いっぱいに開けた窓から入ってくる 風と少年
「白と黒」
がファブレ邸にて雇われて1週間。
は野盗退治の功績を買われてシェザンヌ付きの護衛として白光騎士団に所属することになった。
屋敷の中では公爵家の用意した騎士団の制服を来てはその一員として振舞う。
あの騒動のときにいた騎士団長はの強さに何かと世話を焼いてくれたり、用がなくても公爵夫人はを呼んでお茶を出してくれたりと、
平穏な日々が続いた。
使用人達もみな新参のの話を聞きにきたり、ふらふらと宛も無く屋敷の中をうろついているに声を書けたりと好意的な態度で
は自分の使命を忘れそうになりそうな一週間をすごした。
今朝も朝食と朝の鍛錬の後 いつものように休憩を使って銃の手入れをする。
分解した銃身を油のしみこんだ布で磨きあげていると空気抜きに開け放した窓から入る風が鼻につく油の匂いを散らす。
「、いるのか?」
ノックも無しにやってくる この屋敷の御曹司、ルークが扉を開いてを呼びつけた。
その後ろにはここに来て早々紹介された彼の婚約者のナタリアと彼付きの使用人、ガイ・セシルの姿が見られる。
「おや、ルークそれにナタリア姫 そしてガイまで。何か用かい?」
「剣の稽古に付き合え。約束したはずだ。」
アレを約束ととるわけね・・、とは思いながらもじゃあ、銃の手入れが終わるまでまってね、と手早く手入れの終わった部品を組んでいく。
「の武器は変わっていますのね。」
「まぁ、使っている人はキムラスカじゃ多くないだろうね。」
よし、おしまい。とが組み終わった銃に弾を装填する。
「さて、行こうか。」
中庭で騎士団長に剣を借りなくちゃね、とルークたちを中庭へと促す。
「殿は剣もお使いになると、騎士団長が言っていましたが本当ですか?」
「ガイ、何度も言ってるけどでいいわよ。まぁ、剣は嗜む程度ね、・・・には結局一度も勝てないしね。」
「・・とは誰のことだ?」
中庭へと続く道を歩きながらが呟いた言葉にルークが尋ね、お聞きしてもよろしいですか?とナタリアが尋ねた。
「私の 私の 双子以上に 近しい存在。 片割れみたいなもの、ね。」
この世界では、だけど。と心の中で付け足しながら言う。
「その方は今どこにいらっしゃるのですか?」
「さぁねぇ。どこにいるんだろう。オールドラントのどこがで生きている・・・んだと思うよ。」
「生き別れか何か・・・で?」
ガイが己のことを思いだしているのか、少しおずおずと尋ねる。14歳にしてはその鋭い感性には自分が何処か懐かしそうな顔をしていることに気がついた。
先頭を歩くルークが少し苛立たしげに此方を見ている。
「ま、気にしない気にしない。生き別れというよりは自分達のやりたいことを優先したら、こうなっただけだからね。」
さぁ、剣の稽古に行きましょう!とがナタリアとガイの背中を押し出す。自分でもがどこでどうなったかなんて判っていないのだから、
これ以上尋ねられるよりは子の小さな為政者候補達の要望に沿ってやることがいま自分に出来ることだ、と思った。
「騎士団長、余っている剣をひと振り、支給してもらえませんか?」
「お、か。それにルーク様、ナタリア様まで。」
稽古ですかな?と騎士団長が尋ねてくるのに、がそうです。と答えると騎士団長がそっちの壁のやつなら、好きな物を持って行きなさい、と
指し示した。
「では、一本頂きます。」
「なら、また明日でも、私と手合わせしてもらおう。」
騎士団長の言葉に返事を返して、は躊躇うことなく細い切っ先を持つレイピアを選ぶ。
自分があこがれて必死で覚えた 怪傑の剣技。
「さて、では稽古しますか?」
腰のホルスターの横に剣を下げるとはそういって中庭へと足を踏み出した。
「頑張ってくださいね、ルーク。」
「手加減したら許さないからな、。」
「ルーク、剣の道は礼儀に始まり礼儀で終わるのだよ?」
やれやれ、このころからこんなに気が強かったのか・・とは呆れながらも剣を抜き、さぁ、どこからでもどうぞ?とルークの方に向って軽く構える。
そのゆるい構えに自尊心が揺らいだのか、ルークはに向ってまっすぐに進んでくる。
典型的に剣、という形をした剣を持ってルークはこれまた典型的な突撃型の戦法を取って攻撃を繰り返す。
はそれを軽く剣の先と根元とを使ってより分けていく。まるで師匠と弟子だな・・と思いつつ、ルークの息が荒れ始めたのを契機に
剣を根元で絡めとり弾き飛ばす。
「・・・ッあっ!」
「はい、ここまで。ルーク、もっと間合いを取って戦うことを覚えなさい?」
「・・くそっ。」
「さぁ、次はガイ・・君かな?」
ルークが弾き飛ばされて自分の部屋の方にまで飛んでいった剣を取りに行くのとすれ違いにガイがの前に来る。
「お手柔らかにお願いします、殿。」
「さぁ、ねぇ。君次第さ。 構えて!」
ガイはルークのように突っ込んだりせずにうまく自分の間合いギリギリからの死角や突きの隙を突くように剣を繰り出してくる。
ただ、も14歳の年下相手に本気を出していないので余裕を持ってそれをよける。そして、は手元のギリギリまでガイを剣ごと引き寄せると、耳元で
ここに来て以来、一度は彼に聞いてみようと思ったことを呟いた。
「ファブレが憎い?ガイラルディア・ガラン・ガルディオス?」
一瞬間後にガイが驚いたようになぜそれを?と睨み付けてきた。
「さぁ、如何してでしょう。多分貴方の行きつく先を知っているからよ、馬鹿な考えを起こさないことね。」
復讐は憎しみしか生み出さいない。憎しみは双方に後ろ向きの感情しか与えない。そう呟くにガイは剣を握る力を緩めてしまう。
「ガイッ!」
ナタリアの声でガイは、初めて自分がによって吹き飛ばされたことを知った。
傍にナタリアとルークが寄ってくる。
「ガイ、今は何のことかわからなくても、さっきの言葉だけは忘れないように。どうなっても、私は君を責めたりしないけれどね。」
そういうと、は久しぶりに剣を握ったから手が痺れてしまったよ、とルークとナタリアに挨拶をすると自室の方へと去っていった。
「最後の、何処か悲しそうでしたわね。」
「ガイが何かしたのか?」
「いえ・・何も・・」
その場に残された子供達は只只の不可解な行動に首を傾げるだけだった。
拙話
次で黒ヒロイン過去編は終了予定です。