まさか・・・奴の車がこんなところにあるわけがない・・





「砂時計の記憶」
05 見つけちゃいました



銭形は困っていた。

一週間前の事件以来ぱったりと行方がつかめなくなったルパン達を追うのを少し止めて(久しぶりに家に電話をしたら娘にこっぴどく
怒鳴られたので。)パチンコにでもいこうかと大通りをぶらぶらしているとスーパーの前の路肩に見慣れたフィアットが
留まっているではないか、車のナンバーもリアバンパーにこの間銭形自身が付けた傷も寸分違わぬ姿に銭形はこれはチャンスだ、
とばかりに近寄った。生憎ルパン達は乗っていなかったが暑い日差しの中馬鹿にならないガソリン代をつぎ込んでクーラーを
かけたままにしてある所を見るとすぐに戻ってくるつもりなんだろう、そう思って銭形は炎天下の車の前に陣取ってルパン達が現れるのを
待つことにしたのだ。
じっと車の前に立って汗を拭っていると5分ほどしたところでコツコツとフィアットの後部助手席側の窓を誰がが叩いた。
その音で銭形が振り返る。

そして時間は現在に至る。


窓からは銀髪のかわいらしい女の子が笑顔で手を振っていた。子供らしく熊のぬいぐるみを銭形に向かって窓越しに押し付けてくる。
なぜ奴らの車に女の子が?なんて事を考えながらも銭形はそのかわいらしい女の子に向かって少しかがんで笑って見せた。すると向こうは
さらに眩しい笑顔で笑って何かを言った。生憎ガラス越しなので何を言っているのかは判らなかったが・・。

「あー、何をいっとるんだ・・?エン・ア・アオ・イエ?   ああ、"変な顔して"か。」

口の動きから子供が何をいっいるのか推測して銭形は周囲を確認してからもう一度子供に向き直る。

「ベェロベロバァ〜!」

「・・・!!!!」

ガラス越しに大笑いしている子供を確認してほっとため息をつく。その後ろでジャリッと道路の端の砂利を踏んだ靴音がした。

「3つの子供相手に"ベロベロバァ〜"はねぇだろ、とっつぁん。」
「しかも公衆の面前でそう言う事をやるのは某、どうかと思うな。」
「次元、五右エ門・・・見てたのか。」

銭形が振り返ると真夏だというのにダークカラーのスーツにボルサリーノと見ているこっちが暑くなる格好の次元と こちらはまだ
幾分涼しげな着流しの五右エ門がスーパーの袋を抱えて立っていた。

「なんだ?買い物か?ルパンはどうした。お前らのことだから、もう日本にはいないと思ったぞ。それにこの子はなんだ?」
「ダチの子供だ。両親が行方不明だからルパンと不二子が探してる。だから当分は仕事は無しでこの子のお守りだ。」

そういって次元がフィアットの鍵を開けて荷物を積もうとすると荷物と入れ替わりに子供がぬいぐるみを片手に車から降りてきて次元と
五右エ門の周りを走り回る。

、あんまり暴れるでない。はぐれるぞ?」
「ハァ〜イ、五右エ門ちゃん、アイスクリーム買った?」
「・・・買った。」
「イチゴの奴?バニラの奴?」
「・・・両方だ。」
「やったー五右エ門ちゃん好きぃ〜」

着流しの五右エ門の足にしがみついて、と呼ばれた子供がちら、と銭形を見た。

「ねぇ五右エ門ちゃん、このおじちゃん知ってる?五右エ門ちゃん達が出てくるまでずっと待ってたんだよ?」
「ああ、そのおじちゃんがこの間言ってた銭形のとっつぁんだ。」
「あー、知ってるぅ、とっつぁんチャンだ〜」
「とっつぁんチャン?」

銭形が素っ頓狂な声をあげているうちに次元が五右エ門にまとわりついているを抱えあげ、五右エ門が荷物を冷風の流れてくる車内
にしまう。

っていうの〜、パパがおじさんの部下だったの〜」
「おじさん?」
「ルパンのことだ。」

次元が修正するとああ、と言った顔で銭形は納得する。

「それでとっつぁんは俺達になんか用か?生憎逮捕するならを親の所に返してからにしてくれよ。
 身寄りがねぇガキを放ってぶち込まれるわけにはいかねぇからな。」
「心配するな、お前達を見失ったからちょっと日本で休暇を取ってる最中だ。」

プライベートと仕事ぐらい別けてやるわい、と銭形が憮然となった。

「そうか、ならいいさ。さて、、一度アジトに戻ったら夕方までどこか遊びにいくか?」
「行く〜 、ワニさんとカニさんみたい〜」
「鰐と蟹ぃ?じゃあ海遊館ってとこだな。」

どこぞの親子のような会話をしながら次元がもう既に五右エ門が乗り込んでいるフィアットの助手席を開けて五右エ門の膝の上に
を乗せる。そして次元が車道の方に回って運転席のドアを開けて乗り込もうとすると銭形が声をかけた。

「次元」
「なんだ?」
「早く、親元に返してやれよ?いくらお前らと仲がよくても親と離れ離れは可哀想だぞ?」
「・・・判ってる、ありがとな、とっつぁん。」

そういって次元が口元だけで笑い、フィアットに乗り込んでエンジンをかける。そのまま車は大通りを走って行き、助手席の窓から
五右エ門に支えられたが顔を出して とっつぁんチャン バイバーイ、と手を振った。

その姿が見えなくなってから銭形は歩き出した。今度はパチンコ屋へではなく、ちょっと行った先にあるいい肉を打っている肉屋へ
向かって。



今日は久しぶりに家族サービスでもしよう。












拙話
「04」でとっつぁんを出し損ねたのでこんな感じで・・。

次回ぐらいから展開あるかと思います・・