「あるよ」
 思いがけない男の答えに、総司は息を呑んでしまった。
 呆然と見上げていると、土方は総司のなめらかな頬を、指さきでかるく突っついた。
「本当に、このウサギには手を焼かされるからな」
「土方……さん?」
「何で、俺とのことなのに、他の男に相談した挙句、一人でぐるぐる回っているんだよ」
「え、あ、あの……」
 平助に相談した事を云われているのだとわかり、総司は口ごもってしまった。
 それを眺めながら、土方はかるくため息をついた。
「おまえと俺は、恋人だろうが。なのに、何で、おまえの気持ちや不安を、他の奴らから伝言ゲームみたいに聞かされなくちゃならねぇんだ?」
「伝言ゲームって……」
「平助に聞いた永倉が近藤さんに云って、俺に伝えた」
「……」
 確かに伝言ゲームだと思った。
 近藤から聞かされた土方は、驚いたことだろう。
「あぁ、びっくりしたよ。びっくりしたあまり、朝食も全部放り出して、ここへ駆け戻ってきちまった」
 笑いながら答える土方に、総司は「あ」と声をあげた。慌てて彼の膝上から降りようとしたため、逆にバランスをくずして土方の胸もとへ倒れこんでしまう。
「どうした、急に」
「朝ご飯、つくります」
「は?」
「だって、食べてないのでしょう? 今すぐつくるから、ちょっと待っ……」
「総司」
 ぴょんと今にも飛び降りそうな総司を抱きとめ、土方は微笑んだ。耳元に唇を寄せると、甘く低めた声で囁きかける。
「おまえがつくってくれる朝飯もうまいが、俺は今……別のものが喰いたい」
「え?」
「一人で誤解して泣いていた可愛いウサギを、早く食っちまいてぇ」
 そう云いながら、男の手は早くもパジャマの下にすべりこんでいる。
 総司は「あっ」と声をあげ、頬を熱くした。
 土方は首筋や耳朶に口つけながら、すべすべした白い肌を手のひらで撫でまわした。それだけで顔を赤らめてしまう総司が可愛い。
 胸の尖りを指の腹で擦りあげると、小さな声をあげてのけ反った。土方のワイシャツをぎゅっと細い指先で握りしめている。
「っ、ぁ…ぁ、ぁんっ…あ……」
「すげぇ可愛いな」
 ちゅっと音をたてて頬にキスしてから、総司のパジャマを脱がせた。下着ごと脱がせて裸にしてしまうと、いやいやと首をふる。
 小首をかしげると、潤んだ瞳で睨まれた。
「土方さんだけ、ずるい……」
「え?」
「服……スーツ着ているんだもの」
「あぁ」
 云われて気づいた。スーツの上着やコートは脱いでいたが、まだネクタイも緩めていなかったのだ。
 土方はネクタイを緩めて抜き取ると、引き剥がすようにワイシャツを脱ぎ捨てた。荒っぽい脱ぎ方に、総司が目を丸くする。
「土方…さん?」
「がっついているんだよ」
 土方は総司をベッドの上に押し倒しながら、唇の端をあげた。
「肉食なのも、がっついているのも、全部、俺の方だ」
 そう云うなり、総司の両足を押し広げた。がぶりと、それこそ喰いつくように、総司のものに歯をたてる。
「ぃ、やあっ」
 敏感なそこに感じる彼の鋭い歯の感触に、総司は悲鳴をあげた。怖さと不安と、だが、まぎれもない快感がこみあげる。
 むろん、土方は痛みをあたえたりしなかった。歯をたてたと云っても、かるくされただけだ。
 その後、歯をたてた処をすぐさま優しく舐められ、総司は腰を浮かせた。
「ん…ふっ、ぁ、ぁあんっ」
 裏側から先っぽまで丁寧に舐められ、しゃぶられ、たちまち勃ちあがってしまった。先走りの蜜がこぼれ始める。
 土方はそれを高めるだけ高めると、すっと顔をあげた。そのままベッドを降りると、サイドボードの引き出しをあける。
 中途半端な状態で置いてきぼりにされ、総司は、戻ってきた土方を思わず潤んだ瞳で見上げてしまった。
 それに、土方がくすっと笑い、頬にキスをした。
「すまない、これを取っていたんだ」
 彼がさし示したのは、潤滑剤だった。今まで見たことのないパッケージに、総司は目を見開いた。
「いつ、そんなの買ったの」
「この間も使ったぜ? 知らなかったのか」
「え」
「だから、俺はやる気だったって事だよ。でなきゃ、こんなもの用意しておくと思うか?」
「……」
 沈黙してしまった総司に笑いかけ、土方はその膝裏を掴んで持ち上げた。露わになった蕾に、濡れた指をさし入れてゆく。
「やっ、あ」
 潤滑剤のおかげか、するりと指が入りこんできた。少し冷たいが、痛みは感じない。
 土方は執拗なほど丁寧に、蕾をほぐした。奥まで指をさしいれ、ぐるりと回して、また引き抜く。
 何度もそれをくり返されるうち、総司もたまらなくなってきた。知らず知らずのうちに、腰がゆらゆらと揺れてしまう。
「ぁ…ぁ、ア……ッ」
 甘い声をあげ始めた総司に、土方は小さく笑いながら指を抜いた。そうして、濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがうと、一気に貫く。
「ッ…ぁあーッ!」
 甲高い悲鳴をあげて、総司がのけ反った。
 思わずとも云うように、上へずりあがるのを、無理やり引き戻す。そうして、奥までぐっぐっと突き入れた。そのたびに、総司が「ヒ…ィッ」と泣き声をあげる。
 びくびく震える小柄な躰を抱きすくめ、土方は、はぁっと吐息をもらした。髪をかきあげ、その瞳を覗き込む。
「痛いか……?」
「……大丈夫……」
 総司は大きな瞳を潤ませ、首をふってみせた。それに、思わず眉を顰める。
 いくら潤滑油を使っても、馴れてきたと云っても、総司の躰はとても華奢だった。まったく痛みがないという訳にはいかないのだろう。
 だが、それでも、無理をして微笑んでくれる総司がいじらしい。
「好きだ、愛してるよ……総司」
 掠れた声で囁きかけ、左右の膝裏に手をかけた。ぐっと押し上げ、ゆっくりと抽挿を始める。
 一瞬、怯えた顔になった総司は、だが、男の優しい動きに安堵の息をもらした。自然と躰の力も抜け、男を受け入れやすくなる。
「ん…あッ、あ、あ…ぅ、ぅんッ」
 蕾の奥を力強く突きあげられるたびに、総司は声をあげた。その声も次第に甘く掠れてゆく。
 なめらかな頬に赤みが戻ったのを確かめ、土方は躰を倒し、ちゅっとキスを落とした。総司の両足を抱え込むと、今まで堪えていた欲望を解き放つように、激しく腰を打ちつけ始める。
 たちまち、総司が甘い悲鳴をあげた。
「あっ、あぁっ、ぁ…は、ぁあっ……ッ」
「気持ちいいか? 総司……」
「ぅ、んっ、んッ…ぁあっ、いい…ぃっ、気持ち…い…っ」
 蕾の奥をぐりぐりと捏ねまわされ、総司は男の肩にしがみつき泣きじゃくった。強烈な快感美が背筋を突き抜けてくる。
 土方は熱い吐息をもらしながら、小柄な躰を抱きすくめた。二つ折りにし、上から体重をかけて奥まで太い楔を打ち込んでくる。
「や…ぁっ、ぁあッ、ぁッ」
「すげぇ熱いな……」
「あっ、ぅ…ぁあっ、ぁああんっ」
 一際高い声をあげた瞬間、総司は達してしまった。白い蜜が飛び散る。それに、土方がちょっと目を見開いた。
「すごいな、ふれてもいねぇのに」
「いやっ、云わないで……っ」
「いいじゃねぇか。それだけ感じたってことだろ?」
 くっくっと喉を鳴らして笑い、土方は総司の膝裏から腿を手のひらで撫でまわした。時折、くすぐるように、まだ震えている総司のものを指さきで撫でる。
 そのたびに、総司が「やだぁ」と泣くのが可愛くてたまらなかった。潤んだ瞳に、なめらかな頬を上気させた様は、ベビーフェイスなのに色っぽい。男の情欲を煽りたてるのだ。
「……たまらねぇ」
 土方は低く呻くと、総司の膝裏を掴んで左右に押し広げた。そのまま激しく腰を打ちつけ始める。
 いきなり始まった荒々しい抽挿に、総司は泣き叫んだ。
「いやあっ、ぁあッ…だ、だめぇっ」
「だめって事はねぇだろう? すげぇ熱いぜ」
「やっ、ぁッぅ…ひっ、ゆ、許してっ……っ」
 泣きながら逃れようとするが、土方の大きな手が膝裏を掴んで離さない。
 淫らな音が鳴るたび、男の太い楔が蕾の奥を穿った。突き抜けるような快感に、総司は何度も目の前が真っ白にスパークする。
 耳もとにふれる男の息づかいが荒くなり、膝裏を掴む手にも力がこもった。何度も何度も蕾の奥に男の猛りが突きたてられる。
「ひっぁあッ、ぁっ、ぁうっ、やーッ、ぁ」
「……総司…っ、くっ……」
「ぁ、あああっ…ぁ、あああーッ……!」
 男の腕の中、総司が泣きながらのけ反った。その瞬間、腰奥に男の熱が叩きつけられる。
 熱いどろりとした感触に、総司は「ひぃっ」と声をあげて躰を震わせた。
 感じる部分に注がれ、妖しいほどの快感に痺れてしまったのだ。
 泣きじゃくり、男の背中に縋りつく。
「や、ぁ…ぁっ、ぁ…つぃ…っ、いやあッ」
 泣きじゃくる総司を、土方はきつく抱きすくめた。躰を深く交わらせたまま、唇を重ねる。
 甘く激しいキスは、当然、恋人たちの熱を煽るばかりで……
 誤解の末に訪れた蜜の時間は、まだまだ終わりそうになかった。












「……あ、れ?」
 総司は目を覚まし、呆然と天井を見上げた。
 一瞬、何がどうなったのか、わからなかったのだ。
 のろのろと身を起こしてみれば、そこはリビングのソファの上だった。きちんと服を着てタオルケットをかぶり、眠っていたようだ。
 しんと静まり返ったリビングには人影もなく、総司は、現実と夢の区別がつかない思いで、唇を噛みしめた。


(もしかして……夢だったの?)


 あれは、自分がつくり出した都合のいい夢だったのだろうか。
 そんな事を考えながら、ぼうっとソファに坐りこんでいると、玄関の方で音が鳴った。ガチャガチャと鍵を開ける音がして、ドアの開閉音、入ってくる足音がする。
「!」
 リビングのドアが開いた瞬間、総司はソファから飛び降りていた。駆け寄り、彼に抱きつこうとする。
 だが、膝にも腰にも、力が入らなかった。床へ崩れ落ちそうになってしまう。
「危ない!」
 とたん、鋭い声がして、男の逞しい腕が抱きとめてくれた。ふわりと抱きあげられ、躰を起こされる。
 見上げると、土方が困ったような顔で見下ろしていた。
「まったく……俺の恋人は、目が離さねぇな」
「土方さん」
 そう彼の名を呼んだとたん、安堵のあまり涙がこみあげた。ぽろぽろ涙をこぼしながら、彼の肩口に顔を押しつけてしまう。
「お、おい? 総司?」
 驚いた土方の背中に、総司は両手をまわした。子どものように、ぎゅっとしがみつく。
「……夢だったのかなって……思った」
 涙まじりの声で云った。
「目が覚めたら、土方さんがいなくて……仲直りしたのも、抱いてくれたのも、みんな夢だったのかなって……」
「ごめん、怖がらせちまったな」
 土方は総司をソファの上に坐らせると、すぐ傍の床に膝をついた。そっと手をとり、瞳を見つめて話してくれる。
「飯を買いに行っていたんだよ。すぐに食べられるようなものがいいと思って、サンドとか買ってきたんだが」
「朝ご飯……?」
「あぁ。俺もおまえも何も食っていねぇだろう? その……色々と夢中になっていたし」
「……」
 男の言葉に頬を染めつつ、総司は彼の肩越しに時計を見た。とたん、びっくりしてしまう。
「うそ! よ、4時って……夕方!?」
「あぁ」
「土方さんが帰ってきたのって、8時頃でしたよね? それじゃ、ぼくたち……」
「まぁ、かれこれ5時間はやっていただろうな。おまえの足腰たたなくなって、当然だよ」
 にっこりと綺麗な笑顔で、ごくごく当然のように云ってのける土方に、総司はかぁぁっと耳朶まで真っ赤になった。思わず、ばたばたと手足をふり回してしまう。
「そ、そういう事、平気で云わないで下さいっ」
「何で? 本当の事だろう?」
「恥ずかしいんですってば」
「そうかなぁ。俺は平気だぜ」
 不思議そうにしながら、土方はローテーブルの上に、サンドや菓子パン、買ってきたジュースなどを並べてくれた。自分は、ペットボトルのコーヒーの蓋をあけている。
 まだ赤い顔で黙りこんでいる総司の頬に、ちゅっとキスしてから笑いかける。
「ほら、食おうぜ。ランチだか、お茶だかわからねぇが、とにかく腹が減ったよ」
「……いただきます」
 小さな声で云ってから、総司は、サンドを手にとった。よくよく見れば、総司がお気にいりのパン屋さんのものだ。だが、ここは少し遠くにあり、しかも行列の店なのに。
「わざわざ……行ってくれたの?」
「俺も食いたかったからな」
 かるく肩をすくめてながす土方の優しさに、総司は胸の奥がふわっとあたたかくなった。横並びに坐った土方の肩に、こんと頭を凭せかける。
「ありがとう、土方さん」
「どう致しまして」
 くすっと笑い、土方は答えた。それから、ふと気づいたように云った。
「そう云えばな」
「はい?」
「ずっと気になっていたんだが、あの時、おまえ……何を云いかけたんだ?」
「あの時?」
 不思議そうに小首をかしげた総司に、土方はちょっと云いづらそうに言葉をつづけた。
「あの喧嘩の時だよ。俺が遮った時、おまえ、なんか云いかけただろう?」
「そうでしたっけ」
「云いかけていたよ。確か、俺とは別れない。俺と別れるぐらいなら……」
「あ、思い出しました」
 総司はサンドを食べながら、こくこく頷いた。にっこり可愛く笑いながら、答える。
「別れるぐらいなら、土方さんを刺しちゃうって云おうと思ったんです」
「……」
 土方は無言のまま、総司を見つめた。
 しばらく黙ってから、静かに問いかけた。
「……どこを」
「え?」
「だから、どこを刺そうと思ったんだ」
「胸かな。お腹じゃ、長引くでしょ」
「長引くでしょって……胸にあるのは心臓なんだぞ」
「わかっていますよ、でなきゃ、死んでくれないじゃない」
「完全に殺す気かよ!」
 思わず叫んでしまった土方は、はぁっとため息をついた。思わずテーブルに突っ伏してしまう。
「こえーよ、別れるって云っただけで、普通刺すか?」
「やだ、土方さんったら、まだ刺していませんよ」
「……」
 まだという事は、今後、実行する気なのか。
 もちろん、総司と別れる気など、さらさらない彼には無関係の事と云えるのだが、それにしても。
「……総司」
「はい?」
「俺、やっぱり、おまえに不満がある」
「え」
 びっくりして目を見開く総司に、土方は疲れた表情で云ったのだった。


「頼むから、可愛い顔をして怖い事を云うのはやめてくれ」




 本日の教訓 → 可愛いウサギに、「別れる」の3文字は禁句ということで……