お祭りなのだから、当然なのだが。
 その夜はかなりの賑わいだった。夜店がずらりと並び、あちこちから歓声や笑い声が聞こえてくる。
 ぽんぽんっと夜空にあがる花火も美しく、お祭りは最高潮に盛り上がっていた。
 それはいい。
 それはいい!──のだが、如何せん、この状態は何とかならねぇのか?
「……土方さん?」
 きょとんとした顔で、総司は隣を歩く男を覗き込んだ。
 9才年上の恋人、現職刑事である、とってもとっても格好いい(と総司は思ってるし、実際そう)彼氏を。
「どうしたの? 怖い顔しちゃって」
「……別に」
「眉間に皺よってますよ」
「そうか」
「それに、どうしてこっち見ないの?」
「別に」
「もうっ、そればっかり! ねぇ、どうしちゃったんですか?」
 総司はぷうっと頬を可愛らしくふくらまし、土方の腕にぎゅっと抱きついてきた。
 夏場なので、当然、土方は半袖だ。いったん仕事場で着替えてから出たので、半袖のシャツにジーンズ姿だった。
 なので、その腕に肌に、総司の柔らかな髪がふわふわ触れる。
「ちょっ……よせって」
 慌てて土方は総司を引き離した。
 それに、総司はびっくりした顔になった。
 いつもと全然違うのだ。
 いつもなら、逆に抱き寄せてくれたりするのに、いったいどうしたんだろ?
 もしかして……もしかして。
「……ぼくのこと、嫌いになっちゃった?」
 思わず大きな瞳をうるうるさせてしまった総司に、土方は驚いた。
 大急ぎで総司の細い肩を抱き寄せてやった。
「ば、ばか! そんなことある訳ねぇだろっ」
「なら、どうしてぇ?」
「うっ……」
 その胸にすりすり抱きついてきた総司に、土方は固まった。
 周りは縁日だ。
 もちろん、カップルだらけなので誰も見咎めないのだが、それにしても、アレはまずいだろう。
 一般人ならともかく、自分は現職刑事で、その上、ここは本庁のすぐ近くだ。
 どこに人の目があるともわからなかった。
 土方は総司の華奢な躯を両腕で抱いてやりながら、はあっとため息をついた。
 問題は、総司の格好にあった。
 待ち合わせ場所で総司の姿を見た瞬間、土方の頭の中はまっ白になってしまったのだ。
 いや、正確に云うなら、桃色?
 それも、ちょーっとエロチックなピンク色だった。
「土方さぁーん!」
 満面の笑顔で駆け寄ってくる総司を、土方はそこに立ち尽くしたまま、まじまじと見つめてしまった。
 ──本日の総司のお召し物。
 上、淡いピンク色のタンクトップ。
 もちろん、細くて白い肩から腕が剥き出しで、時折、隙間からちらりと胸の尖りまで覗いちゃう、お色気たっぷり状態。しかも、背伸びやら腕をあげると、しっかりお臍まで見えたりして。
 下、白いショートパンツ。
 すらりとした白くて細い足がもちろん丸見えで、これまた白いソックスとスニーカーが何とも眩しかった。
 その場で押し倒さなかった自分を褒めてやりたい!
 が、その場でホテルへ強制連行しそうになったのは事実だった。
 もちろん、総司がにこにこ笑いながら「お祭り、楽しみにしてたんですぅ」と云ったとたん、ぷしゅう〜っと呆気なくその計画は消えてしまったのだが……。
 しかし、この格好の恋人と一緒にお祭りの中を歩く男の忍耐というものも、想像して頂きたい。
 シャワーを浴びてきたのか、石鹸のいい匂いがして。
 腕をからめられるたびに感じるすべすべした肌の感触。
 潤んだような瞳でちょっと小首をかしげ、「土方さん……?」と甘ったるい声で呼びかけてくる恋人。
 思わず手をのばしてキスどころか、それ以上の行為に及びそうになるたびに、ここが何処だか思い出し、忍耐の文字を念仏のように唱え続ける土方歳三、29才。
 まだまだ若いですね〜♪
 などと、斉藤あたりが見てればにやにや笑いそうだが、彼にすれば事は切実。
 もう既にお祭りどころじゃなく、一刻も早く帰ってあーんなことやこーんなことを、この可愛い恋人と致したいと思ってしまうのは、至極当然の事だろう。(頭の中はそれだけでいっぱい)
 だが、お祭りに来てまだ10分とたってないのだ。
 あんなにも楽しみにしていた総司を、むげに連れ帰る訳にもいかなかった。
(とにかく、忍耐だ。忍耐)
 土方は自分に言い聞かせた。
 耐えろ、俺。
 あと30分も我慢すれば何とかなるはずだ。
(とりあえず、総司をあまりひっつかせないでおこう)
 そう思い、土方は財布を取り出した。
 まだ不安そうな総司を見つめ、その手に千円札を握らせた。
「ごめん、悪かった」
「土方さん……」
「ちょっと仕事で疲れてたんだ。すまなかったな」
「そうだったんですか」
 総司はたちまち機嫌を直した。
 それどころか、心配そうに大きな瞳で土方を見上げてくる。
「大丈夫? 疲れてるのに、ごめんね……」
「いや、もう大丈夫だから。それより、これで何か好きなもの買ってこい」
「えっ、いいの?」
「あぁ、食べたいもの何でも好きに買えよ」
「うん! ありがとう、土方さん」
 にこにこと無邪気に笑い、総司はぐるりと周囲を見まわした。何を食べようかな〜とうきうきしながら、あれこれ目映りしている。
 それを眺めながら、土方はため息をついた。
 可愛いのはいいのだが、もちろん、自分の恋人がとびきり可愛いのは嬉しいことだし、時々自慢もしたくなる。
 だが、あんまり外で刺激的な格好をするのはやめて欲しいものだ。
 前にもクリスマスの時にバニー姿で現れた時には、ひっくり返りそうになったが、今回のもとんでもない。
 あれでよく無事に待ち合わせ場所まで来れたものだ。
 いや、鈍感な総司のことだから、つけ狙われてても気づかなかった可能性の方が高いだろうな。
 帰ったら、もう二度とこんな格好で外出しないよう、よーく躾けておかないと……
 そんなことをあれこれ考えてる土方のもとへ、総司が戻ってきた。さっそく何か買ったらしい。
「ありがとう! 土方さん」
 にこにこしながら、総司が云った。
「これ、すっごくおいしいでーす」
 そう云って、総司が食べてるのは。
 食べている──いや、ぺろりと舐めているのは……
「──」
 今度こそ、土方は絶句した。
 呆然としている彼の前で、総司はおいしそうにぺろりぺろりと舐めあげる。
 手にしてるもの。
 その名もチョコバナナ!
 所謂、チョコレートでコーティングされたバナナだが、いや、そんなことはどうでもよくて、問題はそこではなく───
「……」 
 両手でバーを握りしめて。
 つやつやピンク色の唇が、パクッと先っぽを咥えた。
 それから、んーっとおいしそうにしゃぶってから、今度は可愛いピンク色の舌でぺろぺろ下から上へ舐めて、舐めて──舐めて。
 ……チョコバナナを、舐め……て……
 ぶちっ。
 どこか遠いところで、理性の切れる音がした。
 そして。
 次の瞬間。
「──え? 何っ? 土方さん、ど、どうしの……っ?」
「帰るぞ」
「か、帰るって……いったい、何? 土方さんっ!?」
 びっくりした総司が叫んだが、男はふり返ることもしなかった。
 夜空には、ぽんぽんっと美しい花火。
 どこからともなく聞こえるお囃子。
 賑やかな縁日。
 夏の風物詩、お祭りの光景。
 その中を、もの凄い勢いで帰っていく土方と、訳がわからないまま連行される総司の姿があったのだった……。




 ……その夜以来、総司はチョコバナナが嫌いになったという。











 

[あとがき]
 ……また下らないものを書いてしまった。え? チョコバナナを舐めて何が悪いのって? そりゃ、皆様……ほほほほ。どういう行為を土方さんが連想したのか、言わずもがなでございましょう(笑)。こんな下らないお礼文で申し訳ありませんが、これへのメッセージも、またついでの時にでもお聞かせ下さると、とっても嬉しいです♪
 


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