店に入ったとたん、総司はまた躊躇った。
男の傍へ行こうと思うが、やはり不安だし怖いのだ。
その様子に、男が喉奥で低く嗤った。とたん、かっと頬が熱くなる。
総司はきっと顔をあげると、男にむかって真っ直ぐ歩き出した。そして、それはあと少しという処だった。
突然、男の手がのばされたのだ。
「!?」
あっと思った時には浚うように腰を抱かれ、引き寄せられていた。
男の逞しい腕の中に閉じこめられ、総司は目を見開く。
「……っ」
小さく声をあげようとしたとたん、唇が塞がれ、そのまま激しく口づけられた。
微かに開いた唇から舌が入り込み、上顎から歯茎を裏を舐めあげた。舌を絡めあい、躯の芯が痺れるようなキスをかわす。
「っ…ぁ…は……っ」
ゆるく首をふり、喘いだ。その項を掴んで仰向かせ、より深く唇を重ねてくる。
濃厚で狂おしいほどのキスに、総司は視界がぼうっと霞んだ。瞼を閉じ、両手で縋るように男の肩を掴んだ。
甘やかなキスから漸く解放された後、男の逞しい胸もとに顔をうずめた。シャツ越しに感じるのは、彼とは別の香りだ。力強い両腕できつく抱きしめられる。
それを心地よく感じながら、総司はそっと男の名を呼んだ。
「……土方さん」
「……」
「ね、土方さんってば……」
「……ったく」
短く舌打ちし、男が顔をあげた。サングラスをもぎ取るように外しながら、総司の瞳を覗き込んでくる。
「おまえ、俺じゃなかったらどうするつもりだったんだよ」
サングラスの下から現われた、切れの長い目。
見慣れた、きれいな黒曜石の瞳。
確かに、土方だった。
見たこともないような格好をしているが、これはやっぱり彼だ。
「だいたいな、見知らぬ男についてこんな処まで来るんじゃねぇ」
「だって」
総司は可愛らしく頬をふくらませた。
「知らない人じゃないもん。土方さんだもん」
「本当に俺だとわかってたのか?」
「でなきゃ、ついてくるはずがないでしょ」
声を聞いた瞬間、すぐにわかったのだ。
いくら何でも、姿形ばかりか声までそっくりなんて、ありえるはずもないだろう。
それに、見上げた背は確かに彼の背中だった。いつも自分を庇い、守ってきてくれた彼の背だったのだ。
見間違うはずがなかった。
「この辺りには来るなって、釘刺したはずだったがな」
土方は店の扉に鍵を下ろしてから、また戻ってくると、総司の肩を抱いて店の奥へ促した。
あちこちカバーの掛けられた店内は小綺麗にされてあるが、活気は全くない。恐らく閉店される予定の店なのだろう。
その証拠に、土方が「ここはもうすぐ取り壊される予定の店で、時折、息抜きや連絡に使っているんだ」と教えてくれた。
傍らの壁に凭れかかり、すらりとした脚を組んだ土方を、総司はじっと見つめた。
その視線に気づいた土方が、「あぁ、これか」と己の身なりを見下ろす。
「アンダーカバーに入っててな、所謂変装って奴だよ」
「違う人だと思ってました」
「だよな」
土方は悪戯っぽく笑った。
「おまえ、格好よくて綺麗な人を見たって、顔を真っ赤にして云ってたものな」
「あ、あれは……!」
総司はかあぁっと頬を赤らめた。
まさか、本人にむかって云ってたなんて、思ってもみなかったのだ。今から考えると、たまらなく恥ずかしい。
「土方さんだなんて、思わなくて。でも、何だかわからないけど、気になって仕方がなかったから……」
「俺自身でなきゃ、嫉妬でぶち切れてる処だ」
くっくっと笑いながら、土方は総司の細い肩を抱きよせた。それを、総司は不安そうに見上げた。
「あのね」
「ん?」
「もしかして、ぼく……お仕事の邪魔した?」
その問いかけに、土方はかるく肩をすくめた。
「まぁ、大丈夫だろう。そろそろお開きって処だったし」
「お開きって……あの女の人たちと?」
「変なやきもち焼くなよ。あんなの仕事に決まってるだろうが」
「ふうん」
ベビーピンクの唇を尖らせた総司に、土方はちょっと困ったように笑った。身をかがめると、耳もとに唇を寄せてくる。
「俺が……おまえ以外、目に入るはずねぇだろ」
「ほんと……?」
「あぁ、嘘なんかつくものか。総司、俺はおまえだけに夢中だ……」
柔らかく頬にふれられ、男の大きな掌で包みこまれた。見上げると、また唇を重ねられる。
腰を抱きよせられ、角度をかえて何度も口づけられた。やがて、ふわりと抱きあげられる。土方は総司を腕に抱いたまま、店内を横切った。
ビリヤード台の上にそっと坐らせた。レールの木目が艶めいて美しい。
「土方さん……?」
不思議そうに首をかしげる総司に、土方は微笑んだ。
「おまえにふれるの……久しぶりだな」
「逢うのも、声を聞くのもです」
「すまない……怒ってるか?」
「怒ってないけど、淋しかった。メールの返事もないんだもの」
「云い訳になるが、アンダーカバーに入ってて携帯、家の方に置いていたんだ。本当にすまない」
「ううん、そんな謝らないで……」
そう答えながら、総司は大きな瞳でじっと彼を見上げた。
何だか、違う男の人みたいだと思った。いつもより男の色香を強く感じてしまう。
ここ最近、仕事帰りなどでしか逢ってないためか、スーツ姿の彼しかあまり見ていなかった。たまにラフな格好をしていても、淡い色合いのシャツや洗いざらしのジーンズとか、柔らかな印象をあたえる服装ばかりだったのだ。
そのため、今、黒のオーバーシャツに黒革のジーンズを纏った彼が、別の男のように感じられる。
まるで、しなやかで美しい夜行獣のようだ。
はらりと額に落ちかかった黒髪を指さきで煩わしげにかきあげた土方は、微かに目を細めた。総司の躯に、すっと視線をはしらせる。
「……」
男の瞳に宿った欲情に、総司はどきりとした。ほんの少しだけ怖くなる。
だが、一方で、自分を求めてくれる彼が嬉しくて、恋しくて。
「土方さん」
十日ぶりの男の躯に手をまわし、むしゃぶりつくように抱きついた。その逞しい胸もとに小さな頭を擦りつける。
欲しくて欲しくてたまらない──なんて。
こんな事を云ったら、呆れちゃう?
そう問いかけた総司に、土方は微笑んだ。柔らかなキスを頬に唇にあたえながら、掠れた声で囁きかけた。
「俺も、おまえが欲しくて……気が狂いそうだ」
静まりかえった店内に、どちらともしれぬ恋人たちの吐息が甘く響いた……。
ビリヤード台に張られた濃いグリーンの布地に、白い肌がよく映えた。
総司は衣服をすべて脱がされ、裸身をさらされていた。瑞々しい裸身がとても美しく、のびやかだ。
「……総司」
それを鑑賞するように眺めながら、土方はより深く繋がろうと、その細い両脚を折り曲げた。ぐっと突き上げたとたん、店内に響いた甘い悲鳴が耳に心地よい。
この愛らしい恋人は、よくも悪くも、男を煽る術を無意識のうちに心得ていた。
その証拠に、今も柔らかく身を捩らせながら、小さな桜色の唇で「…やっ……」と甘く喘いだ。そのくせ、とろけるように熱い蕾は男の猛りを締め付け、離そうとしない。
土方はくすっと笑い、その耳もとに唇を寄せた。
「……本当に、嫌か?」
「んっ、ぁ…あ、は……っ」
「もっと動いて欲しい? それとも、もうやめて欲しい?」
男の言葉に、総司はふるふると首をふった。柔らかな髪がふり乱され、細い指さきがきゅっと折り曲げられた。
「意地悪…しない、で……っ」
懇願するよう瞳で、総司は彼を見上げた。
それに、土方は黙ったまま微笑んでみせる。
甘やかで濃厚な愛撫の後、二人はそのまま交わったのだが、久しぶりであるはずなのに、男は焦らすような動きを続けるばかりだったのだ。
もしかすると、仕事の邪魔をした事を、やはり怒っているのかもしれない。
それを思うと、総司は不安でたまらなくなった。
「お願い」と、彼の胸に縋りつくと、土方が優しい声で囁いた。
「意地悪なんかしてないさ」
「うそ……」
「本当だ。俺がおまえに嘘をつくはずねぇだろ」
「わかん、ない……も……っ」
総司はこれ以上待てず、自分から腰を動かした。拙い動きながら、快楽のポイントにあてようと細い腰を必死にゆらめかせる。
だが、どうしても上手く出来なかったようで、とうとう泣き出してしまった。
ふぇ…っと涙をこぼしながら、しがみついてくる総司が、たまらなく可愛い。
「……すげぇ可愛い」
土方はくすくす笑いながら、総司の細い躯を両腕で抱きすくめた。あやすように背を撫でてやると、総司がいやいやと首をふる。
そんな甘くて優しい愛撫よりも、もっと激しく濃厚な快楽が欲しいのだろう。
このウサギは可愛い顔で、快楽に溺れるのがとても好きだ。
「お望みどおり、うんと抱いてやるよ」
そう囁くと、土方はレールをこえてビリヤード台の上に乗り上げた。かるく口づけてから、その細い腰を掴んだ。
そのまま、最奥を己の猛りで一気に穿ってやる。
「ぁああーッ…っ!」
ようやく与えられた快楽に、総司が甘い悲鳴をあげた。
土方は僅かに目を細め、恋人の華奢な躯を激しく揺さぶりはじめた。いきなり始まった責めに、総司は声をあげて泣きじゃくる。
「ッひっあ、ぁあッ…ぃ、やぁっ」
男の背に、必死になって抱きついた。細い指さきが皺になるほどシャツを掴む。
総司は衣服を剥ぎとられていたが、土方の方はシャツすらも脱いでいなかったのだ。黒革のジーンズも前だけ開いたのみで、総司を抱いている。
動くたびに、逞しい胸もとで銀色のペンダントが揺れ、たまらなくセクシャルだ。
泣きながら見上げると、黒髪をかきあげ、唇の端をつりあげる彼と視線が絡みあった。
とたん、噛みつくように口づけられる。
獣じみたキス。
いつもと違う格好の彼とのセックスに、総司は自分でもおかしいほど感じてしまった。
「あ…ぁあんッ! はぁ…ぁ、んんッ」
「気持ち…いいか?」
「ん、ん…ぃ、イイッ…あぁ…ッ!」
太い猛りで蕾の奥をグリッと抉られるたび、じわっと腰奥が甘い快感に満たされた。
このままイッてしまいたくて、泣きながら己のものに手をのばした。
とたん、男の手が掴み無理やりもぎ離される。
総司は激しく首をふり、泣きじゃくった。
「やだぁ…ッ!」
「ったく、このうさぎは本当に油断大敵だな」
「お願…イきた……っ」
「自分でするのは反則だぜ?」
土方はくっくっと喉奥で笑い、抱え込んだ総司の白い腿の内側を、ちゅっと唇で吸いあげた。
とたん、「あぁっ」と身悶える総司が可愛らしい。
大きな掌できゅうっと握りこんでやると、桜色の唇から安堵したような吐息がもれた。それを眺めながら、ゆっくりと手でしごきあげてやる。
たちまち総司のものは震え、男の指さきを蜜で濡らした。
「一緒にいこう……」
そう囁いてやると、総司が涙をいっぱいにためた大きな瞳で彼を見上げ、こくりと頷いた。
微笑みかけ、背に手をまわして抱きおこす。
そのまま膝上に坐らせる形で、一気に腰を下ろさせた。
「…ッひ、ィッ!」
真下から男の剛直に深々と貫かれ、総司の目が大きく見開かれた。白い足の踵が宙を蹴り、台上にあったボールが音をたてて転がる。
ポケットに落ちてゆく色とりどりのボールを目で追いながら、土方は総司の腿と腰に腕をまわし、抱え直した。
そのまま力強く揺さぶりはじめる。
「ぁああッ! や…ぁあっ、ぁう…ッ」
始まった激しい抽挿に、総司は悲鳴をあげた。男の肩にしがみつく。
互いの腹の間で総司のものが擦られ、たちまち濡れそぼった。桃色に染まり、ふるふると震えている。
土方はそれを感じながら、熱くとろけた蕾の奥へ己の楔を何度も鋭く打ち込んだ。突き上げ、中を淫らに捏ね回してやる。
くちゅくちゅと音が鳴り、総司の耳朶が真っ赤になった。
「やあッぁ、あッぁ…ぁぅッ」
「……すげぇ熱…とろけそうだ……っ」
「ひッぁっ、いくっ…いっちゃ…」
「イけよ……俺も、いくから」
快楽に溺れた男の荒い息づかいが耳もとにふれ、熱い歓喜がこみあげた。それがより深い快楽を呼び、男の腰に脚を絡ませてよがり泣く。
とたん、男の太い猛りで深々と貫かれ、強烈な快感美が背筋を一気に突き上げた。
「ぁぁあッ! 土方…さんぅ…っ」
白い蜜が迸った瞬間、総司の腰奥もきゅうっと収縮した。それにつられ、土方も己の熱をその腰奥に叩きつける。
「ぃッ、ヒッぁああ…ッ…ぅ…ッ」
何度も腰を跳ね上げるようにして、総司は絶頂に達した。白い蜜が握りしめた男の指の間からこぼれてゆく。
快感に震えるその細い躯をきつく抱きしめ、土方はその肩口に顔をうずめた。
「……はぁ……っ」
満足気な吐息をもらした男に、総司はぴくんっと身を震わせた。それに顔をあげ、土方が目を細めるようにして総司に口づけてくる。
「すげぇ……良かった」
耳もとにふれた男の言葉に、総司はなめらかな頬を紅潮させた。こくりと頷き、男の逞しい胸もとに顔をうずめる。
抱きしめてくれる彼の腕の中は、どこよりも心地よく甘やかだった……。
余韻にひたりながら彼の腕に抱かれていると、どこかで電子音が鳴った。
ぼんやりと顔をあげれば、ビリヤード台の上に放り出された携帯電話だ。 土方は総司を膝上に抱いたまま、手をのばして取り上げた。
「……俺だ」
低めた声で答えるそれに、仕事の相手だと知り、総司はちょっと息を呑んだ。慌てて彼の膝上から降りようとするが、その腰をさらうように抱き寄せられる。
見上げると、土方が人差し指を唇にあてて、「黙って」と合図した処だった。
それに、総司も口を閉ざし、彼の胸もとにおとなしく凭れかかる。
「撤収か……そろそろだなと思っていた。なら、こっちも……あぁ、引き上げる」
携帯電話は仕事用のものなのか、いつもと違うメタリックカラーのものだった。電話をもつ指に彫刻が施された銀色の指輪が光り、どうしても違和感が否めない。
そんな事をぼんやり思っていると、不意に彼の唇から飛び出した言葉に驚いた。
「え? あ……総司か」
びっくりして見上げると、土方が悪戯っぽく笑っている。ちゅっと音をたてて頬にキスされた。
「ここにいるよ。おまえの勝ちだな……あぁ、わかってるさ。明日の昼飯、おごってやる。……じゃあな、お疲れ」
(??? な、何?)
意味がわからぬ総司に、土方は電話を切りながら微笑んでみせた。
「斉藤だよ」
「え」
「賭をしてたんだ。おまえが俺を見分けるかどうかって……ま、斉藤の勝ちだったけどな」
「将来の警察官僚が、昼ご飯で賭けごとですか」
「そんな怒るなよ」
くすくす笑いながら服を着せてくれる土方に、総司は怒る気にもなれずため息をついた。
土方は総司の服を着せ終わると、自分も身支度を調えた。そっと床へと抱きおろし、心配げに覗き込んでくる。
「大丈夫か? 歩けるか?」
「……家まで…っていうのは、ちょっと無理みたい」
「なら、タクシーだな。俺もあがるから、一緒に帰ろう」
そう何気なく云ってから、土方は不意に気づいたようだった。官舎で一緒に暮らしていたあの頃とは違うのだ。
ちょっと気まずそうな表情で口ごもる。
「その……俺の家に、構わねぇか?」
「土方さんがいいなら、お願いします」
素直に答えた総司に、土方はほっとしたようだった。小さく微笑みかけ、総司の手をひいて店を出る。
つかまえたタクシーに乗り込み、マンションに向った。
だが、タクシーの運転手である年配の男性は、土方がやくざかホストとでも思ったようだった。
そんな男が真面目そうな可愛らしい少年を連れている様に、心配げに顔をしかめている。
肩を抱かれている事からも、無理強いされているように見えたのだろう。
「お客さん、あの……」
マンションに着いてから意を決して云いかけた運転手に、土方はため息をついた。苦笑しながら、警察手帳を示してみせる。
呆気にとられる運転手にきちんと金を払ってから、土方は総司をつれてタクシーを降りた。
エレベーターに乗ったとたん、総司がくすくす笑いはじめた。
「土方さん、やくざか何かだと思われたんですね」
「純真なおまえをたぶらかす悪い男に見えた訳だ」
「実際、そうじゃないの?」
「俺は悪い男か」
「んー、その格好してる土方さんって、危ない感じがしてどきどきするから。悪い男っていうより、抱かれたい男って感じ?」
にこにこしながら無邪気に云ってのける総司に、土方は内心ため息をついた。
こんな処で煽ってどうするんだか。
エレベーターの中ってのは密室だし、それに、防犯カメラにも死角ってものがあるんだぞ。
そう思いざま、土方は総司をその死角スペースに引き込むと、頬を掌で包み込むようにして仰向かせた。びっくりして目を見開く総司に、深く口づける。
「!? ッん…ぅ、ぁ…っ」
舌で舐めあげて、はれぼったくなるまで吸って。
絡めて、舐め回して。
総司のふっくらと柔らかで甘い唇を、たっぷり心ゆくまで堪能してから、土方はようやく解放してやった。とたん、軽い音をたててエレベーターが到着する。
「ほら、降りるぞ」
何事もなかったようにさっさと降りる土方を、総司は顔を真っ赤にして見上げた。
それから、「土方さんの莫迦っ」と小さく罵ってから、ものすごい勢いで駆け下りる。
「あ、あんな処で何考えてんのっ」
「おまえの事だけ」
「はぐらかさないで」
「煽ったおまえが悪いんだろうが」
土方は、くっくっと喉奥で笑った。
部屋に入ると、まっすぐバスルームに向った。
土方はさっさと衣装まがいの服を脱ぎ捨て、中へ入ってゆく。ガラスが曇り、シャワーの音が雨のように降り注ぎはじめた。
総司は、彼の部屋から持ってきたデニムシャツと洗いざらしのジーンズを、脱衣所に置いておいた。
リビングでお茶をいれながら待っていると、それに着替えた土方が濡れた髪をふきながら入ってきた。
「はい」と手渡したミネラルウォーターを、ごくごくと飲む土方の姿を、総司はじっと見つめた。
その視線に気づいた土方が口許を手の甲で拭いながら、小首をかしげる。
まだ濡れた髪が額に乱れて、とてもセクシャルで。
淡い色合いのシャツが褐色の肌に映え、洗いざらしのジーンズに太めのベルトが大人の色気を感じさせる腰まわり。
すらりと均整のとれた長身は、とても綺麗で──優しくて。
(優しくて綺麗な獣みたい)
うっとりと見つめていた総司は、土方に何度も呼ばれている事に気づいていなかった。
三度目にはっと気づいてから、慌てて「はい」と答える。
土方が訝しげに眉を顰めた。
「いったい、どうしたんだ」
「……うん……あのね」
総司はなめらかな頬をほんのりと染め、大きな瞳で彼を見上げた。
そして、答えた。
「やっぱり、土方さんがいいです」
「え?」
「いつもの土方さんが好き」
両手をのばし、彼の胸もとに甘えるように身を寄せた。
「きれいで優しくて……だい好き」
総司の言葉に、土方はちょっと目を見開いた。
それから。
嬉しそうに笑うと、可愛いことを云ってくれる恋人を、両腕でぎゅっと抱きしめたのだった。
あなたが一番なの
どんな時でも、何をしていても
世界中の誰よりも
きれいで、優しくて
とびきり恰好いい
いつもの彼が、だい好き……!
[あとがき]
今回とにかく書きたかったのは、遊び人風土方さん。スーツ姿も着物姿もお似合いですけど、たまにはこういう恰好もさせたくて。しなやかな指だから、太めのシルバーのリングとか似合う気がするんですよね。
キャリアなのにアンダーカバーに入っちゃって、あんな処で総司といちゃついてる土方さん。どうか、おおめに見てやって下さいませ〜。
ラストまでお読み下さり、ありがとうございました♪
