雨が 止まない。




「白と黒」





バチカルに降る 雨が止まない。

は公爵夫人の部屋の前で剣の柄に片手をかけながら窓をみた。三日前から降り出した雨は雨脚を増すばかりで一向に止みそうにない。
まるで今の公爵家の雰囲気だな・・と思い、己を哂う。

公爵家に来て一ヶ月、あの日が来たのだ。


ルークがルークでなくなる日


一週間前 ヴァン・グランツががこの公爵家に来てから初めてファブレ邸に現れた。ルークを介して紹介された時にヴァンの放つ
プレッシャーに自分の存在に警戒していることが感じられた。

近々 彼がルークを攫うのはにとっては火を見るより明らか。ここでは手を出さない。そう決めていた。



それがまさか あの日だったとは。






三日前の朝、メイドがルークを起こしに行くと寝室はもぬけの殻 布団が冷たくなっていて攫われたのは夜半前だと考えられた。
すぐさま 白光騎士団とキムラスカ軍が総出でルークの行方を捜し始めた。ファブレ公爵は怒り狂い、自らローテルロー橋の方面への捜索隊を率いていった。
は一ヶ月での副騎士団長への昇進とその実力を買われてファブレ邸全ての警備を仰せつかり公爵を送り出した。
状況を知った公爵夫人はショックで体調を崩し寝込んでいる。他の場所の警備を的確な指示で自分の部下に任せて今一番の要人がいる部屋を
自身で守る。
ヴァンは自らカイツール経由での捜索に名乗りを上げて捜索隊を任されている。どうせ彼のことだ自分でコーラル上にいるレプリカを連れ帰るつもりなのだろう。
ガイはルークがいなくなって清々した、といわんばかりに部屋にいる。ナタリアは城に行った伝令の話だと泣きじゃくっているらしい。
雨が上がるころにはこの世にルークは二人なのだろうな。と思いながらもは庭に目を向ける。






急に 目の奥がツーンとする。
あまりのことに目頭を押さえていると特にその感覚が左目にあることに気づく。右目を手で覆えば左目の視野がぼんやりとかすれて見たことのない
部屋が見えてくる。
暗めの色を貴重にそろえられた調度品、その鏡に映るのは「白樺」の体を持つ

「・・・?」
『見えてる?。梢から連絡があって、回線の繋ぎかたを教えてもらった。そっちは状況が悪いみたいだから私から連絡するように言われたんで。
 とりあえず大丈夫?私の右目とあんたの左目がつながってるんだけれど・・・今って・・それ公爵家の中?』

他人の目とか大丈夫?とが尋ねてくるのにあたりの気配をうかがって確認する。

「大丈夫。夫人の部屋の前にいるんだけど、いま夫人が寝込んでるから人払いをしてある。」
『そか、ならいい。これからは連絡取りたかったら目を閉じて念じればいいんだとさ。梢が言ってた。』
「そう、私はの予想通りに公爵家で生活できてるけどは?そこはどこ?」
『私?ダアトにいる。神託の盾、というかヴァンに拾われた。そうそう、ヴァンがそっちにいってるでしょ?リグレットまで連れて行ってるから
 もしかしたら・・と思ったんだけれど』

こっちにはまだアッシュがいないし、とが言うのを肯定する。

「三日前の朝に攫っていった。距離的にはそろそろこっちにレプリカが、そっちにオリジナルがつくんじゃない?とにかく・・この7年で
 どれだけ私達が準備できるかが鍵で・・・ってごめん ガイがくる。」
『判った。じゃあ後で。回線切るときも意識すればいいんだってさ・・・・』

最後にきりかたを伝えてきたの視界がぼんやりと薄らぎ自身の左目だけの視界には光がチラチラとするだけになった。
回線が完全に切れるか切れないかのタイミングでこの屋敷でダントツに軽い足音をさせる人物の一人が扉を開く。

「ガイ?何か用かな?」
「開ける前から俺だったわかってたのか?」
「この屋敷で今 そんなに軽い足音をさせるのは君だけだからね。」

今まで何をしていたのかを窺わせないようにゆるい態度で答えると、ガイはそうか といってからの隣に来る。その腰に刀が下がっているところを見ると
が知らないうちに屋敷内の警備に借り出されていたらしい。

「ルーク様は無事だろうか?」
「おや、ガイがルークのことを心配していたなんてね。」
「・・っ 仇を誰かに横取りされたくないだけだ。」

君の仇は帰ってこないよ。はそう思いながら まぁ、何でもいいさ。とまた外を見る。

「雨が止まないね、まるで夫人の悲しみのようだよ。」
「奥方はまだ寝込んで?」
「さっき様子を見に行ったけれど、ルークが帰ってこないと持たないかもね、かなり衰弱していらっしゃる。」

警備のほうはどうだい?とガイに尋ねるとガイが貴方が責任者だろ?と答える。

「いや、長いことここに張り付いているからね そろそろ交代したいんだよ。代わってくれるかい ガイ?」

間隔をおかずにお断りします、とガイが言う。元々はここの警備を誰かに譲る気はなかったが。
言うと思った、とがいい、忍び笑いをしていると俄に玄関のほうが騒がしくなる。

「何か進展があった・・かな?」
?」

が壁にもたれていた身を起こし扉を見据えるのにガイが訝しく思って声をかけてすぐに様!と部下の白光騎士団が駆け込んでくる。

「どうした?」
「グランツ謡将率いる白光騎士団がルーク様をお連れして帰還したと門前のキムラスカ兵から伝令です!」
「わかった、すぐに行く。」

が答えてすぐに背後の夫人の寝室に入り込み、夫人のルークの期間を告げると憔悴しきった夫人を支えて部屋を出てくる。

「ガイ 先導しろ。」
「はい。」
「ルークは無事なのですかっ!」
「夫人、落ち着いてください。おつれいたしますから。」

ガイが後ろで交わされるやりとりを聞きながら先導を始めた。


















ガイの先導で玄関にいきつくと調度ヴァンとルークを抱えた白光騎士団とが玄関から入ってくるところだった。

「ルーク!」

ルークの姿を見つけた途端に夫人が自分が弱っているのにも拘らず ずぶ濡れの騎士団の腕の中のルークに駆け寄った。

「奥様、お体にさわります!」
「ルークッ 怪我はないのですか?」

おやめください、というメイドたちの声は全く夫人の耳に届かずに取り乱した夫人はルークにすがりつく。
すがりつかれたルークは部屋の端にいるやガイのいる位置からも様子のおかしさが窺える。騎士団に抱かれたルークは朧な瞳で
ただそこに存在しているだけ。ヴァンがそれを感情の窺えない表情で見ている。

これがレプリカ・・・か。そう思いながら眼下のガイを見るとガイは愕然とした表情でいる。

様っ、奥様をお止めしてくださいっ!」

自らではどうしようもなくなったメイドたちがに叫んだ。それを聞いては隣のガイに、行くよ。と声をかけてから夫人に近づいて
背後からそっと当身を喰らわせて意識を奪い、抱えあげた。そしてそのままヴァンの前へ赴く。

「ルーク様を見つけていただいて 主にかわってお礼を申し上げます グランツ謡将。ルーク様はどこにいらしたのですか?」
「コーラル城だ。君こそご苦労だったね、たった一人で3日も公爵家を切り盛りしていたのだろう?」
「私は仕事ですので。 フェルベル一尉、レイマーク三等、それからメイドのマリー、ルーク様をお部屋にお連れして休ませて差し上げろ。
 クレイン二等は医者を呼んでこい。シューマー三尉は国王と姫に伝令を。ワイズル兵長は公爵隊に伝令。セムイ一尉は団長隊に伝令。
 ガイにはルーク様の看病と世話を命じる。メイド長は奥様の薬を。警備の担当は持ち場に戻れ。謡将に同行していたものは明日まで
 各自休んでよし。全員自分の仕事に戻れ。誘拐犯が戻ってくることも考えられる、警戒は怠るな。」

的確な指示をだせは使用人も含めて玄関先にいた人たちはそれぞれ自分の仕事へと戻っていく。ガイが最後にチラリとを見てから
ルークを抱えいてる騎士に従って部屋を出て行き、玄関には外にいる警備の兵以外ヴァンとだけになる。
しばらく睨むようにヴァンを見てからは夫人を抱えて部屋を後にする。

「・・・今回は見逃してやったが 次に公爵家に手を出したら容赦はしないぞ。ヴァンデスデルカ・ムスト・フェンデ。」
「お前も得体が知れないな。その顔に似たものも同じように意味深なことを言ったよ。」
「・・・何のことか判りかねる。」

ヴァンはと自分の正体に気づいているのだろうか・・そう思いながらもは夫人を抱えて部屋を後にした。






雨が 止んだ












物語は まだ 始まっていない


























拙話

騎士団の名前とか階級とか完全捏造ですよ。
次はダアト 側の展開です。