なんてついているのか。
斉藤に作戦を授けてもらったその日に、逢うことができるなんて!
これこそ神様の思し召し?
「土方さん、あのね」
ぱたぱたと部屋の中へ入り、総司は食事の用意をしている土方にまとわりついた。
仕事帰りにそのまま来たのだろう。
スーツの上着を脱いでネクタイを外し、ワイシャツを腕まくりした彼は、ボトムズの上から黒のギャルソンエプロンをつけている。
その恰好で手早く料理している様が、何とも魅力的で、総司の胸をどきどきさせた。
「あのね」
「お帰り」
「あ、はい。ただいま帰りました」
ぺこりと頭を下げてから、喋りかけた総司に、土方はちょっと厳しい表情で云った。
「まず手をあらって、コートを脱いで。話はそれからだ」
「ごめんなさい」
子ども相手のような口調だが、総司は素直に従った。
土方がどれほど総司の躯を気遣ってくれているか、よくよくわかっている事なのだ。だからこそ、いつもこうして栄養満点の料理をつくってくれるし、あれこれと世話も焼いてくれる。
手を洗い、着替えを済ませた総司が部屋に戻ると、土方はもうダイニングテーブルに料理を並べている処だった。
今日は中華だ。チンジャーロースに、卵スープ、胡瓜の甘酢漬け、野菜の中華風煮物というメニューだった。デザートは杏仁豆腐だと云われ、わぁいと喜ぶ。
「いただきます」
両手をあわせてから、総司はぱくぱく食べ始めた。いつものように、とってもおいしい。
土方はそれに目を細めた。
総司の愛らしい笑顔を見られるなら、どんな事でもしてやりたいと思うのだ。餌付けと云われようが何だろうが、総司のためなら、もっともっと料理の腕を磨いてやる。
「土方さん、あのね」
料理があらかた片付き、デザートの杏仁豆腐までいきついてから、総司はようやく話を思い出したようだった。
蓮華ですくいながら、話を始める。
「今度、ドライブしたいんですけど」
「ドライブ?」
「うん。車でどこか行きたいなぁと思って。だめ?」
可愛らしく小首をかしげた総司に、土方はくすっと笑った。
「いいけど、レンタカーになるよ。俺、車もってないし」
「……え?」
総司はびっくりして目を瞬いた。
「車、もってないって……ほんと?」
「買う必要なかったからね。仕事上では部下が運転してくれるし、通勤は電車だし、プライベートでは女が乗せてくれたし」
あっさり云ってのけた男に、総司は呆気にとられた。
一番最後だけ聞き捨てならなかったが、実際、本当の事なのだろう。
高級車を乗り回している美女に送ってきてもらう彼を、目撃した事もあるのだ。
その時のキスシーンも!
「じゃ、じゃあ……レンタカーでもいいから。土方さん、運転できるんでしょ」
「一応な。けど、最近あまり運転してないなぁ。運転免許証もどこへやったか」
「えぇっ?」
一番肝心のものの居場所がわからないという言葉に、総司は青ざめてしまった。
それしゃ、全然意味がないじゃない!
運転免許証を見せてもらうのが一番の目的なのに、っていうか、それでお誕生日を調べるつもりだったのに。
「今すぐ探しましょう。ぼくも一緒に手伝うから」
「今すぐ? 何で」
不思議そうに訊ねる土方に、総司は言葉に詰まったが、何とか必死に云いつのった。
「だ、だって、ぼく、ドライブしたいし。レンタカーでも運転免許がなくちゃ駄目でしょ」
「そりゃそうだけどね」
まだよくわからないという表情の土方の傍に、総司は駆け寄った。腕を掴んでひっぱる。
「ほら、早く! 土方さんの部屋に行って探しましょうってば」
「わかった、わかったよ」
土方は苦笑しながら、立ち上がった。
「何……これ!」
ドアを開けて、土方の部屋に入って。
そのとたん、総司は思わず叫んでいた。
玄関をあがってすぐの廊下。
そこに、たくさんの箱や袋が山積みにされていたのだ。どれもこれもブランドのロゴが入った物ばかりだった。
呆気にとられていると、土方はドアを閉めながら肩をすくめた。
「あぁ、貰い物。それより、運転免許証だけどな」
「え?」
目的物の名を出され、我に返った。ふり返った総司の前に、一つのものがさし出される。
「思い出した。玄関のシューズロッカーの引き出しに入れていたんだ。ほら」
「あ」
総司は慌てて運転免許証を手にとった。というか、ついつい彼の手から奪い取ってしまった。
その勢いに土方が驚いていたが、気にしていられない。
しかも、しかも、しかも!
「何これっ。5月5日って……えぇーっ!?」
「は? 何をびっくりしているんだ」
訝しげに眉を顰める土方の前で、総司は運転免許証を握りしめたまま、フローリングの上に力なく坐り込んだ。
確かに、運転免許証には彼の誕生日が明記してあった。
5月5日と、はっきりくっきり書いてあったのだ。
だが、しかし。
「5月5日って……昨日じゃない……」
「昨日。あぁ、確かに、昨日は5月5日だな。今日が6日だから」
ごくごく当然の事を云って頷いた土方を、総司はきっと大きな瞳で睨みつけた。ぐいっと彼の前に運転免許証を突きつける。
「何呑気な事を云っているんですか! 過ぎちゃったじゃない、あなたのお誕生日!」
「え……?」
「せっかく祝おうって思ったのに、誰よりもちゃんと祝ってあげたかったのにっ」
「……」
「こんなのって、こんなのって……ないよ……」
総司は廊下にうずくまり、ぐずぐずと泣き出してしまった。とめようと思っても、あまりの悔しさに涙がぽろぽろこぼれてしまう。
さんざん悩んだ末に、ようやく彼の誕生日を探り当てたと思ったら、一日遅れだったなんて!
悔やんでも悔やみきれない一生の不覚だ。
俯いてしくしく泣いている総司の前で、土方はしばらく考え込んでいるようだった。
だが、やがて、ゆっくりと跪くと、総司の細い肩に手をかけて顔を覗き込んだ。
「総司、顔をあげて」
「……やだ」
「やだ、じゃ困るから。とにかく、話を聞いてくれないか」
「……」
のろのろと顔をあげた総司に、土方は優しく微笑みかけた。
「ありがとう、総司」
「え……?」
「俺の誕生日、祝おうとしてくれていたこと。とても嬉しいよ」
「だって……! 何もできてな……っ」
「気持ちが大事だ。総司の、そのあたたかで素直な気持ちが一番大事だと俺は感じている。俺を誰よりも愛して、大切に想ってくれている総司の気持ちがね」
「土方…さん……!」
総司は両手をのばし、土方に抱きついた。彼の胸もとに頬を押しつけ、泣きじゃくる。
それに土方は苦笑し、額に、頬に、キスを落としてくれた。柔らかなキスをあたえられ、昂ぶっていた気持ちが少しずつ落ち着いてくる。
だが、やがて、ふわりと抱きあげられ、総司は「え?」と目を瞬いた。
驚いて見上げると、土方はにっこり笑いかけた。
「一日遅れの誕生日祝い、受け取ってもいいかな」
「え、でも。ぼく、何も用意してないし」
「ちゃんと用意してくれたし、わざわざ来てくれたよ」
「? ? ?」
「最近ご無沙汰だったし、この間のデートでも全然さわらせてくれなかったからね。さすがの俺も我慢の限界超えかけていた処だから。ちょうど良かったと云うべきかな」
「……それって、それって……ま、まさか」
男の言葉に、総司はようやく気がついた。
もしかして、いやいや、もしかしなくても、自分は狼さんの巣へ自ら飛び込んでしまったのだろうか。
にっこり笑いながら、その実、飢えまくっていた狼さんの巣に。
「だ、だめだめ。その気になってないから」
「いや、俺はその気だから。大丈夫」
「土方さんが大丈夫でも、ぼくが違うのってば……っ、ぁっ」
思わず甘い声をあげてしまったのは、首筋に唇を押しあてられたからだ。
総司はそこが弱い。くすぐったいような、甘い痺れのようなものが走り抜け、たちまち身体の力が抜けてしまうのだ。
「ほら、おまえもその気になってきただろ?」
「ち、違うもん」
「じゃあ、おまえからのプレゼントなし?」
「え。そうじゃ…ないけど、でも……っ」
「俺にとっては、世界中の何よりも、おまえが一番のプレゼントだよ」
そんな甘い言葉を囁きかけられながら、ベットの上に降ろされれば、抵抗できるはずもなくて。
しかも、熱っぼく濡れた黒い瞳で見つめられ、頬や首筋に、ちゅっちゅっとキスを落とされて、やだって云えると思う?
「……土方さん」
ようやく身体の力を抜いた総司に、土方は微笑んだ。髪をかきあげて額にキスを落し、囁きかける。
「いい子だ。愛しているよ」
「うん……」
こくりと頷いた総司の細い躯を抱きしめ、土方はシャツの中へ手をすべり込ませた。なめらかな白い肌の感触を味わい、優しく撫であげてゆく。
総司の躯は華奢だが、しなやかな若鹿のような美しさをもっていた。細い手足も、細い腰も、白い肌も、何もかもが綺麗で、背中に天使の羽がついていないのが不思議にさえ思える。
土方はその躯のすべてを愛おしむように抱いた。
根気よく丁寧に愛したおかげで、最近は随分と敏感になって快楽にも素直になってきた総司が、可愛くてたまらない。
むろん、男に抱かれること自体には、まだまだ不安や怖さがあるようで、なかなか回数は増えないが、そういう初な処もまたいいと思ってしまうのだ。
「ふっ…ぁ…ッ、ぁんっ」
仔猫のような声をあげ、総司が仰け反った。
その細い躯を抱きしめて、ゆるく突き上げてやる。すると、蕾がきゅうっと締まり、何とも云えぬ快感が背筋を走り抜けた。それをやり過し、ほっそりした両足を抱え込むと、力強い抽挿を始める。
「ぁあッ、ぁッ、ぁ…ぁあッ」
たちまち、総司は甘い悲鳴をあげ、細い両腕で男にしがみついてきた。ねだっているような仕草に、思わず笑みがこぼれる。
「可愛いね……全部、食べたくなっちゃうよ」
「やっ、ぁッ、ぁあんっ ぁッ」
「食べてもいい? プレゼントだから、許してくれる?」
くっくっと喉奥で笑いながら、土方は総司の白い肌に喰らいついた。唇を押しあて、あちこちにキスマークを残してゆく。
ぴんと尖った乳首を舌で嬲るように舐めあげ、かるく歯をたてた。それに感じた総司が「ひいっ」と鋭い声をあげた。
「──ぁ、ぁ、ぁあ……ぁ……」
びくびくっと震えたかと思うと、総司のものが蜜を吐き出した。今ので達してしまったのか。ふれてもいないのに達するなど、随分と敏感になったものだ。
土方は満足げにそれを眺め、総司の膝裏に手をかけた。躯を二つ折りにし、ぐっと腰を沈める。
柔らかな蕾が男の太い猛りを受け入れ、絡みついた。
だが、絶頂に達して感じやすくなった躯に、すぐさま楔を深々と打ちこまれた総司は、
「ぁああーッ……!」
と声をあげて、泣き叫んだ。いやいやと首をふり、逃れようとする。
その細い肩を掴んで押さえつけ、土方は激しく腰を打ちつけた。感じやすい蕾の奥を何度も己の猛りで穿ってやる。
「ひいっ…ぃっ、ぁあッ、ゆ…る、して…ッ」
「気持ちいいだろう? もっと良くしてあげるよ」
「ぃ、やぁッ、も、だめっ、だめぇっ…っ」
泣きじゃくり嫌がる総司を押え込み、膝裏を掴んで大きく押し広げた。開かれた蕾の奥を、ぐちゅぐちゅと己の猛りで捏ね回す。
総司は、こうされるのが一番弱いのだ。
たちまち感極まったように泣き叫びだした総司に、土方は口角をあげた。
可愛くて可愛くて、どうにかなってしまいそうだ。
だが、そろそろ総司も限界を超えかけているのがわかった。自分の我慢もそろそろ限界だ。
「最後に、しっかり食べさせてもらうね」
耳もとで囁きかけると、意味がわからなかったらしい総司は、ぼうっと潤んだ瞳で彼を見上げた。快感に半ば意識を飛ばしているらしい。
その細い躯を抱えて後ろ向きにし、ベットの上に這わせた。獣のような体位をとらせて細い腰を掴むと、後ろから一気に貫く。
「ぁぁあーッ!」
悲鳴をあげ、総司が仰け反った。がくりと肘が折れる。
だが、その方が男にとって好都合だ。腰だけを高くあげさせた恰好で、土方は総司の白い躯を貪り始めた。
激しく腰を打ち付け、頂点へと昇りつめてゆく。総司の悲鳴と喘ぎ声、息づかい、腰を打ちつけられる音だけが響いた。
「アアッ、ぁ…ぁあっ…も、ゆるし…ぃ、ぃやッ」
「総司……総司、愛しているよ……っ」
「ぁッ、ぁああっ、土方さ…ぁああーッ!」
総司がシーツに顔を押しつけ、泣き叫んだ瞬間、蕾の奥に男の熱が叩きつけられていた。それにさえ感じて、総司が「ひいっ」と息をつめる。
必死に堪えようとしたが、二度三度と注ぎこまれ、細い腰が大きく震えた。気がつけば、総司のものもとろとろと濡れてしまっている。
「……ぁ、ぁつい…ぼくの中……出してる…ぅ…っ」
甘い声で泣きながら腰を揺らす総司に、土方は思わず喉を鳴らした。
本当にこの歌姫は、天使のような愛らしさのくせに、ベットの中ではとんでもない小悪魔だ。
だが、こうなったら、とことんまで喰らってやるさ。
俺のためだけに用意された、この極上のプレゼントをな。
不敵な笑みをうかべた土方は、恋人の細い躯をゆっくりと抱え起こした。そのまま膝上に抱きあげる。
頬にキスをおとした男に、総司はぼんやりした表情で目を瞬いた。
「……な…に……?」
「最高のプレゼントをありがとう」
「え……?」
「まだまだ足りないから、もう少しつきあって」
「……え、え……や、だ!」
事態を理解した総司が慌てて逃げようとしたが、男の逞しい腕から逃げられるはずもなくて。
その日の夜は、甘い泣き声が部屋の中に響きつづけたのだった。
翌日の昼頃、ようやく起き出した総司は、土方お手製のご飯を食べながら思い出した。
焼きたてのチーズベーグルを囓りながら、問いかける。
「ね、ずっと気になっていたんだけど」
「何?」
「玄関にある沢山のプレゼント、あれ、もしかして……」
「あぁ、あれ? 云っただろ」
土方は珈琲を飲みながら、あっさり答えた。
「貰い物だって」
「それにしては凄い量じゃない。いったい、いつ贈られてきたの?」
「さぁ、ここ一週間ぐらいかな」
かるく肩をすくめた。
「全部、検察庁宛で来るのさ。俺の住所、知らないから当然だろうけど」
「それはそうでしょ。でも」
「まぁ、いつもの事だし」
「いつもの事?」
びっくりして目を丸くする総司に、土方はくすっと笑った。
「おまえだってあるだろ? 天下の歌姫なんだから。たくさんプレゼント貰っているはずだろうが」
「それは事務所の方で受け取るから。でも、土方さんは……」
「検事だけど、何故かあるんだよ」
心底、不思議に思っている表情で、呟いた。
「賄賂とかじゃなくてさ、俺個人へのプレゼントがね。それも女からばっかだけど」
「……」
「あ! そうか」
不意に、土方はぽんっと手を叩いた。何か思いついたらしく、黒い瞳が子どものようにきらきらしている。
「最近、妙にプレゼントの量が増えたと思ったら、俺の誕生日プレゼントだったんだ」
「……」
「なるほど、そうか。それで謎が解けた、すっきりしたな」
そう云ってにこにこ笑う彼を、総司はじっと見つめた。
つまり、何?
この人は自分のお誕生日なんて、全然意識外だったって訳?
もてている事も、プレゼントも、お誕生日も、自覚なし?
ぼくに祝ってもらって上機嫌なのは、いいんだけど。
でも、なんか、なんか……
「? どうかしたのか、総司。ため息なんてついて」
「……何でもありません」
総司は小さな声で答えた。
そして、もう一度、はぁっとため息をつくと、ずっと悩んできた自分がバカバカしくなった気分で、チーズベーグルを囓ったのだった。
タイトルの自覚のない男とは、もちろん、土方さんのこと。お誕生日も覚えていないのは、土方さんの方なのでした。