砂煙は新しい物事の始まり・・だと聞いていた。




「ウルフェン」



その日の砂煙はおかしかった、いつもは大気圏の外からやってくる飛来物がこの星の
この一帯だけが帯びている不思議な磁力によって勢い良く砂の海に落ちてくる放射状のド派手な物。
そうウルフは聞かされていたのに、今日はなんだかひらい物は地面に横殴りに突っ込んだらしい、横に砂煙が舞った。
それをウルフは中型の移民船の内部を改装したリビングの大きな窓から眺めた。

何年も住みなれたそこには、何年来の相棒のレオンが押し寄せる不況の波によってとうとう
インスタントになってしまったコーヒーを飲む姿があった。
普段ならもう一人、このむさくるしい男の暮らしの華であり、ウルフが実質的には管理している
この艦の正当な持ち主の姿があるはずだが、今日はなぜだがいつもなら朝食後ののんびりした時間を
ここですごしているはずの姿がなかった。

「なぁ、レオン。の奴、どこへ行った?」

           
いもうと
「さぁな、そんなに義妹の事が心配か?」

「んなわけあるか、この時間帯にここにいない時はあんまりありがたくない企みをしていることが多いからだよ。」

お前だって長年一緒にいるんだわかるだろ?とウルフが呆れ顔でインスタントコーヒーを注いだ。一口飲んでその品も香りも
へったくれもない味に顔をしかめた。

「確かに、最近は大人しかったからな、そろそろ何かをやらかす頃だとは思うが。」

「だろ?企んでいる事がこの赤字状況を打開してくれるような都合のいい事なら全く構わないんだが・・」

「あの、高速回転する頭が我々に利益を与えた事なんて無きに等しいからな・・さっさと止めるべきだろうな。」

「同感だ。とりあえず、俺がこいつの前方部分の方を探すから、後方部分、頼めるか?」

                                    
ホープバード
そう言ってウルフがリビングをちょうど中心として展開する、この船の前方部分へ続くドアの前に立った、
それを見てレオンは黙って後方部へのドアの方へ歩いていく。返事はいらなかった。
















「ウルフ、格納庫までちょっと来てくれ。」

広い船長室をそのまま使っているの部屋を探しているとき、館内通信機からそのレオンの声が聞こえてきた。

「なんだレオン、がいたのか?」

いたなら一発殴っとけ、と言おうとすると通信機からはそうじゃない、と珍しく焦った声でレオンが返した。

「無いんだ、ウルフェンが一台。」

それを聴いた瞬間、ウルフはとてもまずい顔になり、すぐに行く、と通信を切り、後方部の格納庫へと急いだ。














「やられたな・・」

「まさか修理中のウルフェンにアーウィンの部品流用して持ち出すとはな。」

さすがと言ったところか、と言いながらウルフは広いドッグに置かれたバラバラのウルフェン レオン機と、
同じく昨日までは完璧な姿でそこにあったはずの、部品をごっそりと持ち出された水色のアーウィン 機があるだけで、
隅の方の組み立てられていないウルフェンのパーツには手が出されず、ウルフのウルフェンだけが無くなっていた。

何もが勝手にここを飛び出して行くのはいつもの事だから彼女自身の事は全く心配はしなくていい、腕だって悪くは無い。
万が一落ちても、あの殺しても死なないジェームズに弟子入りしている身だ、おそらくサバイバルくらいお手の物だろう、
勝手に飛び出して落ちるのだから自業自得だ。


それよりもウルフは自分の愛機の安否が気がかりだった。
は、彼女は優秀なメカニックの癖に物の限度を知らず、テスト飛行のパイロットには宇宙で一番向いていないであろう人材
と言って良いだろう、大概がテスト体を大破させるかオーバーロードさせて帰ってくるのだった。

「気の毒だったな、ウルフ。でも、もう一台分あるからな、気を落すなよ?」

レオンが完全にウルフのウルフェンが還って来ないものとした口調で慰めた、長年彼女には振り回されてきた二人だからこそ、
そんな諦めが漂っていた。

「兄さん、レオンお兄様、どいて〜〜!」

開き放しの格納庫の扉をくぐって吹き飛んだキャノピーから顔を出したが砂まみれウルフェンでフラフラと
ウルフとレオンがどいた定位置に着陸した。

「ただいま戻りました!」

そう言ってが砂まみれのウルフェンの翼を足掛りにウルフとレオンの前に降り立った。

「ただいまじゃねぇ!勝手に人のウルフェンを持ち出すな!また壊す気か?!」

「壊して無いよー、アーウィンとは勝手が違うから一回砂丘に突っ込んでキャノピー取れちゃったけど。」

「それを壊したって言うんだ!しかもこんな砂だらけになって・・」

あら、本当だとがウルフに指摘されてはじめて自分がいつの間にか砂だらけになっている事に気が付いた、この砂漠の中を
キャノピーなしの戦闘機で飛んで帰ってきたのだから当たり前だろう。

「じゃあ、お風呂にでも入ってきまーす。」

「あ、こら待て、まだ説教は終わって無いんだぞ!?」

駆け足で走って行くとウルフが格納庫から出て行き、レオンはため息をつきながらクールダウン中のウルフェンを見た、
あのがキャノピーの破損だけで帰ってきたのが奇跡に等しい、と。

次の瞬間、レオンのその感想を裏切るかのようにウルフェンの羽がボトリ、と格納庫の床に落ちた。



ウルフには、黙っておこう。






後日、両翼がもげた状態で見つかったウルフェンにウルフが呆然となったのは言うに及ばない。








拙話

レオンさんが出張っているけれどウルフ夢なんです。
話の冒頭で横向きに上がった砂煙はウルフェンが砂丘にぶつかったときの物です。
物は大切にしましょう。