時は 動いていく
「白と黒」
「 君の目的はなんなんだい?」
「仰る意味が…分かりかねますが?」
最近知り合った導師守護役のアリエッタを向かいに座らせていつものように導師の部屋で黒檀を走らせていたいたがいぶかしむ様に
執務を進めていた導師の顔を見上げた。導師はアリエッタに決済が済んだ書類を持たせてトリトハイムの元へ行くように指示する。
アリエッタは少し迷ってからに微笑んで退室した。それを見送る導師に対してどこまで彼が知っているのか、と
は警戒の表情を浮かべた。そのの表情に導師は不敵な笑みを浮かべる。
「僕は何でも知っているんだよ?」
「歪める者」なんでしょ? 導師はそういって微笑む。まるで確認するかのように導師はの表情を伺った。
「…どこで、それを?」
「君が降ってきた穴にね、譜石を見つけたんでとってきてもらったのさ。」
この間それをようやく読んでね、まったく疲れたよ。そういって導師は立ち上がり、にその譜石を手渡す。
「君も預言が読めるはずだよ?君に当てて君たちを送り込んだ神様からのメッセージだからね。」
そう手渡された譜石に対しては己のフォニムを操る。
流れる水のように譜石から自分の中に情報が流れ込んでくる。預言を読むのは初めてだがこの感覚が読むということなのか、とは
納得する。(正確には預言ではないのだが。)
そして 流れ込んでくる内容に
「あんの糞神―――!」
「君は本当に面白いね、僕をぜんぜん退屈させない。」
本当に次から次へと面白いものを僕に見せてくれるよね。そういって導師はマジ切れで譜石を粉々に踏み砕くに笑いかける。
「それで君は 君を送り込んだこの梢なる神様のために歪める者の力を使うのかい?」
今までの軽い雰囲気を捨てて導師がに尋ねた。その問いにも譜石を踏み砕くのをやめて答える。
「勿論、未来を知っているのは梢だけじやないもの。基より私自身 預言に縛られて生きるなんて真っ平ごめんなんでね。」
「成る程ね…確かに今の詠師連中を筆頭とした預言至上主義には僕もうんざりだ。」
選択肢に縛られて生きるなんて愚かもいいところだね、と導師にあるまじきの預言の否定を口にして導師はの顔を覗き込んだ。
「やっぱり君は面白い。ねえ、君のその計画に僕も一枚かませてよ。」
「導師?」
「僕はなんでもっているんだよ?君の知る惑星預言…僕もまた知っているということさ。」
預言どおりの世界なんて面白くないからね、そういって導師は手を差し出す。
「もう一度いうよ?僕にも協力させて。」
「勿論。導師が預言を否定するなんて面白そうですね。」
が導師の手をとりしっかりと握り返した。
「それで?一番すぐ起こる預言のゆがみというのは例の『聖なる焔』に関してだね?」
「はい、おそらく近いうちに。私の記憶が正しいのなら今月中の話です。」
「ヴァンが『聖なる焔』を攫うんだね?」
「そして『焔』のレプリカを『彼』に仕立てあげバチカルに返す。」
オリジナルはヴァンの手元 ダアトで幽閉されるはずです。彼が欲しているのは超振動の力、必ず動くでしょう。そういっては
それこそがこちらの付け入るチャンスです。と不敵な笑みを浮かべた。
「チャンス?」
「オリジナルの世話役 おそらくそれに私が充てられます。」
「根拠は?」
「このダアトにおいて ヴァンの配下で融通が利き、しかもあまり周囲に知られていない存在であり オリジナルの逃亡を防げるだけの
実力を持っていて 尚且つ 暇人である。そんな人材は私以外思い当たりませんからね。」
これでも一応ヴァンに従っている身です。教会内をうろついていれば自然と自分が何のために放し飼いにされているかなど検討がつきます。
そういっては自信に満ちた目で言い切った。
「確かに、君ほどの暇人はダアトに存在しないね。で 君の言うレプリカは?」
「協会の地下に。ディスト…彼は私 こちら側の協力者なのですが、彼が誕生したレプリカの保護と調整をしています。
まだ覚醒させていないそうです。」
おそらく作戦実行まで目覚めさせないでしょう。そういってはヴァンが動くのを待つだけです、と笑う。
「そう、それから話は変わるけれど君の協力者は他にいるの?」
「ディストの他は例の神とバチカルのファブレ邸にもう一人。ただこの一人がちゃんとバチカルにいるのかどうか、まだ判っていないですが。」
「十分だよ、そのバチカルの一人がレプリカの相手というわけだね?」
「そうです。」
「こちらはアリエッタとカンタビレが動いてくれるよ。問題なくいくはずさ。」
君はできるだけ早くバチカルの協力者とコンタクトしてね、と導師がいう。
「勿論です、可能なら今日にでも連絡…」
が言い切る前に部屋の戸を叩く音が室内に響いた。
「どうぞ?」
導師の言葉でドアが開き、ヴァンが室内に入ってる。
「導師、渡航許可証にサインを。バチカルの定期訪問に向かいます。」
「判りました、気をつけて入ってきてくださいね。一人でですか?」
「いえ 仕事も溜まっていますのでリグレットも連れて行きます。」
この時期にバチカルへ しかもリグレットをつれてとなれば大当たりだ とは導師に視線を送る。導師もまたに視線を受けて
やはりですか、と顔に出さずに納得した。
「( 君は本当に面白い。)」
ヴァンの提出他書類にサインを入れると導師はヴァンに向かってさしだした。
「留守中のあなたの代理には?」
「を充てます。 、仕事の話がある、私と共にこれるか?」
「問題ないよ。」
よろしいですよね?とが導師に尋ねると、導師は笑ってどうぞ、と促した。
「では、失礼いたします。」
「道中に気をつけて。」
「私も失礼します。」
ヴァンにしたがってが退室する。
はそのままヴァンが導師の部屋の戸においていた彼の旅行鞄を持って後に続いた。どうやらこのまま港に向かうしい。
「総長、リグレットは?」
「リグレットは計画に必要なあるものの輸送にかかっている。」
ダアト港への道のりでヴァンが己の計画について口を開いた。
「、お前に任務をやろう。預言を歪ませる為に私はこれからある子供を攫う。」
「攫ってどうするのさ?殺すのかい?」
はヴァンの目的が何なのかわかっていながらもあえて尋ねた。
「まさか、このオールドラントでその者のみが持つ力がある。」
「・・・こちら側に引き込むんだね。でも攫った先が煩いんじゃない?ヴァンデスデルカ?」
「・・・リグレットがその身代わりを運送中だ。」
身代わりとは体のいい言い換えだな、とは思いながらそれで私は?ダアト待機なんだろ?とヴァンに尋ねた。
ヴァンもヴァンで、がどこまで知っていようが構わない、といった感じに話を進めていく。
「リグレットが伝書鳩を遣す。その指示にしたがって子供を迎えに行き、以後世話をしろ。」
「了解。」
説明を聞き、質問を返すうちにヴァンとはダアト港の連絡船の前まで辿り着いた。
ヴァンがから旅行鞄を受け取って連絡船のタラップを踏んだ。
「総長、お気をつけて。」
「留守中を頼む。」
形だけの上司と部下の会話の後 連絡船はヴァンを乗せて港を出て行った。
それをしばらく見送ってからは踵を帰して教会へと戻っていく。
「未来は歪めてやるよ、ヴァンデスデルカ・・。あんたの予想以上にね。」
の言葉がパダミアの風に載って流れていく。
拙話
ようやく動き出す。