「……って、本当に?」
思わず斉藤の手がとまった。
あんぐり口を開け、警視庁の食堂で、悠然とA定食を食べている土方を眺めやる。
それから、叫んだ。
「変態じゃないですかー!」
「失礼な」
事の起こりは、総司が6歳児に逆行してしまった事だった。
とは云っても記憶や精神だけであり、躯そのものは大学生だ。
だが、しかし、言動は斉藤が見た限り、きっぱり可愛いあどけない6歳児そのもので。
それを、まさかまさかまさか!
本気で手を出しちゃうとは───
「出しちゃうと、思ってたんだろ?」
横から永倉が呑気に突っ込みを入れた。
それに、斉藤がぐぐっと詰まる。
「お、思って……ました、けどッ」
「じゃあ、問題ないじゃん。はじめちゃんの予想的中! おめでとう、どんどんぱふぱふ」
にやにや笑いながらふざける永倉に、斉藤は噛みついた。
「そんなの全然嬉しくありませんよ! っていうか、土方さん、よくそんな事出来ましたね」
「そんな事って、恋人と色々するのが何で悪いんだよ」
土方は箸をとめ、不機嫌そうに眉を顰めた。
それに、斉藤がぶんぶん首をふる。
「恋人って、相手は6才児ですよ」
「だから、躯は二十歳だって。何も悪い事ねぇだろ」
「でも、同意ではなかったでしょう、もちろん」
「うーん、ある意味、同意かな。けっこう楽しんでたし」
「た、楽しんでたって……」
絶句してしまった斉藤をちらりと眺めながら、土方はきれいな顔に華やかな笑みをうかべた。
にっこり笑いながら、のたまってくる。
いやいや、のろけてくる。
「すげぇ可愛かったぜ? 反応が新鮮っていうか、俺も手加減できなくて困っちまった。まぁ、もちろん、総司はいつでも可愛いんだけどな」
「…………」
「だいたいさ、一緒に風呂入って?だぞ。しかも、躯洗って?だぞ。誘惑に勝てると思うか?」
「はじめちゃんなら、もっと勝てないだろうねぇ」
永倉の言葉に、斉藤が顔を引き攣らせた。
そのあたり、やはり自覚があるらしく、しかも色々まずい想像までしてしまったらしく、しんと押し黙ってしまう。
黙々とB定食を食べ始めた斉藤をよそに、今まで黙っていた島田がおそるおそる訊ねる。
「あのう……それで、総司さん自身は」
「え?」
「元に戻られたのですよね。で、その後、事の次第を知られて……」
「そうだ、総司ですよ!」
いきなり元気を取りもどした斉藤が叫んだ。
身を乗り出し、訊ねてくる。
「総司は怒ったんじゃないんですか! そんな事されて、怒らないはずがないでしょう」
「あぁ、怒った」
土方は箸をおき、腕組みすると重々しく頷いた。
それに、斉藤が深々とため息をつく。
「可哀想に……総司もショックですよね。土方さんにそんな趣味があったのかと疑ってしまうだろうし、だいたい、知らないうちに、6才児の自分が毒牙にかかっているんですから」
「おまえ、いちいち失礼な奴だな」
「失礼も何も本当の事でしょう。で、謝ったのですか。怒ってる総司をちゃんと宥められたんですか」
「いや、それが」
土方は僅かに苦笑した。
頬杖をつきながら、めちゃくちゃ嬉しそうな声音でつづける。
「あいつ、やきもち妬いてたんだよ」
「……へ?」
「6歳児の自分にやきもち妬いて、怒ったって訳だ。俺がどうこうしたって事より、6才児になってる自分と仲良くした俺に、やきもち妬いちまったんだと。ほんと可愛いよなぁ」
「…………」
長い長い、微妙な沈黙が落ちた。
どこか怒るポイントがずれてるような気がする。
やきもちやいてる場合では、ないだろう。
だが、しかし。
状況から察するに、結局は、どっちもどっちのバカップルという事なのだ。
二人らぶらぶでいるのなら、他の何もまったく関係なしってこと。
まさに、世界は二人のために、か!
「……御馳走様でした」
低い声で斉藤が呟き、がたんっと音をたてて立ち上がった。
疲れ切った表情で、ぼそぼそとつづける。
「お先に失礼させて頂きます……」
「あぁ。池袋の方、頑張れよ」
トレイを返しに向うその背に、土方が何の拘りもなく声をかけた。呑気に茶を飲みながら、テレビに映し出される昼のニュースを見ている。
永倉は、斉藤の哀愁と疲労を感じさせる後ろ姿と、のんびりニュースを眺めている土方を眺めやり、
「……愛って切ないねぇ」
しみじみと呟いたのだった。