ブラックフォレストガトー。
 キャラメル&クリーム。
 ドルセ・デ・レチェ。
 バニラキャラメルブラウニー。
 どれもこれもみんなおいしそうで、綺麗で可愛くて。





「……全部、食べたいです」
「やめろ、腹壊すぞ」
 ショーウンイドにぺたっと張り付いてる総司の後ろで、土方は呆れたように呟いた。
 だいたい、それ全部積み上げたらダブルどころの話じゃないだろうがと思いつつ、ため息をついた。
 仕事帰りに待ち合わせて食事をした後、どうしても食べたいと言われ、ハーゲンダッツに寄ったのだ。
 外はまだ肌寒いというのに、店内はアイスクリームを食べる客で賑わっている。それもきゃあきゃあ喋る女の子や、いちゃつきまくりのカップルばかりで。
 そんな中、びしっと一分の隙もないスーツに黒いコート姿の土方は、どう見ても完全に浮いていた。
 はあっとため息をつき、土方は総司の後ろからショーウンイドの中を覗きこんだ。
 視界に入ってくるのは、色とりどりの甘そうなアイスクリーム。
「早く決めろって」
「うーん、どうしようかなぁ」
 総司は可愛らしく小首をかしげた。
 今日の総司は兎のような格好だった。
 ふわふわしたアンゴラの白いセーターに、白のカラージーンズ。上にはまたファーのついた白のショートコートという出で立ちで、ちょっと見には可愛い女の子のようだった。
「ブラックもおいしそうだし、ドルセもキャラメルもいいしー」
 そう言いながらアイスクリームを見つめる総司は、大きな瞳がきらきらして、なめらかな頬がほんのりピンク色で。
 土方にすれば、アイスクリームなんかより、こっちの方が断然食べてしまいたい程なのだ。


(……今すぐ、あの頬に唇を押しつけてやりたいなぁ。すべすべした感触がたまらねぇんだ。それに、このまっ白な項。今でもさわりたくて仕方ねぇよ、指さきすべらせたら、いつも目ほそめて気持ちよさそうにして、可愛い声で俺を呼んで……)


 妄想はどんどんエンドレスでつづいてゆく。 
 端正な顔つきで隣に立つ自分の恋人が、そんな妄想で頭の中をいっぱいにしてる事など全く気づかず、総司はまだアイスクリームをじいっと見つめていた。
 が、不意にくるりとふり返ると、土方を見上げた。 
「ね? 土方さんはどれ食べたい?」
 突然の問いかけに、さすがの土方も一瞬対応できなかった。と言うより、妄想に走っていたので反応が遅れたと言うべきか。
「……え? 何だ」
「だから、土方さんはどれが食べたいですか?って聞いたんです」
「俺はいらない」


(……アイスなんかより、俺はおまえが食いたいんだよ)


「えー、食べましょうよ。ね、どれか」
「だから、俺はいらないって……」
 あくまで拒否する土方に、総司はちょっと唇を尖らせた。
「でも、ぼく、土方さんと一緒に食べたいのに」
「断る」
 すると、敵もさるもの、最後の切り札をくり出してきた。
 白い指さきで土方の手をきゅっと握って。 
 大きな瞳で甘えるように彼を見つめ。
 ちょっと舌ったらずな口調で。
「……ね、だめぇ?」
「──」
 その瞬間、土方はくらりと目眩を覚えた。先ほどの妄想もあるから尚の事だ。
 どうして、こいつはこんなに可愛いんだ!
 すべすべした頬っぺも、長い睫毛にかこまれた大きな瞳も、まるでキスを求めるようなツヤツヤした果実みたいな唇まで。
 何もかも、今すぐ食べちまいたいくらいの可愛さで……!
「……」
 ここが公の場だとか、女の子でいっぱいのハーゲンダッツだとか。
 そーんなものは完全にすっ飛んでしまい、土方は思わず手をのばし、その細い体を抱き寄せかけた。が、それを察知した恋人にするりと身をかわされてしまう。悪戯っぽい瞳で土方を覗きこむと、総司は笑った。
 それも、うっとりするような超可愛い笑顔で。
「ねぇ、お願い。土方さぁん」
「……」
 思わず絶句。
 完全にフリーズ状態のまま、呆然と総司を見つめた。 
 ……こいつの笑顔は凶悪だ。
 ほとんど犯罪だ!
 俺は負けを知らない男だったのに、どんな凶悪な犯罪者だって楽勝だったのに。
 あぁ、なのに、どうしてこいつにだけは。
 いつもいつもいつも。
 負けてしまうんだ!
 いや、理由なんか、もうとうの昔にわかってる。
 惚れた弱みって奴か? なら、いいさ、もうどうにでもなってやる。
 おまえのためなら、アイスクリームくらい幾らでも食ってやるさ。


(……但し、そのかわり)


 呆然自失の状態からすぐさま立ち直った土方は、僅かに唇の端をあげた。
 これが終わったら、アイスクリームみたいに甘くて、だがもっと旨いおまえを、たっぷりきっちり頂かせてもらうからな。
 絶対!
「……わかった。好きにしろ」
 そう答えた土方に、総司は「やったぁ!」と嬉しそうに笑った。
 そして。
 ちょっと薄笑いをうかべて財布を出す土方の隣、総司はうきうきした声で、


「あ、すみませーん! ダブルのコーンとシングルのカップ一つずつで。えっと、ダブルはドルセ・デ・レチェとキャラメル&クリーム。シングルはブラックフォレストガトーでお願いしまぁす」


 などと、店員のお姉さんに注文したのだった。





 もちろん、その後。
 やる気まんまんの土方に、なーんにもわかってなかった総司がお持ち帰りされた挙句、おいしくきっちり頂かれてしまったことは云うまでもない……。
 










[あとがき]
 ハーゲンダッツネタ。一度やってみたかったんです。次はハーゲンダッツのインがいいなぁ。カップルシートとかあるじゃないですか。いや、あれはさすがの土方さんも引くと思います。総司の方が喜んで坐りそう。だって、かぼちゃの馬車みたいなシートでくるくる回るんですよー(笑)。 


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