「……どうして……ここに?」
 問いかけたとたん、気がついた。
 自分の居場所などわかって当然なのだ。何しろ、この森に魔法をかけたのは彼なのだから。
「本当に、魔法をかけたの?」
 そう訊ねた総司に、土方は傍らに腰をおろしながら喉奥で笑った。手早くランチボックスを開き、お手拭きやら、カップ、皿などを取り出している。
「云っただろ? お姫さまを閉じこめるための魔法だって」
「でも、そんなの」
 魔法なんてある訳ないと云いかけた総司に、土方がサンドイッチをさし出した。
 白いパンに真っ赤なトマトとレタス、黄色の卵がとてもおいしそうだ。
 思わず手にとり、食べてしまった総司に、土方はくすっと笑った。自分も口にはこびながら、何気ない口調で云う。
「魔法って、あると思うよ」
「え?」
「ほら、このランチだって、一人で食べたらただのサンドイッチだけど、総司と食べれば、最高においしいサンドイッチになる。これって、魔法だと思うけどな」
「土方さん……」
 小さく呟くと、土方は優しく微笑いかけた。かるく総司の顔を覗き込むようにして、訊ねてくる。
「それとも、総司は違う?」
「え」
「俺と一緒に食べた方がおいしいと、思ってくれない?」
「もちろん、おいしいです!」
 思わず叫んでしまった。
「土方さんと一緒の方が、いつだって楽しいもの。ご飯だっておいしいもの。このサンドイッチだって、土方さんがつくってくれたんでしょう? とってもおいしいです」
「ありがとう」
 土方は小さく笑い、総司の頬にちゅっとキスをしてくれた。それだけで顔を真っ赤にしてしまう少年の初さに、可愛くてたまらないと目を細める。
 ランチをすませると、土方は朝方の総司のようにごろりと花畑の中へ仰向けに寝ころんだ。青空を見上げ、小さく吐息をもらす。
「……あぁ、いい気持ちだ」
「うん」
 総司はすぐさま男のすぐ傍に寝転がり、甘えるように身を寄せた。そっと抱き寄せ、背を撫でてくれる男の大きな手が心地よい。
 さんざん歩きまわって疲れただけに、思わず吐息がもれた。
「気持ちいい……」
「そうだな」
 耳もとにふれる男の声が優しく、うっとりと目を閉じた。
「いい匂いがして、ふわふわして……とても気持ちいい」
「……」
「ずっと……こうしていたいぐらい」
 そう云った瞬間、男の手に力がこもった気がした。やがて、低い声が訊ねる。
「……じゃあ、ずっといる?」
「ぇ……」
「この綺麗な花畑の中に、ずっと……いる?」
「……」
 不意に、ばちっと総司の目が開いた。
 はっと我に返ったのだ。慌てて身をおこしかけると、手首を掴まれ、悪戯っぽく笑いながら見上げる土方と視線が絡んだ。
「ひ、土方さん!」
「何?」
「何って、今、ぼくに魔法をかけようとしたでしょ!」
「まさか。ただ、総司に聞いただけだよ。ずっと、ここにいる?って」
「いないもん! そりゃ、ここは素敵だけど、ずっとなんて無理なんだから。絶対、逃げ出してみせるんだから」
「ふうん? じゃあ、本気で閉じこめちゃおうかな」
「え」
 花畑に寝ころんだまま、土方は黒い瞳で総司を見上げた。形のよい唇の端に、不敵な笑みをうかべる。
「ほんの少しのつもりだったけど、気が変わった。ずっとここに閉じこめて、もう外には出さない」
「そんなの、土方さんがするはず……」
「するよ。俺は、総司のためなら何でもやれる男だから」
「……っ」
 総司は大きく息を呑んだ。
 本気だと思ったのだ。やはり、本気で彼は怒っているし、本気で総司を閉じこめようとしている。
 いつも、総司には優しくて甘甘な彼。だが、その彼が、総司のためなら手段を選ばない男である事も、本当だった。


 もう二度とここから、逃げられない……?


「だめ」
 総司は桜色の唇を尖らせた。
 細い指さきで、男のシャツをかるくひっぱる。白い紋白蝶がひらひらと飛び、総司の肩に舞い降りた。
 花畑の中で、天使のように可愛らしい総司は、だが、可愛くない事を云ってのける。
「ずっとなんていやだもん。ぼくは土方さんがだい好きだけど、仕事だって好きだから」
「俺より仕事って訳?」
 ちょっと不機嫌そうに眉を顰めた土方に、総司はふるりと首をふった。
「違うけど。でも、比べる対象じゃないの」
「それはわかっている。けど、体を犠牲にしてまでされる事は、俺も我慢できない」
「だから、閉じこめるの? 土方さんは、歌っているぼくが好きと云ってくれたじゃない」
「好きだよ。だから、自分をもっと大事にして欲しいんだ」
「土方さん……」
「愛してる……総司。おまえを失えば、俺はきっと生きてゆけない」
 真剣な声でそう云った土方に、総司は小さく震えた。
 どれだけ心配してくれたか、愛されているか、今の言葉で本当によくわかった気がしたのだ。これまでも、何度も心配され、愛されてきたけれど……この人は、本当に包みこむような愛情で、いつも見守ってくれる。
 自分の事よりも、いつも総司を大切にしてくれる。


 こんなにも愛してくれる人は、世界中のどこを探してもいない……。


「ごめんなさい……」
 総司は小さな声で謝ると、そっと土方の躯の上に身をたおした。広い胸もとに凭れかかれば、柔らかく抱きすくめられる。
 シャツごしの鼓動とぬくもりを感じながら、総司はその躯に抱きついた。
「本当に、ごめんなさい。何度も心配かけて……ごめんなさい」
「今度こそ約束してくれ。自分を大事にすると」
「はい」
 こくりと頷いた総司の髪を、土方はそっと撫でた。それに、ちょっと躊躇ったが、訊ねてみる。
「……それで、あのう」
「何?」
「ここから、いつ……出られるの?」
「……」
 総司の髪を撫でていた男の手が、ぴたりと止まった。それに不穏な気配を感じ、慌てて言葉をつづける。
「い、今すぐ出たいとか、そんな事は云わないけど! でも、ほら、予定は知っていたいかなぁって」
「……明後日」
 いつもより数段低い声で答えた土方は、まだ不機嫌そうだった。
 それに、びくびくしつつも、総司は云った。
「どうやって出るの? 魔法って、本当じゃないんでしょ?」
「魔法だよ。俺は、可愛いお姫さまを閉じこめた、悪い魔法使いさ」
「嘘。王子様だもの」
「は?」
 突拍子もない事を云い出した総司に、土方は目を丸くした。それに、言葉をつづける。
「さっき、花畑の中に現われた土方さんを見て、そう思ったんだもの。すっごく恰好よくて素敵で、見惚れちゃったぐらいで……本当に王子様みたいだった」
「王子様…ねぇ? 王子様が、お姫さまを誘拐したり閉じこめたりする?」
「愛しているなら」
 総司の言葉に、土方の目が優しい色をうかべた。そっと、総司の頬を撫でる。
「愛しているなら……いいの? 閉じこめられても」
「うん。愛してくれているなら……」
 総司の背に手がまわされ、そっと引き寄せられた。二人の唇が重なる。
 甘い甘いキスをかわしながら、総司は土方の躯の上にまたがった。花畑に仰向けに寝ころんだ男の上にまたがるなんて、ふつうだったら恥ずかしくて出来ないが、ここでなら何でもOKという気がしてしまう。
 土方は総司の細い腰に腕をまわして支え、見上げた。いつもと逆転した視点に、どきどきする。
 花畑の中、二人は何度もキスをかわし、抱きしめあった。いつのまにか脱がされてゆくシャツやジーンズに、恥ずかしさがこみあげたが、それも男の濃厚な愛撫でかき消されてしまう。
「ぁ、ぁあ…ぁッ」
 青空の下、甘ったるい泣き声が響いた。
 白い肌にちらちらと日射しが柔らかく降りそそいだ。それがとても艶めかしい。
 いつのまにか、体勢は逆転していた。花畑の中、総司は仰向けに横たわり、それに土方がのしかかっている。
 男の手は少年の下肢を開かせ、奥にある蕾を丁寧にほぐしていた。華奢な総司だから、よく馴らしてやらないと、傷つけてしまうのだ。
 だが、それは総司にとって羞恥の行為であり、されるたび、頬を赤く染めてしまう。
「……ゃっ、ぁ…や、も……っ」
「まだ、固いから」
「だって……恥ずかし……っ」
 総司は顔を両手でおおい、いやいやと首をふった。耳朶まで真っ赤になっている処が可愛らしい。
 それに、土方はくすっと笑い、ようやく指を抜いた。細い両脚を抱え上げ、蕾に彼の猛りをあてがうと、総司の呼吸が早くなる。
 その先にある快感を知っていても、やはり怖いのだ。それを知っている土方は、総司の頬や首筋に何度もキスを落しながら、ゆっくりと腰を進めていった。蕾が男の猛りに開かれ、貫かれてゆく。
「ぃ……っぁあッ」
 総司は思わず上へ逃れようとした。だが、しっかりと下肢を抱え込まれているため、身動き一つ出来ない。
「……総司、力を抜くんだ」
「ゃッ、は…ぁ、ぁ…ぃ、たい……っ」
「少しだけ……我慢して」
 掠れた声で囁き、土方はぐっと腰を入れた。一気に最奥まで貫かれ、総司は悲鳴をあげた。
「ぁ…ぁあ──あッ」
 細い指さきが男の腕を掴み、爪をたてる。だが、土方はそれを離させようとはしなかった。よりしっかりと抱きつかせてから、抽挿を始める。総司の感じるいい処だけを突きあげてやると、次第に、総司が甘い声をもらすようになってきた。
 それを確かめ、土方は総司の細い躯にのしかかるようにして、激しく腰を打ちつけた。男の猛りが蕾に抜き挿しされる。
「ひ…ぁあっ、ぁ、ぁんっ、ぁ……っ」
「……総司……総司」
「ぁ、んぁ…や、土方さ……っ」
 不意に、総司が激しく首をふった。それに、まだ痛みがあるのかと、眉を顰めた。
「痛いのか?」
「ちが…っ、シャ…ッ、ぼく…ばっか……」
「?」
 一瞬、意味がわからなかったが、彼のシャツを引っぱる細い指さきに理解した。自分ばかりが裸にされ、土方だけが服を着ている事を、いやだと云っているのだ。
 土方の方は前を寛げただけなので、シャツの釦一つも緩めていない。
「恥ずかしい?」
 くすくす笑いながら訊ねると、総司は目元を赤くして睨みつけてきた。そんな仕草さえも男を煽るのだと、どうしてわからないのだろう。
「可愛いね」
「ゃ…っ」
「わかったよ、ちゃんと脱ぐから待っていて」
 土方は身を起し、シャツの釦に手をかけた。釦を外し、シャツを脱ぎ捨てると、引き締まった褐色の上半身が露になる。見下ろせば、総司がうっとりした表情で彼を見上げていた。それに、思わず苦笑する。
「だから、そんな顔するなって」
 頬を撫でてやると、え?という顔で小首をかしげた。それに、くっくっと喉奥で笑う。
 土方は総司の細い両脚をするりと撫で、抱えあげた。膝裏に手をかけて押し開き、一気に突き入れてゆく。
「ッ…ぁああーッ」
 悲鳴をあげ、総司が仰け反った。さらさらした髪が花の上で揺れる。
 いったん奥まで抉ると、土方はそのまま激しい抽挿を始めた。感じやすい箇所だけを擦りあげ、総司を頂きへと導いてゆく。
「ふっ、ぁっ、はあッ…ぁあっ」
 総司は彼の背中に手をまわし、縋るように抱きついた。とたん、ちくりと痛みが走る。
 爪をたてられたに違いないが、それさえも刺激になった。甘えたで怖がりな貓のように爪をたてる総司が、可愛くて可愛くてたまらない。
 むしゃぶりつくように、頬や首筋、胸もとへ口づけを落とした。情交の痕を白い肌に色濃く残してゆく。
「ぁ…ぁあっ、んっぁ、あっ」
「総司……すげぇ、可愛い」
「ん、ぁッ、ひぃぁ、あ───」
 自分のものを大きな掌に包み込まれ、総司が息を呑んだ。目を見開き、躯を小さく震わせている。
 それに、土方は大きく腰を揺らしながら、囁いた。
「いって……いいよ」
「だ、だって…ぁ、ぁあッ、んぅ……」
「大丈夫。一緒にいこう……」
 土方は総司のものを扱いてやりながら、抽挿を早めた。のしかかるようにして、ぐっぐっと奥を突き上げる。
「ひぃ、ぁあッ」
 総司が仰け反り、びくびくっと躯を震わせた。とたん、内部がきつく締まり、土方も思わず息をつめる。
「っ…くっ……」
「ぁああッ…土方、さ…ッ!」
 悲鳴をあげた瞬間、その腰奥に、男の熱が激しく叩きつけられた。感じる部分に迸り、その刺激に目の前がまっ白になる。
「ぃっ、ぁぃ…ッ、あっ、あっ」
 総司は土方の背に手をまわし、泣きじゃくりながら縋りついた。土方も両腕できつく抱きしめてくれる。
 二人は深く繋がったまま、花にうもれるようにして、何度もキスをかわした。髪を頬を撫であい、互いを深く求めあう。
「……愛している……」
 どちらともしれぬ声は、甘い甘い花畑にとけ消えていった。












 その三日後、総司は成田空港にいた。
 というか、気がつけば「え? ここ何処?」という感じだったのだ。
「ロケよ、ロケ。CM録りのためにニュージーランドへ行くんでしょ。忘れたの?」
 そう、てきぱきした口調で云ったのは、マネージャーである磯子だ。
 総司はきょとんとした顔で、目を瞬いた。
「え? 土方さんは?」
「ここまで総ちゃんを送ってきて、さっさと仕事に行っちゃったわよ。彼もドイツに海外出張なんだって」
「えぇっ!?」
 総司はびっくりして、思わず立ち上がってしまった。
 今朝、土方がつくった朝食をとった後、手をひくようにして森から連れ出され、車に乗せられたのだ。
 そのまま、訳がわからない状態で車やら電車やら飛行機に乗り、いつのまにか、ここ成田空港のロビーの椅子に坐っていた訳なのだが……。


 いったい、いつ彼と別れてしまったわけ!?


「土方さんの乗る飛行機、もう出ちゃった?」
「まさか、さっき別れた処だし……」
「ちょっと行ってくる」
「えぇっ? 行ってくるって……ちょっと、総ちゃん!」
 驚いて声をあげる磯子を残し、総司はたったか走り出した。
 サングラスをかけているし、帽子もかぶっているので、変装は完璧だ。誰も、あの歌姫総司とは気づかない。
 総司は大勢の人波をすり抜けるようにして、一生懸命走った。ドイツ行きの飛行機ならこっちと思うのだが、それでも人が多すぎる。
 本当に逢えるの?と不安になりかけた時だった。
「……あ」
 大勢の人の中、長身の男の背が目に入った。
 すらりと均整のとれた躯に、上質のスーツを着こなし、黒のトランクを片手で引いている。
 走りより声をかけようとした瞬間、土方が不意にふり返った。そのため、総司は彼の腕の中へ飛び込む形になってしまう。
「わっ……」
 ぱふっと胸もとに顔をうずめてから、慌てて顔をあげれば、土方は驚いた表情で総司を見下ろしていた。
 すっきり整えられた黒髪や、よく似合うスーツ姿がストイックで、あの三日間を過していた時とはまた違う魅力に、どきどきする。
「どうしたんだ?」
 土方は総司の細い肩に手を置き、覗き込むようにして訊ねた。何かあったのかと思ったのだろう。かるく眉を顰めている。
 それに、総司はううんと首をふった。
「違うの。ただ、いつのまにか土方さんいなくなっちゃっていたから」
「あぁ」
 土方はくすっと笑った。
「ちゃんと挨拶したんだけどさ、おまえ、眠そうだったから」
「でも、何もなしでいなくなるのは嫌です。ちゃんと、云いたかったから」
「何を?」
 小首をかしげる土方を、総司は見上げた。
「三日間、ありがとうって。それから、また……連れていってね」
「それはそれは」
 土方は苦笑し、総司の頬を指さきで撫でた。
「そこまで気にいってくれるとは思わなかったよ。けど、良かった。また一緒に行こうな」
「でも、あそこはどこなの? どこかの別荘地?」
「それは秘密。云ったら、魔法の森じゃなくなるし」
 悪戯っぽく笑った土方は、それから、少し低めた声で云った。
「けど、いいのか? 今度こそ……永遠に閉じこめちゃうかもしれないよ?」
「……」
 冗談まじりの、だが、どこか真剣な色を帯びた声音に、総司はかるく息を呑んだ。大きな瞳でサングラスごしに彼を見上げる。
 やがて、そっと両手をのばした。土方の手にふれながら、小さな声で答える。
「……いいです」
「総司」
「あの花畑でも云ったでしょう? 愛してくれるなら、って」
「……」
 一瞬、土方は目を見開いた。
 そして。
 小さく笑うと、可愛い恋人を、腕の中にそっと閉じこめたのだった。

















 

[あとがき]
 魔法の森がどこにあるのか?は、皆様のご想像にお任せするという事で。
 こういう可愛くてメルヘンチックな処で、のんびりしたいなぁという気持ちで、うきうき書いたお話です。少しでも、皆様がリラックスして楽しんで下されば、とってもシアワセです♪
 ラストまでお読み下さり、ありがとうございました。
 「いちごミルク」好き! もっと書いて〜♪ という方は、メッセージしてやって下さいませね♪