目が覚めると水色の羽頭が俺を覗きこんでいた。しかも手にはマジックを持って。
「奇妙なカンケイ」
act.2-b
「あ、目が覚めたんだ。」
「・・・何をやっているんだ?」
「狼のお兄ちゃんを覗きこんでる。」
一体なんなんだ、と鈍い頭で考えていると ねぇ、ちゃんと起きてる?と少女がさらに顔を近づけてきた。とりあえず 起きている、
とウルフが返事をすると、彼女は そう、よかったね、狼のお兄ちゃん。といってウルフの上からどいて 母さんを呼んでくるね、と
部屋を出ていった。
痛みでそちらを見なかったウルフの耳にプシュゥッと空気の抜ける音がしたのでどうやら自動ドアらしく、軽い足音の後
もう一度プシュゥッという音がして部屋が静かになってからウルフ・オドネルは自分の置かれている状況を考えだした。
確か自分は以前熨した小悪党共の罠にかかって墜落したしたはずだった。
大気圏外から落ちたコントロール不能の戦闘機が無事に地面にたどり着けるはずがない事ぐらいウルフは承知だ、だから尚更自分が
こでこうして生きているのが不思議だった。
「俺は死んだんじゃねぇのか・・」
どんなに力を入れても動かないだろうと感じるくらい重く感じる体に鞭打って右手を挙げると白い包帯に包まれた右手が姿を現した。
体中の感覚から、どうやらしっかり治療が済んでいるらしい。やたらと神経に包帯の感覚が伝わってきた。
そっと首を回すと大きな窓からは広大な砂漠が広がっているのが見渡せた。
「ここは・・一体・・?」
「辺境移民惑星ガウディだよ。狼のお兄ちゃん。」
声のした方を見ると先ほどの少女とその母親らしき女性とがゆっくりと歩いてやってきた。
「この子、の母のアリス・です。傷の具合はどうですか?」
「私が落ちてきたお兄ちゃんを拾って、母さんが治療したんだよ。」
そう言って笑ってウルフの枕元がやってきた。
「そういえばお兄ちゃんはなんて言うの?」
そう尋ねる枕元の少女に毒気を抜かれてウルフはため息混じりに ウルフ、ウルフ・オドネルだ。と答えた。
「ねぇ、ウルフお兄ちゃんはパイロットなんだよね、宇宙で生きるのって大変?」
ウルフがこのホープバードの近くに落ちてきてから1ヶ月。傷はもうとっくに治ったものの、ウルフの戦闘機は大破し、ホープバードの
格納庫で修理が進んではいたが細かいところの専門知識の無いウルフや一家には手が余る状態だった。
その上、内乱の影響でホープバードは首都の反乱軍基地から今にも索敵されてしまいそうな状態で一家の好意に甘えて
ウルフは一家同然にホープバードで生活していた。
中でもがウルフをお兄ちゃん、お兄ちゃんと慕っていた。そして、日課のようにウルフが格納庫で時期を弄っていた時、
があの質問をしたのだ。
「なんだ?いきなり。お前、戦闘機乗りになりたいのか?」
「ううん、別にそうじゃないけど、宇宙をまたに掛けて飛ぶのって大変なんじゃないかなぁ、と思って。」
「まぁ、大変といえば大変だな、いつまで経っても宇宙に慣れずに終いには隕石やデブリにぶつかって死んじまう奴もいるからな。」
「ふうん。戦闘機乗りも大変なんだ。」
そう言って開け放しの格納庫から外を警戒して外出用のポンチョとゴーグルをしたまま格納庫の出口に座って銃を片手に望遠鏡を
覗いていた。その少女らしからぬ姿にもすっかり慣れたウルフは越しに砂漠の向こうを見た、夕刻の茜色の空に所々直接宇宙が
見えていた。それを見てウルフはこれがの言っていた不思議現象なんだな、と思った。今までに聞いてはいたものの見るのは
初めてだったのだ。
「俺も、こんな感じの時に降ってきたんだってな。」
「そうだよ、この時間帯はどうやらこの辺りの重力とかも少し低くなってるみたいだって父さんが言ってた。この現象が起るのは
ガウディでもここだけなんだよ。」
だからみんなが気味悪がって近寄らないここに住むことにしたんだってさ。とが言って宇宙を見上げた。それに習いウルフも
手を休めてと同じように宇宙を見上げた。その視界にオレンジ色や緑、赤と規則的に光る光が地表に向かって降ってくるのが
確認できた。
「!あれ!宇宙船だ!落ちるよ!」
がそう言って振ってきた光を指差すと 何!?とウルフがのそばまで駆け寄った、そして二人が観ている前でその宇宙船は
一度も減速せずに砂丘の向こうに墜落した。
「お兄ちゃんみたいにまだ生きてるかも。私、助けに行って来る!」
そう言ってがウルフを助けたときと同じようにバイクへと走っていった。それに追いついてウルフはハンドルを握るの手を
取った。
「待て、俺も行く。親っさんにお前を一人で行かせるなと言われているんでね。」
「ウン、でも振り落とされないでね。」
がそう言ってバイクのエンジンをかけている間にウルフはの後ろに飛び乗った。小さな少女の後ろに堅のいい男が乗った図は
なんだか少し笑えるものだった。
「さぁ、着いたよ。でも気をつけてね、この飛行機、きっと首都からも見えていただろうから反乱軍も来るかもしれないからね。」
「は、俺は一応その道の人間だ。」
そう言って護身用に、と氏から貰い受けていた銃を左手に持ったウルフが同じく 背に背負っていた長銃をかまえた
の後ろに続いてウルフの戦闘機と同じように砂に埋もれたその宇宙船に近寄った。
その半分近く砂に埋もれたそのフォルムはウルフの者とは違っているものの、戦闘機と呼べるものだった。
「生きてる、かな?」
「さぁな、ほら、キャノピー開けるからどいてろ。」
そう言ってウルフが翼の付け根にある、外部からキャノピーを開けるボタンに触れると、キャノピーが静かに数センチほど開いた。
それをウルフが手で持ち上げると頬を掠めて高速で弾丸がコクピットから飛び出した。
まさか墜落して意識があったとは、そう思いながらウルフは威嚇射撃をしてきたコクピット内の男を見た。女なら間違いなくときめく
ような容姿の美しい男だった。今は鋭い目つきで銃口をウルフに向けつつ、ウルフの隣のにも注意を払っていた。
「貴様達、何者だ。」
「別に敵意は無い、此処等に住んでいる者だ。お前の戦闘機が落ちてきたのを見たのでな。」
「お兄ちゃんみたいに生きてるかも、と思って様子を見に来たの。此処に落ちてきて生きてる人はあなたで二人目なの。」
あ、この武装とかは今、内乱が起きてるからなの。とが笑って見せると青年がほっとため息をついた。よく見れば大分辛いのか
腹部や銃を持っていない方の腕は血だらけだった。
「お前達を信用しよう、それで助けに来たなんてお人よしだな。」
「なんとでも言え、」
そう言ってウルフが怪我していない方の腕をつかんで青年を立たせた。それを先導してがまずバイクの方へ歩き始め、その後ろを
ウルフが青年に肩を貸しつつゆっくりと歩いていった。
「ところでお前、名前は?」
「レオン、レオン・ポワルスキーだ。」
あの後、無理をしていたのか、気を失ったレオンがホープバードの一室に寝かされ、一家に手厚く看病されて
目を覚ましてから、数日。ウルフがレオンのもとへ、昼食を運んできてそう聞いたのだった。
家の人々が知ってはいたもののウルフは敢えて本人から聞こうと思ったのだった。
「ウルフ、と言ったな、お前はあの家の人々とどういう間柄なんだ?」
「お前と一緒で、に拾われてな、戦闘機が壊れたままだし、別に行く宛も無いからここで厄介になっているだけだ。」
別に特に関係があるわけじゃねぇよ。とウルフが言うとそういえばがそう言っていたか。とレオンが頷いていた。
「いや、お前とがずいぶんと兄妹のように親しそうだったからな。」
「まぁ・・今じゃそんな感じなところがあるかもな。の親っさんも奥さんもそんな感じの人だからな。」
そう言ってウルフが枕元の椅子から立ち上がってまぁ、せいぜい安静にな。といって部屋を後にした。
「ウルフ君?ちょっといいかい?」
レオンの部屋を後にしたウルフに氏、ジョージ・が声をかけた。
「親っさん、どうしたんですか?」
「いや何、君が此処で暮らし始めてもう1月過ぎたじゃないか。それでな、もし君さえ良ければずっと家での兄として暮らして
くれないかい?」
「え?」
いきなりですまないとは思ったのだがね・・と氏が苦笑しながら本気だよ。と言った。
「君と一緒にいると、はとても楽しそうだからね、生憎とこういう所に住んでいるとどうやら他の子とは頻繁に遊んでいないようだからね、
つまらない親心さ、君さえ、良ければだよ。私もアリスも息子が増えると嬉しいからね、ゆっくりと考えてからでいい、答えを
待っているよ。」
そう言って氏は廊下を歩いて行ってしまった。後に取り残されてウルフは居心地を悪く感じながら、頭で今言われた事を
考えながら格納庫へと向かった。何か真剣に考えるときウルフは決まって戦闘機のそばに行くのだった。
そして、ウルフが格納庫にたどり着くとそこにいるはずのはいなく、バイクだけが残されウルフの戦闘機の上に「反乱軍の影が
見えたので偵察に行ってきます。」との字で書かれたメモがあった。それを見てウルフはコクピットに置きっぱなしだった
防砂ポンチョと銃を取り、入り口にかけられた望遠鏡を覗こうとした。
パーン
砂漠に1発のの長銃から放たれる特徴ある銃声が響き渡った。
「!!」
ウルフはすぐに背後のバイクに跨って、砂漠へと飛び出した。
拙話
そろそろ、そろそろです。
次回で2章終了予定。