「……石鹸のいい匂いだ」
 土方は総司の細い躯を抱きしめ、うっとりしたように囁いた。
 それに、目を見開く。
「え……」
「おまえ、風呂あがりだろ?」
 くすっと男の笑い声が耳もとにふれた。
「そんなおまえにふれるなら、俺も綺麗にしたかったんだ。仕事帰りの汗と埃まみれの躯で、おまえにふれたくなかったんだ」
「そんなの……気にしないのに」
 総司はそう云うと、両手をのばした。仔猫がじゃれるように、彼の胸もとへ躯をすり寄せる。
 ひんやりしたネクタイとワイシャツの生地が、総司の頬にふれた。
 抱きしめてくれる腕は、まだスーツを纏っている。でも、そんなの全然構わなかった。
「ほら、土方さんの匂い。ぼく、大好きですよ」
「総司」
「ごめんなさい、本当に。土方さんはぼくの事をずっと思って行動してくれてたのに、なのに、誤解して」
「本当だ、傷ついたぞ」
 くすっと笑った土方だったが、すぐ真顔になった。かるく身をかがめると、そっと口づける。
 優しく髪を、頬を撫でながら、囁きかけた。
「俺は……おまえを本当に愛してるんだ。おまえ以外考えられない。一年離れていた間も、ずっと愛していた……もちろん、今も愛してる」
「土方さん……」
「頼むから、総司。俺の気持ちを疑わないでくれ。おまえを誰よりも愛してる、俺の気持ちを信じて欲しいんだ」
「はい……」
 こくりと頷いた総司の目は、もう涙でいっぱいだった。大きな瞳を潤ませ、彼だけを見つめてくる。
「信じます。ごめんなさい……疑ったりしません」
「総司」
「土方さん、ぼくも……ぼくもあなただけ愛してる」
 そう応えると、総司は爪先立ちになって彼の首に細い両腕をまわした。ぎゅっと抱きつき、目を閉じる。
 だい好きな、だい好きな恋人の感触だった。嬉しくて、胸がどきどきする。
 そんな総司を、土方は柔らかく抱きあげた。え?と思ったときには、すぐ傍のラグマットの上へおろされている。
 ふわふわした感触につつまれ、総司は不思議そうに見上げた。
 だが、すぐネクタイを緩めながらのしかかってきた男に、小さく目を瞠った。
「土方…さん?」
「……わかるだろ」
「え、あ……ご飯」
「おまえを先に食いたい」
「あの、でも、お風呂先にとか云ってたんじゃ」
 色々理由づけしてくる総司に、土方がくすりと笑った。耳もとに唇を寄せ、なめらかな低い声で囁きかける。
「……俺の匂い、好きなんじゃねぇのか?」
「あ……」
 軽く耳朶に歯をたてられ、とたんわきおこった甘い疼きに、総司はきゅっと身をすくめた。耳裏から首筋を指さきでなぞられ、はぁぁっと吐息をもらしてしまう。
「ほら、こんな色っぽい顔して」
 土方は総司のパジャマの釦を一つ一つ外していきながら、あちこちに口づけた。
「これで拒まれても、聞く耳もてねぇよ」
「や、ぁ…ん…っ」
 いつの間にか、総司はほとんど脱がされてしまい、彼の匂いの中で抱かれていた。土方は一度だけ身をおこして煩わしげにスーツの上着を脱ぎ捨てると、再び身をかがめ、噛みつくようなキスをあたえてくる。
「んっ、ぅ…んっ…」
 何度も角度をかえて唇を重ねられ、舌を吸われ舐められて、頭の中が朦朧としてくる。
 総司は必死になって彼の肩に手をかけ、縋りついた。そんな総司に甘い濃厚なキスをあたえながら、土方は掌を白い肌にすべらせた。彼にしては性急に下肢へ手をのばし、きゅっと総司のものを握りしめてくる。
「ぁ…ぁあッ」
 小さく悲鳴をあげて仰け反った総司にくすっと笑い、二三度しごいてやった。たちまち桃色のそれは濡れそぼり、とろとろと蜜をこぼし始める。
「感じやすい、いい躯だ」
 低い声で囁きかけてから、両膝をかるく折り曲げた。そのまま胸の方へ持ち上げると、下肢が露になる。
「や……っ」
 羞恥にいやいやと首をふる総司に構わず、視線も指さきも奥へと滑らせた。先走りの蜜で濡れた指を蕾に押しあて、柔らかく撫でてやる。
「っふ…ぅ、んッ」
 総司は甘く喘ぎ、細い腰を揺らめかせた。それがたまらなく扇情的で、ぞくりとするような情欲を覚える。
 今すぐにでも入れたい気持ちを抑え、窄まりに指を沈みこませた。蕾の奥を優しくほぐしてやると、総司の唇から甘いすすり泣きがもれ始める。
 胸の尖りを舌で舐めてやりながら、二本三本と挿入する指を増やしていった。奥の痼を押すように揉みあげてやるたび、総司のものの先端からとろりと蜜がこぼれる。
「…土方…さん、ぁ…土方さ……っ」
 甘く掠れた声で何度も呼ばれ、さすがの彼も我慢できなくなった。素早く指を抜き取ると、己の前をくつろげる。総司の両膝を折り曲げて押し広げ、ほぐれた蕾に己の猛りをあてがった。
 一瞬、怖いのか上へ逃れようとするのを引き戻し、その勢いで一気に突き入れた。
「ッ…ぁああーッぅ…!」
 悲鳴をあげて仰け反る総司の背に手をまわして抱きとめ、より深く受け入れさせた。思わず吐息をもらしてしまう。
 だが、すぐ、ぎゅっと彼のワイシャツを皺が寄るほど握りしめる総司に気づき、そっと背を掌で撫であげた。甘いキスを耳元や頬、首筋に落としてやる。
「……力を抜け、総司」
「や、ぁッ…ぃ、たいッ…」
「そんなに躯を固くしたら駄目だ。おまえもわかってるだろ?」
 再会してから何度か躯を重ねたが、さすがに一年も離れていただけあって、その躯はまだ固い蕾のようだった。男を受け入れることに慣れていなかった。
 だが、それでも必死に呼吸をくり返し、彼を受け入れようとしている様がたまらなく可愛くいとけない。
「ッは…ぁ、あ…ぁ…ッ」
「そうだ……いい子だな、総司」
 胸の尖りを指の腹でクッと擦りあげてやると、ぴくんっと総司の躯が跳ねた。身をかがめ、舌でも舐め回してやる。
「ぁ、ぁ…あ、ぁ……」
 男の愛撫に、その細い躯は素直に反応した。男の猛りを受けいれているそこが、柔らかく熱をもって収縮し始める。
 それを確かめ、土方は僅かに腰を引いてから、ズンッと最奥に己の楔を打ち込んだ。
「ひぃ…ッ!」
 総司が仰け反り、悲鳴をあげた。だが、その声に苦痛以外のものがあるのを感じとり、土方はゆっくりと抽挿を始めた。だんだん早くなってゆくそれに、総司の声も甘く掠れてゆく。
「ぁっ、ぁあッ…ぁ、や、あッ」
「いや…か? いいの間違いだろ?」
「ふ…ぁ、ぁあんッ、ぁッ、あう───」
 腰を打ちつけてやるたび、広いリビングに甘い悲鳴が響いた。柔らかく熱いそこはとろとろに蕩け、土方のものを深く受け入れる。
 仰け反らされた白い頤がひどく煽情的で、思わずむしゃぶりつくように唇を押しあて、強く吸いあげた。首筋に赤い花びらが散った。
 それを満足げに眺めてから、すすり泣く総司の両膝裏に手をかけて押し開き、激しい揺さぶりをかけてゆく。
「ゃ、ぁあ──ッ…」
 総司が尖った悲鳴をあげ、仰け反った。ふれてもいない総司のものが勃ちあがり、蜜をこぼし始める。
 目元を赤く染め、わななく唇から意味のない言葉がもれた。その細い脚は男の腰にまわされ、もっととねだるように深く受け入れる。より密着した互いの躯を感じながら、土方は柔らかな最奥を己の猛りで穿った。
「ぁッ、あ…ぃ、ぃく…ッ」
「……いけ…よ、俺…も……く…っ」
「ゃ、ぁッ…ぁあ…ッ!」
 一際甲高い悲鳴をあげた瞬間、総司は達していた。胸もとに白い蜜が飛び散る。
 それと同時に、土方はその最奥に熱を思い切りたたきつけた。最後の一滴まで注ぎこむように、腰を打ちつけ続ける。
「ッひ…ぃ、ぁ…ぅッ……」
 そのたびに総司は腰を跳ねあげ、細い両腕で男の首に縋りついてきた。きつくしがみつき、泣きじゃくりながら頬をすり寄せる。
 そんな総司が可愛くてたまらず、土方は深く唇を重ねた。互いの身を深く交わらせながら、甘い甘いキスをくり返す。
「……好…き、すき……土方…さん……っ」
 キスの合間に喘ぎながら告げてくる総司が愛しくて、かわいくて。
 土方は息もとまるほどの幸福感を全身で感じながら、腕の中の愛しい恋人を抱きしめたのだった……。












「こういうの、前にもありましたよね」
 総司が食事をリビングのローテーブル上へ運びながら、そう云った。
 甘ったるい時を過ごしてから、二人は一緒にシャワーをあびた。じゃれあうように互いの躯を洗ううちまた熱くなってしまったが、総司が素早く逃げ出したので、おあずけになったのだ。
 その後、パジャマ姿になった二人は、リビングで遅い晩御飯をとろうとしていた。ダイニングにはカウンターしかない為、全部あたためてから運んだ。
 ソファに並んで腰かけ、食事をとり始める。
「何の事だ?」
 箸をすすめつつそう訊ねた土方に、総司はお茶を入れてあげながら答えた。
「だから、こういうの。帰ってきた土方さんに、すぐ抱いてもらったことですよ」
「あぁ、あの停電の夜か?」
「それもだけど……ほら、クリスマス前の。あっちはご飯を食べてからだったけど」
「……」
 総司の言葉に、土方は一瞬考え込んだ。だが、すぐに得心がいき、思わず眉を顰めてしまった。
「……アンダーカバーの時のことか」
「うん。ビーフシチューつくって、色々お話して、それからすぐ抱いてくれたでしょ? リビングで」
「あぁ」
「あの時も、今も……」
 総司はくすくす笑った。ひどく楽しそうだ。
「あなたに恋する不安は同じだけど、でも、幸せなのもおんなじですね」
「幸せなのも……って、あの頃が?」
 土方は思わず苦笑した。
「おまえ、わかってるのか」
「え?」
「あの頃、おまえはこの俺に監禁されてたんだぞ。あぁいう状態は、ふつう幸せとは云わねぇよ」
「んー、そうかなぁ」
 総司は小首をかしげた。可愛らしい仕草に、土方は何となく毒気を抜かれてしまう。
 肩をすくめると、総司がつくってくれたおいしい食事へと戻った。綺麗にバターソテーされた白身魚のムニエルを箸できりわけ、口へはこぶ。
 そんな彼を眺めながら、総司はまだ話を続けるつもりのようだった。
「閉じこめられててもね」
「……あぁ」
「それでも、ぼく、とっても幸せだったんですよ。だって、だい好きなあなたと一緒にいられたんだもの」
「……」
「だから……あのね、今も強引になっていいんですよ」
「? 何が」
 訝しげにこちらをふり返った土方に、総司は小さくちょっと恥ずかしそうに微笑った。
「あの頃みたいに、もっと強引になって下さいってこと。ぼくの事を気づかってくれるのは嬉しいけど、でも、土方さん、何だか遠慮ばかりしてる。だから、いっそ閉じこめちゃうぐらい強引な事されても、構わないって事です」
「……おい」
「だって、どんな意地悪でも強引でも、ぼくはあなたの事がだい好き。あなたと一緒にいられたら、それだけで幸せなんだもの」
 臆面もなく云ってのけた総司に、土方はさすがに照れくさそうな表情になった。
 その肩口に、総司はとんっと小さな頭を凭せかけた。
「あなたにならね、何をされてもいいの」
「そんな事云われたら、本気にしちまうぞ」
「うん」
 くすくす笑いながら、総司は土方の胸もとに抱きついた。
「ぼくは、あなたといられれば……それだけで幸せだから」
「総司……」
 素直に身をゆだねてくる華奢な躯を抱きとめながら、土方はそっと目を伏せた。


 この優しい恋人は全部わかっているし、気づいているのだ。
 一年もの間、総司を失っていたせいか、妙に臆病になってしまっていた。こんな強引な事をしたら嫌われないか、こんな事を云ったら離れられないか。そんな事ばかり、つい考えてしまうのだ。
 だから、ここ最近も強引な事を出来ず、とうとう総司におかしな誤解まで抱かせてしまった。さっきは人の気も知らないでと怒りもしたが、前の俺のやり方を考えれば、総司が不安になって当然なのかもしれない。
 それに、もしかすると、信じることができていないのは、俺の方かもしれなかった。
 総司の愛に不安を覚えているのは、俺自身なのだ。
 この幸せを二度と失いたくない。
 この恋を失いたくない。
 気も狂いそうなほど愛してるから。それこそ、永遠に腕の中に閉じこめてやりたい──と、激しい独占欲のまま渇望してしまうからこそ、その一方で不安になってしまうのだ。
 ストッパーを掛けておかなければ、いつ暴走するかわからない。
 ────凶暴な愛。









 まるで獣みたいだ……と、思わず目を伏せて小さく笑った土方に、総司が小首をかしげた。
 それに微笑み、なめらかな頬にキスを落としてやる。
「土方さん……」
 ぽっと頬を染めて見上げてくる可愛い総司に、ふと久しぶりの悪戯心がわいた。


 公園でするのはやっぱりまずいよなと思いはするが、この部屋の中での強引さなら、構わねぇんじゃないだろうか?
 総司も強引さを望んでいるし、さっき逃げられてしまった事だし。


「あのさ、総司」
「はい?」
「おまえの希望に応えられると思うんだ」
「?」
 きょとんとした総司に、土方はにっこりと綺麗な笑顔をむけた。
「幸いにして、明日から二日間、非番だ。だから、おまえのご希望どおり、閉じこめて独占して思いっきり愛してやるぜ?」
「え、え……え?」
 目をぱちぱちさせている総司の耳もとに、土方は唇を寄せた。低めに落とした声音で囁きかける。
「寝室、いや、ベッドの中限定っていうのはどうだ?」
「……しんしつ……べっと……ぇっ、ぇえええぇーッ!?」
 総司はたちまち顔を真っ赤にすると、慌てて傍から離れようと立ち上がりかけた。それを素早く腰をさらうようにして引き寄せ、抱きすくめる。
 石鹸の匂いがする白い項に唇を押しあててやると、細い躯がぴくんっと震えた。
 それに、くっくっと喉奥で笑いながら、土方は云った。
「楽しい休日にしような?」
「や、やだ……っ」
「さっき云ったじゃねぇか。強引独占大歓迎って」
「だ、大歓迎なんて云ってないし、そういう意味じゃないもん!」
「じゃあ、どういう意味なんだ? 男を誘ってるしか聞こえなかったけどな」
「あ、あれは」
「大丈夫、安心しろ。たっぷり可愛がって、満足させてやるから」
「やだ! きゃっ……ど、どこ触ってるの! ちょっ…ぁ…っ」
「ほら、いい子だ。総司……愛してる、だい好きだよ」
「ん……土方…さん……」




 ふわりと抱きあげられ、寝室へと運ばれてゆく。
 まるで、大切な宝物のように。
 強引なことを口にしながら。
 その腕も声もキスも、限りなく優しくて。

(……土方さん……だい好き)

 愛する恋人の腕の中、総司はそっと目を閉じたのだった。






 甘いキス
 切ないキス
 優しいキス

 キスにも色々あるけれど
 でも、やっぱり

「……愛してる」

 想いを伝えてくれるキスが
 一番だい好きなの

















[あとがき]
 この二人、まだまだ同居しません。遠距離恋愛じゃないですけど、所謂結婚前状態の恋人たちって感じで、色々書いていきたいのでございます。いつかは同居させるつもりですが、このマンションじゃなくて、可愛い一戸建てなんかもいいなぁと思ったりしています。
 ラストまでお読み下さり、ありがとうございました♪