クールカットされた艶やかな黒髪に、濡れたような黒い瞳。
切れの長い目も、形のよい唇も、まるでモデルのように綺麗で精悍で。
しなやかな獣のような長身に、飾り気のない淡いペパーミントグリーンのシャツと、洗いざらしのジーンズを纏っている。
そんな何という事もない恰好なのに、彼が着ると、まるでグラビア雑誌から抜け出たように見えるから不思議だ。
(そりゃ、恰好よくないより恰好いい方がいいけど、でも……)
歌手である総司よりも目立ってしまう彼氏というのも、如何なものなのか。いくら総司がサングラスをかけたりしても、こんな極上の男を連れていては、注目して下さいとプラカードを背負っているようなものではないか。
そんな事をつらつら考えていた総司は、いつのまにかふくれっ面になっていたのだろう。土方が訝しげに問いかけてきた。
「どうした、総司」
「別に何でもありません」
「それが何でもないって顔? 思いっきりむくれているくせに」
「む、むくれてなんかいないもん」
反論しながら、総司はボールを手にとった。構え、えいっと投げてみたが、やはり雑念がありすぎたのだろう、見事ガーターに落ちてしまう。
だが、土方はそんな総司にも優しく教えてくれるのだ。どこまでも出来た彼氏に、総司は何だか拗ねている自分が子供じみていて、恥ずかしくなってしまった。
顔を見られたくなくて俯いていると、土方が「気分でも悪くなった?」と覗き込んできた。それに、ううんと首をふる。
せっかくボーリングに連れてきてもらったのに、こんなふうに勝手に拗ねて困らせて。
どうして、もっと素直になれないの?
こんな我儘ばかりじゃ、いつか嫌われちゃう……。
「嫌わないよ」
不意に告げられた土方の言葉に、どきりと心臓が跳ね上がった。
びっくりして見上げると、土方はくすくす笑った。
「鳩が豆鉄砲くらったみたいな顔しているね」
「だ、だって」
「総司が考えていることなんて、顔を見ればわかるよ。どうせ、拗ねている事を知られたら、俺に嫌われるとかなんとか、そんな事を考えていただろう?」
「……う、うん……」
すべてお見通しの彼氏に、ちょっと怖くなってしまった。だが、その感情も表に出ていたのだろう、土方は微かに眉を顰めた。
「ごめん、気味悪くなった?」
「そんな事ないけど、どうしてわかるのかなぁって」
「愛しているから」
あっさりと臆面もなく云ってのけた土方に、総司は、そんな事ある訳ないでしょー! と叫びたくなった。
愛しているなら、心の中で何を考えているか、わかると云うのだろか。総司も土方のことを愛しているが、それでも、今もってまったくわからない事だらけなのに。
「俺は、いつも、総司のことを知りたい、わかりたいとずっと思っているよ。だから、わかるんじゃないかな」
「で、でも、ぼくは全然……」
「そりゃまぁ、比較的、総司は思ったことが顔に出るから」
「……」
単純明快という事だろうか。
ちょっと拗ねた表情になってしまった総司に、土方は身をかがめた。悪戯っぽく笑いかけながら、濡れたような黒い瞳で見つめてくる。
手をとられ、優しくそっと揺さぶられた。
「だから、ね? 機嫌直して遊ぼう」
「土方さん」
「総司とのデート、ずっと楽しみにしていたんだよ。それに、云っておくけど、俺には総司しか眼中にないから安心して?」
「……」
気分が悪いのとか、どうしたとか、訊ねながら、その実、全部わかっていたのだ!
だが、ここで云い返せば、またおかしくなってしまうだろう。だいたい、彼も云ってくれたではないか。
自分しか眼中にないと。
その言葉に安堵した総司は、こくりと頷いた。愛する男を見上げ、にっこり笑いかける。
再びボーリングを楽しみ始めた二人は、誰が見てもらぶらぶのバカップルなのだった。
「面白かったー」
嬉しそうに云いながら伸びをした総司に、土方が笑った。
「それは良かった」
結局、ボーリング場で1時間半ほど遊んで、出てきたところだった。あれから総司も機嫌を直し、思い切り楽しんだのだ。
「……」
車のドアを開けかけた土方は、ふと眉を顰めた。
建物を出た時から、やばいなと思っていたが、雨がぽつりと落ちてきたのだ。
だが、まだ小雨だ。急いで総司を車の中に押し込んだ。
「雨、どんどん降ってくるのかなぁ」
子どものような表情で、総司はフロントガラスごしに空を見上げた。雨粒がガラスを覆っていく。
それを眺めつつ、土方は車をスタートさせた。どのみち、この近くのドライブウェイに行くつもりだったのだ。少々の雨でも、山間の景色の美しさには変わりがないだろう。否、かえって緑が濡れて美しいかもしれない。
明らかに目的をもって走らせる土方を、総司が不思議そうに見上げた。
「どこへ行くのですか?」
「この先のドライブウェイを走ろうと思って。景色がいいらしいよ」
「でも、雨が」
「あまり強い雨でなければ、緑がかえって映えるさ」
それは、土方の言葉どおりだった。
有料の入り口を抜けると、美しい緑の中を、綺麗に舗装された道が緩やかに続いていく。柔らかな霧雨に、緑がしっとりと濡れるさまが綺麗だった。微かな白い靄がかかり、幻想的な雰囲気を醸し出す。
まるで、絵画の中のような光景だった。
窓外を流れてゆく瑞々しい緑に、うっとりと見惚れてしまう。
「綺麗……」
そう呟いた総司に、土方は微笑んだ。丁寧な手つきでハンドルを操作しながら、云う。
「晴れの日もいいと思うけど、雨に濡れた緑も俺は好きなんだ」
「そうですね。素敵だと、ぼくも思います」
総司は素直に頷き、同意した。
雨のせいか、ドライブウェイで他の車と全くすれ違わなかった。このまま山間を抜けていけば、どこへ行くのかわからない。
ちらりと見ると、土方は機嫌よさそうな表情で、車を操っていた。新車だと云ったが、とても馴れた手つきだ。
行先さえわからないドライブ。だが、少しも怖くなかった。それは、土方が傍にいてくれるからだ、彼が運転する車だからだ。
(ぼくは……この人がいれば、何も怖くないんだなぁ)
そんな事をしみじみ思っていると、土方が車を車道脇の小さな駐車場に入れた。見れば、展望台と書いてある。
目をあげた総司は、わぁと歓声をあげた。
ガラスごしに広がる、雨に濡れた緑の光景は美しかった。右手は緑なす山々がつらなり、白い靄がかかっている様が美しい。視線をおろせば、海が静かに広がっていた。白波がたっている様までも絵のようだ。
「不思議な景色……」
思わず呟いた総司に、土方が小首をかしげた。
「不思議? 綺麗じゃなくて?」
「うん。もちろん、綺麗だけど、それ以上に不思議な感じなのです。世界の果てみたいな」
「世界の果てか」
くすっと笑った。ハンドルに凭れかかりながら、切れの長い目で総司を見やる。
「もし、ここがそうだと云ったら?」
「え?」
総司は土方を見上げた。その可愛い恋人に、言葉をつづける。
「ここが本当に、世界の果てなら……どうする?」
「……」
「怖い……?」
なめらかな低い声で訊ねてくる土方に、総司は目を瞬いた。
「……怖く、ありません」
やがて、総司は小さな声で答えた。
無言のまま見つめる土方に、言葉をつづけた。
「だって、土方さんと一緒だもの……あなたと一緒なら何も怖くないの」
「……」
「たとえ、ここが世界の果てでも、それでも大丈夫。全然怖くない」
きっぱりと云いきった総司に、土方は目を細めた。しばらく黙ってから、くすっと笑う。
悪戯っぽい瞳で、総司を覗き込んだ。
「俺もだよ」
「……」
「俺も、おまえがいれば怖くない」
「ぼくがいても、何の力にもなれませんよ」
「なるさ、おまえは俺の力の源だから」
「何です、それ」
総司がくすくす笑った。
「ぼく、栄養剤じゃありませんけど」
「そうかな。いつも、おまえの甘い蜜で元気になっているけど?」
「甘い蜜……?」
不思議そうに聞き返した総司は、しばらく意味がわからないようだった。だが、不意に、あっと声をあげると、耳朶まで真っ赤になってしまう。
「土方さん!」
小さな拳がぽかぽかと男の肩や胸もとを叩いた。全然痛くなかったが、土方はわざと「痛いよ」と笑いながら云ってやる。
総司は叩くのをやめたが、ぷうっと頬をふくらませてしまった。拗ねたような、恥じらっているような表情が、とても可愛い。
土方はたまらず、その細い躰を抱きすくめた。運転席から身をのりだし、すっぽりと腕の中におさめてしまう。
「ひ、土方さん」
総司が慌てたように、身を捩った。それを、土方は悪戯っぽい瞳で見下ろした。
「あんまり可愛くて、たまらなくなっちゃったんだ。責任とってくれる?」
「責任って?」
意味がわからず聞き返した総司に、土方はにっこりと笑いかけた。完全に運転シートから乗りうつると、レバーを倒して助手席をばったんと倒してしまう。
ほぼ後ろの座席とつながったフラット状態になる座席に、総司は目を見開いた。
「何ですか、これ」
「本当はキャンプ用とかみたいだけどね、でも、こういう使い方もあるだろ?」
「こ、こういう使い方って」
「大丈夫、大丈夫。今からちゃんと教えてあげるから」
軽い口調で答えながら、土方はてきぱきと総司のシャツのボタンを外していった。気がついた時には、ジーンズも緩められ、白い肌が剥きだし状態にされてしまっている。
「ちょっ……土方さん!」
「何?」
「何って、ここ、外! 外ですよ」
「うん、カーセックスしようか」
まるでコンビニでも行こうかみたいな軽い調子で、土方は云ってのけた。それに眩暈を覚えつつ、総司は懸命に抗った。
「な、何を云っているんですか。そんなの駄目に決まっているでしょ」
「どうして」
「どうしてって……」
心底不思議そうに訊ねてくる土方に、総司は何も云えなくなってしまった。
検事などというお堅い仕事をやっているくせに、一般常識だとか、そういうものがまともに通じる男ではないのだ。いったい何と云って切り抜ければいいのか、わからなくなってしまう。
あれこれ考えているうちにも、土方は総司の首筋や胸もとにキスを落とした。胸の尖りを舐めあげられ、「ぁんっ」と甘い声をあげてしまう。
顔を赤くした総司に、土方が唇の片端をあげた。
「可愛いね」
「や、ぁ……ぁ、ん」
「ほら、これも可愛い苺みたいになってきたよ」
土方は指でぴんと弾いてから、また唇に含んだ。ねっとりと舌で舐めまわされれば、ぞくりとするような快感がこみ上げてくる。
胸の尖りを舐めながら、土方は片手を総司の下肢にのばした。ジーンズの中に忍び込ませ、少しずつ勃ちあがっているものを手のひらで包みこむ。柔らかく揉みしだき始めた男の手に、総司は啜り泣いた。
「ぃ、やだぁ…ん、こん…な、だめぇ…っ」
「駄目って何が? ほら、こんなに喜んでいるのに」
「だ、だって……車、汚しちゃ……っ」
「あぁ、そんな事を気にしていたんだ。総司は優しいね」
くすくす笑いながら、土方は体をずらした。ジーンズを下着ごと脱がせ、総司のものを唇でふくんでやる。熱い舌で舐めまわされ、たちまち総司は快感の頂きへと追いやられた。
「ぃ、ぁっ、ぁあーっ」
細い躰がびくびくっと震えた瞬間、蜜が吐き出される。それを素早く押し当てたハンカチで受け止めた土方は、真っ赤な顔で喘いでいる総司に、にっこり笑いかけた。
「ほら、大丈夫だっただろ?」
「そ、んなの……っ」
「さぁ、ここからは俺にも楽しませて」
今でも十分楽しんでいるくせに、そんな事を云ってのけた男は、下肢の奥に手をすすめた。先ほどの総司の蜜を指にからめ、蕾をほぐしていく。
総司はシートにしがみつき、何度も「いや」と首をふっているが、それでも構わず事を進めた。今更、やめられるはずがないのだ。というか、まったくやめるつもりなどなかった。何しろ、この車を買った時から、総司をこの車の中で可愛がりたいと、ずっと思ってきたのだから。
十分ほぐした後、土方は身を起こした。バックルを外す音が鳴り、それに、総司がはっと息を呑む。
両膝を抱え上げられた総司は、涙で潤んだ瞳で男を見上げた。だが、もう欲しいのか、欲しくないのか、自分でもわからなくなっている。
黙ったまま縋りつくと、それを承諾の意味ととったのか、土方が満足そうに笑った。ちゅっと頬にキスを落としてから、ゆっくりと腰を沈めてくる。
「っぁっ、ぁあ…っ……」
狭い蕾を割り広げるように突き入れられてくる男の猛りに、総司は身をのけ反らせた。苦痛と圧迫感に、息さえできなくなる。
土方は総司の細い両足を抱え込むと、一気に最奥まで貫いた。
「ぃ、ぁああーッ!」
甲高い悲鳴が車内に響いた。
ぽろぽろと大粒の涙がこぼれ、頬をつたい落ちる。
総司の手が土方の肩を掴み、縋りついた。苦痛のあまり、爪をたててしまう。
「や、ぁ…ぃ、たい…痛いっ……っ」
「息を吐いて……総司、いい子だ」
「はぁ…っ、ぁ…ぅ、ぁあっ」
泣きながら、それでも必死に呼吸をしようとする総司が可愛く、いとけなかった。こんな強引な事をされても、男に従う総司が可愛くてたまらない。
土方は腕の中の細い躰を抱きすくめ、総司が彼に馴れるのを辛抱強く待った。
こんな時、男の中にある狂暴な獣がいっそ喰らいつくしてしまえと、けしかけるのだが、それを押し殺している。総司は彼にとって特別な存在なのだ。土方の中にある残酷さも、獰猛さも、総司にだけは決して知られたくない。
やがて、総司のなめらかな頬に血の気が戻り、体も柔らかくなった。それを感じ取り、土方は優しく訊ねた。
「もう動いていい……?」
「う、ん」
まだ躊躇いがちにだったが、総司はこくりと頷いた。それに微笑みかけてから、土方はゆっくりと動き始めた。
総司を怖がらせないよう、慎重に体を動かし、快感を少しずつ引き出していく。
「ぁ、ぁあ……っ、ぁ…っ」
そんな土方の気持ちに応えるように、総司は甘い声をあげ始めた。感じる部分だけを何度も擦りあげられ、痺れるような快感が腰奥を満たしてゆく。
土方はそれを見てとると、総司の躰にのしかかった。その華奢な躰をシートの上で二つ折りにし、激しく腰を打ちつけ始める。
「ぁああッ、ぁあっ、だ…めぇっ」
たちまち総司は悲鳴をあげ、のけ反った。息つく暇もない責めに、強烈な快感の波が何度も押し寄せてくる。
濡れそぼった蕾に、男の太い楔が何度も打ち込まれた。奥まで穿たれ、痺れるような快感美に身悶える。
「や、ぁあっ、ぁ…ぁあっ」
「総司……中が熱くてとろけそうだ」
「いやだぁっ、そん…なこと云わな…っ、ひぃっアアッ」
体を斜めにされ、奥まで激しく穿たれた。男の太い楔が貫くたび、とけるような甘い快感がわきおこる。
やがて、男の息遣いが荒くなり、律動もより激しくなった。頂が近いのだ。総司はもう泣きじゃくり、男にしがみついている。
「ひっ、ぃ…ぁあっ、ああっ」
「……く……っ」
「ぁ、ぁああッ、ぁああーッ」
一際高い声をあげた瞬間、男の熱が蕾の奥に叩きつけられた。
土方は総司の細い躰を抱きすくめ、最後の一滴まで注ぎ込むように腰を打ちつけ続けた。そのため、快感が持続し、総司が体を震わせて泣きじゃくる。
「やあぁッ、ぁ…ぁ、ぁ……っ」
可愛い声をあげる総司を、土方は両腕で包み込むように抱きしめた。甘いキスを、額に、頬に、落としてやる。
男の腕の中で、総司が仔猫のように身を擦りよせた。
……結局のところ。
土方が車を買った理由は、総司を守るためという事は建前、いやいや、当然それもあるのだが、総司と仲良く色々するためという目的もあったのだ。
それを知ってしまった総司は、当然、車に乗る時、微妙に身構えるようになってしまって。
「遠出は御免ですからね、それから、雨の日のドライブも厳禁です」
「どうして」
「だって、窓ガラスが曇ったら、土方さん、やりたい放題じゃないですか」
「なるほど、じゃあ、雨が降ってなくても窓ガラスが曇ればいいんだ。そういう装備ってなかったかな」
嬉しそうに車のマニュアルをめくる土方の隣で、総司は、この人ってぼくより天然かもしれないと、しみじみ思ったのだった。