東京から直行便で7時間弱。
 ホテルについた時には、もう夜の11時前となっていた。
 結構いつも夜の早い総司はもう眠たくてたまらず、飛行機での疲れもあり、部屋に入るとすぐシャワーだけを浴びて眠ってしまった。というより、その世話のほとんどを土方がしてくれたのだが。


 ベッドにそっと横たえられた時には、もう半ば夢心地で───
「……おやすみ、総司」


 優しい囁きとキスだけを、ぼんやりと覚えていた。
 そのため、翌朝、目を覚ました総司は、初め自分がどこにいるのかさえわからなかった。驚いた表情で、上を眺める。
 幾重にも重ねられた美しい布。まっ白なシーツと、とても広いベッド。
 ふんわりと包みこむ、甘やかな香りが心地よかった。
 まるで姫君でも眠るようなロマンチックな天蓋ベッドに、総司は目を瞬いた。
「……な…に? あれ、ぼく……」
 戸惑っていると、その躯が後ろから柔らかく抱きすくめられた。
 びくっと思わず震えてしまう。
「え、あ……っ」
「おはよう」
 低い声で甘く囁かれ、総司はちょっと息を呑んだ。男の吐息が耳もとにふれ、少しくすぐったいが心地よい。
「……土方…さん……?」
「あぁ。よく眠れたか」
 そう訊ねる男の腕の中、総司はごそごそと向きを変えた。
 見あげれば、濡れたような黒い瞳がじっと見下ろしている。
 相変わらず綺麗に深く澄んだ、黒曜石のような瞳だ。アーモンド形の目に、長い睫毛。
 すうっと通った鼻筋も、形のよい唇も。
 何もかもが、うっとりするほど綺麗で、魅力的だった。
「……総司?」
 ぼうっと見惚れている少年に、土方はかるく小首をかしげた。やがて、くすっと笑うと、前髪をかきあげ白い額にキスを落としてくれる。
「まだ寝ぼけてるのかな。ここが何処かわかるか?」
「は…い。えっと、確か……バリのホテル?」
「確か、ね。本当に昨夜は寝ぼけまなこだったんだな」
 くすくす笑いながら、土方は両腕で柔らかく少年の細い躯を抱きよせた。白いパジャマ越しに艶めかしく撫であげてやりながら、囁きかける。
「この分じゃ、俺がおまえの躯を洗ってあげた事も、全然覚えてないのだろう」
「え……えぇっ!?」
 総司は驚き、目を見開いた。
 あっという間に、耳朶までかぁっと真っ赤になってしまう。
「そんな……ぼく……っ」
「綺麗に隅々まで洗ってあげたよ。とても可愛くて、楽しかった」
「か、可愛いって、楽しいって……」
 総司はそのまま絶句し、込みあげる羞恥に頬を両手でおさえた。
 はっきりとは覚えてないのだが、確かに朧気な記憶はあるのだ。
 熱くて心地よいシャワー。
 湯気がたちこめるシャワーブース。
 薔薇の香りの石鹸。
 柔らかく躯を包み込んだ泡。
 なめらかに優しく、躯のラインを辿った指さき。
 自分のものを包みこみ、ふれた彼の天鵞絨のような舌の感触。

 それから──それから……?


「……思い出した?」
 悪戯っぽく訊ねた土方を、総司は潤んだ瞳で見あげた。
 かぁっと頬を紅潮させたまま両手をのばし、男の胸に縋りつく。
 ふるふるっと首をふった。
「や、だ……っ、も、あんな恥ずかしいの……」
「恥ずかしいかな。おまえも気持ちよさそうにしてたのに」
「だって、ぼくだけ何度もいっちゃって……」
「あぁ、気にしてくれているのか」
 土方は小首をかしげ、くすっと笑った。腕の中にいる総司の頬にキスを落し、甘やかな声で囁いた。
「さすがに俺を受け入れさせるには、疲れてるようだったからな。昨夜我慢した分、今日、味あわせてもらうよ」
「え、えぇ……っ?」
 また絶句している総司に微笑みかけてから、土方はしなやかに身を起こした。ベッドから降りると、シャワーを浴びるため部屋を横ぎってゆく。
 途中でふと気づいたように、総司の方をふり返った。
 かるく小首をかしげてみせながら、綺麗な笑顔で一言。
「一緒に入るか?」
「お、お断りします!」
 思わず叫んでしまった総司に声をあげて笑い、土方は部屋の奥へ消えていった。やがて、シャワーの音が聞こえ始める。
 それを聞きながら、総司はベッドの上に起き上がった。
 物珍しそうに、周囲を見回した。



 昨夜はほとんど部屋を見る暇もなかったが、そこはとても大きな部屋だった。
 贅沢で瀟洒な造りのヴィラだ。
 大きな窓外には、専用のプールと美しい中庭が広がっていた。
 いかにもバリ風のオリエンタルな雰囲気で、品よく纏められ、落ち着いている。
 隠れ家めいた感じもあり、とても居心地がよかった。


 総司はころんと再びベッドに寝っ転がり、かるく目を閉じた。
 そよそよと入ってくる風が心地よく、どこからともなく漂う甘い香りが、躯をリラックスさせる。

(……気持ちいい……)
(まるで……そう、土方さんの腕の中にいるみたい……)

 そんな事を考えながら、総司は彼がシャワーを終えて出てくるまで、淡い微睡みに身をまかせていた……。 









 食事はレストランでだった。
 結局、あれから戻ってきた土方とベッドの上でちょっとした戯れをしてしまったため、朝食どころか昼食になってしまったのだが。
 ビーチラインと広い庭が見晴らせるレストランで、二人は食事をした。
 何度も来ているらしい土方は、総司に色々とバリ特有の料理をすすめてくれた。もちろん、総司の好みを熟知した上での事だったので、どれもとてもおいしかった。
「おいしいかったです」
 総司は最後に、フレッシュフルーツたっぷりのジュースを飲みながら、幸せそうに笑った。
 それに、土方も微笑んだ。
「よかった。こっちの料理は少し辛いから、大丈夫かなと思っていたんだ」
「辛いのもありましたけど、でも、それがおいしかったです」
「そうか。ホテルから出れば屋台も沢山あって、もっと色々おいしいものがある」
「え……屋台?」
 総司はちょっと驚いてしまった。
 いつもスーツ姿で端然としている彼からは、屋台で買い食いしている姿など全く想像もつかない。
「土方さんが屋台で買ったものを食べたりするのですか?」
 思わず訊ねてしまった総司に、土方はおかしそうに目を細めた。喉を鳴らして笑う。
「そうだよ。こっちに来た時は大抵、町中をうろついて日中の食事は屋台ですませるから」
「土方さんが……」
「そんなに意外なことかな」
「だって、何か……想像がつかなくて」
「じゃあ、一緒に行こうか?」
 そう云ってから、土方はある事に気づいて眉を顰めた。
「……いや、駄目だな。おまえは行かない方がいい」
「え?」
「大天使であるおまえには、ちょっと刺激が強すぎるかもしれない。人も多いし、この島は少し特殊だから……」
「……」
 それは、総司も感じていた事だった。


 やはり神が棲む島と云われるだけあって、どこか異質な空気にみたされているのだ。もっとも、総司にとってそれは決して不快なものでなく、むしろ心地よかったのだが、町中へ出ることはまた別なのだろう。
 人の気が混じり合えば、強い刺激となってしまうかもしれない。


「行ってみたいけど、我慢します」
 ちょっと黙ってから、総司は小さく笑ってみせた。
「この島は何度か上空から見た事はあるけど、地上に降りたのは初めてなのです。だから、ぼくも勝手がよくわからないし、土方さんの云うとおりにしますね」
「その方がいい。だが、上空からとは……飛んでか? この辺りまでどうして?」
「え、それは……」
 総司は口ごもってしまった。
 このバリ島自体ではなかったが、近くの国で悪魔たちが暗躍した事があったのだ。
 そのため、伊東とともに赴き、幾らかの悪魔たちを処刑した。このバリ島の上空も白い翼をひろげて飛んだのだ。
 だが、それを土方に云う訳にはいかなかった。何しろ、力が弱くとも一応、彼も悪魔なのだ。処刑の話などあまりしたくもなかった。
 困惑し、総司は俯いた。きゅっと唇を噛みしめ、目を伏せている。
「……」
 それに、土方はゆっくりと目を細めた。
 頬杖をついて総司を眺めながら、気づかれぬよう、ひっそりと嗤う。形のよい唇の端がつりあがり、酷薄な笑みをうかべた。


 本当は、わかっているのだ。よく知っていたのだ。
 総司たちがこの島の上空を飛んだ理由など、わかりきっていた。
 何故なら、彼自身がその理由をつくったのだから。
 ある小さな国に争いの種をまき、さんざん引っかき回し弄んでやった。右往左往し、醜い争いに堕ちてゆく者たちの姿がおかしくてたまらなくて、哄笑した覚えがある。
 あの時、まだ総司と逢っていなかったが、手下の悪魔が処刑された事は記憶にあった。大天使たちが来たと報告を受けた事も。
 もっとも、既にその国は悪魔の支配下におかれつつあったため、さっさと手を引いたのだが。十分収穫はあったし、彼自身の邪悪な歓びも満足させられたため、これ以上関わり合う必要もなかったのだ。
 なのに、今。
 可愛い大天使は、彼を気づかってその事を口に出せずにいるのだ。
 まさか。


 その愛する彼自身が、すべての邪悪の元凶だる魔王だとも知らず───


「……総司」
 表情をあらため、土方は優しい声で呼びかけた。
 おずおずと顔をあげた総司に、柔らかく微笑みかける。
「すまない。云いづらい事を聞いてしまったみたいだ」
「……土方さん……」
「云いたくなければ、無理しなくていい。だいたい、わかるから」
「ごめん…なさい。ぼく、土方さんの事が好きだから……愛してるだから、でも、だけど……っ」
 ぎゅっと握りしめられた総司の手に、土方はそっと手を重ねた。
 撫でてやりながら、瞳を覗き込む。
「わかっているよ。おまえが俺をどれだけ愛してくれているか、ちゃんとわかっている。だから、大丈夫だ」
「土方さん……っ」
「愛してる。総司……おまえだけを愛してるよ」
 甘い声で囁いてくれる男に、総司は瞳を潤ませた。小さく頷くと、男の手をとり、そっと頬にふれさせる。
 可愛い恋人のなめらかな頬を手のひらに感じながら、土方は静かに微笑んだ。









 日射しが眩しかった。
 半戸外に設置された、大きな正方形をした大理石のバスタブには湯がいっぱいに満たされてあった。降り注ぐ光がきらきらと反射する。
 樹木の葉が生い茂り、見あげればその向こうに青い空が広がっていた。
 バスタブの中にまかれた色とりどりの花びらが艶やかで、エキゾチックだ。
「……花のお風呂?」
 そっと湯の中へ裸身を沈めながら訊ねた総司に、土方はくすっと笑った。手のひらに湯をすくいあげながら、答える。
「いい香りだろう?」
「うん……でも、何だかちょっとくらくらしそう」
「それがいいのさ」
「え?」
 聞き返したとたん、土方は総司の手をひっぱった。湯の中で、柔らかく抱きよせられる。
 ぱちゃっと湯がはね、素肌がなめらかにふれあった。その感触が心地よい。
 土方は総司の躯を膝上に抱きあげると、後ろからゆるく抱きすくめた。己自身はバスタブの縁に背を凭せかけ、ゆったりと寛いでいる。
「な、何をするの……?」
 怯えたように訊ねる総司に、くすくす笑った。
「云っただろ? 昨夜我慢した分、味あわせて貰うと」
「だ、だって……ここ、お風呂の中……っ」
「花びらにうもれながら、愛しあうんだ。めちゃくちゃ感じると思うよ。それに……」
 土方はふと目を細め、微笑んだ。
 男の欲望に濡れた黒い瞳が、少年のなめらかで白い玉肌を愛でるように眺める。
「ピンクや深紅の花びらが、おまえの白い肌にまとわりついて……とても綺麗だ。セクシャルな眺めだな」
「セ、セクシャルって……っ」
「あぁ、日本語で表現した方がいいか」
 喉を鳴らした笑った土方は、ゆっくりと総司の耳もとに唇を寄せた。耳朶を咬むようにしながら、甘く低い声で囁きかける。
「天使に使う表現ではないだろうけど、でも、とても……妖艶だ」
「ッん、ぃ…やあッ!」
 不意に、甲高い悲鳴が響きわたった。
 土方が甘く首筋に咬みつきざま、総司の小さなものを片手で握り込んだのだ。きゅうっと下から上へ男の掌で揉みあげられ、たちまち痺れるような快感美が腰奥を突き上げる。
「ふっ、ぁ…ぁあ、ぁ…ッ」
「随分と感じやすい。我慢していたのは、おまえの方かな?」
「や、っだッ…ぁ、んっ、は、ぁあ…っ」
 いやいやと首をふり、総司は必死になって逃れようとした。だが、細い腰を抱き寄せる男の逞しい腕は力強く、到底逃げれそうにもない。
 むろん、土方も逃がすつもりなど全くなかった。湯の中で、総司のものを強弱をつけて扱きあげてやる。
 そうしながら、総司の片足をもちあげ、バスタブの縁に掛けさせた。陽の光にむかって大きく足を広げた格好になる。
 羞恥心に、総司は顔を真っ赤にして嫌がった。
「ッ、こん…な…や、だッ、ぃ、やぁ…ッ!」
「ふうん。でも、おまえのコレは全然嫌がってないよ。むしろ喜んでいる」
 くっくっと喉を鳴らし、土方は笑った。
 その言葉どおり、男の大きな手のひらの中で、少年のものはぴくぴく震えながら頭を擡げてしまっている。
 熟れた果実のようなそれの先っぽを、土方は親指でくりっくりっと揉みこんでやっると、とたん、総司が「ひぃッ!」と鋭い声をあげて仰け反った。
 もうイきたくてたまらないのだろう。細い腰がねだるように動き始めていた。
 それを愉しそうに眺めながら、土方はゆっくりと手をもっと奥へ滑り込ませた。湯の中なので柔らかく綻んでいる蕾に、指さきをそっと押しあてる。
「ッ、ぁ……んッ」
 あたえられる快楽を知っている天使は、甘く喘いだ。
 艶めかしく腰を擦りつけてくる。そのねだるような動きに刺激されながら、ゆるやかに指を挿し入れた。ぬぷっと難なく呑み込まれてゆく。
「ぁ…はぁッ、ぁッ」
 感じやすい蕾の奥を、男のしなやかな指さきでグッと押し上げられ、総司は小さく声をあげた。くくっと笑い声をたて、緩やかに指を大きく回してやる。蕾の奥をおし広げるような動きに、桜色の唇から啜り泣きのような声がもれ出た。
「ぅ…やっ、ぁあ…ん、ぁ…や…ッ」
「いや? あぁ、ごめん……これぐらいじゃ、物足りないな」
「ぁ…ん…ッ、ふ…ぁあ…んんー…ッ!」
 不意に悲鳴があがった。
 いきなり土方が指を三本に増やし、深々と突き入れてきたのだ。少し痛みまじりの、だが、蕩けそうな快楽に、総司は激しく首をふった。
 ばしゃばしゃと湯が鳴り、白い肌がほんのりと艶めかしく上気してゆく。
「ぁっ…ぁあっ、や、い…やぁ…ぁあッ」
「我が儘な天使だ。これで足りないなら、仕方ないな」
 くっくっと喉奥で低く笑った土方は、獣のように濡れた瞳で可愛い天使を見下ろした。
 焦らすように指を引き抜くと、抗う間もあたえず細い腰を掴んで浮き上がらせる。
 押し開かれた蕾に熱いものを感じ、総司は大きく目を見開いた。ひっと息を呑んで逃れようとするが、もう遅い。
 次の瞬間、固く小さな蕾は、男の太い剛直に貫かれていた。
「ッ、や、ぃ、ぁあああーッ…っ!」
 甲高い悲鳴をあげ、少年の躯が大きく仰け反る。
 髪をふり乱し、大粒の涙をぽろぽろと零しながら、泣き叫んだ。
 それを薄く笑いながら抱きとめ、土方はより深く受け入れさせようと腰を突き上げた。同時に、総司の細い腰も深く落とさせる。
「ぃ…ゃ、ぅ…ぁあッ…ぁッ」
 総司は激しく喘ぎ、いやいやと首をふった。
 湯の中であり、唾液も潤滑油もあたえていないため、苦痛の方が強いのだろう。
 それを見てとった土方は、すぐには動こうとしなかった。背中から華奢な躯を抱きすくめ、総司の息使いがおさまるのを待つ。
 この可愛い天使を苛めたい、泣かせてやりたいという欲望はあったが、傷つけたい訳ではないのだ。むしろ、身も心もとろける蜂蜜のような快楽をあたえ、己の虜にしてしまいたいと願っている。

(……いや、企んでいるというべきかな。斉藤あたりなら、そう指摘しそうだ)

 そんな事を考えながら、土方は総司の白い首筋やしなやかな背中にキスを落し、前にまわして手で少年のものを柔らかく揉みあげてやった。
 やがて、少しずつその躯も力が抜けてゆく。
「ぁ…はぁ…ぁ、ぁ……っ」
 男の手の中、また熟れた果実のようになった少年のものを弄びながら、土方は耳朶をかるく甘咬みした。
「……少しは楽になったか?」
「ん…っぁ……」
「久しぶりで性急すぎたな。抜こうか?」
「や…だ……抜かない、で……」
 必死になって息を整えながら、そう答える総司がいじらしく可愛らしい。
 それに土方は微笑むと、頬に唇を寄せた。すっと唇をすべらせるようにして、愛撫をあたえてやりながら、囁きかけた。
「……愛してるよ……総司」
「ぼく…も、愛して…ます……」
「おまえだけだ。おまえだけを、誰よりも愛してる……」
 甘い睦言とキスをあたえてやりながら、土方は緩やかに腰を揺らめかせた。それに、総司は甘く喘いだだけだった。
 もうかなり躯も柔らかくなり、痛みも遠ざかったのだろう。
 それを確かめ、土方はゆっくりと腰を動かし始めた。
 たちこめる湯気の中に、濃厚な薔薇の香りと、少年の甘い泣き声がみちはじめる。
「ぁ…ぁあ、ぁ、ぃ…ぁあ、んッ!」
 土方は総司の躯を湯の中へ押し倒した。四つ這いにさせると、前方にあるバスダブの縁へしがみつかせる。そのまま激しく後ろから突き入れた。
「ッぁあーッ…!」
 甲高い悲鳴をあげ、総司が仰け反る。
 猫のようにしなった背中に喉奥で笑い、貪るように腰を激しく打ちつけた。ばしゃばしゃ湯が鳴り、バスタブの外へこぼれてしまう。
 白い肌に深紅の花びらが纏わりつき、たまらなく扇情的で艶めかしい眺めだ。
 それに目を細め、土方は細い腰を片腕に強く抱えこんだ。
 そのまま最奥に突き入れた猛りをギリギリまで引き抜き、息を吐いたところで一気に奥を穿ってやる。
「ひ…ぃッ、ぁあッ!」
 総司が目を見開き、バスタブに爪をたてた。それを見下ろし、激しい抽挿をくり返した。
 やがて、強烈な快楽に意識が朦朧とし、手に力が入らなくなってしまったのだろう。ばしゃっと音をたて、湯の中へ沈みこみかける。
 土方はそれを素早くすくいあげると、再び、己の膝上に抱きあげた。もっとも又、男の剛直に真下から深々と貫かれてしまい、総司は「ひぃ…ぃッ」と掠れた声で泣きじゃくっていたが。

「……俺の可愛い天使」

 土方は、優しい──とろけるような声で囁きかけた。
 腕の中の天使が、快楽に半ば意識を朦朧とさせているのを知りながら、甘く言葉をつづける。

「もっと……気が狂うぐらい、愛してやるよ」

 あたたかな陽光が降りそそぐ、楽園で。
 花の香りがたちこめる中。
 魔王は愛する天使とともに、甘美な快楽の夢へと溺れ込んでいったのだった……。










 熱っぽく濡れた空気が、夜の闇に満ちていた。
 そのしっとりとした闇の奥、低く静かな歌声が耳にとどく。
 声をあげて唄うのではない、ほんの気まぐれに口ずさんでいる声だった。
 だが、それでも思わず聞き惚れてしまう、深みのあるいい声だ。





 総司は、うっすらと目を開いた。
 いつのまにか、あの天蓋ベッドに寝かされ、きちんと白いバスローブも纏わされていた。
 僅かに身を起こして見やると、土方は大きな窓枠に腰かけていた。彼もバスローブ姿で、こちらに端正な横顔を見せている。微かに唇が動いているのは、彼が歌を口ずさんでいるからだろう。
 ベッドから滑り降りた総司は、彼の方へ歩み寄っていこうとした。が、腰に力が入らず、あっと思った時には床へ崩れこんでしまっている。
「……総司!」
 物音に気づいた土方がふり返り、立ち上がった。大股に部屋を横切り、傍に跪いてくる。
「大丈夫か、どこか怪我したなかったか」
「……大丈夫です」
 小さく笑ってみせた総司に、土方は僅かに眉を顰めた。
「久しぶりだからと、理性がきかなかった。随分、無理をさせてしまったな」
「いいんです。ぼくも……あなたが欲しかったから」
「総司……」
 可愛い事を云ってくれる恋人に、思わず目を細めた。くすっと笑い、優しく頬にキスを落としてやる。
 そっと、その華奢な躯を両腕に抱きあげてやると、またベッドへ運んだ。眠るのはいやだと云う恋人に、背にクッションを幾つもあてがって坐りやすくしてやる。
 部屋にあるミニバーで軽い飲み物をつくり、手渡した。アルコール度数の低めの甘いカクテルだ。
「……おいしい」
 一口飲んだ総司は、ほっとしたように頬を緩めた。
 それに、土方は自分用につくったグラスを手にしたまま、ベッドにあがった。総司の隣に並んで坐ると、優しく肩を抱き寄せてやる。
「ね……土方さん?」
 男の肩の窪みに頭を凭せかけながら、総司は小さな声で訊ねた。
「さっき唄っていたの……あれ、何て歌ですか? とても素敵でした」
「あぁ……」
 土方は喉奥で笑った。
「あれは、『楽園』という歌だ」
「楽園……」
 低い声で、土方は静かに口ずさんだ。英語の歌らしい。
 とても綺麗で物悲しい感じがする歌だった。
「……」
 総司は目を閉じ、その歌に聞き入った。
 それに、土方は総司の髪に、頬にふれながら、歌をつづけた。
 静かな低い声で歌い終えると、土方は小さく吐息をもらした。総司の肩を抱いたまま、僅かに目を伏せている。
 夜に。
 闇に。
 哀愁を帯びた歌の余韻が、まだ色濃く残っているかのようだった。
 それを深く感じながら、総司はそっと呟いた。
「何だか……とても切なくて、悲しい歌ですね」
「そうだな」
「楽園がもう何処にもないなんて……何だか、幸せが消えてしまったみたいで、とても切ない」
「幸せが消えた、か……」
 低く呟き、土方は顔をあげた。
 不意にベッドの上で身動きし、総司の方へ向き直った。柔らかく抱きよせながら、その瞳を覗き込む。
「? 土方…さん……?」
 目を見開く総司に、土方は甘く口づけた。
 そして、問いかけた。
「なら、おまえは……楽園を望みつづけるのか?」
「え?」
「おまえたち天使は、悪を退け、この世界に楽園を実現するために、地上へ舞い降りたのだろう。だが、総司……おまえは? おまえ自身は、楽園を心から望んでいるのか」
「それは……」
 総司は戸惑い、視線をさまよわせた。一瞬、何と答えていいのか、わからなくなってしまう。
 だが、嘘はつきたくなかった。彼に嘘をつくべきではなかった。
 はっきりとした口調で、答えた。
「楽園を……望んでいます」
 ちょっと躊躇ったが、言葉をつづけた。
「天使としても当然ですが、ぼく自身も楽園を望んでいる。だって、誰だって幸せを望むに決まっているじゃありませんか。土方さん、あなただってそうでしょう?」
「さぁ……それはわからない」
 僅かに目を細めた。どこか遠くへ視線をやると、小さく笑った。
「第一、俺は楽園を望むべき立場にないだろう。人である上に、悪魔だ。楽園を望む資格など、どこにもない」
「土方さん……」
「だが、それでも」
 土方は視線を総司に戻すと、深く澄んだ黒い瞳でじっと見つめた。
 両手をのばし、そっとなめらかな頬をつつみ込む。
「もし、俺が楽園を望むことが許されたなら、それは……総司、おまえ自身だ」
「……土方…さん」
 総司の目が大きく瞠られた。
 それを見つめ、土方は言葉をつづけた。
「おまえが傍にいてくれれば、俺にとってそこは楽園となる」
「……」
「世界中のどこよりも」
 静かな優しい声で囁きかけた土方に、総司は息を呑んだ。その桜色の唇が震え、微かに瞳が潤む。
 不意に、総司は両手をのばすと、彼の胸もとにしがみついた。ぎゅっと抱きつき、目を閉じる。
「……土方、さん……土方さん……!」
「総司……こんな俺の想いは、おまえにとって迷惑か? 俺の愛情は……重荷になってしまうか」
「そんな、重荷だなんて……っ」
 ふるふると、総司は首をふった。
 それから、顔をあげると、土方を潤んだ瞳でまっすぐ見つめた。
「愛してます、あなたを。土方さん、あなただけを」
「総司……」
「ぼくも、ぼくもあなたさえいればいい。土方さんがいてくれれば、そこがぼくの楽園です」
「……愛してるよ」
 土方は恋人の躯を両腕でそっと抱きすくめた。髪に、額に、頬に、甘やかなキスを落としてゆく。
 それを心地よげに受けながら、総司はうっとりと目を閉じた。
 愛しい男の腕の中。
 本当にここが──彼の傍にあることが、自分の居場所であり楽園なのだと思った。
「……土方さん、愛してる……」
 心からの想いを素直に告げてくれる総司に、土方は微笑んだ。 
 そっと小さな頭を己の胸もとに引き寄せ、髪を撫でてやりながら、僅かに目を細める。
「……」
 一瞬だが、酷薄な笑みが頬をかすめた。
 だが、それを総司に感じさせる事なく、土方は総司の顔をあげさせた。
 そして。
 唇を重ねると、甘いキスをあたえのだ。
 とろけるようなキスを。
 世界中の誰よりも、愛おしいこの天使に。


 まるで、ふたりだけの楽園を、心から祝福するかのように。


(あぁ、そうだ。心から祝福してやるさ)


 愛しい総司。
 おまえさえいれば、そこは、この世の何にも代え難い楽園なのだから。
 永遠を約束された。
 俺とおまえだけの──愛の楽園。

(……それが、たとえ……)

 総司の躯を抱きしめ、柔らかな髪に口づけを落しながら。
 土方は──静かに微笑んだ。






その楽園が、たとえ
裏切りと修羅にみちた煉獄


世界の終わり、であったとしても───……















 

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