「いつかは死ぬのなら、俺に殺される方がいいと思わない?」


 彼がもって来てくれたケーキの箱を、うきうきしながら開けたとたん。
 そんな事を突然云われて、びっくりした。







 土方の訪れは、いつも突然だ。
 何故なら、いつも彼はとてもとても忙しいから。
 総司も歌手なんてやっているのだから、それも超人気売れっ子だからとんでもなく忙しいのだが。
 その実、土方の方がもっと忙しいのかもしれない。
 それはもう大変忙しくて、表のお仕事と裏のお仕事と、二つ一緒に重なった期間なんてものすごくて。
 もちろん、裏のお仕事のことなんて、総司は全く知らないのだが。
 そんな忙しい恋人たちだからこそ、二人逢えた一時はとても大切な甘い時間。
 でも、その甘い時間の訪れは、いつも突然で。
 だけど、それがまた。
 恋のどきどき感を高めるから、総司は結構好きなのだけれど。


 でも、殺されるって……何?


「あのう……意味がよくわからないのですけど」
 ケーキをそおっと皿に移しながら呟いた総司に、土方はソファで悠然と足を組み替えながら答えた。
「いや、だって、おまえは優しいから」
「ぼくが?」
「優しいおまえなら、俺に殺された方がいいだろうって」
「? ますます意味がわからない」
「わからないかなぁ」
 土方はくすっと肩をすくめるようにして笑うと、指さきで総司の頬から首筋を撫であげた。


 しなやかな指さきがたどる、白い肌。
 顔を寄せると、ふわりと漂う甘い香り。


「これ……新しい香水?」
「うん」
「誰に貰った」
「えっと……ファンの人」
「俺が今度別のを贈ってやるよ」
「え、気にいらないですか?」
「俺が贈ったのじゃないのをつけてる総司が、嫌なだけ」
 平然とそう答えた男に、総司は目を瞠った。
 だが、独占欲の強いこの男が、こういった言動をとるのは初めてじゃなくて。
 それだけ愛されてるってことだから。
 ちょっと嬉しいこともあって、総司は小さく微笑む。
「じゃ、今度一緒に選びにいきましょう?」
「あぁ」
 頷いた土方の前で、総司はフォークをケーキに入れた。ぱくっと食べると、甘い味が口の中に広がる。
「ん、おいしー♪」
「それは良かった」
「買ってきてくれて、ありがとう」
 総司はにっこり微笑んでから、ことんと小首をかしげた。
「で、さっきの話」
「ん?」
「殺されるってこと。どうして、ぼくが優しいと、あなたに殺される方がいいのですか?」
 総司は身を乗り出すと、大きな瞳で恋人を覗き込んだ。


 幼さの残る、ベビーフェイス。
 だけど、ピンク色に濡れた唇がそれを艶っぽく裏切っている。
 ケーキの甘さが残っていても。


「決まってるだろ」
 その唇にちゅっと軽くキスしてから、土方はくすっと笑った。
「おまえが死んだら、その原因となった連中を俺が殺してまわるからさ」
「……土方さん、それ犯罪」
「完全犯罪」
「って、無理ですよ」
「そうかな」
 首をかしげると、艶やかな黒髪がさらりと揺れた。
 それに思わず手をのばし、指さきで優しく梳いてあげる。
「第一ね、ぼくが誰かに殺されたり、事故で死んだりするって決まってる訳じゃないでしょう? たとえば、病気で死ぬかもしれないし」
「だったら、おまえを助けられなかった医者も殺すね」
「……あのー、目が冗談じゃないっていうか、超真剣なんですけど」
「いや、冗談じゃないから」
「うーん」
 総司は唸り、ちょっと考えこんだ。
 それから、ぱっと顔をあげて、まるでクイズのように問いかける。
「じゃあね、例えば、海で鮫にぱっくりで死んじゃったら?」
「当然、その辺りに生息する鮫全部すくって片付ける」
「……あの、金魚すくいじゃないんですから、そんな簡単に」
「おまえのためなら、何でも出来るさ。そこら中の鮫全部つかまえて、仇をしっかりうってやる」
「仇って、めちゃくちゃ」
「めちゃくちゃだろ」
「それにね、そんなとこ想像すると怖すぎますよ」
「怖いだろ」
「うん」
「だったら」
 土方は身を乗り出すと、総司の耳もとに唇を寄せた。
「俺以外に殺されるな。おまえは俺だけのものだから」
 項から後ろ髪に手をすべりこませ、指さきで柔らかくかき乱しながら。
 甘やかな声で低く囁きかける。


「……俺が優しく殺してやる」


 男の言葉に、総司は目を見開いた。
 だが、すぐに明るく可愛らしく笑いはじめる。


 きっと、冗談だと取ったのだろう。
 いつもの軽口の叩きあい、もしくは甘い睦言の一つだろうと。
 総司は、土方の正体も本性も──何も知らないのだから。


 目を細めて見つめる彼の前で、総司はひとしきりくすくす笑ってから、フォークを置いた。
 ソファに坐り直して、土方の肩口に小さな頭を凭せかける。
 そして。
 可愛らしい声で答えた。


「うん、殺してね」


 そんな愛しい恋人に、土方は優しく微笑んだ。
 Yesと甘い声で答えながら、そっと少年を抱き寄せる。
 瞼を閉じた総司にあたえられた口づけは、甘い甘い夢の入り口のようだった。
 もしくは、秘かな約束の。





……いつか
果たされる契約の成立に
麗しくも危うい恋の結末に

Congratulations!

───永遠の祝福を