出来た子供だって思ったけど それは・・・
「砂時計の記憶」
04 泣いちゃいました
夏の暑い日差しが明かり取りに開けた地面すれすれの窓から入ってくる。この部屋の天井 そこに位置するその唯一の窓が
外界の明度を教えてくれる。
一時間ほど前にルパンたち3人は不二子に留守を任せて例の仕事へと出ていった。幸か不幸か不二子が留守を任される原因となったは
おやつを食べてすぐに次元の手によって昼寝させられている、彼らが出る前に一応起こしたのだが結局起きなかったのだ。
「おきるまでに夕飯作っといてあげなくちゃね。」
そういって不二子はが眠るソファから立ち上がって昨日詰め込まれたばかりの食材を手にとって夕飯の準備を始める、小さな子供が
いることだし何か家庭的なものでもつくろうかと考えて冷蔵庫のチルド室に入ったお湯で温めるだけのレトルトハンバーグに目がいった。
"お子様印のハンバーグ"と銘打たれているところを見ると大方次元がリクエストされても大丈夫なように買ったものなのだろう。
ありがたく使わせていただくことにした。
野菜室を開けてキャベツの柔らかくて食べやすい部分だけを選んで刻みその他の生野菜と一緒にサラダボールに盛り、視線をあげて
電子音を響かせて炊飯終了を告げる炊飯器を確認して沸騰した鍋の湯の中にハンバーグの入ったレトルトのパックを放り込んだ。
背後を見ればソファの上でがもぞもぞと動き始めている。
「目が覚めたかしら?おはよう、ちゃん。」
「不二子お姉さん・・・おはようございます。」
反射的に挨拶を返して目元をこするによく寝たわね、と不二子がやさしく頭を撫でてやると少ししてから周りを見て
おじさんは?次元ちゃんと五右エ門ちゃんは?と尋ねた。
「ちゃんが起きる一時間ほど前にお仕事に出ていったわ。起こしたんだけどちゃん起きなくって・・。」
「・・・いってらっしゃいっていえなかったや・・・」
「大丈夫よ、いってらっしゃいはいえなかったけど、お帰りなさいっていってあげれるでしょ?」
「ウン。」
「じゃあ、顔をあらって晩御飯にしよっか、ハンバーグは好きかしら?」
少し曇っていたの顔がすぐに明るい笑顔となり洗面所へとかけていく。その後姿に本当によく出来た子供だこと・・と少し嘆息する。
仕事のために両家の子息の教育係などをした事のある不二子ですらその礼儀の善さはあまりにも大人びた感じがした。
「ちゃん、お昼寝一杯したから眠くないでしょう?一緒にルパン達の活躍見ましょうか。」
不二子がそういって風呂上りのと共にソファに座ってテレビのスイッチを入れる。あらかじめルパンが予告状を出していたこともあり
TVでは特別番組枠が組まれて20時ぴったりのルパンたちの犯行を放送していた。
――――20時ぴったりまで後五分
「不二子お姉さん、おじさんってなんのお仕事?パパもママも教えてくれなかったの、ただおじさんがお仕事に行くときは絶対
邪魔しちゃいけませんって・・」
「ルパンの仕事?一言でいえば泥棒さんね、世の中で悪い子だっていわれてるけど、ルパンが盗むのは理由があるからなのよ。
ちゃんは知ってるでしょ?ルパンも次元の五右エ門も、悪い人じゃないでしょ?」
「ウン・・でも、警察の人はおじさんを追いかけて捕まえるんでしょ?危ないお仕事なんでしょ?」
ぎゅっと初めてが不二子のスカートを掴んで深刻な顔をして不二子を見た まるで追われる事の恐さをわかっているかのように・・。
「私・・・・恐い!テレビなんか見ない!!」
耳を抑えてが寝室の方へと駆けだした。不二子が慌てて振返ると角を曲がるの銀髪だけが見えた。
「ちゃん!!」
慌てて不二子も後を追った。リビングを出てさらに階下の寝室がある階へと降りると微かにがしゃっくりをあげる声が暗闇の中に
響いてくる。
「痛っ」
真っ暗な廊下をそのまま歩こうとすると不二子の足が何かに躓いた、仕方なく寝室へとづく今いる廊下の明かりをつけると自分の目の前にすぐ
寝室の壁が迫っている事に気づいた。
「(ちゃん、よくぶつからなかったわね・・)」
そう思いながら廊下を進んで一部屋だけドアが完全に閉まっていない部屋、ルパンの部屋の前で立ち止まる。が風呂に入っている間に
ブランケットを仕舞いに来たときはすべてのドアがちゃんと閉まっていたはずだ、それなら・・と不二子はドアをそっと開けてベットの上の赤い塊、
ルパンの予備のジャケットをかぶったに声をかけた。
「ちゃん・・ルパン達が心配なのね。」
「だって・・パパもママも・・追われる人は帰って来ないもん。待ってても、泣いたら・・パパやママもおじさん達は迎えに来てくれないもん。
不二子お姉さんも・・きっとが泣いたらいなくなっちゃう。」
「・・ちゃん・・」
そっとルパンの部屋に入ってルパンのジャケットごとを抱えあげた。空気が動いて微かにルパンの嗅ぎ慣れたジダンの香りが
不二子の鼻腔を擽った、歳の割には案外軽いは簡単に不二子の腕の中に納まった。
「大丈夫よ、ちゃん、ルパン達は必ず帰ってくるわ、それに私もちゃんが泣いたぐらいでいなくなったりしないわ。」
「だって不二子お姉さんはうるさいのが嫌いだって・・子供が嫌いだって言ってたもん・・」
きっと次元や五右エ門辺りが大人しくしているように言い聞かせいてたのだろう、言われた事は守るもん。とジャケットの中のが呟いた。
「大丈夫よ・・大丈夫。はまだ子供なんだから、不安だったり恐かったら泣きなさい?今は私がいるし、すぐルパンたちが帰ってきて
慰めてくれるから・・ね?」
「泣いて・・良いの?」
段々とのしゃっくりの間隔が狭くなっいき大きな目に大粒の涙がボロボロとこぼれ始めていた。
「(あーあ、結局涙の染み着いちゃうけど・・まぁ いっか。)」
そんなことを思いながらの頭を自分の胸にうずめさせた。途端に小さな本当に微かな泣き声をあげながらが泣きだした。
本当にどこまでも出来た子供らしい。
「ま〜今回は大成功だったよな!」
「とっつぁんが早々にリタイアしてくれたしな。」
そんな会話と共にガレージから階下のリビングへと降りるとドア越しに不二子の優しい声が聞こえてくる。
3人で顔を見慌ててからルパンが不〜二子ー?俺様帰ったよん?とおどけた感じにドアを開けた。それを見て不二子が
弾かれたようにルパンを見ると抱えていた赤い塊に一言二言いってルパンの元へと歩いてきた。
「お帰りなさい、ルパン。ほら、言ったでしょう?貴方のおじさん達はちゃんと帰ってきたわ。」
「チャン?」
不二子の抱えた赤い塊(おそらくは置いていった自分の予備のジャケット)と不二子とを交互に見ていると頭からルパンのジャケットを
かぶったがとうとう大きな声で泣きだしてルパンにしがみついて来た。
「ちゃん、貴方達が仕事を始めだしてからずっとこうなの・・ずっと貴方達を心配してたのよ?」
私じゃ泣き止まないんだから、と不二子がずっと抱いていたため涙で胸元がぬれたシャツで3人を見て言った。
「ずっと抱いてたのか?不二子。」
「当たり前でしょ?目の前で目に一杯涙浮かべてルパンのジャケットかぶってじっとしてるのよ?放って置けるわけないじゃない。」
「っ・・・・恐かったのっ・・・・・おじさんも・・・パパとママみたいにっ・・・・・帰ってこないんじゃないかってっっ」
「そうか〜、でももうな〜んの心配もないぞ?俺達はちゃんと帰ってきたんだからな?」
「でも・・・・・でも・・・・恐かったぁ〜〜〜ん」
ここに来た当初では予想もしない大きな声に歳相応な泣き方では泣き続けルパンが抱えたまま宥めに入った目で合図されて
五右エ門がしどろもどろに手伝いをしている。ベロベロバーなどと もうさすがにそれは違うだろうと思われることをしても
は泣き止まずルパンがとうとう今日の獲物をの首にかけてやったりとで独身男二人の手を焼かせていた。
それを横目で見届けながら次元は少し憮然とした表情でソファに座った不二子の向かいに座った。
「子供嫌いのお前が服を汚されるのもかまわずずっとを抱いていたとはな。」
そのセリフに次元は不二子がさらに憮然とした表情になってお守り代でも請求されるかと思ったがそうならずに不二子はため息をついて
ぼうっとした表情で言った。
「なんかね・・不思議なのよ、じっと泣くのを我慢してるちゃんと、いい子にしてるちゃんを見てたら放って置けなくなって・・・
柄にもなくあたしが母親代わりしてあげれたらなぁ〜って、思ったのよ。本当に不思議な子。」
予想外の不二子の態度に次元は確かに不思議な子だな、とタバコの煙を吐きだした。
「次ー元ちゃん、俺と五右エ門で濡れたタオルかなんか取ってくるからちゃん抱いててくれよ。」
そう言ってルパンが泣き疲れてぐったりと眠そうなを次元の膝の上に降ろして五右エ門と共に洗面所の方へと消えていく。
ぐったりと次元の胸により掛かっているはずっとルパンのジャケットをかぶったままでいたせいか涙と汗でぐっしょりと濡れていた。
「何よ貴方、子供がいる前で煙草吸ってるの?」
そう言ってすぐに不二子が次元の唇からタバコをひったくってガラステーブルの上の灰皿で徹底的に火を消した。
「なんだよ・・本当にらしくねぇことしやがって。」
「らしくなくって結構よ、私らしく無くったってのためなら私、なんだってするわ。」
そういって不二子は次元の膝の上でもうほとんど寝てしまっているの上のジャケットをちょうどいいように直してから フン、と
鼻を鳴らしてから寝室に消えていってしまった。
「私の前で ちゃんは 声をあげてくれなかったわ。」
そんな一言を残して。
「(子供嫌いの不二子があそこまで言うとはな・・)」
そう思いながら次元は自分の腕の中のを抱えなおして顔に掛かった髪を払いのけてやった。
拙話
出来た子供=それが自然体あるとは限らない
なんだかなぁ・・。