……寒かった。
総司はぶるっと身震いすると、そのGジャンの襟をたてた。
春先だから大丈夫と思って薄着してきたが、今日はやけに冷えている。
もう少し厚着してこればよかったなぁと、深く後悔した。
噴水前で6時に。
そこで沢山の人が待ち合わせしていたが、総司のだい好きな彼はいつまでたっても現れてくれない。
たいがい先に来てる彼なのに、今日はもう三十分の遅刻だ。
何でだろ。
お仕事がとんでもなく忙しいのかな。何かあったのかな。
もしかして……まさか、事故?
そう考えた瞬間、思わずぶるっと身震いしてしまった。肌から感じる寒さじゃない。
あの時の──彼を失ったと思った時の寒さが冷たさが、躯の奥から総司を震えさせたのだ。
(……寒いよ)
そう思ってぎゅっと目を閉じた瞬間、駆け寄って来る足音が聞こえた。
突然、ふわっと躯がういたかと思うと、きつく息もとまるほど抱きしめられる。
「!」
びっくりして目を開くと、総司はほとんどつま先立ち状態で抱きしめられていた。視線をむけた先には、ちょっと怒ったような困ったような顔の彼。
「土方さん!」
「おまえ、バカか!」
いきなりそう罵られ、総司はぷうっと頬をふくらました。
遅れてきたのは彼なのに。待たされたのは自分なのに。
バカって何?
だが、そんな総司にも構わず、土方はめちゃくちゃ怒っているようだった。
「何だってこんなとこで突っ立ってるんだよ。せめて建物の中に入ればいいだろ? 躯冷え切ってるだろうが!」
「だって、ここで待てって言ったの……っ」
「俺が言ったのは、あっちのビルの中の噴水前だ! 俺がこんな寒い処でおまえを待たせる訳ねぇだろっ」
「え、じゃあ、土方さん……」
ストンと石畳の上に総司を下ろしながら、土方はため息をついた。
僅かに乱れた黒髪を片手でかきあげた。
「俺は6時前からあっちで待っていた。ったく、いつまでたっても来ねぇから、まさかと思ったら……」
「……ごめんなさい」
総司はしゅんとなってしまった。
ただでさえ忙しい彼とのデートなのに、自分の勘違いのせいで30分もロスしてしまったのだ。
ぐるぐる回る思考のまま俯いていると、不意に、その躯がふわっとあたたかい物で包みこまれた。
「……え?」
驚いて顔をあげると、総司は土方の黒いコートを羽織らされていた。
もちろん大きいのでだぼっとしているが、彼のぬくもりも残っていて、あたたかい。
土方は無言のまま、さっさと総司の腕を袖にとおして袖口を折り上げると、手をつなぎ、
「行くぞ」
と歩き出した。
それに、総司は言おうとした。
ごめんなさいとか、ありがとうとか。
コート、ぼくに貸しちゃったら、土方さんスーツだけで寒いよとか。
でも、彼のぬくもりの残るコートがとてもあたたかくて、心地よくて。
寒かった冷たかった心が、どんどんあたたかくなるのを感じたから。
信号待ちで立ち止まった時。
ぎゅっと彼の手を握りしめ、それだけを言った。
土方の腕に頭をこつんとあてながら、小さな声で。
「……だい好き」
すると、土方は総司をあの黒い瞳で見下ろした。そっと微笑みながら身をかがめると、
「俺も好きだ……」
優しい声で、そう──耳もとに囁いてくれた。
それを聞いた瞬間。
彼の優しい心のぬくもりを感じた瞬間。
もう寒くも冷たくも、みんな無くなって。
総司の心も体も、ずっとずっと中まで。
ほんわりと、甘く優しい熱だけにみたされたのだった……。
[あとがき]
たまには、ほんわか系。いつもいつもコメディな「らぶらぶDAYS」なので。これはまだ二人が同居する前、ちょうど3月頃のお話です。人のぬくもりが残ったコートって、とってもあたたかいですよね。それが好きな人のものなら尚更。ある意味、かなりらぶらぶなお話だったかもしれません。待ち合わせ場所で抱きしめちゃってるしねー(笑)。