「わぁ、綺麗」
 総司は思わず声をあげた。
 それに、車から降り立った土方が優しく微笑んだ。思わず彼に駆け寄り、腕へ手をからめてしまう。
「とっても綺麗ですね。まるで絵はがきみたい」
「そうかな。俺はよく見慣れているから、わからないが」
「だって、こんな素敵な処、滅多にありませんよ」
 総司は嬉しそうに頬を綻ばせ、早く早くと男の腕をひっぱった。総司にしては珍しい子どもっぽい様子に、土方は目を見開いたが、すぐに従ってやる。無邪気にはしゃぐ恋人が可愛かった。
 二人は、例の軽井沢の別荘に来ていた。
 樹木に囲まれたそこは、総司の言葉どおり絵はがきのような美しさだ。
 白い雪につつまれた森。その中にぽつりと建つ一軒のコテージ。北欧風の家はとてもシンプルだが、その実、職人の技が凝らされた美しさを兼ね備えていた。それは、中に入っても同じだった。
 積雪にも耐えられるよう造られた家は強く、そして、美しい。彼が隠れ家だと笑っていたが、そのとおりの雰囲気だった。どこか秘密めいていて、それが総司の胸をどきどきせた。
「気にいったか?」
 一通り案内し終えてから、そう訊ねた土方を、総司は笑顔で見上げた。
「はい。とても」
「よかった。二日ほどだが、過すからには気にいって欲しいからね」
「二日……」
 思わず小さく呟いた。


 多忙を極める彼なのだ。その彼が二日も傍にいてくれるなど、思ってもみない事だった。
 昨夜、突然、家を訪れてきた土方が云ったのだ。
「休みをとった。明日から二日間、軽井沢へ一緒に行かないか」
 と。
 それが何を意味しているのか、先日のやり取りがあるだけにすぐわかった。むろん、安静にしたからといって、治るものではない。だが、それでも、彼の気持ちや優しさがたまらなく嬉しかった。幸せで嬉しくて、思わず彼に抱きついてしまった程だ。
 その幸せな気持ちは、今もつづいている。


「二日も一緒にいられるなんて、本当に嬉しいです」
 なめらかな頬を染めて云った総司に、土方は微笑んだ。華奢な肩を抱き寄せ、その桜色の頬にキスを落とす。
「俺もだ。楽しい時を過そう」
「はい」
 こくりと頷いた総司をソファへと促した。柔らかなソファに総司を坐らせると、土方はキッチンに入った。ミルクティーを入れてやり、自分はコーヒーを入れてもっていく。ぼんやり窓の外を眺めていた総司が、慌てて立ち上がった。
「ご、ごめんなさい。ぼく……っ」
「何を謝っている。おまえは病人同然なんだ。これぐらい当然だろう」
「でも」
「ほら、坐って。冷めてしまうよ」
 穏やかな声で云った土方に、総司はソファに坐りなおした。いただきますとマグカップを受け取り、そっと唇をつける。
 その愛らしい横顔を、傍らに腰かけた土方は、底知れぬ黒い瞳で見つめた。












 夜になり、雪が降ってきた。
 だが、コテージの中はあたたかい。石造りの暖炉に火が入れられ、赤々と燃えさかっていた。
 食事も入浴もすませた総司は、先程から、その燃える炎を見つめている。まだ少し濡れた髪が柔らかく跳ね、なめらかな頬がほんのり薔薇色に染まった様子は、まさに宗教画に描かれる愛らしい天使そのものだった。
 だが、総司の中にある魂は凜とし、涼やかで激しいものだ。
 それを知っている土方は、静かに声をかけた。
「……何を考えている?」
「え」
 はっと我に返り、総司は彼を見上げた。目を瞬くその表情がまた愛らしい。
 土方はそれに目を細めつつ、その傍らに腰を下ろした。ラグマットの上に坐り込んだ総司の躯に、毛布を羽織らせる。
「いくら暖炉の前でも、それでは冷えてしまう」
「あ、ごめんなさい」
「何か考え事をしていたのか」
 彼の問いかけに、総司は俯いた。じっと唇を噛み、目を伏せている。
 やがて、小さな声で彼の名を呼んだ。
「……土方さん」
 土方が視線をむけると、総司は思い詰めたような表情をしていた。
「どうして……何も聞かないの?」
「何が」
「ぼくの傷のことです。あの日、見たでしょう? だから、ここにも連れてきてくれた」
「……あぁ」
 土方は頷いた。
「確かに、おまえを療養させるために、ここへ連れてきた。傷が心配だったから、辛そうなおまえを見ていられず、何かしてやりたいと思ったんだ」
「……」
「だが、総司」
 土方は顔をあげ、総司をその黒い瞳でまっすぐ見つめた。
「俺は、おまえから何も聞き出そうとは思わない」
「え」
「人は誰でも秘密があるだろう。心に抱えるものがあるだろう。それを無理に暴き出す権利は、誰にもないはずだ。なのに、この間、俺は嫉妬のあまり、隠し事をしていると責めてしまった。狭量だな」
 ほろ苦く笑った土方に、総司は目を見開いた。その前で、彼は穏やかな口調で言葉をつづけた。
「だが、だからこそ、もう聞き出そうと思わない。身体が傷ついているおまえの心までも、俺はこれ以上傷つけたくないんだ」
「土方…さん」
 みるみるうちに、総司の瞳が潤んだ。両手をぎゅっと握りしめ、目を閉じる。その細い躯に、土方は両腕をまわした。柔らかく胸もとに抱きよせ、そっと背中をあやすように撫でてやる。
「この間は本当に悪かった。傷で苦しんでいるおまえに、あんな強引な事をした事を悔やんでいる」
「いいえ、ぼくもいけなかったのです。土方さんがぼくを心配してくれているのに、あんな態度をとって……」
 総司は土方の逞しい胸もとに頬を寄せた。


 抱きすくめてくれる彼のあたたかさが、嬉しい。
 耳にふれる鼓動、ぬくもり──何もかもが愛しくてたまらなかった。
 この人は自分を誰よりも愛してくれている。
 そして、自分も彼を誰よりも愛している。
 何よりも大切なのは、彼を傷つけないことなのだ。彼を愛しつづけることなのだ。



「……土方さん」
 小さな声で、そっと呼びかけた。
 一瞬唇を噛んでから、総司は静かに言葉をつづけた。
「傷のこと……話します」
「……」
 背を撫でていた男の手がとまる。やがて、低い声が耳もとにふれた。
「総司、無理には……」
「いいのです。お願い……聞いて下さい。この傷は、悪魔によって負ったものなのです」
「……」
「力が弱くても、あなたは悪魔です。だから云いたくなかった、ふれたくなかった。でも……隠すことであなたを傷つけるのは、ずっと嫌なのです。ぼくの全部をあなたに知って欲しいから」
「総司」
 土方は柔らかく総司の華奢な躯を抱きしめた。そして、静かな声で訊ねた。
「その傷を癒す方法は……あるのか」
「……」
「あるのだろう。総司、話してくれ」
 総司は黙ったまま、長い睫毛を伏せた。ぎゅっと彼の服を握りしめ、俯いている。その白い項にキスを落しながら、土方は優しく促した。
「おまえが躊躇うという事は、俺に関係があるのだろう。なら、何も躊躇う事はない。おまえのためであるのなら、俺は何でもしてやれるよ」
 それでも、総司はまだ躊躇っていた。だが、全部知って欲しいと云った以上、黙っている訳にはいかないと思ったのだろう。
 途切れがちの声で答えた。
「この傷に……悪魔が、ふれることです」
「悪魔が?」
「えぇ。手でふれて、魔を吸収してしまえば、傷は癒されます。でも……!」
 総司は潤んだ瞳で彼を見上げた。
「それは、悪の力をより強める事になる。魔を吸収するのですから、当然の事です。そんなこと……」
「なら、総司は」
 土方は微笑んだ。
「悪の力が強まれば……俺を愛さなくなる?」
「まさか」
 総司は激しく首をふった。
「前にも云ったでしょう? あなたを失うぐらいなら、共に堕ちますと。その想いは今でも変わりません」
 きっぱり云いきった総司に、土方は目を細めた。「ありがとう」と囁き、額にキスをする。
 そうして、総司の頬を両手でつつみ込み、仰向かせた。愛しい恋人を見つめ、静かな声で告げた。
「俺に……おまえの傷を癒させてくれないか」
「土方さん……」
「おまえの痛みを、俺にわかち与えてくれ」
「……ぁ」
 総司の瞳に涙があふれた。感極まったように両手をのばすと、男にぎゅっとしがみつく。それを抱きとめ、土方は僅かに目を伏せた。
 ゆっくりと、白い寝着が捲り上げられる。あの時と同じように、白い肌に傷は痛々しかった。邪悪な魔を感じる。
 土方は鋭い瞳でそれを見つめると、静かに手をかざした。そっとふれる。とたん、傷がぼうっと光った。男の手に何かが吸収されてゆく。やがて、白い肌から傷は全く消え去った。もとの綺麗でなめらかな肌に戻る。
 その間、土方は一瞬眉を顰めただけだった。
「……もう大丈夫だ」
 男の言葉に、総司はのろのろと自分の躯を見下ろした。そうして、傷が癒されているのを見ると、それを喜ぶよりも先に土方を心配そうに見上げた。
「土方さんは大丈夫? 何か異変はない?」
「いや、別に」
 そう答えた土方は、まだ不安げな総司を抱き寄せた。
「大丈夫だ。おまえが心配することじゃない」
「でも……」
「それより、おまえはどうだ。どこか痛む処はないか」
「大丈夫です。あなたがぼくを癒してくれたから、ぼくのために……」
 総司は土方の躯に縋りついた。
「ありがとう、土方さん。いつも、あなたはぼくを愛して守って、大切にしてくれる。ぼくも、いつかあなたに何かしてあげられればいいのだけど」
「いつも、してくれているよ」
「え?」
「俺の傍にいてくれる。幸せそうに微笑ってくれる。それが……俺にとっては何にも代え難いんだ」


(そうだ。総司……おまえが生きていてくれる。俺の傍にいてくれる。それが、一度おまえを失った俺にとって、どれ程の僥倖か……)


 そのまま目を伏せた土方の端正な顔を、総司はじっと見つめた。
 どこか憂いさえ感じさせる表情に、どうして? と聞きたくなる。だが、それを堪えた。先程も彼が云っていたではないか。
 誰にでも秘密はあると、それを暴く権利は誰にもないと。
 だから、自分も待ちたかった。彼がすべてを話してくれる日まで、彼の傍でずっと愛しつづけたい。


「土方さん……愛している」
 心からの想いをこめて。
「愛しています。あなただけを誰よりも……ぼくには、あなた以上に大切なものはない」
「俺もだよ」
 優しい声が囁いた。
「総司……愛している」
「土方さん……」
 額に、睫毛に、頬に、甘いキスの雨が降らされた。それをうっとりと受けながら、総司は目を閉じた。
 少しずつ少しずつ、甘い夜が辺りにみち始める。
 二人はもう何も言葉を交わさない。
 あるのは、ただ、愛の睦言ばかりだ。
 恋人たちの甘い一時が、ゆっくりと舞い降りてきた───。












 薄闇の中、暖炉の焔が音をたてていた。
 だが、その音をかき消すほどの甘い吐息と声が、部屋の空気を震わせてゆく。
「……っ、んっ…ぁっ、ぁっ」
 総司は声をあげ、白い躯をくねらせた。
 さらさらと柔らかな髪がラグマットの上で揺れる。細い指さきがマットをひっかき、脱ぎ捨てられた衣服を掴んだ。それを口許に押しつけようとしたが、柔らかく取りあげられてしまう。
 潤んだ瞳で見上げると、きれいな笑顔で見下ろされた。
 唇に押しあてられる、しなやかな指さき。
「声を聞かせて」
「だって…ッ、恥ずかし……っ」
「恥ずかしがる余裕も、なくしてあげるよ」
 云いざま、土方は細い両脚を抱えあげた。総司が抗う隙もあたえず身体を二つ折りにすると、いきなり激しい律動を始める。濡れそぼった蕾に男の猛りが抜き挿しされ、総司は甲高い悲鳴をあげた。
「ぁああーッ」
「ほら、もっと俺を受け入れて」
「土方…さ…ぁあっ、あ…はぁ、壊れ…ちゃう……ッ」
「大丈夫だ」
 土方は、己の下で喘ぐ大天使を見下ろし、目を細めた。その冷たく澄んだ瞳が妖しくも昏い光をうかべる。
 形のよい唇が狂おしい愉悦につりあがった。
「壊したりしない」
 そう云うと、ゆっくりと腰を引いた。そして、一気に奥まで貫く。ひいっと声をあげて仰け反る総司を組み伏せ、激しく揺さぶった。
 強烈な快感美に、総司が泣きじゃくり悶える。白い肌がみるみるうちに、艶めかしい桜色に染まった。
 その肌に口づけをおとし、低く囁いた。
「おまえが……俺をどこまでも受け入れさえすればな」
 低められた声は、総司の耳にとどかなかった。どのみち、男から与えられる快感に溺れこみつつあった総司には、聞こえるはずもなかっただろう。
「ぁっ、ぁあっ……んっ、ぁんっ」
 しなやかな白い両足が男の腰に絡みつき、自らもっと深く受け入れた。それに満足げに笑い、可愛い恋人が求めるものをあたえてやる。
 マットの上に腰をおろすと、総司の躯を抱きあげ、己の上に腰を下ろさせた。後ろから膝を抱え上げて押し広げ、濡れそぼった蕾に、剛直を深々と受け入れさせる。奥の奥まで男の太い猛りで貫かれるたび、総司は仰け反り「あーッ」と泣き叫んだ。
 汗に濡れた髪が揺れ、桜色の唇がわななく。
「ぁあッ、ああッ…ぁ──」
「いい子だ……総司」
「ぅ…くッ、ぁ…ぁあっ、土方…さ……っ」
「あぁ、最高だ……」
 絡みついてくる蕾の感触に、土方は思わず目を閉じ、吐息をもらした。
 肉体的な快楽もあるが、それをも凌駕するのは、精神的な充足だった。どこまでも優しく静かに包みこんでくれる感覚は、大天使故なのか。
「ぁッ、ぁあッ、ぁぁあっ」
 激しい律動を始めた男に、総司は甘い悲鳴をあげた。
 マットの上に這わされ、後ろから獣のように犯される。
 彼にしては珍しい乱暴さだったが、その激しさが心地よかった。


 いっそ壊されてしまいたい。
 このまま彼に抱き殺されたなら、どれほどの幸せだろう──?


(……土方さん、愛してる。愛してる……!)


 深く激しい愛に溺れる二人を、ゆらめく焔だけが浮かびあがらせていた。













 刻限は迫っていた。
 もう東京へ戻らなければならなかった。
 その日の午後、土方は一人散策に出た。冬の森の中を、ゆっくりと歩いてゆく。
 雲の切れ間から、陽の光がきらきらと降り注いだ。樹木や地面につもった白い雪が光に美しく反射し、眩しいほどだ。
 しんと静まりかえった森は、まるで魔法のように美しい。
 冷えた空気が心地よく、コートの隠しに手を入れたまま、土方は青空を見上げた。
 端正な横顔が息を呑むほど冷たく、彫像のように美しい。
「……」
 やがて、土方は僅かに目を細めた。形のよい唇が微かにつりあがる。
「……何か用か」
 喉奥で低く嗤った。
「用があるのなら、出て来いよ。斉藤」
「……」
 樹木の間から、若い男の姿が現われた。ゆっくりと雪を踏みしめ歩み寄ってくると、鳶色の瞳で己の主を見つめる。
 それを、土方はふり返ろうともしなかった。ただ、静かに空を見上げている。
 斉藤はしばらく躊躇っていたが、やがて、口火を切った。
「……昨日、橘が消えました」
「そうか」
「土方さん、あなたが手を下した……そうではありませんか」
「……」
 斉藤の問いかけに、答えは返らなかった。
 土方は無言のまま、微かに俯いた。視線を落とし、その口許に、うっすらと笑みをうかべる。
 何か一人秘密事を愉しんでいるような、冷笑。
 それが、答えだった。
「何故です」
 言わずもがなの事を訊ねた。
「総司を傷つけられたからですか。でも、だからと云って、処刑することは……」
「ないと思うか。総司が俺のものだとわかっていながら、あいつは傷つけた。ひいては、俺への反逆になるだろう」
「確かにそうですが、でも、橘は大天使を傷つけたのです。総司は大天使であり、我々悪魔にとっては敵だ。その敵を傷つけた者を、魔王自ら抹殺するなど、道理が通りませんよ」
「おまえ、本気で云っているのか」
 土方は呆れたように視線を投げてよこした。声に、嘲りの色が含まれる。
「この俺に、道理を説くとは。おまえもやきがまわったな」
「……そうかもしれませんね」
 斉藤は目を伏せ、ため息をついた。
「オレ自身、総司が傷つけられたことで、橘に殺意を覚えました。殺してやろうと思っていた。でも、出来なかった。だから、これは易々とそれをやってのけたあなたへの嫉妬だ」
「おまえに嫉妬される謂れはねぇよ」
 土方はかるく肩をすくめた。ロングコートの隠しに両手を入れたまま、くっくっと喉を鳴らして嗤う。
 柔らかな風が彼の黒髪をかき乱し、コートの裾をひるがえした。
 純白の雪の光景の中、その姿は艶やかでありながら、恐ろしいほど邪悪だ。だが、あまりにも魅力的で、誰をも虜にしてしまう。
 土方は形のよい唇に笑みをうかべ、云い放った。
「あれを傷つけていいのは、俺だけだ」
「……」
「侵したものは、何であれ容赦しない。それを実行しただけの事だ」
「わかりました」
 斉藤は頷いた。
「もう、オレは何も云いません。あなたにはあなたの考え、やり方がある。それに、オレはただ従うのみです」
「従うのみ、か。いつも反抗ばかりの気がするがな」
 くすっと笑った土方は、ふと目を細めた。遠く、澄んだ声が響いたのだ。
 視線をやると、斉藤は踵を返すところだった。樹木の奥へ消える寸前、かるく一礼してみせる。
「──土方さん」
 やがて、反対方向から総司が駆けてきた。土方を見つけると、ぱっと顔を輝かせる。
「こんな処にいたんですね、探しました」
「あぁ、すまない」
 土方は謝り、抱きついてきた総司の細い躯を引き寄せた。そっと抱きすくめ、髪を頬を撫でてやる。
 小さな顔を覗き込み、目を細めた。
「顔色もよくなった。元気になって良かった」
「土方さんのおかげです」
 そう答えてから、総司は不安げに彼を見た。
「でも……土方さんは……?」
「何が」
「土方さんは、その……大丈夫なの?」
「……」
 土方は切れの長い目で総司を見下ろした。どこか、声音に皮肉げな色がまじる。
「……俺の悪が増していないか、という事か」
「ごめん…なさい」
「謝る事はない。だが、俺自身わからないし、それに……総司は俺がどんな俺になっても、愛してくれるのだろう?」
「はい」
 男の問いかけに、総司はすぐさま答えた。その大きな瞳で彼だけを見つめる。
「あなたを愛しています」
 爪先だちになり、両手をのばした。そっと男の頬にふれ、思いの丈を囁きかける。
「あなたの中の悪が強まっても、どんなあなたになっても……それでも、あなたはぼくの愛する土方さんだから」
「総司……」
「ずっとずっと……愛している」
「……」
 土方は僅かに目を細めた。しばらく黙ってから、低い声で問いかける。
「永遠に……?」
「え?」
「永遠に、いつまでも……俺を愛してくれるのか」
「はい」
 総司は素直に答えた。
「永遠に、いつまでも」
 その答えに、土方は優しく微笑んだ。黙ったまま、そっと細い躯を己の腕の中に引き込む。そうして、柔らかく抱きしめながら、唇の端をつりあげた。


 永遠の誓いを、魔王に。
 ならば、俺も誓ってやろう。
 おまえの歓びも、哀しみも、苦しみも、俺故であり続けると。
 そう。
 痛みに狂う傷さえも。
 愛するおまえを傷つけていいのは、この俺だけだ……。


「……愛しているよ」
 そう囁いた土方の腕の中、総司はうっとりと目を閉じた。
 冷たい冬の風が頬にふれる。だが、彼の腕の中はあたたかだった。守られている安堵感に、心地よさに、思わず吐息がもれる。
 胸もとに頭を凭せかけると、彼の鼓動が聞こえた。
 ぬくもりも、服ごしに感じる感触も、何もかもが愛おしい。
 世界中の誰よりも、ずっとずっと大切で愛しくて、一番傍にいて欲しい人だから。


 永遠に愛している。
 愛されていたい。
 この人がどんなふうになっても構わない。
 悪が強まっても、何があっても。
 この愛は、決して引き返せないのだから。


「総司……」
 促すように名を呼ばれ、総司は顔をあげた。
 見つめれば、黒い瞳で静かに見つめ返される。頬を両手で包みこまれ、仰向かされた。そのまま唇を重ねられる。
 甘く優しいキスをかわした後、二人はもう一度互いを抱きしめあった。
 互いの中のある深い愛を、想いを、確かめあうように。



 ―――そして。
 魔法のように美しい森の中で。
 この世の誰よりも邪悪な魔王と、清らかな大天使は、静かに愛をわかちあうのだ。
 永遠の誓いのままに。

















 「永遠の誓い 前編・後編」を、お読み下さり、ありがとうございました。今年は、これで最終更新になります。
 今年一年、拙宅にお越し下さり、私のつたない話をお読み下さり、本当にありがとうございました。読んで下さる皆様のおかげで、何とか今年も一年のりきる事ができました。来年も、土方さんと総司の恋愛のお話を楽しく書いていきたいと思っていますので、よろしくお願い申し上げますね。
 本当に、ありがとうございました。
 皆様、よいお年を! 


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