低用量ピル(経口避妊薬)について
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1. 低用量ピルとはどんな薬ですか? |
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ピルは人工的に合成された卵胞ホルモン剤(エストロゲン)と 黄体ホルモン剤(プロゲストーゲン)からなり、その避 妊効果は、他の避妊法に比較すると並外れて優れています。 100人の女性が1年間に何人妊娠するかを避妊法別に調べた ところ、コンドームでは100人中2人から12人が妊娠した のに対し、低用量ピルではわずかにO.1人という結果を得 ています。 日本では、ピルというと副作用ばかりが話題になってきました。 確かに、海外でホルモンの含有量が多い「中・高用量ピル」 が主流だった時代には、血栓症や循環器系疾患などの副作用が 大きな問題となったことは事実です。 しかし、その後、ホルモンの低用量化が図られ、 70年代半ばにはホルモンの含有量が少なく、しかも確実に 避妊できる低用量ピルが登場。安全性は飛躍的に高まり、 現在では全世界で9000万人以上の女性たちが服用するに 至っています。 |
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2. なぜ、ピルを飲むと避妊できるのですか? |
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ひとことでいえば、排卵を抑制できるからです。 ではなぜ排卵を抑制できるのか。その理由を理解するには、 排卵のメカニズムについての知識が必要となります。簡単に 説明しましょう。 思春期以降の女性の卵巣には数万から30万ほどの卵が存在 しています。1つ1つの卵は卵胞と呼ばれる小さな袋に包まれていますが、その中からたった1つの卵が選ばれ、性周期(月経から次の月経までの期間)の真ん中あたりの日(14日目頃)に卵胞から飛び出します。これが排卵です。排卵により空になった卵胞は、その後黄体と呼ばれる黄色い組織になり、ここからさかんに卵巣ホルモン(卵胞ホルモンや黄体ホルモン)が分泌されます。両者は協力しあって子宮内膜を厚くし、受精卵が着床しやすい環境を整えます。着床し、妊娠が成立するとさらに両ホルモンの量は増大します。妊娠が成立しない場合には、黄体の機能は次第に低下して、それにつれて黄体ホルモンや卵胞ホルモンの分泌も低下します。これにより子宮内膜が剥脱して月経が始まります。月経のあと、卵巣ホルモンの低下が引き金となって視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモン(Gn-RH)が分泌されます。卵巣ホルモンの低下は、視床下部に妊娠不成立の合図を送っていると考えればわかりやすいかもしれません。それによって、視床下部は次の妊娠の機会に向けて排卵の準備に着手することになるのです。視床下部から分泌されるGn-RHの量が高まると、その刺激が脳下垂体へと伝わり、卵胞を発育させる役割を担う卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌します。卵巣ではこれによって卵胞が発育しはじめ、その卵胞からは卵胞ホルモンがさかんに分泌されるようになります。卵胞ホルモンの上昇をキャッチした視床下部は下垂体に対して、排卵を起こす黄体化ホルモン(LH)を大量に放出するよう指令を出します。そして、大量分泌が始まってから36時間後ぐらいにLHの刺激によって卵胞内の卵子が排出、すなわち排卵が起こります。ここまで読んで、卵胞ホルモンと黄体ホルモンの上昇と低下が排卵の鍵を握っていることがおわかりいただけたと思います。視床下部や下垂体が卵巣に指令を出し、両ホルモンを分泌させているのですが、その指令を出すか否かは、両ホルモンの血中濃度によってコントロールされています。これをフィードバック機構といいます。ピルはこのフィードバック機構を利用した薬です。ピルを飲むと、ピルに含まれる卵胞ホルモンと黄体ホルモンがいつでも身体の中に一定量存在することになります。視床下部や下垂体はそれにだまされ卵巣を刺激する必要がないと判断し、FSHやLHの分泌を抑制し、その結果、卵胞は成熟せず、排卵も起こらないのです。ピルによる避妊のメカニズムは排卵の抑制だけではありません。ピルに含有されているホルモンは、いずれも合成の卵胞ホルモンおよび黄体ホルモンであり、子宮内膜は通常の性周期のそれとは異なった反応を示し、非定型的な分泌期内膜となるため、たとえ受精卵が到達しても着床できず、妊娠は成立しません。また、黄体ホルモンには、頸管粘液を粘土状にする働きがあり、子宮口はちょうどフタをされたような状態になって、精子の子宮内への進入を妨げます。これもピルの避妊効果の1つです。 |
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3. 副作用の心配はないのですか? |
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ピルの飲み初めの時期には、悪心、嘔吐、頭痛、不正出血、乳房痛、乳房緊満感などを起こすことがあります。たとえば、悪心、嘔吐の発現頻度は、薬剤によって異なりますが、おおむね10〜20%といわれています。これらの副作用は身体が徐々に慣れてくると次第に軽減してきます。服用後3か月程度たっても、副作用がひどい場合には、別の種類に変えて様子を見ます。中・高用量ピルで懸念されていた重篤な副作用については、ほとんど心配ありません。日本の女性を対象として行った臨床試験(5,000例以上、72,000周期)でもそれははっきりと確かめられています。ただ、安全性が高まったとはいえ、長期間飲み続けるわけですから、定期的な検診を受けて、肝機能、血圧、血中脂質代謝などをチェックすることが大切です。禁忌としては、診断の確定していない異常性器出血のある人、血栓塞栓症の人あるいは既往のある人、脳血管疾患や冠動脈疾患の人、中等度以上の高血圧症の人、糖尿病の人、妊婦または妊娠している可能性のある人などがあげられます。また、35歳以上で1日15本以上のヘビースモー力一の人には、禁煙させてから服用させることが望ましいとされています。しかし、これらはいずれも中・高用量ピル服用婦人を対象とした疫学調査成績からの見解であり、最近の知見では、特に低用量ピルを服用する限り非喫煙者はおそらく45歳まで安全にピルを服用することができるとされています。 |
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4.避妊以外にも有益な効用(副作用)があると聞いたのですが。 |
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ピル本来の効用は避妊ですが、欧米での長い歴史から体によい影響を与えることが明らかになっています。たとえば月経に伴う下腹部痛などが軽減もしくは消失したり、月経の経血量が減少することで鉄欠乏性貧血が改善します。また、骨盤内感染症の予防や長期服用により子宮内膜がん、卵巣がんの予防にもつながるといわれています。さらに、低用量ピルを用いることによって、40歳前後から減少し始める卵胞ホルモンを補うことができ、更年期障害や骨粗鬆症の予防にもなるとされています。 |
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5.低用量ピルにはどんな種類がありますか? |
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低用量ピルは、卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲストーゲン)の配合比によって「1相性ピル」「2相性ピル」「3相性ピル」の3種類に分けることができます。1相性ピルとは、服用周期中における2つのホルモンの割合がまったく同じものをいいます。2相性ピルはホルモンの配合割合が2段階に変化するもの、3相性ピルは3段階に変化するものです。この2つを合わせて段階型ピルと呼んでいます。段階型ピルは、ホルモンの含有量をより少なくするために開発された薬で、自然の性周期のホルモンバランスに近づけているのが特徴です。また、28日を1周期として、1シート中の錠剤の数により28錠タイプのものと21錠タイプのものがあります。28錠タイプは、ホルモンが含まれている錠剤を1日1錠21日間服用し、その後、ホルモンが含まれない錠剤(プラセボ錠)を7日間服用します。飲み終えたら服用を休まずに、引き続いて次の新しいシートの錠剤を服用します。いったん飲み始めると、毎日連続して服用するため、習慣づけられ、飲み忘れが少ないとされています。21錠タイプは、ホルモンが含まれている錠剤を1日1錠21日間服用し、その後7日間はピルの服用を休みます。どのタイプのピルを選択するかは、服用者個人のホルモンバランスや副作用のあらわれ方により、医師と相談した上で決めることになります。 |
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6.低用量ピルの服用開始日は? |
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月経の始まった日から服用するものと、月経の始まった最初の日曜日(日曜日から始まった場合はその日)から服用するものとがあります。前者をDay1スタートピル、後者をサンデースタートピルと呼んでいます。いずれも毎日決まった時間に、ホルモンを含む錠剤を1錠ずつ21日間服用し、その後7日間の休薬期間を置くか、プラセポ錠を7日問服用します。ここまでが1周期です。この休薬(またはプラセボ服用)中の2〜3日目から出血が起こります。これを消退出血(月経)といいます。サンデースタートピルの大きな特徴は、消退出血が週末に重ならないよう調節できることです。週末に旅行やスポーツ、デートなどを楽しみたい女性に適したピルといえるでしょう。また、2周期目以降の飲み始めも日曜日に固定されるので、飲み忘れや飲み間違いを防げることも大きなメリットの一つです。ただ、第1周期においては、服用開始後7日間は他の避妊法を併用する必要があります。 |
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7. 飲み忘れた場合にはどうすればよいのですか? |
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飲み忘れが1日以内であれば、気づいた時点で飲み忘れた1錠を直ちに服用し、さらにその日の分は通常どおりに服用します。すなわち、その日は2錠服用することになります。2日以上連続して飲み忘れた場合は服用するのをやめ、次の月経を待って新しいシートで再び服用を開始します。なお、飲み忘れにより妊娠する可能性が高くなるので、その周期中は他の避妊法を用います。 |
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8. ピルを飲むと、エイズなどの性感染症は防げるのですか。 |
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ピルは性感染症の予防薬ではありません。あくまでも避妊を目的とした薬です。現在のところ、性感染症はコンドームを完全に装着することによってしか防げません。性感染症にはエイズのほかに、淋病、クラミジア感染症,性器ヘルペスなどがあります。世界中のさまざまな統計から、コンドームが感染防止の有効な手段であることは明らかになっています。お互いに1対1の特定の相手との性関係で、しかも性感染症にかかる危険性がない場合ならピルだけでかまいません。しかし、それ以外、つまり不特定な相手との性交渉、性感染症にかかっている人、あるいはその疑いのある人と性交渉に及ぶ場合には、ピルの服用と同時に、感染防止のためにコンドームを併用する必要があります。 |