食事はなかなかおいしかった。
土方はちゃんとしたコースで頼もうと云ったのだが、総司はアラカルトを色々の方がいいとおねだりしたので、結局、テーブルの上はパーティのような賑やかさになった。
サーモンとクリームチーズのオードブルから、サイコロステーキ、ホワイトチョコのケーキまで綺麗に食べた総司に、土方は満足そうに微笑んだ。総司もそれににっこり微笑み返した。
目の前の優しくて格好いいだい好きな恋人、ガラス越しにきらきら光る綺麗な夜景、おいしかった御馳走。すごくすごく幸せだなぁと思った。
いろいろお喋りをしてから、総司は立ち上がった。お風呂に入りたいと思ったのだ。それに、土方が小さく笑った。
「一緒に入ろうな」
「え、だって……何で?」
「ラッピングはがして欲しいんだろ?」
「欲しいとかじゃなくて、その……っ」
「おいで」
土方は立ち上がると、総司の手をひいた。そのまま強引に歩き出した男に、総司はちょっと顔を赤らめつつ従った。
正直な話、バスルームでの蜜事は何度も経験しているが、けっこう総司もお気に入りなのだ。とろとろになるような優しい彼とのセックスは、総司の身も心も甘くとろかせる。
「わぁ、綺麗……!」
バスルームに入った総司は、目を丸くした。
まっ白なタイル。半月型の大きな純白のバスタブ。バスタブはコーナーにせり出したように造られ、大きな窓ガラスごとにきらきら夜景が美しく輝いていた。まるで映画のワンシーンのような光景に、総司は声を弾ませた。
「すごい、すごい綺麗ですね……!」
ところが、ふり返って見ると、土方は一度部屋に戻っていたらしい。よくわからないものを手に、バスルームに入ってきた。
「? お風呂でお酒を飲むんですか?」
そう訊ねた総司に、土方は小さく笑っただけだった。
バスタブより少し高いところに琥珀色の液体が入ったグラスを置くと、蛇口を捻ってお湯を注ぎ始めた。その上、何かのボトルの中身を、全部、バスタブの中にぶち撒けた。ふわっと白い泡がたち、注ぎ込まれる湯でどんどん泡だってゆく。
総司は目を丸くした。
「それ、あわあわお風呂?」
「おまえ、そういうのか?」
くすっと笑い、土方は総司の服に手をかけた。セーターから脱がしてやりながら、云った。
「今度は、俺がおまえに服を贈ってやりたいな」
「どんな服を?」
「おまえに似合う服」
「んー。でも、あんまり高いの買わないでね」
「高くてもいいのさ。男が恋人に服をプレゼントする時は下心があるんだから」
「下心? どんな?」
無邪気に問いかける総司に、土方はくすくす笑いながら耳もとに唇を寄せた。
「……脱がせたい」
「!」
「脱がせて、すべすべの肌舐めまわして、キスして、おまえの白い肌が綺麗なピンク色になるまで、うんと可愛がって……」
「も、もういいです」
総司は顔を真っ赤にして、男の腕の中、身を捩った。悪戯っぽい瞳で土方が覗きこんでくる。それをかるく睨んでみせた。
ほんとに、この人はもう。
こんな綺麗な顔で、こんないい声で、とんでもないことを云ってのけるんだから。
総司は全部脱がされてバスタブに入ろうとしたが、ふと気がついた。まだ黒猫耳をつけたたままだったのだ。
(うわー、こんなのしてたら、この人またヒートアップしちゃう)
慌ててとろうとしたが、案の定、素早く土方の手がそれをさえぎった。意地悪く笑った。
「だめだ」
「えっ、だって……濡れちゃう」
「また買ってやるさ。それに外したら、お仕置きにならない」
「お、お仕置きって……っ」
総司は思わず後ずさってしまった。が、そんな総司の前でさっさと自分も衣服を脱ぎ捨てると、土方は総司の躯をひょいっと両腕に抱き上げた。慌ててしがみつくのに笑い、そっとバスタブに満たした湯の中に身を沈めた。
ふわふわした白い泡が二人の体を包みこんだ。それに甘いいい香りもする。
「……気持ちいいー」
思わず、総司はうっとり目を閉じてしまった。
その華奢な躯を膝上に抱きながら、土方は指先で黒猫耳をちょんっと突っついてみた。
「服もいいが、こんなの買ってやるのもいいな」
「え、こういう耳とか?」
「あぁ、シッポなんか最高だ。その手の店で買うと、ちゃんと躯に直接装着できるようになってるんだぞ」
「は? 直接装着って……」
呆気にとられる総司に、土方はにやっと笑った。指さきを背筋からすうっとすべらせ、割れ目の奥に忍び込ませた。つんっと蕾を突っついた。
「ここだ」
「んっ、や……どういう意味……っ」
「シッポの先端にバイブがついてて、それをここに入れて装着するんだよ。なかなか面白い趣向だろ?」
「な、な……っ」
総司は絶句し、たちまち真っ赤になってしまった。
思わず想像してしまったらしく、土方の胸をぽかぽか叩きながら「変態―! エロ刑事―!」と叫んでいる。土方はくっくっと喉奥で笑いながら、総司の耳もとや頬にキスをした。そのまま首筋にすべらせ、甘く柔らかく吸い上げた。
「ぁ……んっ、あんっ……」
バスタブのへりに凭れるようにされ、胸の飾りを舐められるともう駄目だった。男の唇の中で、ぷっくりと乳首が尖った。舐められ、両方とも綺麗な薔薇色になってしまう。それを満足げに眺め、土方は笑った。
「まるで苺みたいだな」
「な…に、云って……あッ、やぁんっ……」
「さっき食べたホワイトデー特製のケーキか? 白い肌に真っ赤な苺のみたいな……」
云いざま、ぺろりと舌で乳首を舐めあげた。それに総司が甘い声をあげて、仰け反る。
土方はねっとりと乳首を舐め回しながら、手を下肢へすべらせた。もう総司のものは半ば勃ちあがている。それに微笑みながら、きゅうっと柔らかく握りこんだ。
「あ……っ」
総司は声をあげて、腰をうかした。土方はその腰下に自分の膝を入れることで、浮き上がらせた。白い泡の間から総司の桃色のものが覗いて、とんでもなくエッチな光景だ。柔らかく揉みこんでやると、ますます総司のものが泡の中から勃ちあがった。
土方は総司のピンク色に染まった耳もとに唇を寄せ、甘く囁いた。
「総司……ほら、見てみろよ」
「ん……」
「目あけて、見てみろって」
云われて目を開いた総司は、ぼんやりと土方を見上げた。が、男の視線をたどったとたん、大きく目を見開いた。
「やぁ……っ!」
「ほら、すげぇ可愛くて色っぽいよな」
くすくす笑う土方に、総司はふるふると首をふった。ぎゅっと目を閉じてしまう。が、次の瞬間、自分のものを包みこんだ熱い濡れた感触に、思わず声をあげた。
「あぁ……っ!」
下肢に男が顔をうずめていた。丁寧に優しく、総司のものをしゃぶり回してゆく。
「んッ、んんっ、はぁ……ぁあっ」
「……っ……」
「ふ…ぅっ、んっ、あッ、や……っ」
総司の腰がますます浮いてしまった。が、そのことに総司自身はまったく気づいてない。土方は総司の腰を掴んで固定すると、すっぽり唇の中におさめ、一気に吸い上げた。
「ひ…ぁあーっ!」
甲高い声をあげて、総司は達してしまった。ぶるぶるっと震えた後、少年の体が弛緩してゆく。それを抱きとめてやりながら、土方はくすっと笑った。
「気持ちよかったか?」
「う……ん……」
「なら、もっと気持ちよくしてやる。ほら、後ろをむけよ」
「あ……」
男の手のまま、総司はバスタブから上半身を窓の方へのり出した格好をとった。膝をバスタブの底について、ゆるく開く。下肢だけを男の前に差し出したとんでもない格好だったが、とろんとした総司はまったく気づいてなかった。
「おまえ……酒弱いよな」
「うん……」
「クリスマスの時も、酔っ払ってたしな。未成年のおまえに酒を飲ますのは違法だとわかってるが、ここになら……どうだろうな」
「? な…に?」
僅かにふり返ってみた総司の視界の中で、土方があのブランデーの入ったグラスを取り上げ、唇をつけた。一口だけ含んでから薄く笑い、そのまま総司の下肢に顔をうずめてくる。
次の瞬間、蕾の中に何か生温かいものが注がれるのを感じた。
「やっ……何? 土方さん……?」
「ブランデーだ」
そう答えながら、土方はまた酒を口に含んだ。慌てて逃げようとする少年の細い腰を掴んで引き戻し、割れ目の奥にある蕾に唇をつけた。舌を割りいれるようにして、その奥へブランデーを注ぎ込んでゆく。
総司の躯がびくびくっと震えた。大きく目を見開いた。
「何? やっ……熱い、なんか熱くなって……っ」
「そりゃそうだろう。体内の粘膜に直接、ブランデーを吸収させているんだ。熱くもなるさ」
「やぁっ……あっ、あっ、んんっ……熱いの、変になっちゃうよぉ……っ」
総司は泣きながら、ふるふると首をふった。自然と息があがり、腰がゆらゆら揺れてしまう。蕾の奥がじんわりと熱く痺れた。気が変になりそうだった。本当に躯の芯から酔わされているのだ。
「ぁあ……は、ぁっ……やぁ…んんっ……」
それでも何とか快感をやりすごそうとする総司を、土方は愉しそうに眺めた。
可愛くて可愛くてたまらない。
全裸で黒猫の耳だけを頭につけ、白い肌にきらめく泡を纏って。耳柔までピンク色に染め、甘い声で喘ぎながら、ぎゅっと目を閉じている総司は可愛らしく倒錯的で、とんでもなくエロチックだった。
土方は総司の腰を掴み、くっともち上げさせた。しなやかな背の白さが明かりを落としたバスルームの中で、夜景に映えて艶かしい。それにキスを落としてから、濡れそぼった蕾に己の熱い猛りをあてがった。
総司がびくんっと躯を震わせ、泣き声をあげた。
「やっ、こんなのでされたら……おかしくなっちゃう……」
「とろとろになるまで、可愛がってやるよ」
そう囁きざま、ゆっくりと腰を沈めた。ぐちゅぅっと濡れた音が鳴り、男の猛りが蕾にずぶずぶ埋めこまれてゆく。
「や…あっ! ひあ、あッ……許しっ……」
総司はバスタブのへりを掴み、上へずり上がることで逃げようとした。が、その腰を男の手が乱暴に掴んで、強引に引き戻した。
次の瞬間、熱い猛りが一気に蕾を貫いた。
「んっ、ぁああぁあ──ッ!」
甲高い悲鳴がバスルームに反響した。
衝撃と熱に、総司はバスタブのへりを掴んだ状態で突っ伏してしまっている。そんな少年の細腰を片腕で抱えこむと、土方はいきなり激しく躯を動かし始めた。総司は思わず悲鳴をあげ、抗った。
「やああっ! ひっ…待ってッ……」
「待たない。云っただろ? これはお仕置きだって」
「んんっ、ああっ、ひあっ……いやあッ!」
乱暴に揺さぶられ、総司はたまらず泣きはじめた。ブランデーで熱く痺れた肉壁を、男のもので甘く力強く擦りあげられるのだ。じわじわーっと甘美な痺れが腰奥から広がり、総司を恍惚の彼方へと追いあげた。
「ふあっ、あんっ、ぁああんっ」
濡れた蕾に男の猛りが抜き挿しされるたび、ぐちゅぐちゅと淫らな音がバスルームに響いた。それがまた刺激になる。
総司はたまらず、己の前をバスタブのへりにグイグイ擦りつけた。
「ああんっ、あっ……ぁあっ、んんっ」
「……可愛いな」
くすっと笑い、土方はそれを片手で包みこんでやった。そのまま強弱をつけてしごき始める。そうしながら、腰を上下左右に動かして、総司の一番感じる部分を少し乱暴なくらい擦りあげた。それを何度も何度もくり返してゆく。
「あっ、ぁああッ!」
たちまち、総司は躯がしなやかに仰け反った。
「い、いいっ……気持ちいぃーっ……」
「たまらねぇな、おまえの中……とろとろだ」
「やっ、とけちゃうっ、とけちゃ……ぅんんぅッ!」
無意識のうちに総司の腰が突き出され、ねだるように揺れた。深く繋がったまま激しく揺さぶられ、甘い快感美に頭がぼうっとしてくる。
ぼんやり霞んだ視界に、夜のガラスに映る自分たちがあった。黒猫の耳以外は全裸で、高く腰を抱え上げられ、男に抱かれている。とんでもなくエロチックな光景だった。
男に突き上げられながらソレを見ていると、ガラスごしに土方が視線を絡ませてきた。獣のように濡れた黒い瞳で笑いかけてくる。
「……可愛いな、総司」
両手ですくった泡を総司の躯に擦りつけ、淫らに撫であげた。そのまま、泡だらけの手で総司のものをまたしごかれた。いつもより滑りがいい親指を、鈴口に食い込ませてグリグリと追い上げてゆく。
「ああっ、ああっ! い、いっちゃうぅ……っ」
「我慢するな。イきたいんだろ?」
そう囁きざま、土方は激しく奥を抉った。逃げようとする少年の肩を掴んで引き戻し、深々と腰を入れる。柔らかな肉壁が男の猛りを熱く咥え込み、きゅうっと締めあげた。その淫靡な刺激に、土方は思わず息を呑んだ。
「……ちくしょう……っ」
舌打ちしざま、貪るように突き上げ始める。蕾に男の猛りが激しく抜き挿しされ、ぐちゅぐちゅと淫らな音が鳴った。
総司は甲高い悲鳴をあげ、しなやかな背を反らせた。
「ひあっ、あっあっ、やぁああっ、そんな……だめぇ……ッ」
「……イけよっ……俺もイくから、総司……っ」
「っぁんあっ、ああぁああ──ッ!」
一際高い声で少年が泣き叫んだ瞬間、腰奥に男の熱がたたきつけられていた。
それと同時に、総司のものも達し、蜜を辺りに飛び散らせた。ぎゅっと握りこんでやった男の指の間、とろとろと蜜が滴り落ちてゆく。
「ぁ……はぁっ、はぁ……っ」
喘ぐ総司を、土方も荒く息をしながら抱きすくめた。
だが、素肌でふれあっている上に、ぬるりとした泡の感触だ。また躯の奥で火が燻ぶり始める。一度躯を離してから向かい合わせにし、そのまま泡の中へ二人して身を沈みこませた。
「……んっ、ぁんっ……」
濡れた髪を優しく掴んで仰向かせ、そっと唇を重ねた。
甘く優しく、だが、官能的なキス。
舌を入れて、逃げる総司の甘い舌にからめ吸いあげた。総司の舌が応えはじめたところで、すっと引いてやる。そして、また深く唇を重ねて舌を入れた。それを何度も何度もくり返すうちに、少年の躯がまた熱く火照り、男を素直に求めはじめた。
「んっ…ふ……ふぅん……っ」
キスしながら、湯の中で自ら腰を浮かせ、もう一度男のものを迎え入れようとする。だが、土方は僅かに腰を引いてそれを避けた。
むずかるように男の首に両腕をまわして身をすり寄せる総司に、土方は小さく笑った。重ねられた唇からその意地悪な笑みを感じた。
「土方さん……」
唇をはなして上目使いに睨んだ総司に、土方はくすくす笑った。
まだ黒猫の耳はつけたままだ。とろんとした表情で見上げてくる総司は、たまらなく煽情的だった。
「黒猫はHが好きか?」
「うん……だい好き、もっとHして……」
酔ってるのかもしれなかった。
体内に染み込んだブランデーに、注がれた彼の愛に。
この優しくて意地悪な恋人に。
「総司……可愛いよ」
優しい声で囁き、土方は総司の細腰を掴んでかるく浮かせた。そのまま、屹立した己の猛りの上に腰を下ろさせてゆく。
ずぶずぶ挿入されてくる熱くて大きな感触に、総司は仰け反った。
「は…ぁあっ、ああッ!」
大声で泣きじゃくりながら、男の肩にしがみついた。根元までしっかり咥えこんだので、腰奥が熱く甘く痺れた。きゅと力を入れると、どくどくと脈うつ男のものをより深く感じてしまう。
土方が苦笑した。
「ったく……煽るんじゃねぇ」
「だってぇ……んん、んっ……」
「しっかり捕まってろよ」
そう云いざま、土方は激しく揺さぶり始めた。腰と膝のバウンドを使って突き上げてくる。総司は男の肩にしがみついたま、甘い悲鳴をあげた。ぞくぞくするような快感が背筋を貫いてゆく。たまらず躯を揺らして、よがり泣いた。
「ああーっ! ああっ、ぁあんっ……い、いいッ……!」
「総司……好きだ、愛してる……」
「う…ん、ぼくもっ、ぼくも愛してる……っ」
二人は激しく唇を重ね、何度も互いを求めあった。
白い白い泡と、その甘い香り。
強く抱きしめてくる腕。腰奥に打ち込まれる男の楔、そのたびに躯を貫く快感。
耳もとで感じる、男の荒い息づかい。甘ったるいキスと、熱く囁く声。
そのすべてに酔わされて。
とろとろに、とろかされて。
(……土方さん、だい好き……)
愛する恋人の腕の中、総司はうっとりと目を閉じたのだった……。
「……あのね」
総司は拗ねたような声で云った。
それに、向かいの席で、珈琲を飲んでいた男が顔をあげた。
気持ちのよい3月15日の朝だ。今日は非番なのでゆっくり出来る土方と、優雅にホテルで朝食とあいなっているのだが。
きらきらと柔らかな光が射し込む窓際の席で、総司はちょっと唇を尖らせた。
「確かに、あの格好はもう他でしませんって約束しましたよ。でも」
「でも?」
「だからって、この格好もあんまりじゃありません?」
総司は両手を広げてみせた。
本日のお召し物は、白いふわふわのセーターで、しかもかなり裾が長く、下に履いたショートパンツが隠れてしまっていた。ほとんど女の子のワンピース状態だ。その上、白いブーツに、同じく白の柔らかなスプリングコート(それも、裾がふわりと幾つかの三角にわかれ、先っぽにぼんぼんまでついている)という姿なのだ。
全部、土方が早朝からホテルのブティックに無理を云って、用意させたものだった。
「よく似合ってるぜ」
土方は僅かに唇の端をあげてみせた。
「めちゃくちゃ可愛い」
「そういうの外で云わないで下さいってば。だいたい、これ全部で幾らしたんです?」
「さぁ、幾らだろうな」
「どうせ、またとんでもなく高いんでしょう? もう、高いの買わないでって云ったのに」
「俺も云ったよな」
すっと手をのばし、総司の顎から首筋を指さきで撫でた。そっと濡れたような黒い瞳で覗きこんだ。
「男が服を贈るのは、脱がせたいからだって……」
「……え。まさか、あれだけやってまだ足りないとか……」
「ちゃんと連泊にしてあるから、安心しろって。大丈夫、ラッピングはがすのは部屋に戻ってからだ」
とんでもない言葉を口にしつつ、土方はにっこり綺麗に微笑んでみせた。それに、総司は思わずため息をついてしまった。
この人、ほんとエロ刑事だ。
だいたい、昨日も何回やったと思ってるの?
バスルームで二回して、それからベッドにはこばれて上にのっかって一回と……えーと……。
昨日、彼としまくったイロイロを思い出し、総司はちょっと赤面してしまった。
だが、男の方はそんな思考も全部お見通しなのだろう。
可愛くてたまらないという表情で総司を眺め、悪戯っぽく笑っている。椅子の背に凭れかかって足を組み、唇の端に笑みをうかべながら珈琲を飲む彼の姿は、朝のレストランの中で際立っていた。
クリーム色のセーターに、黒のボトムという、シンプルでラフな格好だ。だが、その姿は、まるでしなやかで美しい獣のようだった。たまらなく魅力的で、総司の胸をどきどきさせた。綺麗に澄んだ黒い瞳でじっと見つめてきたりするのだから、尚更だ。
レストランにいる女性のほとんどは、彼の方にばかり視線をやっていた。が、そんな特別な男が見つめてくれるのは、自分だけなのだ。こんなにも子供っぽくて、少年の自分だけ……。
正直な話、総司はそれを嬉しいとは思わなかった。それよりも、また──いつもの重い不安に襲われた。
ほんとにぼくでいいの?
ぼくで構わないの?
あなたがくれる応えは、ちゃんとわかってるのだけれど。
愛してくれてるって。
ずっと傍にいてくれるって。
でも──
「……総司?」
呼びかけてくる土方に応えぬまま、総司はそっと目を伏せた。膝上に置いた手をぎゅっと握りしめた。
こんな気持ち、この人にはきっとわからないだろう。
バレンタインデーの時も思ったけど。
こんなにも、この人は大人だから。
いつだって、土方さんはぼくをふり回して、でも冷静で、優しくて強くて、どんな時も自信たっぷりで。
だから、子供のぼくの不安なんて全然わかりっこない。
彼のちょっとした言葉や行動一つで、すぐ不安になってしまうぼくの気持ちなんか。
でも、当然なんだ。
この人はぼくと違ってすごく大人なんだもの。ぼくなんかが隣にいるのは、絶対おかしいくらいの──
「……」
総司はため息をつくと、静かにその手をポケットに滑りこませた。あるものを掴んで取り出し、ちょっと躊躇ったが、意を決してテーブルの上に置いた。
視線を落としたまま、それをそっと土方の方へ押しやった。
「……」
かるく土方が息を呑む気配がした。
総司は俯いたまま、小さな声で云った。
「あのね、土方さん……」
「……」
「ぼく、やっぱりこの鍵……」
そう云いかけた瞬間、あるものが目に入った。
それは、珈琲カップをソーサーに戻した土方の手だった。
かるくカップの柄を握っているしなやかな指と手。が、それは今、僅かに震えていた。カチャリと音が鳴ったのに気づくとすぐさま握りこみ、テーブルの下へおろしてしまったが、総司はしっかり見てしまった。
(……嘘! どうして……?)
驚いて顔をあげた総司は、とたん、思わず息を呑んだ。
土方はいつもどおり、こちらを静かに見ていた。
だが、その瞳は違ったのだ。
不安に揺れる瞳だった。
まるで──縋りつく子供のような目で、総司だけを見つめていた。
「……」
総司がじっと見返すと、土方は僅かに目を伏せた。黙ったまま視線を落とし、また珈琲を飲みはじめる。だが、その端正な顔はひどく緊張していた。
いや、彼は怯えているのだ。
成熟した大人であるはずの彼が、9才もはなれた少年の言動に怯えていた。
どんな答えが返されるのか、どんな決意をしたのか。
そうやって総司の様子を全身で伺いながら、不安げな表情で目を伏せている───
(……土方さん……)
その瞬間、総司は胸がじんわり熱くなるのを感じた。涙がこみあげてくる。
どうしてわからなかったのだろう。
どうして忘れてしまっていたのだろう。
あの苦しかった日々、逃げないでくれと懇願した彼。
ホテルでの朝、ぼくを抱きしめ縋りついてきた彼。
いつもいつも、彼の瞳は不安に揺れていたのに。
自信たっぷりなんかじゃない。完璧な大人なんかじゃない。
余裕にみちた態度をとりながら、断られても諦めないと笑ってみせながら、それでも。
本当は、彼も──不安だったのだ。
この恋愛に、戸惑い躊躇い、怖がって。それでも、必死にぼくを愛して求めてきてくれた人。
そんな土方さんが、たまらなく愛しかった。
泣きたくなるくらい、愛しくて愛しくてたまらなかった……。
「……土方さん」
総司は不意に立ち上がると、彼の席側に回った。腰の後ろで手をくみ、ちょっと身をかがめ、土方の顔を下から覗きこんだ。
そして、にっこり笑ってみせた。
「だい好き!」
「……」
突然の言葉に、土方はかるく目を見開いた。それに、総司はとびきり明るい口調でつづけた。
「引越し手伝ってね。大学入るまでに済ませたいし」
「……え」
「だから、引越し。ぼく一人でなんか絶対無理だから、お休みとって下さいねって」
「引越し……それは俺の家へか?」
「あたり前でしょう? 他のどこへ引っ越せって云うんです」
総司はちょっと唇を尖らせて、可愛らしく拗ねてみせた。それを土方はしばらくの間、呆然と眺めていた。
が、しかし。
突然、もの凄い勢いで椅子を蹴倒し立ち上がったかと思うと、総司の躯を両腕で強引に抱きあげた。ふわっと総司の爪さきが宙にうき、彼より視線が高くなる。いわゆる縦抱きだっこという奴だ。
呆気にとられる総司を抱いて、土方は嬉しそうに笑った。
「やった! プロポーズ受けてくれたって訳だな」
「ちょっ……土方さん! 恥ずかしいっ」
「いや、よかった。断られたらどうしようと思ってたから、めちゃくちゃ嬉しいよ」
「わかりました! わかりましたから、下ろしてってば!」
「引越しはまかせとけ。おまえ、何にもしなくていいからな。全部、俺が面倒見てやるから。あ、そうだ! 今日、家具とか見に行こうか? おまえも欲しいものあるだろ。可愛いおまえが一緒に暮らしてくれるなら、何でも買ってやるぜ」
顔を真っ赤にして焦りまくる総司の声も、レストランの他の客たちの唖然とした様子も、完璧にシャットアウトして、土方は幸せそのものの笑顔をうかべた。
そして、じたばたもがく総司の項を掴むようにして引き寄せ──
「……!」
超濃厚なディープキッス!をされた瞬間。
総司は、自分の意識がふう〜っと遠くなるのを感じた。頭の中が文字どおり真っ白になってしまう。
ここはレストランだとか、公共の場だとか、あなた刑事でしょっとか。
ぐるぐるぐるぐる言葉が回るのに、もう何も云う気力もなくて。
「土方さん……っ」
こみ上げる羞恥に、総司は思わず彼の肩口に顔を押しつけてしまった。それをまた土方が嬉しそうに抱きかかえ、優しく髪を撫でてくれた。
(……この人のTPOって、どうなってるの?)
とにかく、何もかもが恥ずかしくて。
頬も耳も真っ赤なのがわかってて。
彼のシャツに顔をおしつけるしかなくて。
──だけど。
この人の腕の中はあたたかくて、優しくて。
もう何でもいいやって思っちゃうぐらい、すっごく幸せで。
「……」
総司は目を閉じ、甘えるように彼の首に両腕を回した。ぎゅっとしがみついた。
……愛してる。
何よりも、誰よりも。
世界中で一番、だい好きな彼だけ。
ずっといつまでも一緒にいたいと、心から願っているから。
それが一番の願いだから───
「……土方さん」
総司は彼の耳もとに唇を寄せた。
そして。
だい好きな恋人に。
あふれるほどの愛をこめて。
そっと、囁いたのだった。
「……ずっと、ぼくを愛してね」
──答えは。
どんなチョコよりも甘い甘いキス……。
>
[あとがき]
やっと、総司は土方さんと同居承諾です。結婚おめでとう〜♪って奴? いつも白いふわふわした格好させてるので、たまには黒猫させてみました。やっぱりコスプレは楽しい。藤堂さんの運命は決定ですけど(笑)。ホテルのバスルームは阪急インターナショナルのデラックスツインがモデルです。あわあわ風呂っていいですよね。何かちょっとエッチで。そのせいか、やたら長いお褥シーンになっちゃいましたけど。ホワイトデー編、皆様がお楽しみ頂けたら幸いです♪ の葉月雛でした。>
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