天井高く、シャンデリアがきらきらと輝いていた。
 その下で、鮮やかに艶やかに仮装した人々が楽しげに笑いさざめき、踊っている。ふわりとひるがえるドレスの裾。きらめく宝石。色とりどりの仮面。
 まるで映画の中にでもいるようだった。
 不思議な、まるで夢のように幻想的な世界。
 年に一度の、魔法の夜───
 その真ん中で佇んだ男は、可愛らしい妖精の衣装を纏った少年の瞳を、一瞬だけ覗き込んだ。
「……土方…さん……」
 小さく名を呼んだ総司に微笑みかけ、土方はその細い腰を抱いた腕に力をこめた。より強く引き寄せ、体を密着させる。
 そのまま斉藤に視線をむけると、唇の端をかるくあげてみせた。
「すまなかったな」
「いえ」
 斉藤はゆるく首をふった。それに、言葉をつづけた。
「あとは存分に楽しんでいってくれ」
「今でも十分楽しかったですがね」
 くすっと笑い、斉藤は背をむけた。慌てて「斉藤さん……!」と呼んだ総司にふり返らぬまま、ひらりと手をふり、人波の中へ去っていってしまう。
 呆然としていると、不意に土方が腕の力を緩めた。優雅な仕草で、一歩後ろへ下がる。
 片手をさし出し、悪戯っぽい瞳で覗き込んできた。
「……踊って頂けますか?」
 先ほどの斉藤とまったく同じ言葉だが、総司はなめらかな頬を紅潮させた。どきどきしてしまう。
 羞じらいつつ頷いた総司に低く笑い、土方は再びその手をとった。しなやかに踊りだしてゆく彼に、総司は慌てて合わせようとした。だが、すぐにある事に気づいて驚いてしまった。
 とても踊りやすいのだ。まったくステップなど知らぬ総司でも、まだぎこちなさは残るが、何とか踊れてしまう。
 総司は嬉しさで息を弾ませ、土方を見上げた。
「……すごい。ぼく、ちゃんと踊れてる……?」
「あぁ、上手だよ。うまく踊れている」
 そう云いながら、土方は己の腕の中でくるりと総司の躯を回転させた。そして、また手をとり、ふわりと導いてゆく。次第に早くなるステップにも、総司はもう難なくついてゆけるようになった。
 踊り軽やかなステップを踏むたび、ふわりとドレスの裾がひるがえった。真珠色のオーガンジーの下から緋色の布地が覗き、とてもエキゾチックだ。
 ダークスーツ姿の土方と総司が踊るさまはとても似合いで、また見事な眺めでもあった。
 総司は楽しくて楽しくてたまらなかった。
 だが、何もそれはダンスが出来たからではない。その理由を総司はよく知っていた。
 大好きな人と一緒にいれるからだ。
 こうして手をつないでいられるから、久しぶりに、彼の黒い瞳に見つめてもらえたから。
 優しく、熱っぽく、艶やかに。
 まるで、電話の時の冷ややかな彼が嘘のようだった。
「……どうして?」
 ダンスをつづけながら、総司は小さく訊ねた。
「え?」とかるく小首をかしげてみせる土方に、言葉をつづけた。
「どうして、ぼくを冷たく遠ざけたの?」
「……」
 その問いかけに、土方は黙ったまま微笑んでみせた。身をかがめると、一瞬だけ、掠めるようなキスを頬に落とした。
「……欲深いから、かな」
「ぼくが?」
「違う、俺が」
「よく意味がわからないんですけど」
 不思議そうな総司に、くすっと笑った。
 疲れただろうと手をとり、踊りの輪の中から柔らかく連れ出した。たちまち彼を取り囲もうとする人々に視線をむけ、かるく手をあげてみせる。
 総司が驚いたことに、それだけで彼らはすっと引いてしまった。それは、友人や知人などでなく、まるで君臨する若き王とその家臣たちのようだった。だが、それは二つの意味で、確かな真実だったのだ。
 土方自身が集めた知人、友人たちは皆、彼に心酔し強力なパイプをあちこちに張り巡らせ始めている。それは財界から芸術的な分野にまで及んでいた。そこには、まだ小さいが強固な結束に固められ、将来凄まじい力をもつだろう一つの王国が存在していたのだ。
 そして、別の意味で、既にそこは、恐ろしい程の強大な力をもつ王国だった……。
「何か飲むか?」
 ゆっくりと総司を庭園の四阿へ連れていってくれながら、土方は問いかけた。
 それに、ふるふると首をふった。確かに喉も少し渇いていたが、それよりも早く話をしたかったのだ。久しぶりに、もっともっと話したり、ふれあったり。何よりも少しでも二人きりになりたかった。
 黙ったまま彼の腕に手をからめ抱きついた総司に、土方は微笑んだ。
 綺麗な四阿に入ると、そこに用意された白い籐のソファへ総司を坐らせた。それから、通りかかったウェイターを呼びとめ、あたたかい紅茶をもってくるよう頼む。
 すぐさま用意された丸いポットから、紅茶をカップに注いだ。パーティで少し気が高ぶってるらしい総司のために、土方はミルクと砂糖を入れ、甘いミルクティーをつくってくれた。
「ほら、まずはこれを飲んで」
「……はい」
 こくりと頷き、総司はミルクティーを飲んだ。甘い香りに、ほっと力が抜ける気がした。
「おいしい……」
「少しは楽になったか」
「はい。でも……どうして?」
「いや、気分が悪そうだったからな」
 土方はその深く澄んだ黒い瞳でじっと総司を見つめながら、云った。むろん、その理由は彼自身がよくわかっていたのだ。ここは魔力に満ちすぎているのだから……。
「すごく緊張していたからかも」
 だが、総司はそれに気づかぬまま長い睫毛を伏せて答えた。両手でカップを包み込む。
「土方さんが……冷たくて、それで怖くて。こんな処まで来て、ますます疎まれるんじゃないかと」
「俺がおまえを疎む?」
 かるく目を見開いてみせた。
「まさか、そんなことあるはずないだろう」
「だって……」
「俺はいつでもおまえを愛してるよ。誰よりも可愛いし、誰よりも大切に思ってる」
 そう囁きながら、土方はゆるく総司の細い躯を抱きすくめた。久しぶりの彼のぬくもり、匂いに、ほっと吐息をもらしてしまう。
 だが、それでもまだ不安は消えなかった。
 いくら大天使としての生は長くとも、恋は彼とのこれが初めてなのだ。何もかもに戸惑い、驚き、激しく反応を返してしまう。
 そんな初なところも愛おしいと土方が思ってる事など知らぬまま、総司は言葉をつづけた。きゅっと彼のスーツを指さきで縋るように掴みながら。
「でも……じゃあ、どうして? どうして、あんなに冷たくしたの?」
「だから、さっきも云っただろう。俺が欲深いからだと」
 土方は総司の耳朶、薄闇に映える白い首筋、なめからな頬に、キスの雨を降らせながら、甘く優しく囁いた。
「おまえを誰よりも求めているんだ。可愛いと、愛おしいと思っている。だからこそ、時々、おまえを試してみたくなるんだ。どれぐらい、おまえは俺を愛してくれているのだろうと……」
「土方さんが?」
 びっくりしたように目を見開いた総司に、土方は小さく笑ってみせた。どこか照れたような、そのくせ悪戯っぽいきらめきを含んだ黒い瞳。
「呆れたか? まるで子供みたいだろ。おまえの愛を試すなんて」
「だって、土方さんがそんな事するなんて……」
「けど、俺だって男なんだ。たまには、おまえを試すような意地悪もしたくなるし、おまえから求めて欲しくなる。もちろん、忙しかったのは本当だし、おまえに逢えなくて辛かったのは俺も同じだ。けど、おまえからの誘いがない事に拗ねてたのは、俺の方も同じだったんだぞ」
「土方さんが拗ねたの?」
「あぁ、子供みたいにな。だからこそ、おまえから行動を起こして欲しかった。俺に断られたからと引っ込む程度なのかどうか。だが……まさか、このパーティにまで乗り込んで来るとは思っていなかったがね。せいぜい、直接マンションにでも来るぐらいだと思っていたんだ」
「……怒ってますか?」
「まさか」
 くすっと笑い、土方は総司の柔らかな髪を優しく撫でた。
「おまえの姿を見つけた時、とても嬉しかったよ。このパーティに来るほど俺を求めてくれているのだと、そう思うと、嬉しくて嬉しくてたまらなかった」
「土方さん……」
 総司は両手をのばし、土方の躯に抱きついた。その広い胸もとに頬を擦りつけ、彼の鼓動とぬくもりを思う存分味わった。
 彼の腕に抱かれたまま、掠れた声で云った。
「ぼくはあなたを愛してます。ずっとずっと、世界中の誰よりも何よりも愛してる」
「……総司」
「だから、ぼくを信じて。お願いだから、ぼくをもう試したりしないで……すごく不安で怖かったの……」
 それに、土方は目を伏せた。
 力強い両腕で、総司の華奢な躯を抱きしめた。柔らかな髪に顔をうずめる。
「すまない。もう二度としないと誓うよ……」
「うん……」
 こくりと頷いた総司は、恋人の胸もとに顔をうずめると、静かに目を閉じた。








 柔らかな月明かりの中。
 厚い上質の絨毯の上に、点々と、真珠色や朱の衣装がまるで花びらのように散らばっていた。それに重なるようにして、スーツやシャツも脱ぎ捨てられてある。
 先ほどまでパーティの開かれていたホテルの一室だった。
 大きなベッドの上、二人は久しぶりのとろける蜂蜜のような時間をすごしていた。
 くしゃくしゃに乱れた白いシーツを少年の指さきがまたたぐり寄せ、それを男の掌が包み込み握りしめる。
「…っ…ぁあっ…ふっ、んぅぁ…あッ」
 汗に濡れた髪をふり乱し、総司が甘く可愛らしく喘いだ。
 それを見下ろし、土方はもっと深く繋がろうと総司の下肢をより強く引き寄せた。ぐっと男の楔が奥に打ち込まれ、とたん、総司が「ひぃッ」と悲鳴をあげて仰け反る。
 土方は構わず細い両足を己の肩にあげさせると、激しい抽挿を始めた。何度も蕾の奥を己の猛りで鋭く抉ってやる。
 たちまち、総司の唇から濡れた声があがった。
「ぁあっ、やぁ…ぁあっ! は…ぁあ、あ──」
 足の指が反り返り、細い腰を波うたたせて限界が近いことを知らせる。
 だが、それに、土方は薄く笑っただけだった。
「……気持ちいいか?」
「ぅ…ぁあっ、あぁッ…い、ぃいっ…ぁああッ!」
「淋しい思いをさせた罪滅ぼしだ、今夜はたっぷり可愛がってやるよ」
「ん、ん、んぅ…や、ぁあーッ!」
 思わず悲鳴をあげて仰け反った。
 強引に、乱暴なほどの勢いで何度も腰を打ちつけられのだ。蜜の坩堝と化した蕾の奥に打ち込まれる男の楔の熱さに、強烈な快感が襲ってくる。
 ぞくぞくするような感覚が腰奥から背筋を貫き、ぎゅっと目を閉じた総司の瞼の裏で白い光が何度もスパークした。
「や、ぁあッ! は…すご、ぃっ…ぁあっ、だ…めッ…っ!」
 そう叫んだ瞬間、総司のものが白い蜜を迸らせた。それは、男の胸から腹にも飛び散る。
 だが、それに土方は僅かに唇の端をつり上げ、ぺろりと舌なめずりしただけだった。
「総司……」
 はぁっはぁっと喘いでいる総司に一度キスを落としてから、再び激しい抽挿を始めた。
 絶頂に達した後、すぐさま責められる快感美に、総司は甘い悲鳴をあげた。
 腰がもう蜜のようにとろけているのだ。そこへ打ち込まれる男の楔が与える快感は、凄まじいものだった。
「ひ…ぁあッ! ぁあっ、ぅ…ぁあ…ッ!」
 泣きながら必死に上へ逃れようとする総司の躯を引き戻し、躯を二つ折りにして、無理矢理もっと深く男を受け入れさせた。そのままで、ぐりぐりと奥を捏ね回してやる。
「…ッあ、ぁあ、や…ッ!」
 か細い悲鳴をあげて泣きじゃくる総司に、くっくっと喉を鳴らした。
「……可愛い総司」
 涙に濡れた頬に、首筋に、胸もとに、甘い甘いキスを落として。
 土方はもう快楽に朦朧としている総司を、濡れた黒い瞳で満足げに見下ろした。薄く笑いながら、その華奢な天使の躯を抱きすくめる。
「おまえを誰よりも愛してるよ。もう二度と離さない……」
「…ぁ、ぁあ…ぁ……」
「絶対に……逃がさない」
 低く甘い──それでいて冷酷な響きを纏った魔王の声音は、もう甘く夢見る天使には届くはずもなく。
 年に一度の魔法の夜。
 快楽に溺れきり抱きついてくる総司を抱きしめ、土方は甘く優しく唇を重ねたのだった……。









 シャワーを浴びて出てきた土方は、濡れた髪を指さきで煩げにかきあげた。
 真夜中だというのに、黒いラフなシャツとボトムを身に纏っている。部屋の片隅にあるミニバーへ行くと、綺麗にカットされたグラスに氷と琥珀色の酒を注ぎこんだ。それを手の中で揺らしながら、ベッドルームへ向かう。
 そのベッドルームの中央──広いベッドの上では、可愛らしい少年がぐったりと気を失っていた。
 ここ一ヶ月の隙間を埋めるように、先ほどまで二人は熱く激しく抱きあっていた。だが、あまりにも濃厚な情事に、総司が失神してしまったのだ。土方は苦笑しながら綺麗に後始末をしてやったが、それでも総司は目を覚まさなかった。総司自身、かなり積極的に求めていたのだから、これも当然の結果だろう。
 土方はベッドの端に腰を下ろすと、そっと指さきで総司の柔らかな髪を梳いてやった。指の間を、さらさらと零れ落ちてゆく感触が心地よい。
 そうしながら総司の寝顔を見つめていた土方は、ふと顔をあげた。すっと目を細める。
「……」
 立ち上がると部屋を横切り、テラスへの窓を押し開いた。ここは二階なので、テラスにいきなり誰かが現れるはずもない。だが、確かに今、そこには姿があった。
 テラスの手すりに凭れ、眼下に広がる月光に照らされた薔薇園を眺めている。
 土方はゆっくりと歩み寄り、その隣に並んだ。
「……で、どうだった」
 低く問いかけた彼に、斉藤は答えた。
「かなり上首尾だと云えるでしょうね」
「ご苦労だったな」
 綺麗な顔で笑い、土方はねぎらった。それに、斉藤は肩をすくめた。
「たいした苦労もありませんでしたよ。呼んだのはあなただし、少し突っついてみたら呆気なくなびいてきました。あの分じゃ、悪魔にするのも簡単そうですね」
「そうして、また手下をふやすのか」
「おれの手下ではありません、あなたの……臣下です」
 そう答えてから、斉藤はちらりと部屋の中の方へ視線をやった。
 それに気づいた土方が低く笑った。
「あれは今、眠っている……」
「というより、気絶ですか」
「少し無理させすぎたな」
 苦笑しながら答える土方に、斉藤は肩をすくめた。鳶色の瞳を夜の薔薇園へ戻しながら、静かに云った。
「かなり……皆が騒いでましたよ。怖がる者も、当然ながら反発や敵愾心を燃やす者も……。魔王たるあなたの傍に、よりによって大天使がいるのですから、まぁ当然のことですが」
「わかりきった反応だ。だが、俺の勝手じゃねぇか」
「もちろん、わかってます。ですが、恐ろしいのは、悪魔たちのあなたへの忠誠心を侮るべきではないという事です。もしも、あの大天使があなたを裏切れば、それこそ皆は許さないでしょう。必ず血祭りにあげられる。そのあたりもすべて承知の上で、あなたは総司を皆の前に披露した訳ですか」
「あぁ」
 土方は手すりに凭れかかり、うっすらと笑った。
 その端正な顔だちが月明かりに照らされ、ぞっとするほど冷たく美しい。
「俺は総司に裏切られるつもりなど毛頭ねぇからな。あれは俺のものだ。他の者になど指一本ふれさせるものか」
「あなたご自身の手で守られる訳ですか」
「……」
「皆は噂してましたよ、あなたがあの大天使に籠絡されるのではないかと。むろん……おれは杞憂だと云っておきましたがね」
 それに、土方は静かに微笑んだだけだった。
 何を考えているのか、冷たく澄んだ黒い瞳で薔薇園を見下ろしている。
 それを眺めやり、斉藤は嘆息した。踵を返して去ろうとし──ふと気づき、ふり返った。
「そう云えば……あぁいう悪戯はやめた方がいいですよ」
「悪戯?」
 訝しげに眉を顰めた土方に、斉藤は云った。
「ほら、パーティであなたがホールへ入ってくる前です。わざとあなたの力を総司に知らせたでしょう。一気に魔の力が高まったのを感じましたし、総司もひどく動揺してました。あなたは隠しておくつもりだと思っていたのですが。それとも、逆に、総司の反応を見るためにやったとか?」  
 それに、土方はしばらく黙っていた。やがて、指さきで濡れた黒髪をかきあげると、低い声で云った。
「……Trick or Treat.」
「え?」
 見事な発音で云ってのけた土方に、斉藤はえ?と目を見開いた。それに、くっくっと笑いながら答える。
「今夜はハロウィーンだろう? 菓子を……甘い蜜を与えてくれねぇ総司に、ちょっと悪戯してやった訳さ」
「……」
 呆れたように斉藤はため息をついた。
 はぐらかされたのはわかるが、もう追求する気もなかった。本当に悪戯だったのか、何なのか。彼自身、思惑があっての行動だろうが、そこまで斉藤が関知すべきではなかった。
 斉藤は丁寧に一礼すると、一歩後ろへ下がった。闇の中へとけ消えてゆく。
 それを見送らぬまま、土方はテラスから部屋の中に戻った。あちこちホテルの部屋をめぐり、久しぶりに悪魔たちと歓談しようかと思っていたが、その気も失せてしまったのだ。
 さっさと衣服を脱ぎ捨てると、同じ裸身で眠っている総司の傍らに身を滑り込ませた。ゆるく抱きすくめると、総司が無意識のうちにか甘えるように身をすり寄せてくる。それがたまらなく可愛かった。
 ふと、先ほどの会話を思い出した。
「……少し悪戯がすぎたか」
 くすっと笑った。
 扉の向こう、彼の魔に怯えきっていた天使。恐がり不安に震え、身も心も竦ませて。
 それに激しい愉悦を覚えた。
 身の内が震えるほどの快楽だったのだ。
 愛しかった……。
 可愛くて可愛くて、たまらなかった。
 こんなにも、総司は幼く可愛らしいのだ。
 大天使だと云っても、まだまだ幼いおまえ。そんなおまえが俺に叶うはずもないのだから。
 だが。
 もしも、いつか真実に気づき今更もがき抗っても、もう……俺の腕の中だ。
 おまえはこの腕に囚えられ、二度と逃げられない。
 永遠に。
「……ん……」
 不意に、総司が小さく声をあげた。彼のぬくもりを求め、より身をすり寄せてくる。
 愛しい恋人の広い胸もとに頬を押しつけると、子供のように身を丸めた。優しく抱きよせてやると、安堵したように小さく微笑み、再び眠りへ落ちていった。
 純粋で無垢で清らかな天使が。 
 世界中の誰よりも、邪悪で冷酷な彼──魔王の腕の中で。
「……」
 土方はそれを見下ろし、微笑んだ。
 裏切りなど許すものか。
 もしもその時が訪れても、悪魔たちの手になど渡さない。むろん、この手で守りなどしない。
 この俺自身の手で──縊り殺してやるのだ。
 おまえの力も何もかも奪い取り、堕落させ、抱き殺してやるだろう。
 最期の瞬間まで、俺だけのものだ。
 おまえは、この魔王たる俺に愛された、ただ一人の天使なのだから───……
「……愛してるよ、総司」
 微かな笑みをうかべながら、そっと優しく囁いた。
 甘い甘いキスを落として。
 その瞼に、頬に、唇に。
 土方は最愛の天使を抱きしめると、静かに目を閉じた。
 そして。
 誰よりも愛しいぬくもりを感じながら、彼もまた眠りへと落ちていったのだった……。 




悪魔が集う魔法の夜
悪戯された可愛い天使は
魔王の腕の中で
優しく甘い夢を見る……



 







[あとがき]
 ハローウィンの背景を探したのですが、どうしてもイメージにあうのが見つからず。で、土方さん主催のパーティって、こんな雰囲気かなぁと思ったものを選ばせて頂きました。
 この魔王さまは相変わらず怖いです。どんな事であっても、総司に指一本ふれさせることは許せないという。こっちの土方さんなら、もし総司が浮気しようものなら躊躇わず手を下しちゃうでしょうね。とんでもなく傲慢で残酷な魔王さまですから。もちろん、総司を溺愛してる事は確かな真実なのですが。愛の形もいろいろという事です。
 皆様も、楽しいハローウィンを過ごされますように。


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