「よっ、珍しいとこで会うねぇ」
ぽんっと肩を叩かれ、総司は驚いてふり返った。
時は日曜日の昼さがり。
場所は、都心のとあるデパート──あまり賑わってないため、妙に冷房がききまくってるそこは寝具物売り場だった。
シーツやピロケースやらがずらっと並んでいる。セール中ではないため、人の姿もほとんどなかった。
本当なら、そんなところ永倉も通らなかっただろう。たまたまそこがエレベーター近くだっため、通りかかった彼の目に、総司の姿が入ってしまったのだ。
総司は永倉を見たとたん、「あ、まずい」という顔をした。
それに、永倉はにやにや笑った。
「どうしたんだい? 旦那とデートで焦ってるんなら心配ないぜ。おれは別に邪魔しないしさぁ」
「いえ。土方さん、今日は出勤ですし……」
「そうだっけ? ふうん、じゃあ何で……」
そう言いかけた時だった。
「総司―!」
向こうから一人の若者が走ってきた。
「ごめん、待たせて。こっちは買い物終わったから……」
そう言いながら駆け寄りかけて、げっと固まる。
永倉の方も目がつり上がった。
「……藤堂か」
「し、新八さん……どうも」
慌てて頭を下げた藤堂に、永倉はふんっと顔を背けた。
「会いたくもない奴に会ってしまったな」
「……」
永倉はつけつけと言葉をならべた。
「相変わらず、うちの磯子の周りをうろついてるようだが、いい加減やめてもらおうか。これ以上するなら、ストーカー行為として立件させて貰うぜ」
「……恋人同士で会うのが、どうしてストーカーなんです」
ぼそっと反撃した藤堂に、永倉は思いっきり叫んだ。
「何だと!?」
「オレ、いっちゃんの恋人です。いっちゃんとオレ、愛しあってんのに」
「だぁぁーっ! やめろ、うちの磯子を馴れ馴れしく、いっちゃんなんて呼び方すんなっ」
「いっちゃんはいっちゃんです! それに、初めに彼女が言ったんですよ。すっごく可愛く笑って『いっちゃんって呼んでね』って」
その時の笑顔を思い出したのか、藤堂がにへらぁ〜と笑った。
正確に言えば、のろけた。
永倉は怒り心頭で声も出ない。
どう見ても、今日は藤堂の方が有利のようだった。
藤堂は自分のシャツの裾を引っぱった。最後のとどめをぐさぐさ刺す。
「これだってね、いっちゃんが作ってくれたんですよ。それも、いっちゃんとペアルックで。オレたち、こんなにラブラブなのに、お兄さんもいい加減……」
「おまえに『お兄さん』呼ばわりされる筋合いはないっ」
「だって、いずれはそうなるじゃないですか。オレ、いっちゃんと結婚するつもりだし」
「そんなこと誰が決めた!?」
「もっちろん、オレといっちゃんです。愛しあう二人の約束でーす♪」
ぶちっ。
どこかで永倉の堪忍袋の緒が切れた音がした。
次の瞬間、永倉は藤堂に飛びかかっていた。
「このシャツ、今すぐ脱げ! さっさと脱げ──っ!」
「わぁっ、助けて! おまわりさんっ」
「警察はおれだ! この野郎、おまえなんかにうちの磯子をやるかぁぁ──ッ!」
絶叫する永倉に、藤堂はたちまち逃げ出した。
転がるように走ってゆく藤堂を、永倉が何かわぁわぁ叫びながら凄い勢いで追いかけてゆく。
「……」
どんどん遠ざかる二人の姿を、総司は呆気にとられながら見送った。
仲が悪いんだか、いいんだか。
案外、いい組み合わせかもしれないなぁと、総司はくすくす笑った。
とりあえず藤堂がデパートを一周でもして戻ってくるまでに、買い物を済ませておこうと思った。
が、その手が不意にとまった。
「……ペアルックかぁ」
確かにすごく魅力的だった。
だが、藤堂たちと違って自分達は男と少年なのだ。
そんなこと恥ずかしくてできるはずもなかった。
ぺアルックなんかで土方と外出するなんて、考えただけで、かあっと頬が赤くなってしまう。おそらく、土方は平気だろうだが、総司の方が恥ずかしいのだ。
だが、すぐにある事に気がついた。
「そうだ、外に出なきゃいけないんだ♪」
総司はぽんっと両手を打ち合わせた。
そして、地味なストライプ柄のパジャマを元に戻すと、その売り場を離れた。
きょろきょろと周囲を見回し、すぐさま目的物を見つけると、大喜びで駆け寄った。
「やったぁ! これこれ」
本日のお買い物、消費税込み6000円也。
それを抱きしめ、嬉しさに思わず笑ってしまう総司だった。
「……で、これがその結果という訳か」
土方は嫌そうに眉を顰め、それを見下ろした。
手にとり、だが、すぐにぽんっと放り出してしまう。
先ほどからもう1時間。
ずっと、それを真ん中にして二人は対峙していた。
いつもなら、とっくの昔にお風呂をすませ、仲良くいいことをしてる時間だった。(何を?なんて、聞いちゃいけません)
総司はため息をついた。
「どうしてもダメ?」
「……俺にも羞恥心というものがある」
「へぇー、あったんですか」
そう嫌味ったらしい口調で云ったのは勿論、総司ではない。
斉藤である。
二人の真ん中あたりのラグマット上に坐り、先ほどから悠々とお茶を啜りつつ、ポリポリボリボリ煎餅を齧っていた。
それを土方は凄味のある目つきで、じろりと見た。
「おまえ、俺に喧嘩売ってるのか?」
「いえいえ、まさか」
斉藤は煎餅を齧りながら、ゆっくりと首をふった。
「不肖この斉藤一にも、危険回避能力というものが一応ございますので」
「おまえの言動めちゃくちゃ矛盾してるぞ。だいたい、何だっておまえがここにいるんだよっ」
「土方さーん、言ったじゃないですか。ぼくが頼んだからだって」
そう言ってから、総司は土方の前に歩み寄った。
不意に手をのばすと、そっと両腕を男の背にまわした。
甘えるように躯をすり寄せて抱きつき、うるうるっと潤んだ瞳で見上げた。
「ねぇ……だめ?」
でた!
総司お得意の、おねだり視線。
ちょっと舌ったらずで、甘ったるい口調。
これに抗える男がいたらお目にかかりてぇよっと、土方がつねづね思ってる総司の切り札なのだ。
案の定、うっと呻き、土方は僅かに視線をそらせた。
だが、総司は男の攻めポイントをしっかりばっちり熟知しまくっている。
「ねぇ、ねぇ……お願いぃ」などと甘い声で囁きながら、最後の駄目おしとばかり、きゅうきゅう抱きついた。
先にもう風呂をすませた総司の髪からシャンプーの匂いがし、すべすべした肌の感触がまた堪らない。
惚れた弱みと羞恥心が、ぐらぐら男の心の天秤上で揺れまくった。
そして、挙句、ガタッと惚れた弱みの方へ傾いてしまった。
「……わかった」
所詮、恋に落ちた(いや、引きずりこまれたというべきか)男は弱いのだ。
「これを……着ればいいんだな」
諦めたように呟き、土方はそれを手にバスルームへ向かった。
シャワーの音が聞こえて数十分後。
リビングにげんなりした様子で戻ってきた土方に、総司は「わぁ♪」と歓声をあげた。
「すっごく似合ってますよ!」
「……」
「やっぱり、パステルブルーにして良かったぁ。ほらほら、クマさん柄がぼくとお揃いでしょ?」
そう言いながら、総司は自分が着ているピンク色にクマさん柄のパジャマをくいっと引っぱってみせた。
にこにこ笑う恋人を前に、土方はとんでもなくメルへンチーックなクマさん柄のパジャマ姿で、深く深くため息をついた。
その横で、彼の姿を見てしまった斉藤が「うげっ」と絶句している。
そんな斉藤を、総司は突然くるりとふり返った。
にっこり笑いながら、同意を求めた。
「ね? 斉藤さんもそう思いますよね? すっごく似合ってるでしょ」
「……う、うーん……個人的見解の違いというか、何と申しあげるべきか……」
「何訳わかんないこと云ってるんです。ほら、早く! 写真とって下さいよ、土方さんの気が変わらないうちに」
総司は、思わず逃げかけた土方の腕をガシッと掴むと、日頃の可憐なイメージからは想像もできない凄い力で、ぐいぐい引っぱった。
部屋の真ん中に立たせ、二人並んでにっこり笑う。(もちろん、笑顔は総司だけ)
斉藤はしぶしぶ立ち上がると、カメラを構えた。
「はい……撮りますよ〜……」
「斉藤さん、真面目にやって下さい」
「真面目にって、この状況でいったい……」
「だーかーら」
総司はきびきびと指図した。むろん、そうしつつも、万一土方が逃げ出したりしないよう、しっかり男の腕は掴んでいる。
「ここは、明るく元気よく、はい、チーズ♪とか何とか云うべきでしょう?」
「あのな、総司……」
「土方さんは口挟まない!」
「……はい」
「じゃあ、斉藤さん。わかりましたね? お願いしますよ」
「……はい、チーズ……」
───カシャッ。
こうして撮影された写真は、無事現像され、総司のパスケースの中へ、大事に大事に仕舞いこまれたのだった。
後日。
偶然にも、その写真を見た島田が思わず爆笑してしまい、何の因果か、背後にそのご本人が立っていたため、怒り心頭の土方に回し蹴りをくらわされたのは、また別のお話……。
[あとがき]
……また下らない話を書いてしまった。どうしてこう、番外編になるとバカップル一色になるのでしょう。
クマさん柄のパジャマ、はっきり云って、可愛い総司はともかく土方さんはぜーんぜん似合わなかったでしょうね。奥様は大喜びしてますけど。タイトルの「あなたと一緒」はつまりペアルックという意味です。
今回も斉藤さん、それから島田さん、お気の毒さまでした……。
長いお話へ戻る 「かくれんぼの恋」の扉へ戻る