「かくれんぼの恋シリーズ」
「冬の朝は発声練習!」挿話
「……斉藤さん」
総司は廊下を歩きながら、不思議そうに呼びかけた。
それに、斉藤はえ?とふり返る。
「ど、どうかしたか」
「それはこっちの台詞ですよ。どうして、こんなにゆっくり歩くのです?」
「ゆっくり?」
「そう。ものすごーくゆっくり。ぼく、早く土方さんがいる医務室へ行きたいのに」
「…………」
今、二人は警視庁の中にある医務室へ向かっている最中だった。
無機質な廊下には、二人しかいない。
だが、何故か、斉藤の歩みは遅かった。
まるで、亀のごとく。
「き、気のせいじゃないのか」
「そうかなぁ。もしかして、斉藤さん、医務室へぼくを連れてゆくの、気が進まないんじゃないですか?」
ぎくりとした斉藤を前に、総司は不安げに長い睫毛を瞬かせた。
「……もしかして」
俯いた可愛い顔に、憂いが落ちる。
「土方さんの容態がよくなったというのは本当は嘘で、まだとっても悪くて……それで、ぼくに逢わせたくないとか……」
たちまち涙声になってしまった総司に、斉藤は慌てて否定した。
「それは違う! 絶対に違う」
「じゃ、どうして……」
「だから、これには理由というか何というか。その、先に話しておきたい事があるんだ」
「先に話しておきたい事?」
「あぁ」
「いったい、何ですか?」
総司がそう問いかけた時だった。
不意に、廊下の角の向こうから、きゃあ〜♪と歓声が響いてきた。
それに、総司が目をまん丸にする。
「……な…に?」
小首をかしげると何を思ったのか、すたすたとそちらへ歩き出した。
斉藤が慌ててとめたが、もう遅い。
角を曲がってみると、ミニスカポリスがたくさん集まり、何やらクジを引いている最中だった。
あたったらしい者は大喜びしている。
医務室の前で。
「……???」
総司は訳がわからないまま、医務室のドアを開いた。
中へ入れば、結構広いそこには、どうやら土方だけが休んでいるらしく、一つのベッドだけが塞がっている。
一番奥のベッドが、そうだ。
だが、しかし!
土方は一人ではなかった。
周囲をたくさんのミニスカポリスが取り囲んでいたのだ。
それも、とびきりの美人揃いで!
めちゃくちゃ可愛い女の子や、美人さんのミニスカポリスが、熟睡しているらしい土方を取り囲み、がっちりガードしてあれこれ世話を焼いている。
汗をぬぐったり、額のタオルをかえたり、布団を整えたり。
ハートマーク飛びまくりの、有様で。
まるで、どこぞのハーレムのようだ。
「…………」
唖然としている総司の傍で、斉藤がたらたら冷や汗を流しつつ懸命に取りなした。
「いや、えーと、土方さんって人気あるから」
「……人気?」
「人徳というか、何というか」
「それは女の人限定なんじゃないですか?」
総司が突っ込むと、斉藤は否定できなかったらしく、ぐうと詰まってしまった。
それを大きな瞳でじいっと見つめた総司は、やがて、視線を床へ落とした。
それから、低い低い声で呟いた。
「……人のこと、さんざん云っておいて」
「え?」
「コンパ行くなとか、隙がありすぎるとか、文句云っておいて」
「そ、そうなんだ」
「なのに!」
総司は不意に顔をあげると、叫んだ。
「自分は……これな訳っ!? いつもいつも、こーんなハーレム状態でお仕事してるって訳なんですか!」
「い、いや。違うよ、それは誤解だって」
「誤解も何も、今この状況が証拠でしょうが!」
総司はびしっと土方らの方を指さしてから、きっと唇を引き結んだ。
むろん、可愛い顔なのだが、その瞳は、嫉妬にめらめらめらめら燃えまくっている。
愛の炎パワー、全開だ!
やきもちボルテージもぐーんぐん上がっている事だろう。
そんな総司の様子を、斉藤はびくびくしながら眺めた。気持ち、一歩どころか二歩も三歩も後ずさってしまっている。
その斉藤を、総司が不意にふり返った。
そして、宣言した。
「斉藤さん!」
「は、はいっ」
「ぼくは土方さんの恋人です!」
「あ、あぁ」
「同棲までしてる仲です、一生を誓いあった間柄なのですっ」
「そ、そうだな」
「だから、だから……ミニスカポリスなんかに負けません──ッ!!」
そう叫ぶなり、総司はものすごい勢いで、そのミニスカポリス達が取り囲む土方のベッドへと突進していった。
──その後の修羅場は、皆様のご想像にお任せするということで。
まぁ、ただ一つつけ加えるならば。
総司VSミニスカポリスがくり広げた凄まじい争い──土方争奪戦をとめるために、斉藤がそりゃもう涙ぐましい努力の末、ひっかき傷だらけになり、その間、当の本人である土方はすやすやお休みになっておられたという事。
なのである……。