはまだ常識的な範囲だった。だが、停電が重なると一気に状況は悪化してしまう。
その理由を知りたいとずっと思っていたのだ。
「……」
総司は長い睫毛を伏せ、きつく唇を噛みしめた。血が吹きでそうなほど強く噛んでいる。
その悲壮なまでの表情に、土方は胸が痛くなるのを覚えた。
「……わかった」
思わず手をのばし、総司の細い肩を抱いてやった。優しく髪を撫で、その額に口づけた。
「もう何も聞かねぇよ。だから……そんな顔するな」
「土方さん……」
「けど、これだけは約束してくれ」
土方はかるく身をかがめると、総司の大きな瞳を覗き込んだ。え?と見上げる少年を見下ろし、静かな声で云いきかせた。
「一人で絶対に苦しむな。どんなにみっともなくても恥ずかしくても、おまえの全部を俺に見せてくれ」
「……土方さん……」
総司の目が大きく見開かれた。
みるみる涙がもりあがってくる。それに微笑み、甘く口づけた。
「泣き虫、総司。俺の見てないとこで、一人で泣いたりするなよ。おまえが呼んだら、いつだって飛んで帰ってきて抱きしめてやるから」
「だって……それじゃ、警視庁クビになっちゃうよ」
「その時はその時さ。まぁ、それでも構わねぇしな」
くっくっと喉奥で笑いながら、土方は総司の細い躯をぎゅっと胸もとに抱きしめた。
耳もとで、驚くほど真剣な口調が囁きかけた。
「俺は、おまえだけが一番大切なんだ。おまえのためなら、他のどんな事だって捨て去ってやる」
「……土方さん……」
総司は目を閉じ、男の胸もとに頬を寄せた。
その広い背に手をまわすと抱きしめてくれる男の優しさが、ぬくもりが嬉しい。
また、涙がこぼれそうだった。
こんなにも、この人は愛してくれるのだ。
他の何でも捨てる──と断言してくれるほど。
それが嘘や偽りでなく、一点の曇りもない真実であることを、総司はよく知っていた。
彼はいつも真摯で誠実で、驚くぐらい真っ直ぐだから……。
だからこそ、もっと自分も強くなりたかった。己の中にある闇とは、自分しか戦えないのだ。
それを、総司は、土方自身が過去に苦しみながら、それでも見事なほど強く生きてゆく姿に教えられた。あの時、彼はちゃんと己の中にある闇と戦い、克服したのだから。
(……もっと強くならなきゃ……)
総司はぎゅっと目を閉じた。
(ぼくには、この人がいてくれるんだもの。土方さん、あなたが傍に……)
それから、目を開くと、顔をあげた。
どこか心配そうに見つめている土方を見上げ、にこっと笑ってみせた。
「そろそろ部屋に入りましょう。何だか、おいしいミルクティーとか飲みたくなっちゃいました」
「冷たい奴を?」
「うーん、でも、熱い方が夏バテしなくていいんですよ」
そう云った総司に、土方は軽く肩をすくめた。
「夏バテか。おまえも弱い体してるからな、気をつけろよ」
「はい」
こくりと頷いた総司に、不意に土方がにやっと笑った。その黒い瞳に悪戯っぽい光が浮かんだが、総司は気づいてない。
「あのさ、夏バテ防止にはきちんとした食事と、適度の運動がいいらしいぜ」
「ふうん。じゃあ、頑張らなくちゃ」
「あぁ、俺も協力してやるから」
「?」
きょとんとした顔で、総司は土方を見上げた。
「協力って、何を?」
「だから、食事はおまえに任せるとして、運動の方だよ」
「え、よく意味がわからないんですけど」
小首をかしげた総司に、土方は微笑んでみせた。
優しく両腕の中に少年の躯を囲うと、そっと覗き込んだ。
深く澄んだ綺麗な黒い瞳に見つめられ、総司は思わず息をつめてしまった。頬が紅潮し、胸がどきどきするのを感じる。
そんな総司の耳もとに唇を寄せ、土方は囁いた。
甘く低い声で──
「たくさん協力してやるよ……セックス」
「!!!!」
ぼんっと音が出そうなほど、総司の顔が真赤になった。慌てて男の胸に両腕をつっぱね、ぶんぶん激しく首をふった。
「なっ、何を云って……っ」
「だからさ、夏バテ防止の運動として協力してやるから。あぁ、そうだ。リビングでってのもいいけど、ここでなんかもいいな」
「こ、こここって、ここ……ベランダですよぉっ!?」
思わず裏返った声で叫んでしまった総司に、土方は平然と頷いた。
「見りゃわかるさ。でも、けっこう広いから可能だろ?」
「そういう問題じゃないんですけど!」
「あ、やっぱりデッキチェアとかあった方がやりやすいか? それともふかふかの人工芝? 今度、いい奴買いに行こうか」
土方はご機嫌に一人喋ると、不意に、また総司の顔を覗き込んだ。
そして。
もしも彼の職業がホストならご指名トップ間違いなしの、くらくらするほど魅力的な笑顔をうかべながら甘い声で訊ねてきた。
「な? おまえはどっちでするのがいいと思う?」
次の瞬間。
総司は両手を握りしめると、思いっきり叫んでいた。
「どっちも、すっぱりきっぱりお断りですッ!!」
まん丸満月がきれいな、ある夏の夜の出来事でございました……。
[あとがき]
総司のトラウマのお話ですが、ま、それだけじゃ暗いのでいろいろコメディタッチで書いてみました。一番楽しかったのは、二人の新婚家庭の様子を書いたとこかな。何でもお揃いの部屋の中って、新婚家庭らしくて本人たちは嬉しいけど、傍から見れば「けっ」でしょうね。斉藤さんなんかもう、めらめら怒りに燃えております。土方さん、無自覚でのろけるから〜(笑)。お褥シーンも書けたし、ちょっとだけお久しぶり「かくれんぼの恋」番外編でした。少しでも、皆様が楽しんで下されば嬉しいです♪
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