夕方だった。
総司は、ホテルのベッドルームで、のろのろとした手つきだったが、身支度を調えていた。
熱はもう下がっていた。躯はまだ気怠いが、それもしばらくたてば消えるだろう。
「ごめんなさい、土方さん」
総司は、主のいない部屋にむかって頭を下げた。
部屋の中は薄暗い。
土方はまだ帰っていなかった。仕事でかなり忙しいのだろう、当然のことだ。
「ぼくも……行かなくちゃ」
そう掠れた声で呟き、総司はゆっくりと部屋を出た。部屋も廊下もあたたかかった。だが、外へ出れば、刺すような寒さが待っている。
夜の帳が降りつつある冷えた空気の中を飛ぶことは、今の総司には確かに危険だった。
だが、躊躇ってはいられない。彼が帰ってくれば、引き留められるに決まっているのだ。
総司はふらつく躯で、必死に廊下を歩いた。
ここは最上階の8階だ。
非常階段から飛ぼうと思っていた。
だが、階段への扉を開けたとたん、物凄い突風が吹きつけた。総司が外へ出ると、すぐ大きな音をたてて扉が閉じられてしまった。
「……っ」
総司は手をのばし、冷たい鉄の手すりを掴んだ。下を見下ろす。
一瞬、大丈夫だろうかと思った。この躯で、ちゃんと飛べるだろうか。
隣国まで行きつけるだろうか。
この雪が降る中を、本当に行ける……?
「ううん、行かなくちゃ」
総司は息を吸い込み、両手をあげた。
ばさっと音が鳴り、白い翼がゆっくりとその背に広がる。夕闇の中、それはとても美しい。
総司は手すりから身を乗り出し、飛び立とうとした。
その瞬間、だった。
「!?」
不意に後ろから肩を掴まれ、荒々しく引き戻された。ガンッと乱暴に壁へ躯を打ちつけられたかと思うと、大声で怒鳴られる。
「総司ッ!」
愕いて見上げると、土方が見下ろしていた。黒い瞳が怒りに燃えあがり、きつく唇が噛みしめられている。
とたん、総司は竦みあがった。恐ろしくて怖くて、声さえも出なくなる。
土方は普段いつも優しいし、穏やかだ。だが、それだけに本気で怒った時は恐ろしかった。怖くて怖くて、総司は子どものように泣き出したくなる。
「…っ、土方…さ……っ」
細かく震えながら身を縮めた総司に、土方は眉を顰めた。だが、黙って総司の腕を掴むと、そのまま扉の内へ引きずりこむ。
耳が切れそうな突風と冷たさから解放され、代りにホテルの暖房が二人を包み込んだ。
土方は無言のまま廊下を歩いてゆく。総司は半ば引きずられていた。
あっという間に部屋へ着いてしまい、そのまま総司はバスルームに連れこまれた。無理やり衣服を剥ぎとられる。
「ひ、土方さん……いやっ」
必死に抵抗したが、土方は相変わらず無言だった。自分もさっさと衣服を脱ぎ捨てると、もうもうと湯気のたつバスルームの中、総司の躯を手早く洗い始めた。お湯の中に躯を沈められ、泡だらけにされる。
冷たく凍っていた指さきに血が通い、じんと痛くなった。唇を噛んでいる総司の髪から躯まで洗ってくれた土方は、ざっと自分も洗うと、カランをひねって止めた。シャワー音が消えて、しんとなる。
まだ湯気がたちこめる中、土方は総司の躯を丁寧に拭き、バスローブを着せた。彼とお揃いの白いバスローブだ。
「ここに坐って」
土方は、総司をパウダールームの椅子に座らせると、髪を乾かしはじめた。ドライヤーで何度も熱風をあて、乾かしてゆく。彼のしなやかな指さきで髪を梳かれる感触に、総司はこんな時なのに思わずうっとりとなってしまった。
ベッドルームに戻ると、ベッドサイドにワゴンが置かれてあった。どうやら、トマトリゾットのようだ。
「土方さん、ぼく……」
云いかけた総司に、土方は、ひやりとするような一瞥をくれた。冷たく澄んだ黒い瞳で見据えられ、何も云えなくなってしまう。
土方は低い声で云った。
「とりあえず、食事だ」
「……はい」
総司はベッドの中に入れられ、土方はベッド脇に腰かける形で食事を始めた。
土方が、総司の唇へスプーンをはこんでくれる。恥ずかしかったが、優しくされると許されたのかな?と思えるので、口を開いた。
とてもおいしかったが、少ししか食べる事ができなかった。
土方は、総司に薬も飲ませた。その後、立ち上がり、部屋を出ていこうとする。
総司は慌てて声をかけた。
「土方さん」
「……」
無言のままふり返った土方に怯んだが、総司は懸命に勇気をふり絞った。
「あの、ぼく……もうよくなりました。熱も下がりました」
「……」
「だから、戻ります。あの国へ戻らないと……」
「……まだそんな事を云っているのか」
呆れたと云わんばかりの口調だった。
土方は、まだ濡れた黒髪を煩わしげに片手でかきあげ、目を細めた。
「この雪の降る中、あんな処から飛ぼうとして……無理に決まっているだろうが」
「無理なんかじゃありません。熱も下がったし、ぼくはもう」
「熱が下がったと云っても、治った訳じゃねぇよ。天使と云っても、躯は人間なんだ。無茶ばかりするな」
「そんなの……っ」
総司はぎゅっと両手でシーツを掴んだ。
後から考えれば、冷静ではなかった。やはり熱でおかしくなっていたのだろう。
妙に依怙地になったまま、掠れた声で叫んだ。
「土方さんに云われる事じゃないもの!」
「……」
「ぼくのお仕事なんて、土方さんには関係ない事でしょう? なのに、無茶だとか無理だとか、勝手に決めつけないで! ぼくにだって意志とか都合とかある……」
云いかけた言葉が、途中で消えた。
言葉が出なくなってしまったのだ。
不意に、土方の顔から一切の表情が消えた。すうっと表情が消え失せ、黒い瞳だけが冷たく底光りする。
本気で怒らせただと、わかった。
先程の比ではない。
ゆらっと青白い焔が彼の全身を包みこんだような気さえ、した。
「……関係ない、だと?」
低い声が呟いた。それに、もう何も云えない。
怯えたように目を見開く総司の前で、土方はふっと唇を歪めた。
「成程……ね」
「……」
「恋人であるおまえが何をしようが、俺には関係ない。そういう事なのか」
「土方さん、それは違っ……」
慌てて抗弁しかけた総司に、土方は顔を背けた。立ち上がると、大股に部屋を横切る。
窓際に佇んだ土方は、しばらくの間、無言だった。だが、やがて、背をむけたまま、静かな声で云った。
「俺は……おまえを愛している」
「……土方さん」
「おまえは、俺の恋人だ。そのおまえが壊れるのを、ただ黙って見ている事など出来ない」
「……」
男の声音が何か危険なものを孕んでいる気がした。
それに、総司は息を呑む。
「土方……さん……?」
「……」
ふり返った土方は、薄い笑みをうかべていた。そうして、不意に手をのばすと、シャッと音をたててカーテンを閉めきる。
暗く閉ざされた部屋の中、ゆっくりと歩み寄ってくる土方に、総司は身を竦ませた。ベッドの上、慌てて這って逃げようとするが、もう遅い。
男の手が細い腕を掴み、荒々しく引き倒された。
「ッ!?」
のしかかってくる男に、総司は目を見開いた。反射的に、男の胸に手をあて突っぱねる。
だが、その手首も軽々と一纏めに掴まれ、頭上へあげられた。
土方は総司を見下ろし、唇の端をつりあげた。
「優しくしても逃げるのなら、閉じこめてやるよ」
「ひ、土方さん……っ」
「鎖で繋いででも……逃がさない」
「っ……」
土方は喉奥で低く嗤うと、むしゃぶりつくように総司の首筋に顔をうずめた。
それに息を呑んだ瞬間、バスローブの前が荒々しく開かれた。白い裸身が男の目前に晒される。
桜色の唇から、悲鳴が迸った。
「い…いやあぁッ!」
必死に逃れようとする総司に、土方は目を細めた。
そして、愛らしい獲物をとらえると、濃厚な快楽の蜜へ引きずりこんでいったのだった。
「……ひぃ、ぁあッ」
総司が鋭い悲鳴をあげ、仰け反った。
男の手の中、ひくひくと少年のものが震えている。
指さきで先端を擦りあげてやれば、とろりと蜜がこぼれた。それにも喉を鳴らし、細い腰を揺らす。
土方はくっくっと笑い声をたてた。
「もう二度目か。本当に感じやすい、いい子だ」
「やぁッ、も……許して……」
総司は掠れた声で、懇願した。
ベッドルームには、仄かな明かりが灯されてあった。だが、それは淫靡な雰囲気をかきたてるだけだ。
白いシーツの上、少年のしなやかな裸身が横たえられていた。細い腕にはバスローブの紐が纏わりつき、一見緩やかに、だが、その実しっかりと縛りあげられてある。
総司は両手を頭上に上げさせられた状態で、先程から、男の責めを受けていた。感じやすい胸の尖りや、自分のものを愛撫されれば、たちまち声をあげて泣いてしまう。
躯が熱っぽく、気怠く、だが、たまらなく感じやすかった。男のしなやかな指さきが肌の上をすべるだけで、ぞくりとした震えが背筋を走ってゆく。
「……許して……お願い」
それでも、総司は懇願した。不安と怖さと、期待に揺れながら。
「何を云っている」
土方は総司の顔を覗き込み、目を細めた。
「逃げ出す事など二度と考えられないよう、たっぷり抱いてやると云っただろう?」
「ぃ、や……いやだ……」
「嘘つきだな、おまえは。躯はこんなにも正直なのに」
ぴんっと軽く指さきで弾かれた。とたん、総司のものがまた吐露してしまう。
土方は総司の右足をもちあげると、己の肩にかけさせた。先程から指でほぐしていた蕾に、とろとろとローションを垂らしてゆく。
「やッ、いやあっ」
この先に何をされるか察し、総司が泣き声をたてた。
交わってしまえば、もう逃れられない。後はもう獣のように貪られるままなのだ。
いつもストイックで優しい彼が、ベッドの中では別人のように激しく熱くなる事を、総司は身をもって知っていた。
「お、お願い……やめて」
総司は首をふり、ぽろぽろ涙をこぼした。
「逃げない、も……逃げないから……っ」
「……今更」
土方は、そんな総司を見下ろし、唇の端をつりあげた。
「逃げるも何もないだろう」
「ひッ…やめ、て……お願…ッ」
「天国へいかてやるよ」
優しいまでの声で囁き、土方は総司の両膝を押し広げた。濡れそぼった蕾に己の猛りをあてがう。
そのまま、一気に貫いた。
「ッや、ぁああ──ッ!」
総司が悲鳴をあげた。
苦痛に、思わず上へ逃れかける。だが、男の手に掴まれ、強引に引き戻された。
「ゃッ…ぅ、ひ…ぃっ…」
深々と、男の猛りを蕾の奥まで受けいれさせられた。凄い衝撃だ。細い躯が震えた。
久しぶりのため痛みがあるのだろう。
土方は僅かに眉を顰め、総司を見下ろした。彼のものもキツく締め付けられ、痛いぐらいだった。
「……総司、力を抜いて」
「や、できな…ぁ、いたぁ…い…ッ」
「いい子だ……ほら、息を吐いて」
土方は総司のものを撫で、首筋や胸もとに口づけを落してやった。その甘い愛撫に、次第に躯も柔らかくなってくる。
それを見計らい、土方はゆっくりと腰を引いた。息を吐いた処で、また深く突き入れてゆく。
とたん、総司が泣き声をあげた。
「っんっ、や…動いちゃ……っ」
「気持ちよくなりたいだろ?」
「で、でも…ぁ、ぁあっ、は…ぁあっ」
土方が緩やかな抽挿をくり返すたび、総司の頬が上気してゆく。ベビーピンクの唇からも、甘い吐息がもれた。
それに小さく笑い、土方は総司の両脚を肩に担ぎあげた。いきなり激しく打ち込み始める。
「ひぃ…ッ!」
総司の目が見開かれた。
蕾の奥を男の太い楔が穿つたび、強烈な快感美が背筋を貫いた。
ぐちゅぐちゅと鳴る音が恥ずかしく耳を塞ぎたくなるが、手は縛られているため、男の背を抱く事もできない。
「ぃ、ぁあっ、あッ…やぁあッ」
土方の激しい抽挿に、総司は泣きじゃくった。躯中が熱くて熱くて、とろけてしまいそうだ。
ぐりっと感じやすい部分を擦りあげられ、目の前がまっ白にスパークした。足の指が折り曲がる。総司のものから蜜が迸った。
「……ひッ、ゥッく……ッ」
とろとろと零しながら躯を震わせている総司に、土方は満足げに目を細めた。可愛くて可愛くてたまらない。
毅然としている総司もいいが、こうして快楽に溺れる天使も愛らしかった。
そっと紐を解いてやれば、たちまち土方の胸もとに縋りついてくる。
「ぁ、土方…さん……っ」
「総司……可愛いな」
唇を重ね、甘い舌をからめた。そのまま、ゆっくりと動きはじめる。
総司がくぐもった悲鳴をあげた。その躯の奥深くを、力強く穿つ。
甘く激しく躯を揺さぶられ、総司は身もよもなく泣きじゃくった。狂ったように悶え、快楽に溺れこんでゆく。
「ッぁあっ、いや…も…ぁああッ」
「……総…司……っ」
「ひ…ぁあっ、ぁあああッ」
総司がまた達した瞬間、土方も熱の彼方へと駈けのぼった。掠れた悲鳴をあげる少年の躯の奥に、思い切り熱を叩きつける。
注ぎこむ間も、土方は激しく腰を打ちつけ続けた。それにさえ感じて、総司が両脚を突っぱらせる。
「ッ…ぁ、は…あつ、ぃ…ぁん…っ」
甘い声で啜り泣く総司の背に、土方は手をまわした。そのまま抱きおこし、胡座をかいた膝上に坐らせる。
真下から、まだ硬度を失っていない剛直に貫かれ、総司は泣き叫んだ。
「いやあっ……アッ、アッ」
ぺったりと男の膝上に坐り込んだ形になり、苦しげに泣きじゃくった。
何しろ、身重で、太い猛りを根本まで咥えこんでしまったのだ。ものすごい衝撃だった。
「……ひぃ、ぁ、あ……ッ」
総司の唇がわななき、上気した頬を涙がつたい落ちた。
「お願っ…も…許し、て…ぇ…っ」
「まだだ、総司」
土方は汗ばんだ総司の髪をかきあげ、その貝殻のような耳に囁きかけた。
「まだ、俺は満足してない」
「ぁ、ぁあ……壊れ、ちゃう……っ」
「壊れても、全部愛してやる」
熱っぽい男の声に、総司は涙に濡れた目を見開いた。
「壊れても、何があっても、俺は……おまえを愛している」
息を呑んだ。
痛いほど、男の激しい想いが伝わってきた。
その躯の奥までも獣のように貪られながら、総司はその想いに震えた。
こんなにも愛されているのだ。
そして、自分も。
愛しているのだ。
この人だけを、いつまでも。
「……ぼく…も」
総司は潤んだ瞳で、彼を見上げた。
「ぼくも、あなたを…愛してます……っ」
そう告げた総司に、土方は微笑んだ。深く繋がったまま、唇を重ねる。
甘く濃厚な口づけを交わした二人は、やがて、また愛しあいはじめた。
身も心もとけあわせ、蜜のような快楽に堕ちてゆく。
いつまでも愛しあう恋人たちに、聖夜が静かに降りてきた───。
翌朝、土方はベッドの上で総司に着替えをさせた。
とは云っても、彼が総司の衣服をすべて纏わせたのだが。むろん、自分はもう黒いセーターとジーンズという恰好だった。
今日はお休み?と訊ねると、土方は黙ったまま微笑んだ。そっと抱きあげられる。
「ご覧」
あらためて見た隣室のリビングの光景に、総司は目を見開いた。
朝食が用意されてあるのは当然なのだが、そこに、一メートルぐらいの高さのクリスマスツリーがあったのだ。本物の樅の木にシックな銀色の飾り付けがされてある。
「綺麗……とても素敵ですね」
そう云った総司に、土方は微笑んだ。
「あぁ。今日はクリスマスだしね」
「……あ」
総司は驚いたように声をあげた。だが、すぐ、申し訳なさそうに目を伏せる。
「プレゼント……何も用意していません」
「俺も同様だ」
そう云って、くすっと笑ってから、土方は総司のなめらかな頬にキスを落とした。
悪戯っぽい笑顔で、囁きかける。
「だから、お互いさまって事にしよう。それに、俺にとっては、おまえと一緒にいられる事が何よりのプレゼントだから」
「土方さん……」
ソファに坐らせてもらいながら、総司はちょっと躊躇った。だが、すぐに顔をあげると、隣に腰かけた土方に云った。
「土方さん、ごめんなさい」
「え?」
「だから、昨日の事。冷静に考えてみたら……ぼく、無謀だったと思うのです」
「確かに」
土方はかるく肩をすくめた。
「あれは無謀だった。危うく俺まで遭難させる処だったんだぞ」
「?」
小首をかしげた総司に、土方はくすくす笑った。
「おまえがいない事に気づいたら、当然追いかけるだろう? だが、俺は飛べないからね。必死に追いかけた挙げ句、雪の中で遭難する可能性が……」
「え…えぇっ!?」
一気に青ざめてしまった総司を、土方は笑いながら抱き寄せた。
「だから、もう無茶はしないでくれ。俺を殺したくなければ」
「あ、あたり前です! というか、本当にごめんなさい。関係ないなんて云って、土方さんはぼくの恋人なのに、心配してくれたのに……っ」
「総司」
土方はそっとその名を呼び、頬を撫でた。濡れたような黒い瞳で、総司だけを見つめる。
たちまち、総司は「……あ」と声をあげ、頬を紅潮させてしまった。おとなしく彼を見あげる。
それに、土方は静かな声で囁きかけた。
「悪いと思ってくれているのなら、一つお願いがある」
「お願い……?」
「恋人としての願い事だ」
真摯な表情に、総司は息を呑んだ。思わず両手を握りしめる。
「何…ですか?」
その問いかけに、土方は微かに目を細めた。
そして、優しい声で云った。
「クリスマスを……一緒に過してくれないか」
「……え」
目を見開いた総司に、土方は言葉をつづけた。
「今だけは他の何もかも忘れて、一緒に過して欲しいんだ。恋人として、俺の傍にいて欲しい……」
「……土方…さん」
「様々な事が気になるのはわかる。だが、それでも……今この時だけは、おまえの時間を、俺にくれないか」
「……っ」
視界がぼやけた。
総司の目に涙があふれ、ぽろぽろと頬をこぼれ落ちてゆく。
彼の優しさが、思いやってくれる気持ちが、心にしみた。
我侭を云って困らせて、面倒をかけて。
こんな自分なのに。
いつも甘えてばかりの自分なのに。
彼は、こうして全部を受けとめてくれるのだ。
優しく見守り、必要な時には手をさしのべてくれる。
ぼくをぼくとして認め、愛してくれる人……。
「土方さん……」
総司は、そっと呼びかけた。
ソファの上にならんで坐りながら、その肩に小さな頭を凭せかける。
それに、土方は優しく抱き寄せてくれた。そっと髪を頬を撫でてくれる指さきが、心地よい。
「土方さん……あのね」
「何だ?」
静かに聞き返してくれた。そんな恋人を見上げる。
告げたいことは、たくさんあった。
ありがとうも。
ごめんなさいも。
愛してるも。
でも、今は……
「メリー・クリスマス……土方さん」
そう云った総司に、土方は、一瞬、目を見開いた。
だが、すぐに微笑んだ。
手をのばし、ふわりと総司の細い躯を膝上に抱きあげた。
ちょっと驚いてから、くすくす笑い、抱きついてくる総司が誰よりも愛おしい。
世界中の何よりも。
一緒に過ごせるクリスマスが、幸せだから。
二人ともに在れるのなら、それだけで……
「愛してるよ、総司」
「ぼくも……愛してます、土方さん」
甘い睦言をかわしながら、二人はキスをかわした。
そして。
土方は、愛する恋人を抱きしめると、その耳もとに優しく囁いたのだった。
「メリー・クリスマス、総司」
May the miracle of Christmas fill your heart with warmth and love.
愛とぬくもりを、きみに
[あとがき]
風邪でぐずぐずげほげほしながら、書き上げたお話です。なので、風邪の描写が妙に生々しい?(笑)
幸せなクリスマスを、皆様が迎えられます事を祈って。
