馬子に衣装




*〜アスタリスク〜




「本当にお世話かけます。卞夫人。」
「いえいえ、あなたたちの素材がいいから、私も楽しいのよ?」

荷物の整理が終われば、次は着替えだ。と曹操の一声では武将たちや荷物と別れて
卞夫人の待つ室で着替えをさせられていた。
道着のの格好はまだしもの格好は余りにもこちらの物とはかけ離れていたのでと曹操が卞夫人に指示して
用にと衣を用意してくれたのだった。

「ねぇ見て、ちゃん、ほら。可愛い。」

着替えの済んだが女官に化粧を施してもらい髪まで結ってもらいの前で回って見せた。

「うん、きれいだね。。」
「で、ちゃんはまだ着替えないの?」
「いや、だって私が着て似合うような物が無いじゃないか、だから夫人に今文官衣を頼もうかと思って。」
「エーッ勿体無いよ。」

そういってがいつだってちゃんはきれいな服を着ようとしないよね。と頬を膨らませた。

「ねぇ、卞さん?私たちでちゃんをきれいにしちゃいましょ?」
?」
「そうねぇ、そのほうが皆様喜ぶでしょうしね。」

あなたたちもほら、手伝って、と卞夫人が女官たちに声をかける。

「いえ、私はの護衛だしあんまり動きにくい格好は・・・」
「何を言ってるのよちゃん。周りは武将だらけなんだから!私が危なくなるようなこと無いって!」
「さあ、綺麗にして差し上げますから。」
「えっ・・・だって今私、腕がほら・・折れてる・・・・か・・・らぁあ〜〜〜!!」

許都の宮殿に響いた叫びに応じたものは誰一人としていなかった。




























「アナタ、様と様のお支度が済みましたよ。」
「おお卞。入って来い。」

曹操の言いつけで庶務のある典韋や許チョを除きあいも変わらず集まっている武将たちのいる曹操の執務室に卞夫人とが現れる。

「ほう、やはり美しいな。。」
「まるで桃の花のようでござる!」
「えへへ、徐晃ちゃん、ありがとうv」

にっこりとが笑えば強面ぞろいの室内にほんわかといい雰囲気が漂う。
曹操が見繕いどおりだ、と頷くところを濃淡が色鮮やかな桃色の衣をひるがえしてはありがとう、孟徳様。と微笑んだ。

「で、お前の従姉はどうしたんだ?」
「それがねぇ、恥ずかしいんだって。」

出ておいでよー、とが執務室の外にいる人影の袖を引っ張って室内に呼び込んだ。

・・・本当に勘弁・・・」
「ほう、これはまた趣深い。」

のろのろと入ってきたの姿に曹操が顎鬚をなで、夏候惇や司馬懿、徐晃の目が見開かれ。
ある意味、初対面から可愛い格好、可愛い仕草のを飾ればさらに可愛くなり、鑑賞に堪えるものであるのは誰もが予測できることだ。
だが、全くそのような気配が無く、下手をすればその雰囲気は少年のようで無造作にまとめられた髪の跳ね様は一介の兵卒を
思わせ、ましてや奇妙な事に変わりは無いものの官服を髣髴とさせる道着を身に纏っていたを飾るのは予想が付けがたく、
結果現れた、まさに夜叉という形容がふさわしい凛とした雰囲気のは予想外にも大人の雰囲気を漂わせていた。

「なるほど、襤褸に包まった玉だったか。」
「お前・・女の格好が好かねぇなんて損だな。」

余りにも予想をしていないの豹変振りに言葉のでない夏候惇・司馬懿・徐晃を尻目にまだ衣を指定しておいたおかげで予想以上の出来の
の変わりようについていけた曹操 と不測の事態への対処に慣れている夏候淵がしみじみとの姿を評した。

「余りからかわないで頂こう、孟徳様。夏候淵殿。」

余りにも窮屈です。と胸の前で折りたたまれた右腕を少しずらして左の手で胸元が少しでも開くように、と襟のあわせを引っ張った。



















「では元譲。妙才。世話を頼んだぞ。」
「ああ、任せておけ。」

結局、夏候惇や司馬懿、徐晃が我を思い出すまでにかなりの時間が掛かり、曹操が日も傾き始めた事を口実に夏候惇と夏候淵の二人に
を任せるために早々に帰るように言いつけた。

「元譲殿。私は馬に乗れるから、大きな馬車なんて要らないよ。」

乗るのはだけで十分だ。と厩から適当な馬を見繕って引いてきたに夏候淵はため息をついた。

「お前一応は女だろ?そんな衣でどうするんだよ。」
「別に?普通に乗るだけさ。」

そういってひらりとは衣の裾を割り、片足を晒す。言い出せば無駄だろうな、とある程度こうなる事を予測していた夏候惇が大きな馬車を
戻すように指示して小さな馬車の手配に向う。

「このお転婆。」
「どうとでも言って下さい、このほうが何かと便利です。」
よぉ、腕が折れてるんだから大人しくしよう、とか思わねぇのか?」
「淵ちゃん、淵ちゃん。ちゃんは私と一緒で言い出したら聞かないからさぁ、『わぁ、儲けた 生足拝んどこ。』ぐらいで
 思っておくといいよ。」

馬車の中からでてきたがいい、も そういうこと。と言った。

「これでも一応明日からは元譲殿の副官だし、女として扱われるよりはその方がいいよ。ってことでまぁよろしく、お世話になります。
 えーっと・・・」
「淵ちゃん。」
「は?」
ちゃんも淵ちゃんの事、淵ちゃんって呼んでいいよね?」

が夏候淵に向っていいでしょ?と首を傾げてお願いする。それを見て、夏候淵は困ったかのようにちらり、とを見やる。
夏候淵殿が、迷惑でなければ。言い出したら聞かないし。そう言いたげには笑った。

「まぁ、いいんじゃねぇのか?」

結局のところ夏候淵がおれるしかないのだ。






























拙話

あ、夏候邸に行き損ねた。次こそは。