「それは……私が望めば、手を離すという事?」
「……」
 土方は何も答えなかった。ただ黙ったまま、目を伏せている。
 総司は息をつめた。
 何も答えてくれない彼に、不安になってしまう。そうでなければ、いいと思った。否定して欲しいと願うのは、我儘なのだろうか。
 そっと手をのばし、男の腕にふれた。それに、土方が目をあげ、黒い瞳で見つめ返してくる。
 総司は、思いきって云った。
「この先、私の記憶が戻った時……」
「……」
 微かに土方が眉を顰めたが、言葉をつづけた。
「私が、あなたと別れることを望んだら、それを受け入れるの? 土方さんは私を手離し……」
 言葉が途切れた。
 不意に、頬をすくいあげられたかと思うと、深く口づけられたのだ。
 総司は目を見開いた。だが、すぐに男の肩に手をかけると、そっと目を閉じる。
 切ないぐらい、熱くて優しい接吻だった。男の深い情愛、想いをそのまま伝えてくるような口づけだ。


 愛されていると思った。だが、一方で不安なのだ。
 今にも、雪のようにとけてしまいそうな儚さに、不安でたまらなくなる。
 この恋に、確かなものなど何一つなかった。
 同性であることや、彼から見れば自分が子どもであること、病もちであること、数え出せば、きりがない。
 ましてや、土方はこれ程端麗な容姿をもち、頭も切れ、今や京でも名だたる新撰組副長だ。今回の縁談からもわかるように、どんな美しい女でも選べる立場だった。
 なのに、総司を傍に置いているのだ。恋人としてくれているのだ。
 それが永遠に続くとは、むろん、信じていなかった。無条件に愛されているなど、到底ありえぬことだ。
 土方の愛には、罪という闇が影を落としていた。それを、総司もよくわかっているのだ。
 彼は、記憶を奪ったという罪悪感があるからこそ、総司を手放せないのだ。むろん、愛してくれているとは思う。だが、それは、罪悪感や同情、昔からの弟への愛情などが、入り混ざったものだ。
 土方は、総司を手放せない。例え、いつか気持ちが離れる事があっても、今更、突き放す事など絶対に出来ないのだ。その罪悪感故に、総司が望みつづける限り、傍にいてくれるだろう。それこそ、前に思ったように、恋人のふりをしてくれる。


(土方さんが、私を捨てる事はない)


 いつまでも傍にいてくれる恋人。
 永遠につづく、愛。


 総司は男の腕の中で、そっと小さく吐息をもらした。











「土方さん、縁談断ったらしいな」
 いきなり云われ、総司はびっくりして顔をあげた。
 縁側で中庭を眺めながらお菓子を食べているところに、斉藤が通りかかったのだ。傍に腰をおろしたとたん、云われた言葉に、総司は目を瞬いた。さり気なく視線をそらす。
「そう、みたいですね」
「随分噂になっているぞ。あんないい縁談を断るなんてと、皆、驚いている」
「ふうん」
「総司のため、なんだろ?」
 いきなり訊ねられ、総司は咄嗟に答えることが出来なかった。だが、短い沈黙の後、小さく笑ってみせる。
「さぁ、どうでしょう」
「妻を娶るなんて許さないって、怒ったのか」
「いいえ。逆に別れるって云いました。だって、お妾さんなんて絶対に嫌だもの」
「で? どうなった訳」
「怒った土方さんは、私を離さないって云ってくれました。それで一件落着です」
「……」
 斉藤は、しばらくの間、黙ったまま総司を見つめていた。そのきれいな顔を見つめ、やがて、かるくため息をついた。
 低い声で呼びかける。
「……総司」
「はい、何ですか」
「おまえ……記憶、戻っているだろう」
「──」
 総司は無言のまま、澄んだ瞳で斉藤を眺めやった。その愛らしい顔には、何の表情もうかんでいない。
 だが、それが逆に、総司らしくなかった。あの頃の、冷たく美しい彼を彷彿とさせる。


 孤独の中で戦いつづけていた、美しい若者───


「どうして、そう思うのです」
 静かに問い返した総司に、斉藤は小さく笑った。
「さぁ、何となく……かな」
「……」
「最近のおまえを見ていて、思ってはいたんだ。けど、さっきので確信した」
「さっきの?」
「おまえの表情だよ。あの頃の切ない瞳……遠くから、土方さんを追っていたあの表情だった」
「……」
 総司は、かるく目を見開いた。一瞬、その瞳に切ない色がよぎる。だが、すぐに肩をすくめると、明るく朗らかに笑った。
「斉藤さんには、叶わないなぁ」
「総司」
「私のこと、けっこう観察しているんだ。でも……そんな切ない瞳で見ていました?」
「あぁ。こっちが切なくなるぐらいにな」
「ふうん……」
 総司は小首をかしげ、縁側に手をついた。頭上には、冬の青い空が広がっている。しばらくそれを見ていたが、やがて、ぽつりと呟いた。
「あの頃の私……土方さんへの恋に絶望していましたから」
「絶望……?」
「えぇ。一縷の望みもない恋に気が狂いそうになって、なのに、想えば想うほど彼から離れていった。どうしようもない泥沼の中でもがき続けて、今にも息絶えてしまいそうだった。だから……記憶だって簡単に奪われたんだと思うのです」
「奪われた?」
 驚く斉藤に、総司は微笑みかけた。
「そうですよ。私は記憶を奪われたのです、土方さんによって」
「……嘘だろ」
「本当の事です。土方さんは、私に薬を盛り、それで記憶を奪った。でも、それは……土方さんが私を愛していたから。私を誰にも奪われたくなかったから」
 総司はふと視線を遠くに投げかけた。
「結局、私たちは互いを遠くから見ていたのです。言葉を交わす事もなく、ただ、愛しあっていた。それを互いが知る事もないままに」
「総司……」
「でも、今は違うのです」
 総司は明るい表情に戻ると、いつものような笑顔を斉藤にむけた。
「今は、土方さんが私を愛していることも、私が土方さんを愛していることも、ちゃんとお互いわかりあっている。だから、縁談だって断ってくれたのです」
「じゃあ、土方さんは、おまえが記憶を取り戻している事も、全部知っていることも、わかっているのか?」
「いいえ」
 あっさり答えた総司に、斉藤は驚いた。呆気にとられる。
「いいえって……はぁ? 土方さん、何で知らないんだよ。まさか、云ってないのか」
「云っていませんよ。というか、云える訳ないでしょ」
「何で」
「だって」
 お菓子を仕舞い込みながら、総司はあどけなく小首をかしげた。
「切っ掛けがないし、あんなに色々悩んでいる土方さんに、実はとっくの昔に記憶戻ってました、なんて云えると思います?」
「いや、それは確かに……」
「めちゃくちゃ怒られそうな気がするじゃないですか。あの人、怒ると怖いし」
「怖いのはわかるが」
 深々とため息をついた斉藤は、その鳶色の瞳で総司を見つめた。
「じゃあ、ずっとこのまま黙っているつもりか? 一生、記憶の戻ってないふりをすると」
「さぁ、わからないけど……でもね」
 総司は内緒話をするように、小さな声で言った。
「これはこれで、幸せなんですよ。最近、そう考えるようになったんですけど……ううん、幸せって言うより、幸せの確約かな」
「幸せの確約?」
「だってね、土方さん、私が何も知らないと思っているからこそ、記憶を奪った事に対する罪悪感がある訳じゃないですか」
「まぁ……そうだな」
「だったら、その罪悪感がある限り、絶対、私を捨てられないでしょ。この先、気持ちが離れる事があっても、あの本当はとっても優しい土方さんが、私を捨てられるはずがない」
「いや、そうでなくても、捨てないだろ」
「私は男ですよ。しかも九つも年下で、労咳もちで、痩せっぽっちで、部下で」
 総司は指折りかぞえてから、肩をすくめた。
「こんな私、誰が好きこのんで念者にするのです。土方さんが私を選んでくれただけでも驚きなのに、この幸せがずっと続くなんて、そんなの信じられる訳ないでしょ」
「……そうかなぁ」
 斉藤は、オレだったら喜んで総司を念者にするよと、喉元まで出かかったが、あえてごくりと飲み込んだ。ある意味、危険から身を守るためでもある。
「とにかく」
 総司は花のように微笑んだ。
「これは、幸せの確約なんです。ずっとずっと、土方さんが私の傍にいてくれる、私の恋人でい続けてくれるための、大切な秘密。だから、土方さんには、私の記憶が戻っているなんて、絶対云わないで下さいね」
「はいはい」
 諦めきった表情で、斉藤は答えた。
 それに、うんと頷いてから、総司は「あ」と声をあげた。慌てて立ち上がり、髪を撫でつけたり、着物を整えたりし始める。
「? どうした」
「忘れていました。今日は、土方さんと外で待ち合わせなのです」
「へぇ、どこかへ道行き?」
「南禅寺へ行ってから、あちこちのお店に寄るんです。夜は外でお食事して……まだ時間あるけど、これでいい? 着物、おかしくありません?」
「大丈夫、可愛いよ」
「もう、斉藤さんったら、口がうまいんだから」
 頬を染めながら、それでも嬉しそうに笑い、総司は「じゃあ、失礼しますね」と頭を下げた。いつもながら、こういう処はやたらと礼儀正しい。
 ぱたぱたと軽い足音をたてて駆け去ってゆく総司を見送り、斉藤は、はぁっとため息をついた。
 そして、背後の障子がすっと開く気配を感じながら、云った。
「絶対云わないで、だそうですよ?」
「……聞いてしまったものは、仕方ねぇだろうが」
 低い声が答えた。
 それにふり返れば、今の今まで話題になっていた男がそこに佇み、切れの長い目で恋人の後ろ姿を見送っている。
 すらりとした長身に、黒い着物を着流していた。すっとのびた背、男らしい引き締まった躯つき、怜悧なまでの端正な顔だち。
 凜とした佇まいは、男でも惚れ惚れするほどだ。
 総司が夢中になって当然だと、斉藤はしみじみ思った。
「行かなくていいんですか」
 そう問いかけた斉藤に、土方は肩をすくめた。
「総司も云っていただろ。まだ時がある」
「っていうか、何でそこにいたんです」
「たまたまだ。空き部屋で山崎と話した後、考え込んでいたら、縁側に総司がきて菓子を食いだしたんだよ。で、おまえが来て、出ていく切っ掛けがなくなったというか」
「早い話が、立ち聞きですね」
「人聞きの悪い云い方をするな」
 そう云うと、土方は、先程まで総司が座っていた場所に腰を下ろした。胡座をかき、膝に頬杖をつく。
「何というか……愛されていますね」
 からかい混じりに云った斉藤に、土方は口角をあげた。
「羨ましいか?」
「そりゃ、もう。ずっと傍にいてくれる、ですから」
「俺は、総司が別れてくれと頼んでも、手放すつもりはねぇんだけどな」
「でしょうね」
 斉藤は苦笑し、頷いた。
 しばらく黙ったまま、二人並んで中庭を眺めていたが、やがて、ふと気がついた。男の方に視線を向け、呼びかける。
「土方さん」
「何だ」
「あなたは……その、知っていたのですか」
「総司の記憶の事か」
「えぇ」
「……知っていたさ」
 中庭に視線を向けたまま、土方は答えた。端正な顔に何の表情もうかべぬまま、淡々と言葉をつづける。
「と云っても、ついこの間だがな」
「何か、総司が口をすべらせたのですか」
「まぁ……そんな処だ。昔から、あなたはそうだったと云われて、違和感を持ったのさ。昔という程、再会してから時も経っていねぇしな」
「なるほど」
「それに、まぁ、何よりも……総司の表情や仕草かな。おまえと同じで、薄々おかしいと思っていたんだ。再会した頃のような無鉄砲さや奔放さがなくなっていたし、時折、翳りのある表情をするのも見ていた。だから、あぁ、やはりなと得心がいった訳さ」
「伊達に子どもの頃から見ていないって事ですか」
「総司には、云うなよ」
「……さすが念兄弟、どちらも同じことを。で? このままにしておくつもりですか」
「何が」
「だから、総司ですよ。何も知らないふりをし続けるのですか」
「そうだな」
 土方は、くすっと笑った。僅かに目を伏せ、形のよい唇に微かな笑みをうかべている。
 やがて、頬杖を外すと、かるく裾を払い、立ち上がった。無言のまま踵を返し、歩み去っていこうとする。
 斉藤は思わず声をかけた。
「ちょっと、土方さん」
「何だ」
「返事、貰っていませんけど」
 かるくふり返り、土方は切れの長い目で斉藤を眺めやった。そうして、ふっと微かに笑う。
「答える必要があるのか」
「……。ありません、ね」
 斉藤の答えに、土方は僅かに目を細めた。だが、すぐに背を向けると、黒い着物の裾をひるがえし歩み去ってゆく。
 その後ろ姿を見送り、斉藤は、さすがにそこまでは無理だったかと苦笑した。


 総司に関する事になると、とことん了見が狭くなる男のことだ。今後、どんなふうに総司とつきあっていくのかなど、恋敵でもある斉藤に話すはずがなかった。
 もともと、あの男が胸の内を少し明かしただけでも、驚きなのだ。
 それに、総司は全くあずかり知らぬ事だが、独占欲と嫉妬で、あの愛らしい若者を今でもがんじがらめにしている土方が、今後どうするつもりなのかなど、聞かなくともわかる。
 あの男を騙しおおせていると思っている総司が、実は、男の手の中で泳がされていると知ったなら、どうするだろう。
 だが、斉藤はすぐに小さく笑った。
 束縛されているのも、泳がされているのも、どちらなのかわかったものではないのだ。
 あれ程、溺愛している土方だ。たとえ、総司に束縛されようが、騙されようが、そのすべてを甘んじて受け入れるだろう。可愛い可愛い総司のためなら、たとえ火の中水の中って奴だ。
 何しろ、奪われるとわかったが最後、記憶まで奪い去り、再会してからは色男っぷりを使いまくり総司を己のものにしてしまったのだから。
 総司への思い入れぶりが、わかるというものだ。
 束縛されているのも、溺れこんでいるのも、みんな、男の方。
 あの可愛いくて綺麗で、優しくて我儘な総司の小さな白い手につかまえられ、あの男は満足そうに笑っているに違いない。 


「似合いの二人だよ、まったく」
 斉藤は小さく笑うと、えいっと気合いを入れて立ち上がった。稽古で一汗流してこようかと、道場に向って歩き出す。その彼の頭上、冬の空が淡く霞み始めていた。
















「土方さん」
 待ちあわせ場所に急ぐと、当然の事ながら総司は先に来ていた。
 ちょっと拗ねたような顔をしているが、それもまた可愛い。
 なめらかな頬をふくらませ、上目遣いに見上げてくる総司を、土方は微笑みながら見下ろした。手をのばし、そっと髪を撫でてやる。
「待たせたか。すまん」
「先に来ていると思ったのに。珍しいですね」
 すぐ謝った土方に機嫌を直した総司は、小首をかしげた。それに、肩をすくめる。
「人と話をしていた」
「お仕事の話?」
「いや、秘密」
「秘密って、もう。土方さんってよくわからない」
「わからない処がいいって話もあるだろ。秘密のある恋人同士の方が楽しいんじゃねぇのか」
「え?」
 不思議そうに目を瞬いた総司に、土方は小さく笑った。そのまま細い肩を抱くと、歩き出す。
 南禅寺に着くと、二人寄りそいながら、境内を散策した。緑はもうないが、石畳や重々しい門、寺の本堂が、のびやかな樹木の枝とあいまって冬の光景に映え、美しい。冬には冬の美しさがあるのだ。
 総司は土方と二人きりでいられるだけで、嬉しそうだった。何度も彼を見上げては、愛らしく微笑みかけてくれる。
 その笑顔を見られるだけで、土方は、二人一緒に出かけた甲斐があったと思った。
 可愛くて、愛しくてたまらなかった。
 総司があんな事を考えると知ったなら、尚更のことだ。


(可愛いくてたまらねぇよな)


 総司の傍をゆっくりと歩きながら、土方は俯き、笑った。
 まさか、そんなふうに考えているとは、思ってもみなかった。記憶を取り戻している事は、薄々勘づいていたが、確信はなかったのだ。だからこそ悩みもしたし、手放そうかとも思った。
 だが、総司が彼の罪も何もかも知った上で、彼が傍にいることを望んでくれるなら、何も躊躇う事はない。これからは、思う存分愛してやれるし、頼まれなくとも絶対に手放さない。
 初めて逢った時からずっと、気が狂いそうなほど愛してきたのだ。
 彼を想いながら意地をはり、冷たく振る舞っていた美しい総司も、今こうして素直に甘えてくれる総司も。
 そして、とうの昔に記憶を取り戻しながら、土方を繋ぎとめるため、騙しつづける決意をした総司が、本当に愛おしい。いじらしくてたまらない。
 だから。


(ずっと……騙されつづけてやるよ)


 土方は僅かに目を細めた。


 総司がそれを望むなら、騙されつづけてやる。
 俺が愚かな男でありさえすれば、おまえを愛しつづけられるのなら。
 それが、俺の愛の形だから。
 誰よりも愛しいおまえに捧げる、俺のすべてだから。





「あ、土方さん」
 不意に、総司が声をあげた。
 何だと視線をむければ、片手を空にむかってさし出していた。ひらひらと、白い雪が舞いおちてくる。
 総司が嬉しそうに笑った。
「初雪ですよ」
「あぁ」
「綺麗ですね、とっても」
 そう云った総司は、傍らの土方を見上げた。甘えるように、そっと身を寄せてくる。他に人がいないのを確かめてから、土方は細い肩を抱き寄せ、髪や頬に口づけを落とした。
「……綺麗だな」
 囁かれた低い声に、総司はちょっと頬を染めた。それから、また視線を空に戻しながら、云った。
「あのね、もう半年なのですね」
「え?」
「ほら、私と土方さんが再会してから……半年たったんだなぁと思って」
「路上での出会いからか? そうだな、もう半年か」
「春から、冬へ。あたり前の事ですけど、時が流れたんですね。あの時は、こうして土方さんと二人、雪が降る中、寄りそい歩いているなんて思いもしなかった……」
「……」
「あのね、土方さん」
 総司は目を伏せ、静かな声で云った。
「この半年間、色んな事がありましたよね」
「そうだな」
「あっという間の半年で、不安になったり、泣いたり、本当に色んな事があって……でも」
 総司は顔をあげると、大きな瞳で土方を見つめた。
 そして、花のように微笑ってみせた。
「今、私は……幸せなのです」
「総司」
「土方さんと一緒にいられて、幸せ。だから、お願い……ずっと一緒にいて下さいね」
「あぁ」
 頷きながら、土方は総司を静かに見つめた。
 それに、小首を傾げてみせる総司が可愛い。
 誰よりも何よりも、愛おしい。
 この存在さえ傍にいてくれるのなら、何を失っても構わないと思う程に。



 可愛い可愛い総司。
 おまえのためなら、俺は何でもしてやれるよ?



「……愛している」
 囁きかけた土方に、総司は、驚いたように目を見開いた。
 だが、すぐに頬を淡く染めると、こくりと小さく頷いた。恥ずかしそうに男の胸もとに顔をうずめながら、小さな声で応えを返す。
「私も……愛しています」
「あぁ、総司」
 土方は腕の中の細い躯を、きつく抱きしめた。こみあげる愛しさに、髪に頬に口づけを落としてしまう。


 二度と離したくない。
 奪われたくない。
 だから、お願いだ。総司。
 いつまでも、その小さな手の中に、俺を───


「……総司」
 抱きしめる土方の腕の中、総司はそっと目を閉じた。男の背に手をまわし、凭れかかる。
 甘い口づけは、まるで雪のようだった。
 今、ひらひらと舞う白い初雪を思わせる。
 冷たくて優しくて甘い。
「土方さん……」
 総司は長い睫毛を瞬き、澄んだ瞳で男を見つめた。
 そして。
 愛しい男を永遠の囚われの身とするうたを、そっと囁いたのだった。



「だい好き……愛しています」



 いつまでも、いつまでも
 永遠に






















「愛のうた」完結です。
ラストまでおつきあい下さった方々、本当にありがとうございました。