総司は酒が強い方ではない。
 それどころか、きっぱりさっぱり弱い方だ。
 その事を恋人である土方はよく知っていたからこそ、いつも気をつけていた。宴の席なので、総司が強い酒を口にしたりしないよう、気をつけてやっていたのだ。
 なのに。









「……何で、こうなっちまうんだ?」
 土方は框に跪き、深々とため息をついた。
 もう夜の帳も降りた、新撰組壬生屯所の玄関口。 
 そこでは、総司が真っ赤な顔で酔っ払い、仰向けでくうくう眠ってしまっている。可愛い顔は幸せそうで、桜色の唇からは寝息がもれていた。
 この分では、明日、二日酔い間違いなしだろう。


 正直な話、土方は酒を嗜みはするが、いつも酒量を抑えていた。
 限界を超えてまで飲んでくだをまく酔っ払いが不愉快であり、そんなふうに酔うことは彼の矜持が許さなかった。
 他人に弱みを見せるのが、だいっ嫌いな男なのだ。
 それは当然、自分の恋人にも及び、だからこそ、総司にも酒を飲ませぬよう気をつけていたのだが……。


「ちょっと目を離すと、これだ」
 総司と一緒に帰ってきた原田や永倉は千鳥足で何かガハガハ笑いながら、先に奥へ去ってしまっていた。後に残されたのは、爆睡している総司と、いつまでも帰らぬ恋人を心配して出てきた土方のみだ。
「仕方ねぇな」
 土方は呟き、総司の躯にかがみこんだ。腰と膝裏に両腕をまわし、軽々と抱き上げる。酔ってようが眠ってようが、逞しい男の腕には相変わらず細くて軽い恋人の躯だった。
「もう少し食えよ、ったく。抱き心地悪くなっちまうぞ」
 そう呟きながら、土方は総司を抱いたまま、部屋へむかった。
 とりあえず今夜は自分の部屋で寝かせようと思った。今更、総司の部屋へ行って褥を敷くのも面倒だった。
 自分の部屋に入ると、総司を褥の上にそっと寝かせてやってから、障子を閉めた。
 明かりを落とし、ふと気づいて苦しいだろうと、総司の小袖と袴を脱がせてやった。白い肌着だけの状態にしてやると、総司が不意にくすくす笑った。
「? 総司? 起きているのか?」
 そう訊ねたが、総司は仔猫のように彼の手に頬を擦りつけ、目をつむったまま楽しそうに笑っている。
 それに、また深くため息をついた。
「……酔っ払い仔猫だな」
 呟き、土方は身を起こした。自分も着物を脱ぎ捨てて寝着になると、さっさと褥にもぐりこんだ。
 また眠ってしまったらしい総司を、そっと胸もとに抱き寄せた。
「おやすみ……」
 優しい声で囁くと、土方は静かに目を閉じた。










 真夜中だった。
「!」
 突然、総司ががばっと起き上がったのを感じた。
 その動きに、土方も一遍に目が覚めてしまう。驚き、身を起こした。
「どうした」
 訊ねたが、総司は答えない。
 ぼーっと前を見ていたかと思うと、急に土方の方をふり返った。
 そして。
 月明かりの中、微笑んだ。


 ……艶然と。


 驚く土方の前で、総司はごそごそと身動きし、褥の上に膝立ちになった。
 そして、半身を起こしている土方の首を両腕でかき抱き、耳もとに唇を寄せた。
「ね、しよ」
「え?」
「しましょ? ねぇ、いいでしょ……?」
「…………」
 総司が囁いている誘いの意味を理解し、土方は呆気にとられた。


 真夜中に突然起きた挙句、いったい何を云っているのか。
 これが所謂、誘い受けって奴なのか。
 めちゃくちゃおいしい状況だ。
 だが、しかし!
 こいつは今酔ってるからであって、つまり、こういう場合、誘いにのってしまうと後がとんでもなく恐ろしいような気が……


 などと何たらかんたら、土方がくどくど考えているうちにも、事態はどんどん進行していった。
 総司は帯に手をかけると、するするとそれを解いた。もう引っ掛けてるだけになった肌着も、下帯も皆、するりと脱いでしまう。
 月明かりの中で裸になった総司は、しっとり潤んだ瞳で土方を見上げた。
 また艶かしく微笑みながら、彼の名を甘ったるい声で呼んでみせる。
「土方…さん……」
「……」
 絶句してしまった土方をわかっているのか、わかっていないのか(いや、絶対わかっていない)、総司は両手をあげた。髪を結わえていた元結いをほどくと、さらさらと艶やかな黒髪が白い肩に乱れかかる。
 思わず息をつめてしまうほどの凄艶さだ。
 総司は土方の肩に手をかけると、いきなりドンッ!と突き飛ばした。
「!」
 不意をつかれ、さすがの土方も仰向けに倒れ込んでしまう。慌てて起き上がろうとするところへ、総司が土方の寝着の裾を肌蹴てきた。
 あっという間に彼のものを引っ張り出すと、ぱっくんと咥えてしまう。
「……っ」
 いきなり柔らかな感触に包みこまれ、土方は思わず息をつめた。
 総司は彼の下肢に顔をうずめ、懸命に男のものを舐めしゃぶっている。柔らかな舌が雄の裏側から先端を淫らにチロチロと舐めあげた。
 挙句、吐精を促すように鈴口を舌先で突っつかれ、土方は低く呻いた。
「こ…の……っ」
 両手で総司の頭を押しのけようとするが、盛り上がりっぱなしの仔猫は嫌がるように首をふって拒んだ。
「ちくしょうっ……こんなやり方どこで覚えやがった」
 快感に霞む頭の中、他の男にでも教えられたかと考えたが、そんな事はありえない。おそらく、土方が総司にしてきた行為をなぞっているのだろう。
 ぴちゃぴちゃ淫らな音をたてて、鈴口に舌をねじ込んでくる仕草がその証拠だ。
「……く…ぅっ……」
 あっという間だった。
 土方自身が驚くほどの勢いで快感は昇りつめ、一気に弾けた。総司の可愛い唇の中に、熱が吐き出されてしまう。
 その瞬間、土方は慌てて腰を引き、総司の躯を突き放そうとした。だが、またも総司はそれを拒み、ごくりと音をたてて飲み込んでしまう。
 あまつさえ舌で綺麗に清め、彼が放ったものを一滴余さず舐め取ってから、そこでようやく顔をあげた。
 土方を見下ろすと、うっとりと嬉しそうに微笑んでみせた。
「……」
 それに、土方は形のよい眉を顰めた。
 酔った総司にいいようにされてしまった男としての矜持が、このままである事を許さない。いつも、褥の中で主導権を握ってきたのは彼の方なのだ。
 不意に土方は身を起こすと、総司の細腰に腕をまわした。そのまま浚うように抱き寄せると、くるりと躯を反転させ褥に組み伏せた。
 あっという間に仰向けで引き倒された総司は一瞬、大きく目を見開いた。
 が、すぐに唇を尖らせると、いやいやと首をふった。
「やっ…する、の……私が…っ」
 今夜はあくまで自分の好きなようにしたいらしい。だが、そんな事を男の方は許すつもりもなかった。
 土方はしなやかな指を、総司の桜色の唇にさし入れた。
 唾液を絡ませようと思ったのだ。
 拒むかと思ったが、意外に、総司は素直に彼の指へ舌を絡めてきた。また仔猫のようにぴちゃぴちゃと音をたてて、彼の指に舌を這わせる。
 ちゅっちゅっと音をたてて吸い始めたところで、土方は指を引き抜こうとした。とたん、指さきにキッと歯をたてられてしまう。
「!」
 鋭い痛みに、思わず眉を顰めた。
 だが、すぐに唇の端をつりあげると、土方は低く呟いた。
「……いけない仔猫だ」
「だっ…てぇ……っ」
「今夜は、しっかり躾け直してやる」
 そう云いざま、土方は引き抜いた指を、総司の下肢へ滑らせた。そのまま抗う隙もあたえず、一気に蕾へ指を挿しいれた。
「……っ! ひっ…」
 総司の目が大きく見開かれた。が、覗き込んだ瞳に苦痛の色はない。むしろ、先の行為をねだるように見上げてきた。
 それに優しく微笑みかけ、土方は深く挿し込んだ指をうごめかし始めた。総司が感じる部分だけを丁寧に擦り上げ、揉みこんでやる。
 たちまち、総司の桜色の唇から甘い啜り泣きがもれはじめた。
 二本目の指を受け入れる頃にはもう、総司の蕾は花のように綻んでいた。男が指を動かすたびにくちゅくちゅ鳴る音に、なめらかな頬を羞恥の色に染めあげる。
「ぁんっ…ふっ、ぁあ…ぅんっ…」
「……そろそろ、いいか」
 土方は指を引き抜くと、総司の腰を抱いた。そうして、不意にまた躯を反転させると、己の方が褥の上に仰向けになった。
 戸惑った表情の総司の小柄な体を自分の上に抱え上げ、両膝を割り広げて無理やり跨がせる。
 まだ意味がわからず潤んだ瞳で見下ろす総司に、意地悪く笑ってみせた。
「今夜は、おまえがするのだろう?」
「……え……?」
「ほら、好きなようにすればいい。このまま腰を落として、好きなだけ俺を貪ってみろよ」
「土方…さん……っ」
 ようやく何を要求されているか、わかったのだろう。
 かあぁっと総司の頬が真っ赤になった。まだ酔いにしっとり濡れた瞳がさまよう。
 それに、土方は薄く笑いながら、総司の腰から背中を手のひらで柔らかく撫であげた。とたん、「はぁ…んっ」と甘い声をあげて仰け反る総司が、何とも可愛らしい。
 くっくっと喉を鳴らして笑った。
「ほら……俺が欲しいのだろう?」
「ん、でも…やぁっ、怖い…っ」
「怖くねぇよ。気持ちいいだけだ……ほら」
 土方は総司の腰を両手で鷲づかみにし、己の屹立した猛りの上へ跨らせた。下から蕾にあてがい、ゆるく擦りあげてやる。
 堪えきれぬように、総司がぎゅっと目をつぶった。
「ぁあ…んんぅっ」
「これだけでそんな声あげやがって……たまらねぇんだろ? そら、早く腰を下ろせって」
「ぁ…ん、あっ…」
 総司の我慢も限界だったのだろう。土方の胸に手をつくと、躊躇いがちにだったが、おずおずと腰を落とし始めた。
くちゅっと音が鳴り、男の猛りが柔らかな蕾に咥えこまれてゆく。
 少しずつ腰の位置が低くなるにつれ、総司の声が甲高くなった。
「ぅ…はぁっ、ぁあ…っ……!」
 あと少しで全部呑みこめるのだが、それがどうしても出来ない。白い両腿が僅かに震えた。
 総司は涙をいっぱいにためた瞳で土方を見下ろし、いやいやと首をふってみせた。
「だ…め、できないっ…怖い…よぉ……っ」
「しょうがねぇ奴だな」
 土方は短く舌打ちし、総司の腰を両腕で抱え込んだ。そのまま一気に下へ引き降ろさせた。
 男の猛った剛直に、ずぶずぶと真下から貫かれてゆく。
 その凄まじい衝撃に、総司は甲高い悲鳴をあげた。
「や…ぁああぁ──ッ!」
 大きく背中をそらして仰け反り、うち震えている。「いやあっ」と泣きながら、激しく首をふった。
 その泣き声を無視し、土方は容赦なく腰を捻じるように、根元までずぶりと咥え込ませた。とたん、「ひいっ」と総司の可愛い唇から悲鳴がもれる。
 土方は微笑んだ。
「痛くはねぇだろ……?」
 ゆっくりと総司の腰あたりを手のひらで撫でてやりながら、優しい声で問いかけた。総司はまだ僅かに躯を震わせていたが、それでも小さく頷いた。
「……ん、痛く…はないけど、でも…っ…ぁ」
「もの足りねぇのか? なら、自分で動けよ」
 土方はにっこり笑うと、すっと両手を総司の腰から離した。そのまま褥にだらりと腕をおろしてしまう。
 それに、総司は拗ねたような表情で彼を見下ろした。だが、そのままでいても苦しいだけだ。
 仕方なく、総司はのろのろと腰を動かし始めた。懸命に腰を上下に揺らし、何とか気持ちよくなろうとする。
 しばらくの間、総司は躯を動かし、必死に快楽を求めつづけた。だが、どうしても彼が与えてくれるような快感を得られない。
 総司は啜り泣きながら首をふった。
「だ…めぇ……っ」
 大きな瞳から、ぽろぽろと大粒の涙がこぼれた。
「うまく…できないの、お願い…動いてぇ……」
「駄目だ」
「や…んっ、お願い…土方…さんぅ、動いて…ぇ…っ」
「自分がやりたいと云ったのは、おまえだろうが」
 くすくす笑いながら、土方は平然と答えた。知らぬ顔で寝転んだままだ。あくまで意地悪く突き放してくる男に、とうとう総司は泣きじゃくり出した。
「いやっ、いやぁ……ごめんなさい、謝るから、このままじゃ我慢できないぃ…っ」
「なら、約束するか?」
 土方は悪戯っぽい瞳で総司を見上げた。
「もうあんなに酒は飲まねぇこと……それから、褥で好き勝手しねぇこと」
「う…ん、約束するっ、します…だからっ……」
「わかった」
 頷き、土方はゆっくりと身を起こした。繋がったまま、今度は逆に総司の躯を褥の上へ押し倒す。
 まっ白な褥にうもれた総司が期待と甘えにみちた表情で、男を見上げた。
 それに視線を絡ませながら、土方は総司の両膝裏に手をかけた。そのまますくいあげると、ぐっと大きく左右に押し広げた。
 次の瞬間。
「…ぁああぁあ──ッ!」
 甲高い悲鳴をあげ、総司は仰け反った。
 土方が乱暴なほどの動きで己の猛りをぎりぎりまで抜いたかと思うと、同じぐらいの勢いで一気に突き入れてきたのだ。すぐまま、貪り尽くすような獣じみた抽挿が始まる。
 総司のよがり泣く声が部屋中にまき散らされた。
「ひあっ、ぁあっ…あ、あんぅっ」
「総司…っ……」
「ん…くうぅっ、はぁあっ…ぃ、ぁっ…っ」
 男の猛りがぐちゅっと音をたてて最奥を荒々しく穿ち、また引き抜かれ、すぐに力強く突き込まれた。
 そのくり返しに、総司は泣き叫んだ。強烈なまでの快感に、腰奥がとろとろに熱く蕩けてゆく。
 男の腕に爪をたて、何度も腰を跳ね上がらせた。
「ふっ…んんぅっ、ぁあっ…土方…さんぅっ…」
「……っ、総司…っ…すげぇ熱っ……」
 土方は思わず眉を顰め、低く呻いた。
 あまりにも心地よい締め付けに、すぐさまもっていかれそうだった。その熱い衝動を、奥歯を噛みしめて堪える。
 だが、もう限界に近かった。平然とした様子を見せながら、本当は土方もかなり張りつめていたのだ。
 土方は獣のように濡れた黒い瞳で、己の体の下で悶える若者を見下ろした。視線を滑らせると、それを感じたのか、彼の雄を深々と咥えこんだ蕾がひくっと震えた。
 その瞬間、かっと体中が熱く燃えた。
「総司……っ!」
 愛しい若者の名を叫び、土方は総司の両膝を強く抱え込んだ。
 思わず怯えたように上へ逃れかける総司を乱暴に引き戻し、のしかかった。そのまま激しく揺さぶり始める。
 熱い灼きつくような欲望のまま、柔らかな蕾に己の猛りを抜き挿しした。
「ま、待っ…ああッ、ゃっ、ぁああ…ッ」
 泣き叫ぶ総司の声が耳に心地よい。
 土方は激しい抽挿をくり返した挙句、ぎりぎりまで引き抜くと一気に最奥を穿った。ぐちゅっと音が鳴り、総司の躯が激しく仰け反る。
 男の腕の中、甘い甘い悲鳴をあげた。
「ひぁ…ぁあああーッ!」
「…総…司……っ」
 次の瞬間、総司の腰奥に男の熱が勢いよく叩きつけられていた。総司のものも弾け、辺りに撒き散らされる。
 総司の細い躯を抱きすくめ、土方は揺さぶりつづけた。熱が何度も注ぎこまれてゆく。
「……ぁ、はぁ…っ」
 二人は、どちらかともなく手足を絡ませ抱きあった。吐息まで奪うように深く唇を重ねた。舌をからめあい、互いだけを熱く求めあう。
 やがて。
 二人の躯の奥深くで、甘い熱がじわりと燻った。
 総司は長い睫毛を瞬かせ、愛しい男を見あげた。
「土方…さん……好き……」
「あぁ、俺もだ。総司……」
 甘ったるく濃厚な口づけの合間に、二人は睦言を交わしあった。
 そして。
 互いをきつく抱きしめあうと、その身も心もとけあわせるように、また熱く激しく愛しあい始めたのだった……。











 明け方、目が覚めた時。
 当然と云えば当然だが、総司はほとんど覚えていなかった。
 気がつくと、土方の部屋の褥の中、それも一糸纏わぬ裸身のまま、同じく裸の男の腕にしっかりと抱きこまれていたのだ。
 確かなのは、酔いの残る微かに痛い頭と、いやってほど覚えのある腰の重さだった。おそらく、昨夜、酔った自分は土方にさんざん抱かれ貪られたのだろう。
 だが、総司は不思議と土方を怒る気にはなれなかった。
 ぼんやりだが、幸せな記憶があったのだ。
 甘い甘い夜の記憶……。
 自分を抱きしめたまま、満足しきった顔でぐっすり眠る土方に、総司は小さく笑った。
 そして。
「……だい好き」
 小さな声でそう囁くと、愛しい男の胸もとに顔をうずめ、そっと目を閉じたのだった……。










 ちなみに翌日。
 土方の胸や首筋には、紅い花が幾つも散らされていた。
 それが誰のせいか一目瞭然だったが、あえて揶揄まじりに訊ねた原田に、土方はにやりと笑いながら臆面もなくこう云ってのけた。


 酔っぱらい仔猫にじゃれつかれたのさ──と。


 それを傍らで聞いた総司は耳柔まで真っ赤にそめ、土方の腕に手をかけると、彼の可愛い仔猫らしく、思いっきり爪をたてたのだった。


















[あとがき]
 予告どおり、かるーい内容、こーいエロという事で。
 真夏の暑い日々の中、さらっと流し読んで頂けて、皆様がほんの少しでも楽しんで下されば、とってもとっても嬉しいです♪


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