「……何、これ」
総司はぐるりと部屋を見回したとたん、思わず絶句してしまった。
久しぶりに遊びにきた土方の部屋。
確かに特捜がたってもうめちゃくちゃ忙しかったと聞いてはいたが、でも、でも……!
(これはないでしょう !?)
思わず叫びたくなるような部屋の惨状だった。
まるで泥棒に入られたごとくの有様なのだ。
むろん、警察の官舎に泥棒に入るような命知らずはいないだろうから、これは部屋の主の仕業に決まっているのだが、それにしても。
「土方さん」
総司は憮然とした表情で、まだパジャマ姿のままソファに坐っている土方を呼んだ。
それに土方はうーんとのびをした。くしゃくしゃになった黒髪を指さきでかきあげ、仁王立ちになってる総司を見上げた。
「仕方ねぇだろ? もう一ヶ月近く休みなしで午前様か徹夜かだったんだ。片付ける暇なんざあるものか」
「偉そうに言うことですか! 今すぐお掃除しますから早く着替えてきて下さい」
「え? 出かけるんじゃなかったのか?」
「こんな状態で外出できると思ってるんですかっ? ほら、さっさと洗面所行く! 着替える!」
「……世話女房みてぇ」
ぼそりと呟いた土方の声に総司がきっと睨むと、「はいはい」と手をふりながら洗面所へ消えていった。
その後姿を見送り、ほっと安堵の息をついてさっさと片付け始めた。
放り出してあるスーツを拾いあつめてハンガーにかけ、ワイシャツとベッドのシーツ、布団、枕カバーを外して洗濯物として抱え込む。
新聞は新聞入れに、汚れたカップやグラスはキッチンに。開きっぱなしの引き出しを閉めて、それから──
(どうしてこうなのかなぁ? いつもあんなに身綺麗にしてる人なのに、お仕事忙しくなるともうめちゃくちゃ。面倒になるのか、一つのことにしか集中できないってのか。やっぱり、ぼくが早く一緒に住んだ方がいいのかな)
前々から誘われてることを考えながら、総司はてきぱきと動き回った。
掃除機をかけて、洗濯物を洗面所に運んでゆく。土方はもう着替えに行ったのか寝室の方みたいで、総司は洗濯機に洗濯物を入れるためフタをあけて──
「……もう」
いったいいつの?と言いたくなる衣服類が中に入ってたのだ。
幸いにして乾燥後だったのでカビてはなかったので、やれやれと取り出し、代わりに洗濯物を放り込んだ。
だが、乾いた衣類を抱えて部屋に戻り、畳んでからクローゼットに仕舞おうとした総司は、引き出しをあけた瞬間、固まってしまった。
「何、これ」
「? 何だ」
ちゃんと身支度を整えた土方が不審そうに覗き込んだ。
「何か、まずいのか」
「じゃなくて、いったい何なんです、これ」
「Tシャツだろ」
「えぇ。Tシャツですよ。でも、これ、、何でこんな綺麗に色分けグラデーションで並んでるんですっ」
びしっと指さした引き出しの中。
確かに沢山のTシャツがずらーっとグラデーションに並べられていた。まるでブティックの引き出しみたいだ。
土方は軽く小首をかしげた。
「いいじゃねぇか。わかりやすくていいだろ?」
「そうかもしれませんけど、でも! こんな事してる暇あったら、どうして部屋の中片付けないんですっ」
「……」
「あ、もしかして他の引き出しも? うわっ、やっぱり。何で引き出しの中ばっかり……」
「別に俺の自由じゃねぇか」
「一般常識的なお話をしてるんです」
「俺の常識はこうなんだよ。おまえんちみたいに外は綺麗だが、押入れ開けたらぐちゃぐちゃってのよりは余程いいだろうが」
肩をすくめながら言った土方に、総司はきっとなった。
思わず可愛い唇を尖らせた。
「あれはあれでいいんですっ。押入れの中で暮らしてるんじゃないんですから! いくら引き出しやクローゼットの中綺麗にしてても、キッチンやリビングが荒れ放題の人に言われたくありませんねっ」
「荒れ放題だと !? あれはあれでいいんだよっ」
「どこが! ぼくが片付けるまでぐちゃぐちゃなのにっ?」
「おまえん家だって、押入れ、俺がこの間整理してやるまで何がどこに入ってんだか、さっぱりわからなかったじゃねぇかっ」
「土方さん、いちいち細かすぎ! そんなんじゃもてないから、まるで口うるさい夫みたい」
「おまえこそ、口うるせぇ嫁さんみたいだろうが!」
「だ、だ、誰が嫁なんですっ」
「おまえ」
「嘘」
「本当」
そう土方が答えたとたん、総司の頬から首筋がかあっと真っ赤になってしまった。ちょっともじもじしながら、小さな声で言った。
「……それって、ちょっと嬉しいです」
「……」
土方はかるく目を見開いた。小さく苦笑すると、両腕をのばしてその華奢な体を抱きよせた。
いい匂いのする柔らかな髪に顔をうずめる。
「おまえ、それ反則」
「だってぇ……」
「ほんと可愛いすぎだ」
薔薇色に紅潮したなめらかな頬にちゅっと音をたててキスすると、土方は恋人を優しく抱きしめた。
それに総司はにっこり笑って、男の首に両腕を回しつま先だちになる。
「だい好き」
「俺もだ、愛してる」
さっきまでの喧嘩などみーんな綺麗さっぱり忘れ、いちゃつきまくって。
とうとうベッドにもつれるように倒れこんでしまった二人の遥か遠くで、洗濯機のブザーがピーピー鳴っていたけど、そんなものはあとあと。
やっぱり、好きな人とらぶらぶしてるのが一番幸せなんだから。
……ね?
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[あとがき]
あんたら勝手にやっとりと言いたくなるような、バカップルでございます。
ちなみに、土方さんの部屋の片付け方は我が妹、総司の部屋の片付け方は私です。妹の部屋もう足の踏み場もない状態で、そのくせ引き出しの靴下はグラデーションできれーに並んでるんです。皆様はどちらのタイプですか?>
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