さて、その翌日の事である。
 いつもどおり路上演習を終えた総司は、伊庭と仲良く雑談しながら教習所のロビーに降りた。伊庭が休憩に入るので、一緒にお茶でも飲もうかという事になったのだ。
 だが、ロビーに降りてきた総司は、とたん、大きく目を見開いた。

(……え、えええっ!?)





 教習所のロビーというものは、さして豪奢でも何でもない。そっけないほどシンプルで事務的だ。
 そこに、思いっきり場違いの男がいた。
 ソファに腰かけている様が人目を惹きまくっている。その証拠に、彼の傍には女の子が群がり、あれこれ話しかけているようだった。それに、淡々とした表情で受け答えしている男。
 こちらからでもわかる、端正な横顔。さらりと流された艶やかな黒髪に、切れの長い目。濡れたような黒い瞳。形のよい唇から、引き締まった顎にかけての線まで、見れば見るほど精悍で綺麗に整った顔だちだった。
 均整のとれた長身に、ダークブラウンのハイネックセーターとジーンズを纏い、傍にコートを置いている。シンプルな装いだが、彼が纏うとまるでメンズモデルのような華が漂った。彼には魔力のように人を惹きつける男の艶があるのだ。
 突然の極上にいい男の出現に、教習生はもとより事務方の女たちまで色めきだっているのがよくわかった。
 だが、彼はそんなもの全く歯牙にもかけていないようだった。





「──総司」
 ロビーに入ってきた総司の姿を目にすると、土方はにっこり微笑みかけた。立ち上がり、こちらへと歩み寄ってくる。
 伊庭の存在も完全に無視して、その細い腕を掴むと己の傍へ引き寄せた。
「ひ、土方さん」
 総司は唖然としていた状況からようやく脱して、彼を見上げた。
「どうして、ここに」
「今日の午後から、俺は非番なんだ。それで、ここを覗きに来てみた」
「覗きにって……」
 口ごもる総司をよそに、土方はゆっくりと目の前に立つ伊庭へ視線をうつした。形のよい唇に、薄い笑みをうかべる。
「……先日はどうも」
「先日? あぁ」
 訝しげに呟いた伊庭は、すぐあの時の事を思いだしたようだった。
「あの時の人かい」
「あの節は迷惑かけてすまなかった」
「いや、迷惑っていうより面白かったぜ?」
「……」
「で?」
 伊庭は小首をかしげた。もう半ばわかっているくせに、わざとらしく問いかける。
「総司とはどういう関係なんだい? 兄弟とか?」
「……」
 総司、と、いかにも親しげに伊庭が呼び捨てた事に、土方の眉が顰められた。ぐっと総司の腕を掴む手に力がこもる。
 それを不安そうな顔で、総司が見上げた。


 ま、まさか。
 こんな処で彼氏とか云うんじゃないよね!?


 びくびくしている総司の視線を感じつつ、土方はきっと切れの長い目で相手を睨めつけた。低い声で、きっぱり云いかける。
「俺は、総司の……」
「あのっ、あのですね!」
 不意に総司が大声をあげて、言葉を遮った。
「この人は、ぼくの保護者なのです。ぼく、両親がいないので後見人というか、遠縁というか……」
「……へぇ、親戚の人だったのかい」
 どこか疑わしげに呟く伊庭に、総司はこくこく頷いた。
 勝手に親戚にされてしまった土方は、不機嫌そのものの表情になってしまっている。だが、その言葉を封じるように総司はまくしたてた。
「とても心配性で、いつまでもぼくの事も子ども扱いして」
「総司は大学生だろ。子どもって年じゃねぇと、おれは思うぜ」
 伊庭はにこやかに笑った。
「免許だって、もうすぐ取れそうだしさ。何しろ、総司はすげぇ上達が早いから」
「ありがとうございます」
 総司は嬉しそうに頬を染め、にっこり微笑んだ。
 それは運転の事を褒められた故だったのだが、土方は眉を顰めた。他の男の前で、そんな笑顔を見せるな!と怒鳴りたくなる。


 しっとり潤んだ瞳に、仄かな桜色に染まった丸い頬っぺ。
 ぷるんとした唇に、花のような笑顔。
 まさに、可憐な白い花のごとく。
 誰もが見惚れてしまう、可愛らしさだった。


 実際、周囲の男たちは皆、総司をちらちら見ているし、目の前の伊庭に到っては当然で、可愛くてたまらないと云いたげに目を細めていた。
「……」
 土方は拳をぐっと握りしめた。
 正直な話、今すぐこの場から総司をかっさらって、どこか誰の目にもつかぬ場所へ隠してしまいたかった。だが、そんな事すればこのピンク兎はきゃんきゃん怒って飛び出してしまうに違いない。
 何しろ、この恋人は可愛い外見と裏腹に、とっても気が強く頑固ものなのだから。
「土方さん」
 苛々しながらそんな事を考えていると、総司は彼の方を見上げた。大きな瞳でじっと見つめながら、云ってくる。
「ごめんね。今から、ぼく、また教習なの」
「そうか」
「だから、帰っててくれますか?」
 言葉はお願い口調だった。だが、その目は「お願いだから帰ってちょうだいー!」と、必死に訴えている。
 土方はしばらくじっと見つめてから、かるく肩をすくめた。煩わしげに片手で前髪をかきあげながら、頷く。
「……あぁ、わかった」
 意外にも素直に頷いてくれた土方に、総司はちょっとだけ警戒心をもった。後が怖い気もする。だが、今はとりあえず帰ってもらった方が安全なのだ。
 総司は「じゃあね」と手をふり、くるりと背をむけた。とっとこ歩き出そうとする。
 その時、不意に土方が後ろから呼びかけた。
「総司」
「え?」
 ふり返った瞬間、腕を掴まれて引き寄せられた。
 総司は大きく目を見開いた。
「!?」
 土方は総司の項を掴んで仰向かせかと思うと、強引に唇を重ねたのだ。
 まるで二人きりの時のような、濃厚な甘い口づけ。
 とろけてしまいそうな恋人のキス。
 抱きしめる土方の腕の中、総司の頭はまっ白になった。それでも、ヒューッとはやしたてる声と、女の子達のきゃああっという黄色い歓声は、耳に届く。
「──」
 呆然自失状態の総司に、土方は口づけの後、にっこり綺麗な顔で笑いかけた。悪戯っぽい光をうかべた黒い瞳が、可愛い恋人を覗き込む。
 優しい手つきで衣服の乱れを直してくれながら、云った。
「じゃあな、頑張れよ」
「……」
 土方は伊庭の方をちらりと見てから、だめ押しとばかり、まるで見せつけるように総司の頬を指さきですっと撫でた。
 これは俺のものだ! と云わんばかりの仕草だ。
 ぼーっと見上げてる総司に満足げに微笑んでから、踵を返した。先程とは打って変わり、機嫌良さそうな様子で歩み去ってゆく。
「──」
 そんな彼氏の背を呆然と見送っていた総司だったが、やがて、頬から首筋、耳朶まで真っ赤っかになった。
 そして。
「────っ!!」
 両手で顔をおおうと、それこそ文字通り脱兎の如く、その場から走り去ったのだった。












 教習を終えて出てきた総司は、駅まで急ぎ足で歩き出した。
 途中、携帯電話でメールしてみると、案の定、「待ってる」と返ってくる。
「……もう許さないんだからっ」
 ぷんすか怒って待ち合わせ場所まで向っていった総司は、勢いよくその建物に入ろうとしてはたと気がついた。

(ここって……ぼくの部屋じゃない!)

 合い鍵をまだ渡してはいないので、エレベーターであがってみると、土方は部屋の前に佇んでいた。壁に背を凭せかけ、携帯電話を弄っている。
 それがやたら様になっていて、格好よかった。男らしい精悍な横顔にダークブラウンのセーターがよく映え、思わず見惚れてしまう程だった。
 一瞬、ぼーっと見惚れてしまった総司だったが、すぐさま、はっと我に返った。
「土方さん!」
 照れ隠しもあって大きく呼ぶと、土方が顔をあげた。こちらを見て、笑う。
「そんな大声で呼ばなくても、聞こえるさ」
 そう云ってから、柔らかく手をさしのべた。
「お帰り、意外と早かったな」
「あたり前でしょっ」
 突進するかのごとく駆け寄ってきた総司に、土方は嬉しそうに笑った。
「そうか、俺に逢いたくて早めに切り上げてきたんだな」
「本気で云ってます? 自分がした事もう忘れたのっ?」
 ぷんぷん怒りながら、総司は鍵をさしこんだ。ガチャッと回すと、土方が傍らからドアを開けてくれる。いつものように総司の背に手をまわし、土方も入ってきた。
 玄関をあがるとすぐ、後ろから抱きすくめられた。首筋に顔をうずめ、囁きかける。
「総司、愛してるよ」
「誤魔化さないで! ぼくは怒ってるんです」
「何で?」
「何でって、あんな事されて怒らないはずないでしょっ?」
 思わず叫んでしまった総司に、土方はその華奢な躯を腕の中におさめたまま、くすくす笑った。
「可愛いなぁ、おまえは」
「ちょっ……土方さん」
「こんな可愛い恋人なんだ。キスしたくなって当然だろ?」
「だからって、時と場所ってものを考えて下さい! あなたにはTPOってものがないの?」
「一応あるつもりだが、あぁいう場合はキスした方がいいと思ったからさ」
「はぁ?」
 呆れたような総司に、土方は腕の力を緩めた。その隙に、総司はたたっと部屋の中へ駆け込んだ。それを追うように、土方が入ってくる。
 二人して脱いだコートを片付け、暖房をつけた。あたたかくなり始めた部屋の中で、土方はマットの上に腰をおろした。ぷうっと頬をふくらましたまま突っ立っている総司に、にっこり笑いかける。
「ほら、おまえも坐れよ」
「……ここ、ぼくの部屋なんですけど」
「そんなのわかってるさ。けど、色々聞きたいんだろ? なら、坐れって」
 総司はちょっと躊躇ったが、結局、土方の隣に腰をおろした。それに、土方が手や髪を撫でてくれながら、優しい声で促してくる。
「聞きたい事あるなら、いえよ。何でも答えてやるからさ」
「じゃあ、聞くけど」
 総司はきっとした表情になると、訊ねた。
「どうして、あんな処でぼくにキスしたの? 何もあんな人が大勢いる処でしなくても」
「牽制さ」
「へ?」
「牽制だよ。おまえに云い寄ろうとする連中を、追っ払うためのキスさ」
 土方の言葉に、総司の目がまん丸になった。
「ぼくに云い寄るって……云い寄られていたのは、土方さんの方じゃない! 沢山の女の人に囲まれて、べたべた話しかけられて」
「そうだったかな」
「そうだったかなって……」
「やきもち妬いた?」
 悪戯っぽい笑顔で覗き込まれ、総司はどきりとするのを感じた。この笑顔に弱いのだ。
 どぎまぎしながら視線をそらすと、土方はくすくす笑いながら頬にキスを落とした。
「妬いてくれて、嬉しいよ」
「土方さん」
「俺もすげぇ妬いた。おまえが伊庭って男と話してるの見たら、むかむかした」
「……え?」
 総司の目が見開かれた。唖然とした表情で、彼を見上げる。
「伊庭先生のこと? 何で、どうして?」
「……」
「ぼくは男の子なんですよ。伊庭先生は同性なんだし、そんな」
「俺だっておまえと同性だろうが」
「え、でも」
「あいつといてわからねぇのか? あいつ、絶対におまえに気があるぞ」
「そんな、まさかぁ」
 総司はとんでもなく可笑しい事を聞いたとばかりに、ころころと笑いだした。無邪気な子どものような顔で笑っている。
 それに、土方は憮然としてしまった。


 あれだけ惚れてますって顔で見つめられていて、どうしてわからねぇんだ?
 たった一度見たきりの俺でさえわかったのに。 


「とにかく、あのキスは牽制だ」
 土方は不機嫌そうな表情のまま、きっぱりと云いきった。
「おまえは俺のものだと、見せつけるためのな」
「……」
 男の言葉に、総司は目を見開いた。そして、じっと彼だけを見つめている。
 それに、土方が「何だ」と眉を顰めると、総司は微かに目を伏せた。彼の肩口に頭を凭せかけてくる。
「……あのね」
「総司?」
「ぼくは、あなたのものです。土方さん、あなただけの……でも、でもね」
 僅かに細い肩が震えた。
「あなたは、今も……ぼくだけのもの……?」
「総司……」
 目を見開いた土方に、総司は小さく笑ってみせた。儚げな、淋しそうな笑み。
「一年もの間……あなたと離ればなれになって、あなたを一人ぼっちにして苦しめて。だから、ぼく、不安なの。ぼくは今もあなたのものなのか、あなたはぼくだけのものなのか」
「……」
「だって、一年って長いじゃないですか。その間、あなたが他の誰かに心をうつしても……仕方ないし」
「総司」
「こんな事云ってごめんなさい。でも、ぼく、今までの事を埋めるためにも一緒に沢山いたくて。だから、免許とったら、あなたを迎えに行けて一緒にいる時間が増えるし、いいなぁと思っていたの。そう出来たら、こんな不安も消えるのかなって……でも」
 そう云ってから、総司は、はぁっとため息をついた。
「今日……あなたが沢山の女の人に囲まれてるの見たとたん、やっぱり悔しくて不安でたまらなくなって。だから、わざと伊庭先生と仲良く話したりしたの……あぁ! なんか何を云ってるのかわからなくなってきちゃった……ごめんなさい」
 そう云うなり、総司は両手で顔をおおってしまった。
「総司……」
 土方は息を呑んだ。


 総司も色んな思いを抱えてくれていたのだ。
 もっと一緒にいたいと、願ってくれていたのだ。
 それがたまらなく嬉しく、そして幸せだった。
 抱えていた不安がとけ消えてゆくのを感じた。


「……総司、ありがとう」
 土方は思わず総司の細い躯をぎゅっと抱きしめた。柔らかな髪に頬に口づけ、囁きかける。
「そんなふうに俺を想ってくれて、ありがとう。一緒にいたいと思ってくれて……ありがとう」
「土方さん」
 総司はびっくりしたように顔をあげた。それを見つめ、言葉をつづける。
「俺もおまえと一緒にいたいと思っていた。もっと一緒にいたいって、どんどん欲深くなりそうで怖いぐらいだった。だから、おまえが教習所とかに行って時間とられる事に、嫉妬したんだ。情けない話だが、おまえをとられた気がして……やきもちやいていたんだ」
「ぼくは、土方さんだけのものです」
 総司は大きな瞳でまっすぐ彼を見つめ、云った。
「何があっても、ずっとずっと、土方さんのものなの」 
「そうだな。俺も……総司、おまえだけのものだよ」
 土方は優しく低い声で囁き、総司の頬を掌で包み込んだ。そっと仰向かせ、唇を重ねてゆく。
 何度も角度をかえて口づけらえ、総司はうっとりと目を閉じた。だが、不意に背に腕をまわされ、ゆっくりと横たえられたのに気づき、目を瞠る。
「!? な、何……?」
「何って、え? なんかまずいのか」
「まずいのかって……ええっ、今するの!?」
 総司はびっくりして、思わず周囲を見回してしまった。
 再会してから幾度か躯を重ねたが、こんなまだ日の明るいうちからなど初めての事なのだ。
「なんか、その恥ずかしいし……おかしな感じするし」
「新鮮でいいじゃねぇか」
「昼間だから、余計に声おさえなきゃ」
「声殺してるおまえも、色っぽくていいぜ?」
 悪戯っぽく笑いながら囁いてくる土方に、総司は身も心もふわふわ甘くなるのを感じた。


 こんな魅力的な笑顔を見せられて、逆らえるはずがないし。
 でも、こんなに素敵なあなた。
 本当に、一年もの間、ぼくだけのものだったのかな……?
 


 総司は彼の背に手をまわしながら、くすっと笑った。
「……?」
 気づいた土方が顔をあげ、不思議そうに覗き込んでくる。
 それを、大きな瞳でじっと見つめた。
「あのね、土方さん……一つ聞いていい?」
「あぁ」
 土方は総司の髪を柔らかく指さきで梳いてやりながら、答えた。耳の後ろや首筋に口づけ、間近で見つめてくる。
 彼の黒い瞳は微かに潤み、男の色気を感じさせた。おまえが早く欲しい……と、熱く囁かれているようだ。
 そんな彼に抱きしめられて、総司は躯の奥が甘やかに痺れるのを感じた。自分も早く欲しいと云わんばかりに、彼の胸もとへ身をすり寄せる。
 そうしながら、小さく問いかけた。
「ぼくと離れている間ね……」
「あぁ」
「本当の本当に……誰とも何もしなかったの?」
「何を」
 土方は小首をかしげ、訝しげに聞き返した。それにちょっと躊躇ったが、総司は思いきって云った。
「こういう躯を重ねる事とか」
「……」
「他の誰ともしなかったのかなって。恋愛とか、何もかも……全部……」
 そう訊ねた総司を、土方はしばらくの間じっと見つめていた。
「……総司」
 やがて、その唇に春の陽ざしのような優しい笑みをうかべた。なめらかな白い頬に、そっと口づける。
 そして。
 世界中の誰よりも愛しい恋人を抱きしめ、こう囁いたのだった。


「おまえを愛する以外は……何も出来なかったよ」












 ……さて、肝心の運転免許のこと。
 総司は無事取得する事が出来た。ついでに申し上げるなら、平助も。
 これで、平穏が訪れると。
 土方は、やれやれと肩の荷を下ろした気分だったのだが。
 だが、しかし!






「これで土方さんを迎えに行けますね」
 にこにこしながらそう云った総司に、土方は頷いた。
「そうだな。車を買わねぇとな」
「え?」
「おまえのだから、コンパクトカーとかの方が運転しやすいだろ? 今度見に行こうぜ」
「って……え?」
 総司はきょとんとした表情で、問いかけた。
「ぼく、土方さんの車を運転するつもりだったんだけど」
「は?」
 土方は呆気にとられたように、総司を見下ろした。
「俺の車って……そりゃ、無理だよ」
「何で」
「おまえ、オートマの免許だろ。俺の車はマニュアルだぞ」
「嘘! 土方さんの車、オートマだったじゃない」
「あぁ、あれか」
 土方は苦笑し、頷いた。
「あれさ、買い換えたんだ。っていうか、おまえと別れてから車やめてな。で、この間、新しいの買ったとこ。やっぱり、マニュアル車の方が運転し甲斐があるからな」
「じゃあ、何? ぼくは土方さんの車、運転できないって事?」
「できてもやめて欲しい。あれ、新車だぞ。そんな事されたら、心配で仕事手につかねぇよ」
「心配するのは、そこ!?」
「……いや…その……」
「だいたい、マニュアル車、運転できる訳ないじゃないー!」
「まぁ、運転できなくて良かったよ」
 ほっとしたように呟いた土方は、これで話は終わりとばかりに新聞へ視線を落とした。
 その傍でソファに坐り込み、つまらなそうに唇を尖らせていた総司は、不意に、「あっ」と叫んだ。
 何だ?と見てみれば、にこにこ笑顔になっている。
「あのね」
 総司は身を乗り出し、嬉しそうに云った。
「もう一度、教習所に通えばいいんですよ!」
「……は?」
「でもって、今度はマニュアル車の方を習えばいいのです。伊庭先生がちゃんと教えてくれるはず……」
「冗談じゃねぇよ!」
 思わず土方は新聞を投げ捨て、叫んだ。
「絶対絶対、禁止だ!」
「えー、どうして?」
「あたり前だろうが。おまえ、全然わかってねぇっ」
 土方はそう云うなり、総司の細い躯に両腕をまわした。そのまま呆気にとられる総司を抱きあげ、さっさと寝室にむかって歩き出す。
「何、土方さん、えっ?」
「とことんまで教えてやる。おまえが俺のものだって事」
「うん、ぼくはあなたのものですよ」
 にっこり笑って答えてから、総司はちょっと小首をかしげた。
「でも、それと教習所が何で関係してくるの? ぼく、全然わからないんだけど」
「……おまえ、それ本気で云ってる?」
 不思議そうに見上げてくる可愛い恋人を抱きしめながら、土方は思わず深いため息をついてしまったのだった。





     恋も車も、安全運転で♪


















[あとがき]
 久々のコメディタッチ番外編、いかがでしたでしょうか。結局、この後、総司はコンパクトカーを買って貰ったのだと思います。土方さんの高ーいスポーツカーに決まってますから。
 まるみさま、とっても楽しくて素敵なリク、本当にありがとうございました♪ 楽しんで頂ければ、幸いに存じ上げます。
 ラストまでおつきあい下さった皆様、ありがとうございました♪