「……え?」
 斉藤は思わず聞き返した。
 びっくりした顔で隣を歩く男をまじまじと見てしまう。
「本当ですか、それ」
「本当」
「どうするんですか、いったい」
「さぁ、どうするかな」
 ちょっと肩をすくめ、土方はネクタイを緩めた。官舎への道を斉藤と二人で歩いている。
 見上げると、彼の部屋は煌々と明かりが灯っているが、その中へ入れるかどうかわかったものではなかった。
 エントランスホールを抜けながら、斉藤はまた訊ねた。
「喧嘩して自分の家に入れて貰えないなんて、しゃれになりませんよ」
「チェーン壊そうか」
「一応、ここ官舎です。税金で建ってるんですよ」
「チェーンぐらいいいだろ。ま、けど……何とかなるさ」
「何とかならないと困るじゃありませんか。だいたい、今夜から特捜たつのに着替えどうするんです。また当分、泊まりですよ」
「だから、何とかなるって」
 土方はエレベーターのボタンを押すと、開いた扉の中にさっさと乗り込んだ。斉藤も同じ階に住んでいるので、同じ8階のボタンを押す。
「けど、総司がそこまで怒るなんて何したんです。浮気ですか」
「まさか、逆だよ」
「逆って、総司が!?」
「じゃなくて、愛情表現が強すぎたって奴」
「はあ?」
「つまり……ま、男ならわかるだろ?」
 土方が苦笑しながら意味不明の答えを返した時、ポーンと軽やかな音が鳴り、扉が開いた。それに斉藤はため息をつく。
 つまり、つまり……色々そういう事をしすぎて怒られたって訳だ。だが、それじゃ結局、ただの痴話喧嘩じゃないかと思ったが、斉藤は何も言わないことにした。廊下を歩きながらまた訊ねた。
「で、本当にどうするんです」
「だから、大丈夫だって」
「何がです」
「ちゃんと開けてくれるって。大丈夫だ」
「……その根拠不明の自信は、いったいどこからくるんです」
 不審感でいっぱいの斉藤に、土方はかるく肩をすくめただけだった。
 とうとう土方の部屋の扉の前まで到着すると、躊躇いもなくチャイムを押した。
 ピンポーンと鳴って、むこうで受話器が取られた瞬間、土方は総司が応答する間も与えず、凄い勢いで一気に話し出した。
 それも、とびきりのいい声で。
「総司、すまない。本当に悪かったと思っているんだ。おまえが嫌がることをしたこと、反省してる。けど、わかってくれ。あれもこれも全部、おまえが可愛いからなんだ。愛してるから、好きだから、あぁいうことをついしてしまうんだ。けど、おまえが嫌ならもう絶対にしない。俺はおまえを愛してるから、おまえのためなら何でもできるから……」
 そう、土方が言い終わった瞬間だった。ドアの向こうでばたばたばたと足音がして、どんどん近づいてきたと思うと金属音がして、突然、バターン!と扉が開けられた。
 と思う間もなく、総司が飛び出してくる。広げた土方の腕の中に飛び込み、その躯にしがみつくとわんわん泣き出した。
「ごめんなさい! 土方さん、意地はってごめんなさい!」
「総司……」
「ぼくも好きだから、愛してるから。ずっとずっと後悔してたの、本当は会いたかったの……!」
「総司、愛してるよ。おまえだけが好きだ」
「うん、ぼくもだい好き……!」
 警察の官舎の廊下である事も完全無視して、二人はきつく抱きあい甘いキスをかわした。互いの躯に手をまわして抱きあい、何度も口づけあっている。
「………」
 それを斉藤はしばらくの間、呆然と眺めていた。
 だが、やがてバカバカしくなって背をむけた。今夜から特捜がたち、本当に死ぬほど忙しくなるのだ。こんな所でバカップルのラブシーンを眺めているほど暇ではなかった。
 うんざりした顔で歩き出そうとした斉藤の後ろで、扉が閉まる音がした。ふり返ると、二人の姿はもうない。きっと今頃、扉の向こう側では濃厚なラブシーンの真っ最中なのだろう。
 呆れるような、ちょっと羨ましいような。
(……おれも恋人つくろうかな)
 ため息をつくと、斉藤は自分の部屋へてくてく歩いていったのだった。

 

 
 ……斉藤さん。
 ご愁傷さまでした。










 


[あとがき]
 ほんとに勝手にやってろのバカップルです。らぶらぶDAYSというタイトルでおわかりでしょう。ほほほ。もう少しお話が進んで、総司が土方さんの官舎に一緒に住むようになってからのお話。組織犯罪で特捜がたつのかとか、官舎に民間人も同居できるのかとか、そういう細かい追求はしちゃだめ。今回の被害者は斉藤さんでした。お気の毒に。


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