「Honey Love」シリーズ
「スイートバレンタイン」後日談








「嫉妬、ですか」
 斉藤は驚いたように、土方を見やった。
 先日と同じく議員会館の一室だった。
 窓ガラスの向こうには、この間のバレンタインの日と同じように粉雪が舞っている。
「嫉妬が理由で、総司は逢わないと意地をはっていた……こういう訳ですか」
「だろうな」
「それはそれは」
 斉藤はちょっと呆れたように呟いてから、鳶色の瞳で土方を見やった。
 土方はデスクに行儀悪く腰かけ、珈琲を飲んでいる。
 その端正な横顔を眺めながら、小さく笑った。
「で、嬉しかったと」
「誰が」
「もちろん、土方さんがですよ。あの大天使にやきもち焼かれて、嬉しくないはずがないでしょう」
「……」
「それに、いつもは土方さんが嫉妬する方じゃありませんか。何しろ、あの大天使の輝きに惹かれぬ者はいない。人も天使も……悪魔さえもね」
「……」
 斉藤の言葉に、土方は切れの長い目をあげた。
 どこか探るようなまなざしをむけてくる。
 それに、斉藤はひらりと手をふってみせた。
「怖い顔しないで下さい。けど、それが真実だからこそ、土方さん、あなたの独占欲も強くなってしまうのでしょう」
「あれは俺のものだ」
 静かな声で、土方は云った。
 男にしては長い睫毛をふせ、ゆっくりと言葉をつづける。
「俺が総司を独占したいと思って、当然のことだろう」
「当然ですがね」
 斉藤は肩をすくめた。
「でも、これだけは覚えておいた方がいいですよ」
「何だ」
「総司に近寄るすべてを排除する事など、到底出来ないって事です。あんなにも綺麗で清らかで、大天使としての輝きにみちている総司だ。排除できると思う方がおかしいでしょう。これからも、あなたは嫉妬しなければならない訳です。総司に近づく者たちにね」
「おまえのように、か」
 ちらりと視線を流した土方に、斉藤は薄く笑ってみせた。
「さて、どうでしょう」
「……」
「じゃあ、そろそろ行きます」
 斉藤は立ち上がると、山崎にむかって「珈琲ごちそうさま」と声をかけた。それに、山崎が一礼する。
 コートを片手に出ていこうとして、ふと気づいたように云った。
「あぁ、それから」
「何だ」
「例の国の一件、早急に手を打たないとまずいって事だけは、お忘れなく」
「わかってるさ」
「それでは、よしなに」
 斉藤はしなやかな動作で一礼してみせると、踵を返し、部屋を出ていった。
 それを追うように山崎も出てゆく。
 一人きりになった部屋の中で、土方はゆっくりと窓際へ歩み寄った。



 窓の外は、まだ雪だ。
 それを眺めるうちに、先日のことを思い出した。
 この真冬に3時間を自分を待っていた、総司。
 抱きしめたこの腕の中、まるで生まれたての仔猫のように震えていた。
 嫉妬して、泣いて、不安がって。
 だが。
「……嫉妬しているのは、俺の方か」
 土方は薄く嗤い、しなやかな指さきで窓ガラスにふれた。
 ひんやりした冷たさが、指さきからつたわってくる。


 斉藤の指摘は間違いではなかった。
 いつでも、彼は総司の大天使ゆえの輝きに、目を細めてしまうのだ。
 その輝きに惹かれ、総司に近寄るすべてに、激しい嫉妬を覚えてしまうのだ。
 愛してるがゆえに。


 独占したいと願う、この気持ち。
 それは、きっと総司が彼にたいして抱く想いと何ら変わらないだろう。
 だが、ある一点だけで大きく違っている。
 邪悪で冷酷な魔王が、恋人へ抱く願望。
 何もかも独占してやりたい。
 その指さき一つ、髪一筋さえも、他の誰にもふれさせたくない。
 この世界すべてを壊しても、独占したいと望む。


   いとおしい恋人
   俺だけの大天使────


「……すべてを排除する事はできない、か」
 土方は揶揄するように、そう呟いた。
 そして。
 僅かに目を伏せると、静かに低く嗤ったのだった……。





   望むのは、おまえだけ
   世界すべてが滅びようとも
   おまえさえ、この腕の中にあればいい

   愛しい総司
   おまえは、俺だけのもの───