私がいる意味




*〜アスタリスク〜







白い石張りの道にはらはらと降る落ち葉を眺めながら、目的地の純和風の建物の敷居をまたぐ。
土間から靴を脱いで上がると、半開きの戸の向こうに藍の袴と白い道着の色の差が美しい後姿の剣士がいた。
瞬き一つする間に手前の剣士が相手の間合いに踏み込んで面に向って美しい動きで竹刀を振り下ろした。

竹刀が乾いた音を響かせて相手の面を打ち、剣士たちは互いに礼をして道場全体に息つく空気が戻ってきたかのように
周りの空気に安堵と簡単の息があふれ出しす。

私が振り返っていた勝った方の剣士にちらり、と手を降ると面をつけたままの剣士はぺこり、と礼をして周囲の部員たちに声をかけた。

「今日はここまで、明日からは自主練を主にしたローテで行く、各自更衣室の予定表などを確認するように。」

解散、の声と共に剣士は私の方へと歩きながら面をはずした。
はずした面の中からは私と似た、でも私よりもずとっ凛々しい顔が出てきて、額の汗をぬぐいながら迎えに来てくれたんだ?と
私に微笑みかけてくけた。

いつだって彼女は私に微笑をくれる。

ずっとずっと前から。

「お疲れ様ちゃん。」

私は笑うのが下手糞だけれども、精一杯の微笑を彼女にお返しした。

「じゃあ、私着替えてくるから、もうちょっと待ってて。」

ちゃんがそういって更衣室の方へ走っていくのを見送ってから、私は道場の外に出ていつもしているように道端の木々を眺め
待っていることにした。


















私、ちゃんは小さな頃からずっと一緒にいた従姉妹同士で、私の父さんがちゃんのお母さんの兄で
私は一応グループの跡取りってことらしい。
そしてちゃんはちゃん曰く、一生を通して私を守るのが仕事らしい。
私はそういうのってあんまり好きじゃないって昔から言っているけれど、ちゃんはずっとそのことを自分の至上命題に考えて
行動しているみたいで‥しかも、私は自分で言っているほども強くないからやっぱりちゃんに守ってもらってばっかりで、
強くなろうって始めた武術の関係でもまたまただなぁ、といつもちゃんに呆れられてて、内心、いつかちゃんに
見放されるんじゃないかって怖いのが私の本音。
中学に通う間だけ、ちゃんが全寮制の学校に行っちゃった時は本当にどう仕様も無い自分に毎日嫌気ばっかりで、おまけに
ちゃんの変わりに私のそばにいた人は私の無能さを父さんの子供の頃と比べてため息をついていて・・

私はちゃんがいないと何も出来ないし、私はちゃんが大好きで・・

本当に苦労かけないようになるにはどうしたらいいのかな、なんて思って高校3年の今は、少しでも大人しく、余計な手間をかけないように振舞っている。

、帰ろ?」

ちゃんが着替えて私のそばから顔を出した。

「うん、」

頷いてから歩き出すと、ちゃんは毎度毎度帰り道の間に今日クラスで何があったか、なんてことを面白おかしく話してくれる。
私たちが今現在通っている聖ミネルバ女学院は高等部からの学生と中等部から持ち上がりの学生とを別々のクラスにするので、
私とちゃんは一緒のクラスになれない。だから家までの10分の距離から始まるちゃんの今日の報告はとても面白く新鮮に聞こえる。

のお嬢様だな・・・・」
「・・何? あんたら未だ懲りて無い?」
「うるさいっ、お前たちに生きていられたら困るんだよっ!」

まただ。グループは大きい。当然会社が大きければどんなに正々堂々と商売をしていても憎む奴が多くなるらしい。
特に同業者からの嫉妬や怨嗟はいつも耐えること無く、の血を濃く引いている私たちにはよくその火の粉が降りかかってきていた。
その火の粉を振り払うのがちゃんの役目であって・・ほら、今日も私がこうやってどうでもいいことを考えている間に
襲ってきた黒スーツの3人を伸してしまった。戦っているときのちゃんはとても格好良くって綺麗で私はいつも惚れ惚れと見ている。
こんな血生臭い環境で18年間過ごせば嫌でも血とか暴力とか命を狙われることに対して覚悟が出来てしまって、二人で何事も無かったかのように帰ろっか、
と歩き出した。
























「ただぁいま。」

マンションの一番上のペントハウス、家の両親もちゃんのところもとても忙しいから私たちはグループの会長である
私たちのおじいちゃんの家に私もちゃんも住んでいる。おじいちゃん曰く名義は私だからおじいちゃんが住みついているようなもんだと言っていたけれど・・

「じいちゃん、今日は道場の方へ出てるって言ってたからいないよ、部屋でジュースでも飲みながらのんびり無双でもしよっか?」

ちゃんがそう言って冷蔵庫からコーラとジンジャエールのペットボトルを取り出してグラスを持って階段を上がり始めた。
私もその後に従って階段を上がる。なんでもおじいちゃんはマンションの四階分を一つの家として拵えたらしい私たちのペントハウスの
四階部分は全部私とちゃんの部屋になっていて屋根裏部屋に続くかのように階段が羽根戸に向って伸びている先で私たちは
家に帰ってからの大半をすごしている。

、これ見てみ?」

ベッドのそばで着替えていると、先に着替えが終わっているちゃんがこの後の練習用にと着替えた袴姿で部屋の中央に置かれていた大きな段ボール箱を開封していた。

「おじいちゃんが中に入れてくれたみたいだね。」

危険物でないことを確認した上で受領書にサインしたらしいおじいちゃんの達筆な字がちゃんによって段ボール箱から引き剥がされた
宅配伝票に書き込まれていた。

「中身は何?」
「じいちゃんから私らに、居合用の新しい真剣と・・・・壷と本。」
「何で壷と本?」
「さぁ・・・」

とりあえず、とちゃんは自分の腰に元から差していた練習用の刀に加えてもう一本、白鞘の刀を脇差した。
私も真似してデニムスカートのベルトに黒い小振りの刀を差した。

「本ってさ、何の本なの?」
「うーん、中国語・・と言うか漢文で書かれてるけど、『時繋ぎ』かな・・なんか・・別世界への跳び方?うわー胡散臭・・」
「ねぇ、読んで、読んで?」

ちゃんは私の漢文の成績が絶望的なのをよく知っているから、ちら、と私を見てしょうがないわね、と言ってから声に出して最初の一ページを読み始めた。

「なんか血、みたいなのがついていて読みづらいけれど・・、

人を喰らい 異界えと跳ばす壷
その大きさ2尺也
異界の力 その身に宿し 人は皆猛者と成る
妖刀無くして飲まれれば それ即ち心喪ふ
妖刀の双刃 壷が上に掲げれば
壷応えて 異界へ導かん
然れども黒鞘・・・

その後は読めないけれど・・・、何やっているの?」

ちゃんが漢文を詠んでいる間に私はこっそりと刀を抜いて壷の上に掲げていた。

「異世界に行ってみたいなぁ・・なんて思って。」
「異世界じゃなくて三国無双の世界なんじゃない?」

へへ、あたり。と私が笑っていると、とにかく刀を直しなさい、とちゃんが呆れた。
仕方が無いなぁ・・なんて思ってもいない台詞を口にしながら刀を仕舞おうと壷の上から引くと刃の先が壷に当たり・・






壷からすごい竜巻が起こり・・私・・・







私は・・・













拙話

無双やります。ヒロインは2人か3人で・・・?