それは、朝食の時間に起こった。
 新撰組の隊士たちは朝食を大広間でとる。なので、その時刻になると大広間は大変な混雑だった。がちゃがちゃ食器のふれあう音や、男たちの笑い声や話し声に満ち、あまり、ゆっくりと食事をとれるような状態ではない。
 幹部達などは本当なら自分たちの部屋で食事をとりたいぐらいだが、何しろ手狭な壬生の屯所だ。とてもそんな贅沢は言っていられる状態ではなかった。この頃の新撰組は、文字どおり幹部も平隊士も同じ釜の飯を食った仲という状態だったのだ。
 その朝、幹部たちは一緒に食事をとっていた。別に待ち合わせた訳ではないが、たまたまそうなったのだ。
 にこにこと朝から機嫌のよい近藤に、せっせと皆に茶を入れてやる井上。ひたすら掻きこんでいる原田と、ゆっくり味わうように食べる永倉、お喋りしながらの藤堂。黙々と食べている斉藤。
 そして、相変わらずひたすら土方の給仕だけをする総司と、それを当然のように受けている土方───という顔ぶれだった。
 総司は自分の食事もそっちのけで、土方の膳を運んだり蓋をあけたりと忙しくしている。飯や汁物のお代わりなどはもう当然で、ほとんど小姓か可愛い新妻状態だったが、幹部たち──元試衛館の仲間たちが「絶対に後者だ」と考えている事は今更言うまでもなかった。
 さて、それは食事も終わりかけの頃に起こった。
「……いたっ」
 不意に総司が声をあげたので、皆は顔をあげた。
 顔をしかめ、総司は自分の指を眺めている。近藤が訊ねた。
「どうした」
「あ……その、魚の骨を取ろうとしたら、大きなので引っ掻いちゃったんです」
 確かにかなり大きな骨だったのか、白い指には血まで滲んでいた。
 みるみるうちに血の玉がこぼれてゆく。
 困ったように総司が指を懐紙で押さえようとした。その時だった。
「……かしてみろ」
 低い声でそう言った土方が、総司の手首を掴んだ。
 ちょっと小首をかしげるように血の滲んだ指を眺めていたが、不意にその手を強く引き寄せた。
 そして。
 いきなり、総司の指を自分の唇に含んだのだ。傷口を舌でねっとりと舐めあげてくる。
「あっ……!」
 思わず声をあげてから、総司は慌てて周囲を見回した。
 幸い、平隊士たちは誰も気づいていない。だが、幹部たちはきっぱり別だった。
 皆、目をむいて固まっている。
 近藤は口をぽかんと開け、井上も呆然。原田はにやにやしていたが、永倉、藤堂は目をむき、斉藤でさえも固まっていた。
 そんな周囲に構わず、土方は総司の指を舐め回した。傷口をそっと舌で舐めてゆく。やがて、無遠慮な男の舌が指さきから付け根まで舐め始めると、総司もとうとう我慢できなくなった。正確にはそれまで呆然としていて、抵抗できなかったのだが。
「ひ……土方さん……っ」
「………」
「や、だめ……やめて下さいってば。放してっ」
 必死に手を引く総司に、土方はようやく手の力を緩めた。悪戯っぽい目で笑いながら、もう一度だけぺろりと舐めてやると、総司を解放してやる。
「血、とまったろ? そんなの舐めときゃ治るんだよ」
「だ……だからって……っ」
 耳柔まで真っ赤にして俯く総司の傍で、土方は平然と食後の茶を飲んだ。そうして立ち上がると、まだ呆然としてる近藤に声をかけた。
「近藤さん、これから黒谷だろ」
「あ、あぁ」
「さっさとしねぇと遅れるぞ。玄関で待ってるからな」
 そう言い捨て悠然と出て行った土方を見送り、皆はため息をついた。
 いったい、どう反応すればいいのか。
 今もまだ真っ赤になって坐っている総司に、何と声をかければいいのか。
 皆がそれぞれ悩んでる時に、原田が呑気に大声で言った。
「……旦那、べた惚れじゃーん。朝からあてられちゃったなぁ」
 パコンッと持ってた汁蓋で頭を殴った永倉に、原田はぶつぶつ文句を言っていたが。
 べた惚れされている総司は、ますます頬を赤らめ俯いたのだった。
 

 

 
「……歳」
 案の定、黒谷へ向かう途中、土方は近藤に詰め寄られた。
「いったい、何だってあんな事をしたんだ」
「あんな事って?」
 もちろん、いやってほどわかっていたが、とぼけて聞き返した土方に、近藤は答えた。
「さっきの事だ。総司の指を舐めただろ」
「あぁ、あれか」
 くすっと笑った。
「独占欲、か。いや、見せつけかな」
「はぁ? 歳、おまえ何を言って……」
 訳がわからぬと言いたげな親友を、土方は切れの長い目で眺めた。
 絶対、一生、わからねぇんだろうな。
 こういう感情のあり方や、俺たちの関係なんか。
 土方は肩をすくめると、少し鬱陶しげに指さきで髪をかきあげた。
「……昔からよくやってた事だろ。俺はあいつを子供の時からみてきたからな」
「確かにそうだが」
「つい子供みたいな気がして、やっちまったんだよ。俺もまだまだあいつを子供扱いしてるって事さ」
 嘘も方便でそう言ってのけた土方に、近藤はとりあえず安堵したようだった。
 ほっとしたように笑い出す。
「そうだな、おれもつい子供扱いしてしまうからな。だが、あいつももう二十歳だ。そろそろ大人扱いしてやらないといかんだろう」
「まぁ……な」
「身を固める事も考えんとな。そう言えば、あいつと仲が良かった娘……お里か、どうなったか知ってるか」
 土方は僅かに眉を顰めた。
 まだ総司と想いが通じ合ってなかった頃、お里と無邪気に笑う姿に激しく嫉妬した覚えがある。あまりいい気分の話ではなかった。
「……嫁いだと聞いた」
「そうか。なら、菓子屋のお菊は?」
「まだあの店にいてるだろ」
「花屋のお鈴もなかなか可愛い娘だな。この間、会ったぞ」
「……」
「前に総司に聞いたが、下駄屋のお春ってのは小町娘らしい。総司の周りには可愛い娘が多いな」
 どんどん不機嫌になってゆく土方に気づかず、近藤は上機嫌で話しつづけた。
 それに土方は心の中でため息をついた。
 もともと、今朝の行動はそれらが原因なのだ。
 最近、とみに総司の周囲に娘の姿がふえた気がする。それも、遊び慣れた土方から見ても、なかなかの器量の娘ばかりだ。総司は全然その気がないらしいが、それでも、彼女たちとにこにこ話している姿を見ると、内心、面白くないものがあった。
 その上、総司は隊士達にも絶大な人気があった。一番隊など、局長の親衛隊というより、きっぱり総司の親衛隊と化してる節がある。
 何しろ、総司は綺麗だ。明るくて綺麗で、その上、仕事もできるし優しいとくれば、誰だって好意をもってしまうだろう。もっとも、皆が知らないだけで、本当は意地っぱりで我儘で、気の強い子猫みたいな性格の恋人だ。土方にすれば、そこがまた可愛いくて仕方がないのだが。
 もともと女にしか全く興味のなかった土方でさえ、この有様だった。
 その手の者から見れば、総司は垂涎の的。高嶺の花だが、あわよくばと思ってる者もいるかもしれない。
 だからこそ、ここで釘を刺して置こうと思ったのだ。
 こいつは俺のものだ。
 手出したりしやがったら、ただじゃおかねぇぞ!──と。
 もっとも、こんな土方を総司は嫌がるかもしれなかった。とことん鈍感なので、そういう土方の密かな嫉妬に全く気がついていない。たくさん寄せられているだろう恋慕にもまるっきり無関心だった。あれで、よく自分への恋を自覚してくれたものだと不思議に思うほどだ。
 今朝の事も、今頃、怒っているのかもしれない。
 だが、総司自身にもよく言い聞かせておかないと、土方も堪ったものではないのだ。
(まずは、やたら笑顔をむけるなって言っておかねぇとな)
 嫉妬に燃える夫そのものの思考をつづけながら、土方は黒谷への道を歩いて行ったのだった。
 

 

 
 さて、その頃の総司は。
「……信じられないっ!」
 もう、めちゃくちゃ怒っていた。
 もともと所構わずさわってくる恋人だったが、あんな事までやってのけたのは初めてだった。
 それも皆が見てる前で!
 総司は恥ずかしくて恥ずかしくて、顔から火が出るとはこの事だとつくづく思った。
 あんな事をされた挙句、一人残されてしまった自分はどうすればいいのだ。
 ここはもう絶対、ちゃんと言っておかないと、どんどんひどくなる一方だろう。   
「でも、それって難しくあれへん?」
 団子を食べながら、お鈴が呑気そうに言った。
 お鈴は総司が最近仲良くなった娘で、花屋の看板娘なのだが、あのお里の友達でもあることからわかるように、かなりおきゃんな性格だった。総司とよく会ったりじゃれあったりしているが、しっかり恋仲の男がいる。
 二人は並んで縁台に腰かけ、団子を食べていた。ぽかぽかした春の光に眠くなりそうな陽気だ。
「どうして?」
「うーん、下手したら全然さわってくれへんなったりして。男はんはつむじ曲げはると大変やから」
 そう言ったお鈴に、総司は目を丸くした。
「え、全然さわってくれないって……人前じゃなくても?」
「ありえへんとは、言われへんし? だいたい、人前でさわるって独占欲からちゃうの? それだけ好かれてるんやたら、幸せやし」
「? 何で独占欲になるの?」
 思わず総司は聞き返した。
「この前、その言葉、土方さんから言われたけど。私が隊士の人たちと笑ってふざけあってたら、すごく不機嫌になって、どうしてって聞いたら独占欲だって一言いわれたんだ。よくわからなかったけど……」
 男の気持ちなんか、ぜーんぜんわかりませんの総司に、お鈴はため息をついた。
「……なんか、うち、総司はんの男はんに同情するわ」
「……」
 総司は自分の方が悪いと言われてる気がして、むっとすると団子を頬ばった。お茶を飲みほすと、水茶屋の娘がお代わりを入れに来てくれる。
 その娘に綺麗な笑顔をむけ、総司は親しげに会話をかわした。それを見ていたお鈴が呆れたように首をふった。
「何?」
 娘が去ってからふり向くと、お鈴は手をのばし、総司の頬をかるく引っ張った。
「にこにこしはって、ええ加減にしとかへんと本気で怒られるで?」
「え、どういう事?」
「おなごといてる時に、他の娘はんと仲良くするのはあかへんと思わへんの?」
「あ……ごめん」
「もしかして、こういう事、その男はんの前でもやったんちゃう? 怒って当然やと思うけど」
「……したかもしれない」
 しゅんとなった総司に、お鈴はまたため息をついた。そっと総司の手をとり、握りしめた。優しく瞳を覗き込んでくるお鈴に、総司は思わず見返した。
「総司はん、もう少し相手の男はんの気持ち、思いやった方がいいよ。うちの人やったら、もう絶対怒ってるわ」
「でも……よくわからないし」
「そういうところが可愛いと思ってはるかも」
 くすっと笑ったお鈴は、そのまま言葉をつづけようとした。が、不意に気がつくと、慌てて立ち上がった。
「お鈴ちゃん?」
「うち、帰るわ。お店があるし、ここ、お代おいとくから」
「あ、ごめんね。忙しいのにつきあって貰って」
「ええんよ。ほな、また」
 カタカタと軽やかな下駄の音を鳴らし、お鈴は足早に去っていった。
 それを不思議そうに見送っていた総司だったが、彼女が急いで去った理由はすぐ判明した。
「総司」
「……えっ」
 突然かけられた声に驚いてふり返ると、そこには土方が立っていた。
 黒谷からの帰りらしいが、近藤はいない。黒羽二重の羽織に仙台袴という一分の隙もない格好で、不機嫌そうに眉を顰め、総司を見下ろしていた。
「土方さん、今、帰りですか」
「あぁ、おまえはここで団子食ってたのか」
「え、えぇ……まぁ」
 総司はちらりとお鈴が去っていった方を見たが、もうそこには姿はなかった。ふり向き、もう一度土方の方を仰ぎ見ると、先ほどよりもっと眉間の皺が深くなっている。端正な顔は不機嫌そのものので、形のよい唇を固く引き結んでいた。
 総司はおそるおそる呼びかけた。
「土方さん……?」
「……来い」
「え」
「そろそろ昼飯時だろ。外で食うつもりだ、おまえも一緒に来いよ」
「あ、え……それは……」
 総司は頬を赤らめた。
 そうして昼飯だなんだと料理屋等に連れ込まれると、たいがいそれだけでは済まなくなるのだ。別に嫌な訳ではなくむしろ嬉しい事だったが、だからといって、にこにこついてゆくのもやはり恥ずかしかった。
 だが、そんな総司の躊躇いを、土方は別なふうにとったようだった。
「……嫌なのか」
「いえ、そういう事じゃなくて……」
「あの娘とは仲良くできて、俺とは外で飯を食うのも嫌って訳かよ」
 そう言い捨てるなり、ぷいっと土方は背をむけ歩き出してしまった。総司は慌てて立ち上がりお代をすませると、その後を追った。足早に歩いてゆく男に追いつくのは大変だ。ようやく追いついた総司だったが、声をかけると同時にその腕を掴まれてしまった。
「え、何ですか」
「ここに入るぞ」
 有無を言わさず一軒の料理屋に連れこまれた。
 馴染みの店なので、すぐ部屋を用意してくれる。奥まった静かな部屋に通され料理が運ばれると、後は自分達でするからと土方はさっさと仲居を追い払ってしまった。
「総司、ここへ坐れ」
 胡坐をかいた土方のすぐ前を示され、総司は仕方なくそれに従った。
 腰を下ろすと、すぐさま腕をつかまれて引き寄せられ、そのまま男の胸もとに抱きこまれてしまった。
「ひ、土方さん……?」
「……少しはわかってくれよな」
「え?」
「俺もさ、あんまり言いたくねぇが、あぁいう事するのやめてくれよ。娘と手をとりあって見つめあうなんざ」
「あ」
 総司は頬を赤らめた。
「見てたんですか? でも、あれはそういう意味じゃないし、お鈴ちゃんにはちゃんといい人がいるんです」
「おまえだって、俺がいるだろ? とにかく、あぁいうのはやめろ。すげぇ嫌な気分になるんだよ」
「……はい」
「それから」
 土方は総司の細い体をぎゅっと抱きしめた。
「他の男に、やたら笑いかけるな」
「はぁ?」
「にこにこ笑いやがって……おまえ、あちこちで狙われてるんだぞ。自分がどんなに可愛い顔して笑ってるか、もう少し自覚しろ」
「まさか」
 総司は無邪気に笑い出した。
「そんな狙われたりしてませんよ。私のこと可愛いなんて思ってるのは、土方さんぐらいですから」
 その笑顔がまためちゃくちゃ可愛かった。大きな瞳をきらきらさせ、つやつやした桜色の唇に笑みをうかべている。本当に今すぐ食べてしまいたいくらいの、可愛らしさだった。いったい、これのどこが可愛くないと言うのだろう。
(……こいつ、全然わかってねぇ)
「だいたい、どうして笑ったらいけないんです。私だって、楽しかったら笑いますよ」
「おまえは俺といる時だけ笑ってりゃいいんだよ」
「……笑えないような事するのは誰です」
 いきなりきつい口調になった総司に、土方はその肩を掴んで身を起こさせた。顔を覗きこむと、勝気そうな大きな瞳がまっすぐ見上げてくる。
「今朝のことか」
「あたり前です。あんな事されたら恥ずかしいに決まってるでしょう? それも、皆の前で」
「今朝は誰と誰がいたっけな」
「近藤先生と井上さん、原田さんに永倉さん、平助、斉藤さんです」
「……斉藤もいたのか。そりゃ好都合だったな」
「土方さん!」
 思わず総司は彼の胸をトンッと両手で叩いた。
「もうっ、人の話、聞いてます? 好都合とか、そんな事じゃないでしょう?」
「仕方ねぇだろ。見せつけてやりたかったんだから」
「何……です、それ! 見せつけるためなんて。いったい、私を何だと思ってるの?」
「全部、俺のもんだろ」
 あっさり答えた土方に、総司は絶句した。あんまりな台詞に呆れてものも言えないらしい。
 それに、にやりと笑ってみせた。
「それとも、そうじゃねぇって言うのか?」
「……そう…じゃありませんけど……」
「なら、いいじゃねぇか」
 優しく抱き寄せた土方の腕の中、総司は拗ねたように言った。そっと男の肩に頭を凭せかけた。
「でも、あぁいうのは嫌です」
「今朝のか」
「えぇ」
「なら……こういうのは……?」
 土方は顔を近づけ、そっと唇を重ねた。ゆっくりと舌でなぞり、唇が痺れるまで吸ってやる。さしいれた舌で、甘く柔らかく総司の舌に絡め舐めあげた。
「んっ……んぅ……っ」
 男の腕の中、総司が可愛らしく喘ぐ。
 唇をはなすと、うっとりした瞳で彼を見上げた。それに微笑みかける。
「……こういうのも嫌いか?」
「好き……」
「口づけが? それとも……」
「土方さんが好き……だい好き……!」
 細い両腕を男の首にまわし、総司はぎゅっとしがみついた。また甘く熱い口づけを与えられる。
 ふわふわした心地に夢心地になった総司は、誘うように目を閉じた。
 その白い肌のあちこちに唇を押しあてながら、土方はとろけるような優しい瞳で可愛い恋人を見下ろした。
 今朝のこともそうだが、ここ最近、いつでも総司にふれたくなる。
 人目も構わず、いや、人目があるからこそ尚更。
 こいつは俺のもんだと。
 艶やかな髪も、綺麗に澄んだ瞳も、果実のような唇も。
 この可愛い恋人のすべて──何もかも俺のものなのだと、見せつけたくなるのだ。
「……総司、愛してる」
 そう囁いた土方に、柔らかな愛撫でうっとりしていた総司も小さく答えた。
「ん……私も……」
 そっと手をのばし、男の頬にふれてくる。
「私も愛してます……土方さん……」
 それに微笑むと、土方はその華奢な体を両腕にきつく抱きしめたのだった。
 
 

 

 そして、数日後。
 またまた屯所での朝食の時刻である。
 相変わらず混雑している広間で、今日も隊士達は食事をとっていた。その一角で食事をしている幹部の顔ぶれも、あの朝と全く同じだ。
「……っ」
 突然、総司が僅かに声をあげ、土方はふり向いた。
「どうした」
「ん……」
 総司はコトンと汁椀を置くと、小さく笑って見せた。
「ちょっと、舌、やけどしちゃいました」
 そう言って、ちらりと桃色の小さな舌をのぞかせる。とたん、土方が総司の腕を掴んで引き寄せた。
「!」
 今度こそ、幹部達は絶句した。さすがの原田もあんぐり口を開けている。近藤にいたっては泡でも吹きそうだった。
 何しろ、土方は顔をかたむけ近づけると、総司の舌を己の舌で舐めあげたのだ。ほとんど接吻状態だった。
「ひ、土方さん……!」
 慌てて突き飛ばした総司に、土方は驚いたようにちょっと目を見開いた。
 だが、すぐに、くすっと笑うと、
「ご馳走様」
 悪戯っぽい瞳で、そう言ってのけたのだ。
 呆然としていた総司は、次の瞬間、近くにあったお盆でパコーンッと彼をはり飛ばした。もっとも腕をだったが。
 だが、痛いなと言いながらも、それさえ可愛いとばかりの表情を、土方はうかべている。そんな恋人を見上げた総司は、不意に(でも、こういう所も好きなのかも)などと思ってしまい、頬を赤らめた。どちらにしろ、総司も彼にべた惚れなのだ。
「……叩いてごめんなさい」
 しばらくたってから、そう小さく謝ると、土方はそっと肩を抱いてくれた。微笑み、柔らかく髪を撫でてくれる。
 そんな優しい彼の腕の中、総司はとびきり可愛く笑ったのだった。

 
  ──ちなみに。
 二人のいちゃつきをよそに、周囲は何も見てないふりで黙々と食事を続行していたのだった……。









[あとがき]
 ……砂糖吐きまくり。いけいけバカップルですね、ほんと。一番お好きなのは?でも書いたように、この短いお話の方の二人は全然隠してませんし。斉藤さんの見解は出しませんでしたけど、かなり複雑な気分で見てただろうなぁ……と。ちょっと真面目なのが続いたので、今回は思い切り遊んでみました。しかし、ほんとバカップルだ……。


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