愛のために苦悩する男の人って、どうしてこう絵になるのかな?
 この人はもちろん、何をしてても格好いいけれど。


 そんな事をちらりと思った総司の前で、土方は深くため息をついた。
 そして。
(あ、うまくいったかも、えへへ〜♪)と内心喜ぶ総司に、ゆっくりと答えた。


「……その手には乗りません」
「へ?」
「生憎だが、その手には金輪際騙されないよ。俺だって、学習機能があるんだ」
「学習機能……」
「とっくの昔に、我慢限界ボーダーラインもすっ飛ばしちまった。今夜は何が何でも、念願叶えさせて貰うぞ」
「って、何それ―!」
 一転して、総司は元気よく大声で叫んだ。ぷんすか怒りながら、えーいっと膝で彼の腹を蹴り上げようとしてやる。
 それを軽々と避けてみせながら、土方はにやりと笑った。
「やっぱり嘘泣きか。しかも、とんだじゃじゃ馬だな」
「じゃじゃ馬で悪かったですね! ぼくがじゃじゃ馬なら、そっちは詐欺師でしょ!」
「人聞きの悪い。ただ、恋人と甘い夜を過ごしたいと願っただけじゃないか」
「これのどこが甘い夜なの!」
「まぁ、確かに」
 土方はくすくす笑いながら、かるく身をかがめた。
 総司のなめらかな頬にキスを落し、額や首筋にも優しく口づけてくる。
「や」
 それを避けようと顔を背ければ、感じやすい耳朶を甘咬みされてしまった。とたん、総司の小柄な体が男の腕の中で、ぴくんっと震える。
 くすっと笑う男の吐息にさえ感じてしまい、総司は慌てて唇を噛んだ。
 だが、つづけざまに首筋や耳の裏を、ちゅっちゅっと音をたてて吸われ、そのたびにぞくぞくするような甘い疼きを覚える。
「……っ…ぁ…っ」
 いやいやと首をふる総司の唇からもれた甘い吐息に、土方は思わず微笑んだ。
 そのまま怖がらせないよう、ゆっくりとブラウスの釦を外し、なめらかな白い肌に優しいキスを落とす。
 まっ白なシーツに愛しい少年の躯を横たえ、柔らかく抱きすくめた。
 肌を重ね、少しずつ少しずつ、その躯も心も何もかも開かせてゆく。


「……一緒に、甘い夜を過ごそう」


 耳もとに唇を寄せ、なめらかな低い声で囁いた。その愛しい男を、総司は潤んだ瞳で見上げる。
 やがて、小さくこくりと頷いたのだった。












 ちゅっと甘い音をたてて、胸の蕾のような尖りを吸っていた唇が離れた。
 とたん、総司の唇から微かな吐息がもれる。
「ぁ…んっ……」
「ここ、気持ちいいか?」
 土方はくすくす笑いながら、胸の尖りをぺろりと舌で舐めあげた。先程からさんざん弄られたそれは、濡れた小さな桜んぼのようだ。
 一方で、男のしなやかな手は総司の下肢にふれていてた。しかも、先程から、柔らかく蕾を指で探られているのだ。
 指の腹で撫でられ、少しだけ入れられたかと思うとまた抜かれ、今度は奥深く指を刺しこまれる。そのたびに総司の細い腰が跳ね上がり、くちゅくちゅと淫らな音が鳴った。
「は…ぁっ、ぁあっ、や……っ」
「総司、すげぇ可愛い」
 土方は胸の尖りに口づけながら、囁いた。その指さきは小さな蕾に深々と刺しこまれ、ゆっくりと奥を擦りあげている。
「やっ、やぁ…ぁッ、ぁあ」
 総司はどうしてそんな処が感じるのかさえわからぬまま、激しく首をふった。
 その様子に土方は目を細めると、すっと指を抜き取った。
 素早く総司の細い両脚を抱え上げると、ほぐれた蕾に己の猛りをあてがった。先端だけ挿入すると、総司の躯がびくっと竦んだ。
「や、いやっ」
 やはり怖いのか、首をふって抗う。それに、低い声で囁きかけた。
「大丈夫だ……俺にまかせて」
「ゃ、だぁ、怖い……」
 怖がり泣きじゃくる総司に、土方は唇を噛んだ。だが、もうここまで来てやめられる訳がないのだ。
 意を決し、その両膝を抱え込んで大きく左右に開かせた。ゆっくりと慎重に腰を沈めてゆく。
 とたん、総司の目が見開かれた。
「ぃ、や、ゃ、やぁッ…あ──ッ!」
 痛々しい悲鳴をあげ、仰け反った。
 泣きじゃくり上へ逃げようとする少年の細い躯を、土方は力強い手で引き戻した。
 初めの苦痛はどうしようもないのだと、よくわかっている。
 だが、それでも欲しかった。
 欲しくてたまらなかった。
「総司……」
 少しでも苦痛を和らげてやりたくて、土方は甘いキスを何度もその頬や首筋にあたえた。
 耳もとに唇を寄せ、耳朶を噛むようにしながら、なめらかな低い声で囁きかける。
「ほら……いい子だ、力を抜いて」
「やッ、は、ぁ……で、できな…ッ」
 総司が泣きながら、弱々しく首をふった。ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「息を吸って吐くんだ。大丈夫だから……すげぇよくしてやるから」
「くっ…は、ぁ…ぁ、はぁ…ッ」
 素直に男の言葉に従い、総司は必死に呼吸をくり返した。それを見計らい、土方はより深く腰を沈める。
「や…ッ」
 総司の手が土方の裸の腕に縋りつき、鋭く爪をたてた。それに眉を顰めながらも、好きなようにさせる。
「……総司……愛してる」
 時間をかけて深く繋がってから、土方は総司の華奢な躯を優しく抱きすくめた。
 本当はすぐにでも激しく動き、貪りつくしたかった。
 それ程、総司の躯は心地よかった。あまりの快楽に我を忘れてしまいそうだ。だが、ともすれば欲望に走りそうになる己を、懸命におさえた。
 今、自分が抱いているのは、一夜限りの遊び相手ではない。


 世界中の誰よりも愛おしい。
 恋しくて可愛い総司なのだから……


 頬や首筋にキスを落としながら、そっと背中を掌で撫でさすってやった。
「愛してるよ、総司……愛してる」
「……土方…さん……」
 男の真摯な囁きに、総司は涙でいっぱいの目を見開いた。それに微笑みかけ、総司の尖りを舐めてやり、小さく竦んでしまったものも掌に包みこんで愛撫する。
「……ぁ、ふっ…ぅ…ッ」
 そうこうするうちに、総司の頬に赤みがもどり、桜色の唇から甘い吐息ももれてきた。それに安堵し、土方はゆっくりとした抽挿を始める。
「ん…く…っ」
 総司は土方の広い背に両手をまわし、ぎゅっとしがみついた。少しずつ激しくなってゆく突き上げに、甘い掠れた悲鳴が部屋に響いた。
「ぅ…ぅ、あッ、ぁあっ…っ」
「総司……少しは…いいか?」
「……そ…こ…ぁ、ぁあッ、ぁ……やあぁんッ」
 自分でもびっくりするぐらいの甘い声をあげてしまい、総司は顔を真っ赤にした。恥ずかしくて、思わず彼の胸もとに顔をうずめる。
 土方はくすくす笑いながら、可愛い恋人の躯をぎゅっと抱きしめた。
「それでいい……感じるままでいいんだよ、総司」
「土方…さん……」
「ほら、二人で一緒に気持ちよくなろう」
「う…ん……」
 こくりと頷いた総司に微笑みかけてから、土方は本格的に動きはじめた。柔らかな蕾の奥に、己の猛りを一気に打ち込む。
「ッぁあ、ぁッ」
「気持ちいいか……?」
「ぅ、んッ、ぁ、い、ぃ…ぁあっ……」
「俺もすげぇ気持ちいい……最高だ」
 掠れた声で囁きかけてやると、総司の内部がより甘く淫らに絡みついてきた。きゅうっと熱く締め上げられる。
「……っ」
 あまりの快楽に、思わず低く呻いた。
 それにまた感じたのか、総司が啜り泣きながら身を捩った。細い両脚が男の腰を挟み込み、自ら深く求めてゆく。
「……総司、愛してるよ」
 そう囁きざま、土方は白く丸い両膝を掴み押し広げると、力強く腰を打ちつけた。そのまま激しく揺さぶりをかけ、感じやすいそこを穿ちまくってやる。
「ぁああっ」
 甘い悲鳴をあげて仰け反る総司の躯を、土方は力強い腕で抱きすくめた。白い指さきがたぐり寄せたシーツが海の波のように広がってゆく。



 ようやく迎えた蜜夜。
 嵐のような快楽と熱に、愛しあう恋人たちは、どこまでも溺れこんでいったのだった……。
 













 さて、その翌朝の事である。
 総司はまたまた、ぼーっと天井を見上げていた。
 昨夜、一服もられた後に目覚めた時のごとく。
 だが、あの時と違って、傍らには彼の姿はない。バスルームの方から水音が聞こえるので、シャワーでも浴びているのだろう。
 心も体も軽々すっきりしちゃって、超上機嫌そのもので。
「……うーん」
 総司はごそごそとシーツをひきあげながら、唸ってしまった。
 さっき目覚めたばかりなのだが、その瞬間から、どんな顔をすればいいか、どんな態度をすれば、ずっと悩みっぱなしだったのだ。


 何しろ、昨夜の事は目覚めた瞬間に、速攻で記憶再生されてしまい、とたん、ぼんっと耳朶まで真っ赤になってしまった事は、まぁ置いておいて。
 だい好きな恋人と、しかもそれも男と、あーんな事やこーんな事を色々初めてしてしまった翌朝というものは、いったいどういう顔をしていればいいのか。
 昨夜の事を思い出すだけで、恥ずかしくて恥ずかしくて、わーわー叫びながらベッドの中を転げ回ってしまいたいぐらいなのに。
 しかも!
 あれだけ嫌がってずるずる引き延ばしまくってきたくせに、いざしてみると、意外と気持ちよかったりして。気がつけば、彼の腕の中でさんざん鳴かされちゃったりして。


(そ、そりゃ、やっぱり痛かったけど、恥ずかしかったけど、でも……)


 総司は、あの時の初めてみた──男の欲望を剥き出しにした彼の瞳を、表情、息づかいを思いだし、かぁっと首筋まで熱くなるのを感じた。慌ててまた枕をぎゅうっと抱きしめ、顔をうずめてしまう。
 とたん、傍らから声をかけた。
「……枕がそんなに好きかよ」
「え……きゃ、きゃあ!」
 びっくりしてふり向けば、いつのまに現われたのか、土方がかるく身をかがめるようにして総司を覗き込んでいた。どこかで購入してきたのか、昨日のスーツ姿ではなく、シンプルなグリーンのシャツにボトムという格好だ。
 まだ僅かに濡れた黒髪を片手でかきあげる仕草が、少し気怠げで艶っぽい。
「おはよう」
 柔らかく笑いかける土方に、総司は慌てて答えた。
「おは…おはようござい、ますっ」
「……その区切りは、何?」
「べ、別に意味ないけど……それより」
「ん?」
「その着替え、どうしたのですか」
 総司からの質問に、土方は目を見開いた。それから、かるく肩をすくめ、おかしそうにくすっと笑う。
「一番初めの質問がそれとはね」
「え、だって……」
「この服はホテル内で昨夜、買いました。何でも揃ってるからな。あ、もちろん、おまえのも用意してあるから、大丈夫だよ」
「あ、ありがとうございます」
「どう致しまして」
 土方はくすくす笑いながら答えてから、ベッドの端に腰をおろした。とたん、彼との距離が近くなって、どきりとする。
 思わずシーツの中で身を竦めてしまった総司の全身に、土方はすっと視線を走らせた。しばらく黙ってから、問いかけられる。
「……躯、辛くないか?」
「!」
 とたん、総司の顔が真っ赤になった。男の言葉の意味するところをこんな時だけ即座に察してしまい、たちまち羞恥がこみあげたのだ。
 ぎゅっと両手でシーツを握りしめた。
「だ、大丈夫ですっ!」
 元気よく大声で叫んだ総司に、一瞬、土方は目を見開いた。呆気にとられたように総司を見つめてから、弾かれたように笑いだす。
 ぽかんとしている総司の前で、ひとしきり笑った男は、不意に両手をさしのばした。そっと包みこむようにその細い躯を抱きすくめる。
「……ほんとに、おまえは可愛いよ」
 男の腕の中に抱きこまれ、ますます総司は頬を紅潮させた。思わず枕に顔をうずめようとしたが、今度は、それを抜き取られ、ぽいっと遠くへ投げられてしまう。
「あ!」
 びっくりした総司の背に、土方は片腕をすべりこませた。そのままふわりと抱きおこし、膝上に坐らせてしまう。
 ぎゅっと抱きしめ、己の胸もとに抱きしめた。
「……枕なんかに抱きつくな」
 そう云った土方に、総司は目を丸くした。それから、さっきの彼のように、くすっと笑う。
 無邪気に、可愛らしく。
「土方さん……枕にやきもち焼いてるの?」
「あぁ、そうさ」
「うわー、認めるなんてびっくり」
「これからは、もっともっとびっくりするさ」
「そうなの?」
「あぁ。何しろ、俺はすげぇ嫉妬深くて独占欲の強い恋人だからな。おまえの心も体も、全部……もう俺だけのものだ」
「うん……」
 こくりと頷いた総司だったが、ふと、昨日の会話を思い出した。
 一服もられちゃう前の会話。


 ───じゃあ、ぼくがあなたの秘密を全部知ってしまったら……恋愛はおわるの?
 ───さぁ、どうかな
 ───おまえの中では終わるのかも……しれないね


 どんなに愛してくれても。
 今、枕にまでやきもち焼いて、独占欲をいっぱいにして、躯まで繋げちゃって。
 それでも時がたてば。
 いつか、この人のいう秘密を全部知ってしまった時──本当に、この恋は終わりになってしまうのだろうか……?


 その瞳が揺れたのを、土方は素早く見てとったのだろう。
 訝しげに眉を顰め、訊ねてくる。
「どうした」
「……本当にね、おわるの?」
「何が」
「この恋。本当に、ぼくがあなたの秘密を全部知っちゃったら、終わってしまうの?」
「……」
 今にも泣き出しそうな表情で訊ねてくる可愛い恋人に、土方は思わず苦笑をうかべてしまった。


 自分にサド的な嗜好はないはずなのだが、己の言動一つで儚く揺れる恋人に、奇妙なほどの愉悦感を覚えてしまう。
 少しいじめて、また甘やかせて、可愛がって、ほんの少し意地悪して。
 謎めいて、秘密を明かさず、恋の手管で翻弄し、どんどん虜にしてゆく。
 気がつけば深みの底に嵌って、もう逃れられないほどに。


 ゆっくりと微笑んだ。


(……けど、結局のところ深みに嵌っちまったのは、俺の方なんだけどな)


「終わらないよ」
 そう答えた土方に、総司は「え?」と目を瞬いた。
 それに、にっこり微笑いかけてやる。膝上に抱いたまま、白い額や頬、首筋に、羽毛のような優しいキスを落しながら、言葉をつづけた。
「秘密を全部知られたことで、おまえが俺に飽きたとしても、おまえの中でおわってしまったとしても……俺たちの恋は絶対に終わらない」
「ぼくがあなたに飽きるなんて、それこそあり得ませんよ」
 そう云ってから、総司は小首をかしげた。
「でも、どうして? どうして、終わらないの?」
 無邪気に問いかける総司を、土方は深く澄んだ黒い瞳で見つめた。


 この世の何よりも愛おしい恋人。
 やっと身も心も手にいれた、大切な存在。
 誰もが恋いこがれる、天上の歌姫。
 愛しいおまえを失うぐらいなら、いっそ撃ち殺されちまった方がいい。
 ───なんて。
 スナイパーが望むことじゃないけどな。


 しなやかに指をからませて、そっと引き寄せ、抱きしめた。
 耳もとで、低い声で囁きかける。
「……俺がおまえを永遠に愛してるから」
 まるで祈るように誓うように囁いた土方に、総司はちょっと息を呑んだ。驚いた顔で、思わず彼を見上げる。
 それを眺めてから、一転して、土方は悪戯っぽい瞳になった。ちゅっと音をたてて頬にキスして、楽しそうに言葉をつづける。
「だいだいさ、この俺が一度手にいれたものを手放すと思う?」
「え……あ、ううん」
「だろ? それに、まぁ、ようやく躯の方もお許しを頂いた事だし」
 土方はにっと唇の端をつりあげた。
「しっかりたっぷり……これからも、いやいや、今まで以上に心も体もずーっと愛させて頂きますので、ご覚悟のほどは?」
「か、覚悟って……」
「何なら、朝えっちなんてのもやっちゃって、今すぐ有言実行……」
「い、いいです! お断りしますっ」
 身の危険を察した総司は慌てて逃げだそうとしたが、時既に遅し。
 男の胸もとにしっかり抱きこまれた状態では、逃げられるはずもなくて。
「やだやだ、離してよ!」
「有言実行は俺のモットーなんだ。知ってた?」
「し、知らないっ、あ……どこさわってるのっ」
「ふうん、知らなかったのか。じゃ、新しく俺の秘密を知って良かったな。おめでとう」
「おめでとうじゃなくて……や! やぁ、んっ…ぁ……」
「……好きだよ、総司。ずーっと可愛がってやるからな」
「ぁ、ふ…ぁ、ぁ……っ」





 ──そして。
 とうとう捕まってしまった歌姫は、清々しい朝っぱらから、男の腕の中、その天使の声で甘く可愛く鳴かされてしまったのだった。








    この恋は終わらないよ
















 

[あとがき]
 はい、やっと初夜を迎えられました二人です。土方さん、さっそく好き放題やっておりますが(笑)。