サヨナラじゃないんだ 行ってきますなんだ




「奇妙なカンケイ」
act.3-c



すっかりと物の整理のついた自室でブーツに足を通して念入りに靴紐を縛る。ジャケットを小脇に抱えてベットの上のサックを
片方の肩だけで背負い窓際の机においた写真立てからもう過ぎてしまった幸せな時間の写真を取り出して胸ポケットにしまう。

「行ってきます」

そう呟いて、歩きなれた無機質な館内の通路を歩いて格納庫へと向かう。左太腿のホルスターのなかで銀のコルトパイソンが光る。
訓練に使っていた2.5インチのような護身用じゃない 命を奪う凶器として4インチの銃身がその存在を自分に主張している。
腰には短刀とちょっと高価だったがこれなしだと今の世の中じゃやっていけない、と師匠に言われて買ったレーザーガンが
丁度いい配置で結わえ付けられている。

格納庫にたどり着くと愛機の収納スペースに昨日のうちに詰めておいた荷物の隙間を見つけてサックを押し込んで修理道具の
置かれている机のそばのずっと愛用してきたゴーグルとポンチョに触れてその感触とすごしてきた日々を忘れないように指に刻んでから
心を決めて愛機アーウィンに歩み寄る。





この日のために3年間頑張ってきたのだ。兄達や師匠の背中がとても大きく感じた3年間を。
まるで自分とは雲泥の差だと、そう錯覚させるような程開いていた自分と兄達との実力差を埋めるために・・いや違う、生き延び、
目的を果たすために自分にとってこの3年は大きく長いものになった。
目的のための手段は選ばなかった、残酷な殺し方が出来る体術も 良過ぎる動体視力が脳に直接ダメージを与えるかのように情報を
拾ってしまうコンピュータを使った情報戦も、決して弱音を吐かず習得した。お陰でベノム側からも一目置かれる情報屋としての顔を
手に入れることが出来た。否、それ以外の自分を、過去を巧く隠すことが出来た。
今や自分の過去との正体を知るものは、この艦のどこかにいる今は死んだとされている
伝説のパイロットである師匠と、逆に今の顔を知らないベノムに巣食う闇の中に自ら赴いた兄達だけだ。

後戻りは出来ない、いやしたくない。するもんか。
振り向くなって言われた。泣くなと言われた。
後悔させてやる、と言ってやった。
自分の過去を、存在を確かめるように一歩一歩愛機を登りコクピットにたどり着く。
コンソールをはじき、エンジンに点火して期待の状況を確かめる。



「行くのか、。」

暗がりからサングラスを掛けた狐がやってくる。開け放たれた格納庫のに夜明け前の痛いぐらい静かな空気が風に乗ってやってくる。

「私に免許皆伝を言い渡したのは何処のどなただったかしら?・・でも、師匠は本当に一緒に行かないの?」
「ああ、私にはまだここでやるべきことが残っている。それに」

そこで言葉を切る師匠 ジェームズに疑問を覚えてが首をかしげるとそこでジェームズが口を開いた。

「息子のピンチに颯爽と登場したいからね。」
「・・・まともな理由を師匠に期待した私が間違ってたわ。」
「まだまだ修行が足りないね、。もっと人をよく見ないと。」
「師匠みたいな食えない人、見るだけムダです。」

そうぴしゃりと言い返す弟子にジェームズは笑った。そしてすぐ取って返すように真剣な目になり言う。

「行っておいで、。君ならきっと、彼らに会える。決してあきらめるな、自分の感覚を信じろ。」
「・・・行ってきます。」

いよいよアーウィンのエンジン音が高鳴りキャノピーをおろしたはスロットルを全開にして大空へ、大宇宙へと飛び出した。






空には兄達がいる。
空には仇がいる。
空には・・・・まだ会わぬ仲間がいる。









拙話
3章終了です。4章にはいる直前、3bから2年と11ヵ月後って感じです。
てか因みに3bで書き忘れましたが私的設定では、ウルフ・ジェームズ・ピグマがコーネリア軍時代の同僚で
ペッピーはそのときの上官(士官)だったって感じの設定です。だから4章はビターなベノム側とコミカル?な
グレートフォックスとのダブルで展開させていきますよ〜
さて、長い長い4章はボチボチと書いて行きますんで期待せずにまっててくださいねー。