夜の空だった。
遠く、レッドに輝く東京タワーが見える。
眩いばかりの不夜城都市。
それを見つめ、総司はゆっくりと両手をのばした。ばさっと音が鳴り、白い翼があらわれる。
夜の闇に、その純白の翼は輝くようだ。
「……」
総司は屋上でも少し高い部分にあがると、飛びたとうした。ふわっと躯がうきあがる。
その瞬間だった。
「!」
不意に、その細い手が後ろから掴まれた。驚いてふり返ったところを、そのまま強引に引き寄せられる。
「土方…さん……っ」
ひんやり冷たい黒髪が頬にふれた。
「……愛してる……!」
男の両腕が少年の体を閉じ込めた。きつく、背中がしなるほど抱きしめられた。
彼の吐息、体温、鼓動が胸に痛い。
それを感じながら、総司は静かに目を閉じた。
白い天使の羽根が、ひらひらと闇に舞い落ちた──……
総司はもそもそと身を起こし、目をこすった。
いつのまにか眠ってしまったらしい。
電車の揺れが心地よかったのだろう。気がつくと、後少しで目的地だった。
(……今の夢は何だろう)
シートに凭れながら、ぼんやり考えた。
もともと天使は様々な能力をもっている。その中には予知夢もあった。だが、さっきの夢がそうなのか、総司にも今一つわからないところだった。
あんなにも必死な彼の様子。いつも優しいが、冷静な彼があぁまで我を忘れるのは、ベッドの中だけだ。なのに、彼はあの獣のような黒い瞳で自分を見つめていた。
いったい、どうしてなのだろう。
何があったのだろう。
(考えても仕方ないかな……)
ゆるく首をふると、総司は立ち上がった。電車を降りて、駅の外へと出てゆく。
今日は買い物のために少し遠出したのだ。
もうすぐ彼の誕生日だった。何かささやかでも祝ってあげたかった。
誕生日に、彼に日をとって貰おうかとも思ったが、何だか気恥ずかしかったし申し訳なかった。あんなにも忙しい彼なのだから、仕事場の近くででも逢って渡せれば、それだけでいい。
だいたい、何を贈るのかさえ決まっていなかった。
初めは彼の好きな美術関係の稀少本をと思ったのだが、何だか商売の一端みたいで嫌でやめた。次に考えたのが、定番のネクタイ。だが、ネクタイは縛るを意味すると伊東から聞いてしまい、またやめた。
では、いったい何にすればいいのか?
「……うーん、難しいなぁ」
総司は呟きながら、ショーウインドーの中を覗きこんだ。
その時だった。
きらりと、一つのものが総司の目を引いたのだ。
「!」
思わず一歩さがった。
あらためて見上げると、小さいがとても高級そうな店だ。ツウの人間だけが好みそうな、控えめだが個性的で品の良い店のつくり。
総司は自分の財布の中を考えたが、躊躇ったのも一瞬だった。
思いきって扉に手をかけ、そっと押し開いた。
ガラス扉の向こうに、淡い照明に満たされた世界が広がった。柔らかな花のような香りが漂う。
幾つか並べらたガラスケースの中、それはひっそりと輝いていた。
「……綺麗」
思わず、呟いた。
店の奥から出てきた男が、僅かに目を眇めた。が、それも一瞬のことで静かに歩みよってくる。
夢中で見つめる総司をしばらく観察するように眺めてから、静かな声で呼びかけた。
「いらっしゃいませ。お気に召したなら、お出し致しましょうか……?」
「……え?」
総司ははっと我に返り、慌てて顔をあげた。
そこには総司より少し年上の若者が立っていた。つり上がり気味の目が印象的だ。どちらかと云えば細身の体に、黒い薄手のニットとボトムを纏っていた。
思わず見返した総司に、若者は思ったより優しい微笑をうかべた。
「これは翡翠です。ジェードともいいますが……」
「とても綺麗。これはネクタイピンですよね?」
「えぇ。かなり良いものですよ」
そう云いながら、若者はケースの中から翡翠を取り出した。淡い明かりの中、鮮やかな緑の輝きが美しい。まるで、とろりと零れ落ちた一粒の雫のようだった。
思わずうっとり見つめた総司に、若者は微笑んだ。
「どなたかへのプレゼントですか?」
「え、あ……はい」
こくりと頷いてから、総司は僅かに躊躇った。若者を見上げ、おずおずと訊ねた。
「あの……これ、お幾らですか?」
若者の答えは総司の予想と同じだった。正直な話、予算をかなりオーバーしていたが、それでもこの先どれを見ても、これと比べてしまうだろう。総司は思いきってこれを購入することにした。
「これを、お願いします」
「ありがとうございます」
一礼し、若者はその翡翠と代金を手に店の奥へ消えた。しばらくして戻ってきた彼は、美しい箱に入れられた翡翠を見せてから、目の前で綺麗に包装してくれた。
受け取り店を出ようとした総司に、一枚の名刺を差し出す。
「私はジュエリーデザイナー兼、この店のオーナーの斉藤です。今後ともご贔屓に」
「ありがとう」
ぺこりと頭を下げてから、総司は大事そうに箱を抱えて店を出ていった。
静かに扉が閉められ、店に静寂が再び訪れる。
その中で、斉藤はうっすらと笑った。
「……なるほどね、あの人が溺れる訳だ」
くすくす笑いながら、手元の商品を飾り直した。
まさか魔王への贈り物を買うのに、この店を選ぶとは。何という偶然か。いや、それとも、やはり天使は心の奥底で魔力に魅了されやすい。引き込まれるように、ここを訪れたのかもしれなかった。
斉藤はいつになく浮きたった自分を感じながら、店の奥へと戻っていった。
5月5日、誕生日の日だった。
総司はちょっとため息をつき、携帯電話を閉じた。
昼過ぎから何度か彼にかけてみたのだが、全く繋がらないのだ。どうも電源が落とされているようだった。という事は余程忙しいか、何か会合にでも出てる最中なのだろう。
少し考えてから、総司はもう一度、電話を開いた。ある番号をプッシュし、呼び出す。
しばらくして、穏やかな声が響いた。
『──はい、山崎です』
「山崎さん、沖田です。すみません、突然お電話して……」
何かあった時の連絡用にと、彼の秘書である山崎の電話番号を教えてもらっていたのだ。それをこんな形で使うのは気が引けたが、他に方法はなかった。
『どうかなさいましたか?』
そう訊ねる山崎の背後が少し騒がしい。人のざわめきが聞こえた。
「あの、土方さんの居場所を教えて欲しいんですが」
『居場所ですか』
「はい。電話が繋がらなくて……」
『あの方なら、Fホテルにいらっしゃいますが……』
「え! ほんとですかっ?」
総司は声を弾ませた。
「どうしても誕生日プレゼントを今日中に渡したくて。ありがとうございます!」
『え? あの、今日は……っ』
何か山崎が云いかけていたが、総司はもう聞いていなかった。大急ぎで携帯電話を切ると、目についたタクシーに乗り込んだ。
「Fホテルまで」
そう告げる総司の様子は、幸せそのものだった。
Fホテルは都心の一等地に建つ、一流ホテルだ。
ちょっと気がひけたが、総司は思いきって中へ入った。が、ロビーに入ってから気がついた。
土方がFホテルのどこにいるのか、全く知らされていなかったのだ。この広いホテルの中でどこをどう探せばいいのか。
思わず途方にくれて立ち尽くした総司の目が、次の瞬間、大きく見開かれた。
(……土方さん……!)
正面にある大きな階段をゆったりと降りてくる人々。
その真ん中に、土方がいたのだ。
周囲の人々と何か談笑しながら、階段を降りてくる。
総司は歩み寄り、彼に声をかけようとした。が、どうしても気後れしてしまった。
まるで、いつもの土方と違っていたのだ。
余裕にみちた態度。優雅なまでの身ごなし。
人を圧し、そのくせ狂おしいほど魅了し惹きつける雰囲気。
あの濡れたような黒い瞳を、相手にむけて。
的確に、慎重に、明確な言葉を返し、時折、ユーモアを交えながら会話をつづけ、人をそらさぬ綺麗な笑顔をうかべた。
スーツ姿に清潔感のある白いワイシャツ、品のよいネクタイをタイトに締めた土方は、ロビー中の男女の注目の的だった。まるで、彼がそこに現れた瞬間から、何かの劇の幕でもあがったように、誰もが彼をふり返ってゆく。
確かに魅力的だったが、それは総司の優しい恋人ではなかった。
清廉潔白な、新鋭の代議士──土方の姿だった。
「……」
柱の陰に立つ総司の前を、土方は気づかず通りすぎた。
その時、彼の周囲の人々の声が耳に入った。
「今日のパーティは盛況だったねぇ。あれだけ多くの人々が、きみの誕生祝いに駆けつけるとは」
「綺麗な女性も大勢来ていたじゃないか。そろそろ、あの中から選んだらどうなんだね?」
「私は慎重なたちなので」
静かに微笑みながら、土方は答えた。
それに周囲の人々は笑った。
「確かに、きみは慎重だ。だが、そこがまた魅力的なのだろう。そう云えば、ご令嬢たちがもってきたプレゼントの豪華さにはびっくりしたよ」
「そうそう、あのカフスボタンのダイヤモンド、いったい何カラットか。彼女もかなりご執心のようだね」
(……)
総司は思わず持っていた小さな箱をぎゅっと抱きしめた。
豪華なプレゼント。
大勢の人々が出席した、ホテルでの誕生日パーティ。
何カラットもするダイヤモンド。
そんなものの前では、自分が用意した翡翠のプレゼントなど、酷くちっぽけなものに思えた。
自分にとれば、清水の舞台から飛び降りるぐらいの高価なプレゼントも、日々、贅沢なものに囲まれている土方からすれば、とるに足りないものなのだ。
「……っ」
つんと頭の奥が痛くなり、涙がこみあげた。
この場にいるのも惨めで恥ずかしくてたまらなかった。土方に、このプレゼントをさし出す勇気なんて全然ない。
総司はおずおずと後ずさり、帰ろうとした。が、後ろを見ていなかったのが、まずかった。
すぐ後ろにあったオブジェにぶつかり、派手に転んでしまったのだ。
「!」
床に膝を打ちつけた総司は、自分が注目の的になってしまっている事に気づき、はっと我に返った。
慌てて顔をあげると、案の定だった。
人々の中、土方がひどく驚いた表情でこちらをまっすぐ見ていた。
黒い瞳が大きく見開かれ、その形のよい唇が「総司……」とその名を呟く。しばらく見つめあってから、土方はこちらに歩み寄ってこようとした。周囲の人々に断り、足早にロビーを横切ってくる。
それに、総司は慌てて立ち上がった。背をむけ、勢いよく駆け出した。
人にぶつかりそうになったが、それにも構わずロビーを抜けてドアから走り出た。ちょうど停まっていたタクシーに乗り込み、口早に行き先を告げた。
「……総司!」
ドアが閉まる寸前、土方の声が聞こえたが、総司は聞かないふりをした。
走り出すタクシーの中で、両手で耳をふさぐと、きつく目を閉じた……。
家に戻ると、もう夜だった。
総司は冷蔵庫を開けてみたが、何も入っていず空っぽだった。今更、食べに出るのも買い物に行くのも億劫だった。それに、あまり食欲もない。
ばたんと音をたてて冷蔵庫のドアを閉め、ため息をついた。
いったい、土方さんはどう思っただろう?
顔を見たとたん、いきなり逃げ出すなんて……。
そう思ってから、不意に総司は気がついた。
「あ──」
プレゼントの箱がなかったのだ。落としてしまったのか、タクシーの中に忘れたのか。
どちらにしろ、もう失われてしまったものだった。
「……綺麗だったのに」
そう呟いてから、ふるふると首をふった。
どんなに綺麗だと思っても、それは総司の中でだけの話だ。彼がそう思ってくれるかどうか、そして、彼の周囲にいる人々からすれば、どんな風に思われるかは、おのずと知れたことだった。
総司はため息をつくと、置いた鍵をまた取り上げた。
スニーカーに足を突っ込み、扉を開けて外に出る。階段をあがったところが、屋上だった。
見慣れた夜の都会が眩い光景──
総司は無性に飛びたくなった。天使である自分を再確認したくなったのだ。
(ぼくは天使なのに……どうして、こんなにも心を乱されているの? それも、ただの人間じゃない。魔力が弱いとはいえ、まぎれもない悪魔に惹かれ、愛し、夢中になってしまっているなんて……)
何だか自分が惨めだった。
あの人が悪いんじゃないとわかってるのに、悔しくて悲しくてたまらなかった。
どうして、ぼくだけの傍にいてくれないの?
どうして、ぼくだけを見つめてくれないの?
好きだって云ったのに。
愛してるって、そう囁いてくれたのに──
「……」
総司はゆっくりと両手を夜空にむけてさしのべた。
ばさっと音が鳴り、純白の翼が広がる。美しい翼を羽ばたかせ、総司は飛びたとうとした。
その瞬間、だった。
「!」
いったい、いつのまに現れたのか。
突然、力強い手が総司の腕を掴んで引き寄せ、強引に抱きすくめた。男の広い胸のうちにすくいこまれ、あっという間に視界が彼のワイシャツで満たされてしまう。
「土方…さん……っ」
白い翼ごと抱きしめられた。それにもう、息さえできない。苦しさに、嬉しさに。胸の鼓動が、彼に聞こえてしまいそうだった。
震える総司の耳もとで、熱く切ない声が囁いた。
「愛してる……!」
世界中の誰よりも。
愛しい愛しい恋人の存在を。
痛いほど感じながら、総司は静かに目を閉じた……。
「……泣いた?」
土方は悪戯っぽく笑うと、指さきで総司の目元をぬぐった。
それに、総司は桜色の唇を尖らせた。
「泣いてなんか、いません」
「でも、頬がピンク色だ」
今度は、しなやかな指がそっと頬にふれた。くすぐるように。
「これ…は、あ、熱いから……っ」
「躯が?」
「そ、そうです」
「どうして?」
「……土方さんに、逢えたから」
そう答えた総司に、土方は満足そうに微笑んだ。
優しい綺麗な笑みだ。
夕方、ホテルでうかべていた儀礼的な笑みとは全く違う。大切な愛しいものにだけ向けられる、微笑みだった。
「俺も総司に逢えて嬉しいよ」
そう甘い声で囁いてくれた土方に、総司は頬をもっとピンク色に染めた。
もう夜の9時だ。
こんな時間じゃ食事をつくるのも億劫だし、レストランもオーダーストップしてしまっている。困惑した総司に、土方がある店を指さしたのだが、それには総司もちょっと躊躇ってしまった。
いや、総司が入る分には全く構わない。だが、思ったとおり、土方には全く似合わない店だった。はっきり云って、夜のファーストフード店の中、上質のスーツを身に纏った端正なこの男は、完全に浮いてしまっている。
(やっぱり、住む世界が違うのかなぁ……)
総司はえびかきあげバーガーを食べながら、そう思った。
窓際の席。小さなテーブルをはさんで向こう側、注目されてるのにも平気な顔で、珈琲を飲んでいる男。
ダークな色合いのスーツを纏い、かるく椅子に背をもたせかけている。
すっきり整えられた艶やかな黒髪に、すうっと切れの長い目。
こちらを見つめ返してくる、その濡れたような漆黒の瞳。
綺麗で端正で、だい好きで。
その笑顔も、優しさも、人であることも、悪魔であることも、みんなみんなひっくるめてだい好きな──、総司が初めて恋をした男。
けれど、自分と彼は住む世界が違うのだ。
天使とか悪魔とか、そんなこととは全く違う次元の話で。
「土方さん、あのね……」
総司は思いきって話そうとした。
いろんなことを、自分の気持ちを。
だが、その前に、土方がすっと手をさし出し、何かをコトンとテーブルの上に置いた。それを見たとたん、思わず「あ!」と声をあげてしまう。
「土方さんっ、これ……!」
「ロビーに落ちていた。おまえが落としたものだろう?」
「……そう、ですけど……」
「山崎から連絡がきたんだ。これは、俺への誕生日プレゼントだと受け取っていいのだろうか」
「……」
黙ったまま、こくりと頷いた総司に、土方は微笑んだ。
小首をかしげるようにして、少年の瞳を覗きこみ、訊ねた。
「開けてもいいか?」
「……でも」
「でも?」
「土方さん、ぼくのなんかより、ずっと高価なものを沢山もらってるみたいだったし、たくさんの人があなたの誕生日を祝ってくれて……」
「総司」
不意に、土方は声を低めた。
それに驚いて顔をあげた総司を、黒い瞳でじっと見つめた。少年の手をとり、そっと両手で握りしめた。
「おまえはものの価値というものを、わかってないのか?」
「え……?」
「俺が遺跡等を美しいと思ったりするのは、高価だからとか、そんなことじゃない。それを造り上げた人々の血と涙と汗、その思い、力を感じるからだ。結果じゃない、過程が問題なんだ」
「……」
「この俺が何カラットもするダイヤモンドを、好きでもない女から貰って、喜ぶような男だとでも? 愛想笑いばかりの連中に囲まれた誕生日パーティが楽しいとでも?」
「……そんなこと、思ってないけど……でも……」
口ごもり俯いてしまった総司を、土方は切れの長い目で眺めた。
一瞬だけ、その黒い瞳が愉悦にみちた光をうかべる。
だが、すぐにそのかげろいをかき消し、立ち上がった。総司の側にまわると、身をかがめ、両腕で少年の体を柔らかく抱きすくめた。
いきなり彼の感触、体温につつみこまれ、総司は呆然としていたが、はっと気がついた。
ここはファーストフードの店なのだ!
ただでさえ見られていたのに、今やもう注目の的だった。
「ひ、土方さん……っ」
慌てて身を捩った総司に逆らわず、腕の囲いをほどくと、土方は少年の大きな瞳を覗きこんだ。
「愛してる、総司」
「……あ……」
「俺はおまえから貰えるのなら、小さな花一つでも嬉しいし、大切にするよ。それに、本当はあんなパーティより、おまえと二人きりで祝われたかった。その方がいいなと、パーティの間もずっと考えていたんだ。そうしたら、おまえが突然あらわれてくれて……とても嬉しかった」
「土方さん……」
思わず目を潤ませた総司に微笑み、土方はあの箱をさし出した。
「開けてもいいか?」
「……はい」
今度こそ頷いた総司に、箱をあけた。しなやかな指さきが綺麗な包装紙を丁寧に剥がし、箱の蓋をあける。ひっそりと輝く翡翠のネクタイピンに、土方は柔らかな微笑をうかべた。
「綺麗だ……」
「……」
「とても綺麗だ。嬉しいよ、本当に……ありがとう」
そう云って、土方は自分がしていたネクタイピンを外し、総司からもらったものに付け替えた。似合うか?と、目で訊ねてくる。それに、総司は涙目のまま、何度も何度もうなずいた。
優しくて、誠実で、綺麗で、でも悪魔で。
だけど、でも。
世界中の誰よりも、だい好きな人。
あなたが生まれてくれたこの日を、お祝いしたかったから。
あなたに少しでも喜んでほしかったから。
「土方さん……」
総司は細い両腕をのばすと、土方の躯にぎゅっと抱きついた。
そして、囁いた。
「だい好き、愛してます」
「総司……」
「誕生日おめでとう。それから……それから、ありがとう、生まれてきてくれて」
そう。
小さな声で。
でも、心にあふれる想いを告げた瞬間。
だい好きな。
誠実で綺麗な──でも悪魔の恋人は、優しく微笑んでみせたのだった……。
[あとがき]
土方さん、お誕生日おめでとう! のお話なんですけど、出番すくな〜。でも、斉藤さんを出せたのでほっとしてます。これからもよく出てきますからね、彼は。山崎さんも。このお話、こっちは総司SIDEなので、土方さんSIDEも後日談として書きたいです。そのうち書けたら、書きましょう。今回のお話を読んで、土方さんは優しいなぁと思ったら、おお間違えかもしれません(笑)。何しろ、怖い怖い魔王さまでございますから。
長いお話へ戻る 「Honey Love」の扉へ戻る